新宿二丁目発ドラァグクイーン・ディーヴァ・ユニットの「八方不美人」さんに聞くLQBTQ+連載。今回は働き方をテーマに取り上げます。ちあきホイみさんは、企業に勤めながら女装歌手としても活躍中。エスムラルダさんは企業勤めを経て現在はフリーで脚本家、ライター、ドラァグクイーンとして活動しています。そして、ドリアン・ロロブリジーダさんは企業で営業・PR職を経て現在は「クイーン業一本」とのこと。そこで、八方不美人からみた働き方・職場での配慮について語っていただきました。
「福利厚生など結婚のお祝い金なども少し配慮してほしい」
──3人とも企業勤めの経験があり、ホイみさんは今も企業勤めをしながら副業として八方不美人の活動をされています。3人の体験を踏まえて、セクシャルマイノリティが働きやすい職場環境についてお話を聞かせてください。
エスムラルダ:職場環境に関しては、ハード面とソフト面、両方の側面から考える必要があるよね。
ホイみ:「LGBTQ+」の職場環境というと、よく話題に上がるのが、トランスジェンダーの方のトイレの問題。解決法として「誰でもトイレ」の設置が挙げられることが多いけど、企業にとっては設備投資が必要……とかね。トイレ問題については、ほかの方々もいろいろお話しされているから、今回は私が気になっていることを話してもいい?
エスムラルダ:どうぞどうぞ。
ホイみ:(トイレみたいな)ハード面じゃなくて、ソフト面の話をしたい。例えば、制度を整えてほしいのは福利厚生ね。結婚した時に従業員にお祝い金を支給している企業は少なくないと思う。まだ同性カップルが対象に含まれていない企業の場合は、自治体のパートナーシップ制度のように証明になるものを出せば同じ額のお祝い金を受け取れるように制度を整えることからはじめてほしい。これならほかの社員から不満がでることはないし、スグできることだと思う。
ドリアン:ソフト面でいうと私はコミュニケーションが気になる。職場でコミュニケーションをとる上で、ある程度お互いのプライベートの情報を交換する時があるじゃない? LGBTQ+の人から「社内の会話でプライベートを詮索されると困る」という意見が出る時があるけれど、これは社内のシステムでどうにかなるものじゃないよなって。行き着くところは「私語禁止」になっちゃう。
エスムラルダ:職場で、お互いがどこまでプライベートの話をするかというのは難しいところよね。たとえば職場でのカミングアウトの是非の話になると、必ず「職場は仕事をする場所だから、カミングアウトをする必要はない」という意見が出る。でも、職場でも仕事関係の飲み会でも、男女の恋愛の話とかは普通に出ることが多いし、そこで嘘をつくことにしんどさを感じ、「カミングアウトできたら楽なのに」と思う当事者も一定数いると思う。だからといって、「職場は仕事をする場だから、男女の恋愛の話も禁止」みたいなルールができちゃうと、それはそれで違うかな、と。
ホイみ:チームビルディング上、1一ミリもプライベートの会話をしないで、仕事での付き合いしかなくなると、ちょっと殺伐としてくる気がするよね。
ドリアン:そう? 私は別に仕事だけの付き合いでもいいけどね。
エスムラルダ:舞台をやっていて思うのは、飲み会をしてから本番を迎えた方が、カンパニーの親密度が高くなるということ。多少はプライベートを開示し合ったほうが、関係は深まりやすいよね。ただ、「恋愛は男女がするもの」という前提で「最近(恋愛は)どう?」って聞かれると、わずらわしく感じるセクシャルマイノリティ当事者は多いと思う。あるいは、アロマンティックやアセクシャル(他者に対して恋愛感情や性的欲求を抱かない人、抱きにくい人)の方にとっては、「人はみな恋愛するもの」という前提で話をされることは苦痛なんじゃないかな。セクシャルマイノリティへの理解が深まって、誰もウソをつかずに働ける世の中になれば一番いいんだけど。
ドリアン:職場関係だと、「トイレ個室問題」だけがフィーチャーされがちだけど、トイレと今までのソフト面の話は別アスペクトの問題よね。これは難しい。
エスムラルダ:あと、ソフト面にしろハード面にしろ、何でもルールをつくって解決しようとすると、どんどん負担が増えて息苦しくなっていく気がするよね。だからといって、簡単に答えが出る問題じゃないしなあ。
ホイみ:個人的に一番納得いかないのはご祝儀! 職場の同僚の結婚式に呼ばれると、ご祝儀を出すじゃない? でも、これは職場も友人も関係ないけど、これまで人生でご祝儀を渡してきた人たちの中に、万が一同性婚に反対している人がいるとすると、「同性婚に反対しているのにゲイからご祝儀とるの?」って思っちゃう。ちゃんと同性婚に賛成しているかどうかを把握してからご祝儀だしたいわ。反対するなら、3万円返して頂戴(笑)!
エスムラルダ:それはいいわね(笑)
ドリアン:会社へのロイヤルリティが強まる気はする。
「誰かにとってはじめて出会うゲイだから、陽気でいようとしている」
エスムラルダ:あと、ゲイであることをオープンにして働いている人が、「ゲイは使えない」って言われたくなくて、頑張りすぎちゃうケースもあるよね。職場に、カミングアウトしている当事者がたくさんいれば、周りの人に「ああ、ゲイにもいろいろな人がいるのね」と思ってもらえるけど、自分一人だと、どうしても「ゲイ代表」みたいな気持ちになってしまいがち。
ドリアン:ゲイだって仕事ができない人もいるし、ノンケで仕事ができない人だっているのにね。
エスムラルダ:みんながそんなふうに思ってくれると、いいんだけど。
ドリアン:ああ、でも言われてみると、誰かにとってはじめて出会うゲイが自分(ドリアン)であることが多いから、できるだけ愉快で陽気にしていようと思っているところはある。誰かにとってはじめて出会うゲイだから、もし、間違った知識を持っているようなら訂正したいしね。宣教師気取りだったのかもしれないけど。
ホイみ:そういうことあると思う。私も、エスムさんが言っていたみたいに仕事に全力で打ち込む方。副業申請する時に、就業時間中は仕事をしっかりしますけど、残りは副業(八方不美人として)しますからと言ってる。
自分がゲイだって言うのは面倒だから社内カレンダーに「八方不美人」って書いてる
──ホイみさんの職場の皆さんは、八方不美人の活動をご存じなんですね。
ホイみ:そうそう。前から職場にいる人は知っている。ベンチャーだからメンバーの出入りが多いんだけど、だからといって後からきた人に、いちいち自分はゲイだって言うのも面倒だから、会社で使っているGoogle カレンダーに「八方不美人リハーサル」「八方不美人取材」とか普通に書いてる。気になった人は自分で調べるか、先輩社員に聞いてくれればいいと思っていて。私からは言わないけど、あなた方で調べてね、と(笑)。
エスムラルダ:超強気(笑)。ドリアンの会社員時代はどうだった?
ドリアン:会社員の時はPR職だったので、ゲイであることが強みになっていた。でも、実は入社して5年間くらいは営業で、その時は言わずに、PR職になってからカミングアウトしたかな。
ホイみ:ゲイだって言ってなかった時は「結婚しないんですか?」「彼女さんいないんですか?」とか周りに言われた時どうしてた?
ドリアン:それは、彼氏を彼女に置き換えて話していたかな。
エスムラルダ:おお~! そうなんだ~。
ホイみ:ノンケっぽい会話をしていたのね。小さなウソをつかなくてはいけなかったことに、気持ちが抑圧されたりはしなかった?
ドリアン:まあねえ。でも自分がマイノリティだっていう自覚はあったし、日常的にそういう小さな抑圧は感じても、ゲイであることのメリットの方が大きいと思っていたから。
ホイみ:幸せな人だ。
エスムラルダ:PR職になってからゲイだって知らせると、営業部だった時の元同僚に「え! !そうだったの?」みたいに驚かれなかった?
ドリアン:「ごめぇ~↑ん」って! 「営業の時は言えないわよ~」と明るく。
エスムラルダ:なるほどね。
ゲイの先輩が「今度ゲイの子が入社するから」とみんなに言っていた
ホイみ:エスムさんはサラリーマン生活を10年間していたじゃない。その時はどんな感じだったの?
エスムラルダ:私はね、職場にゲイの先輩がいて、配属されたときには、すでにみなさん知っていたの。いわゆる「アウティング」ではあるけど(笑)、私的には「言う手間が省けてよかった」と思った。
ホイみ:ええ!
ドリアン:業務連絡のつもりで伝えたのね。それは、今なら訴えたら企業側が負ける事案。
エスムラルダ:たまたま就活中に参加したゲイのカラオケ大会で知り合った人に仕事の話を聞いたら、面白そうだったから、その会社にエントリーしたら内定をいただいて。部署まで一緒になっちゃったの。そうしたら、その人は職場でカミングアウトしていて、私の配属が決まった時に、「今度ゲイの子がくるよ」とみなさんに伝えたみたい。研修を終えて、配属部署に行ったら、「私たち、(ゲイには)慣れているから」って言われて、私は気が楽になった(笑)。
ホイみ:ああ。似たような経験を最初の会社の時にしたわ。セクシャルティと志望動機を絡めてエントリーシートを書いたから面接したひと人は当然知っている。でもその後ね、小さな会社だから、入社する頃には「今度ゲイの子が来る」ってみんな知っていたのよ。
ドリアン:ああ……・・・。
ホイみ:その時、本当に衝撃で。まぁエントリーシートにそういうことを書いたあたしの責任だし、「それも人生」「自分から言う手間が省けた」と自分のなかで折り合いをつけたけれど、当時は本人の了解を得ずに他の人に性的指向などを暴露する「アウティング」が問題だということもあんまり知られていなかった時代だったね。今だったら大問題よ(笑)!
ドリアン&エスムラルダ:(うなずく)
──ありがとうございます。「カミングアウト」と「アウティング」については、もう少し詳しく伺いたいので、今回はいったんここでお話を切って、また次回深掘りしたいと思います。(文中敬称略)