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ドラァグクイーンに学ぶLGBTQ+

“LGBTQ+”でひとまとめって浅くありません?

author: 八方 不美人date: 2022/04/10

同性パートナーシップや同性婚などが話題になったり、マツコ・デラックスさんやミッツ・マングローブさん、IKKOさん、はるな愛さんらがバラエティ番組などに引っ張りだこになったり、男性同士の恋愛を描いた『おっさんずラブ』や男性カップルの食卓と日常に焦点をあてた『きのう何食べた?』がヒットしたりと、近年、メディアでセクシュアルマイノリティが取り上げられることが増えています。

そんな中、セクシュルマイノリティに関するさまざまな言葉を耳にし、「この言葉を使っていいんだろうか?」「無自覚に差別用語を使っていないだろうか?」と心配になる人もいらっしゃるのではないでしょうか。そのあたりのことを、八方不美人の3人に優しく、楽しく教えていただきました。

●オネエ、オカマ、ゲイ、ニューハーフどれも文脈によって印象は違う

左より、ドリアン・ロロブリジーダさん、エスムラルダさん、ちあきホイみさん。新宿二丁目発ドラァグクイーンユニット「八方不美人」の3人

――最近よく「LGBTQ+」という言葉を耳にしますが、Lはレズビアン(女性同性愛者)、Gはゲイ(男性同性愛者)、Bはバイセクシュアル(両性愛者)、Tはトランスジェンダー(生まれた時の性別と自認する性別が一致しない人)、Q+はLGBTに含まれないさまざまなセクシュリティを表していますよね。ただ、ほかにも「女装家」「オネエ」「ニューハーフ」など、セクシュアルマイノリティに関する言葉はほかにたくさんあります。非当事者からすると、それぞれどのような方を指しているのかがよくわからないのですが……。

ドリアン: まずね、女装家というのはミッツ・マングローブさんが生み出した言葉なんです。

エスム: オネエというのは、ゲイコミュニティで昔からスラング的に使われていた言葉だったのを、2000年代からメディアが使うように。ただ、その際に意味合いが大きく変わり、もともとは女性的な言葉を使ったり、女性的な振る舞いをしたりするゲイを指す言葉だったのが、男性的なゲイもドラァグクイーンもトランスジェンダーも、全てを含む言葉になってしまいました。

ホイみ:90年代の「オネエ」は、当事者コミュニティ内で使われる狭義の呼称だったけど、2000年代以降、非当事者による広義の意味合いに変わっていった、と。

ドリアン: オネエブームの前にあったのが「オカマ」という言葉。でもこの言葉はテレビでは使ってはいけないという不文律が出来てきたのよね。今までオカマと呼んでいた人たちを呼ぶ新たな言葉が必要になって、そこで使われるようになったのが「オネエ」。

エスム: あと、昔は男性同性愛者に対して、メディアで「ゲイ」という言葉もよく使われていたけど、「オネエ」という言葉が使われるようになってからは、お笑い番組などではあまり見なくなった気がする。

ドリアン: ゲイは正式名称だし堅苦しくかんじちゃうのかしら。ゲイというと、皆さんちょっと構えてしまうところがあるみたい。一方で、オネエというと笑っていいみたいな空気が出てきたのよね。

ホイみ: メディアがバラエティ的に使いやすい言葉として、オネエを広めていったという感じね。

ドリアン: でも、ゲイもトランスジェンダーもそれぞれに異なり、それぞれのアイデンティティがあるのに、それを一緒にしちゃうのは乱暴だなと思う。

エスム: うん。男性的なゲイまでオネエと呼ばれるようになったのは、すごく違和感があるよね。

(一同:うなずく)

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エスム: 「ニューハーフ」という言葉も、最近あまり見なくなったわね。

ドリアン: ちょっと前までは、今でいうトランスジェンダー女性のことをニューハーフと言っていたんですよね。でも、時代の変化の中で、ニューハーフはあまり正しい言葉ではないよね、という認識が広まってきて、ここ10年くらいはトランスジェンダーという言葉が使われるようになった。

ホイみ: 今でもニューハーフという言葉はあるけれど、ショーパブで働く人たちが自分たちを「ニューハーフ」と呼んで使っているよね。ある意味職業名として残っている感じ。

エスム: ゲイの中に、自分たちのことを「ホモ」「オカマ」と呼ぶ人がいるのと同じような感じかしら。

取材中、新宿二丁目を歩く3人。どこにいても、そこに花が咲いたようにパッと明るくなるお三方。さまざまな自由自在に衣装を着こなす姿が印象的だった

ホイみ: 私は2人に比べると若い世代だけど、(新宿)二丁目に来るまではホモという言葉は差別的で、ゲイという言葉がポジティブなんだから、これからはゲイを使うのが正しいと思っていたもの。でも、二丁目に来たら「ゲイなんて言葉こっ恥ずかしくて使えない!私たちはホモだから!」と、誇りを持ってホモを自称する先輩方がいらして、最初びっくりしたのよ。いろいろな人と話していく中で、先輩たちの気持ちもわかってきて、今では自分でも「私たちホモはさ~」と平気で使っている。

ドリアン: セクシュアルマイノリティをバラエティの笑いのネタにする問題があった上で、ホモという言葉は蔑称とされるようになったのよね。

エスム:ホモって、そもそもは「ホモセクシュアル」を略した言葉だけど、かつて「ホモ」が差別とか嘲笑の文脈で使われていたから、あまり良くないイメージを抱いている当事者も多いよね。

ホイみ: 自分たちを「ホモ」と言うなんてけしからんという人たちはいるよね。ホモという言葉で笑いのネタにされてきた問題に怒っている人たちは、決して自分たちのことを「ホモ」と自称しないし、「ホモ」を自称している人たちのことを苦々しく思っている人もいると思う。

●言葉は文脈によって差別的になる

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ホイみ: 言葉は文脈によって差別的なものになるし、差別的であるからこそ自嘲的に使われることもある。自嘲と、誇りを持つということは表裏一体なので、歴史を踏まえると様々な言葉が、蔑称でありながら同時にポジティブに使われてきた。だから現代の、それもある特定の価値観によって、この言葉はダメ、この言葉はOKみたいなシンプルな議論にはならない。そういう素朴な議論をしているひとたちをみていると……。

ドリアン: 浅い!(食い気味に)

(エスムとホイみ:笑笑)

ホイみ: その上で思うのは、多くの人が、セクシャルマイノリティの歴史を細かく勉強するわけではない。だから、コミュニケーションをする上では、一般的に当たりさわりのない言葉を作ることは必要。

ドリアン: まぁ、そうなるとゲイがベターだと思う。我々は、ドラァグクイーンだけど自称する時は「女装」と言ったりする。でもね、これを見ず知らずの人に「オイ、女装!」なんて言われると、ほんと腹立つ! 女装のことを女装って言っていいのは女装だけ!

ホイみ: そうね。女装って言葉もある意味で自嘲的な響きをもつ言葉よね。

ドリアン: ホモをホモって言っていいのも、ホモだけ。オカマをオカマと言っていいのもオカマだけ。よく例に出すんだけど、「おばさん」って周りの人から言われるとカチンとくるけど、自分たちでは「私らおばさんはさ」と使うじゃない。だからどの文脈から発せられた言葉かによって結構意味は変わってくるよね。

ホイみ: 2010年代にLGBTって言葉が社会的な問題としてメディアに取り上げられるようになってきたよね。雑誌でLGBTの文字を見た時に、ようやく自分たちの属性が夜のカルチャーから切り離された状態で、パブリックな場で語れるようになったんだ、と当時思ったわ。

エスム: 一方で、「LGBT」や「LGBTQ+」という言葉に苦手意識を持つ当事者もいるよね。

ホイみ: 今までの自嘲と誇りの中で使ってきた言葉ではなく、外部から来た言葉だからね。もともとのコミュニティのカルチャーをすっ飛ばして「これがグローバルで正しいんだから」と言われると反感を持つ人はいるし、今も自分のことをLGBTとはくくらず、あくまでゲイだ、と使うゲイの人もいっぱいいます。

エスム: 最近では、オネエの代わりにLGBTQ+が、セクシュアルマイノリティを包括する言葉として使われるようになったとも言えるね。オネエの中にみんな含まれていたのと同じように、置かれている立場も違う人たちが、一緒に含まれているからね。

ドリアン: 最近メディアで「あなたはLGBTですよね?」って聞かれると、「え?何言ってんの?」って思っちゃう。「あなた人間ですよね」って言っているのと同じなの。安易ね。

ホイみ: さすがにざっくりしすぎ。

●他者の価値観に思いを馳せる想像力が大事

――すると、本人にどう呼ばれたいかを聞いたほうがいいのでしょうか?

ドリアン: 何と呼ばれたいか、何と表現されたいかをある程度自分から発信する人が欧米を中心に増えているわよね。SNSのプロフィール欄にhe/him、she/her、they/them/theirs.”と書いている人はそうですね。そうやって意思表示をするのが1つの正解だと思うけれど、最初に聞いていただくのが1番スムーズかなと。

ホイみ: でもそれって突き詰めると必ず確認しないと人称代名詞を使えませんってならない?

ドリアン: まぁ、そうねぇ。

エスム: 難しいよね。

ホイみ: リクツとしては正しいけれど、日本の現実社会のコミュニケーションで、いちいち「さぁ、なんとお呼びすれば正しいですか?」なんて聞けないじゃないですか。「彼」とか「彼女」とか見た目で判断して言わざるを得ない。それを全て「最初に聞いて欲しい」なんて人に強制できないですよ。ミスジェンダリング(本人が自認するジェンダーと異なる扱いをすること)はどうしても起こり得るし、起こり得る前提で社会設計していかないといけない。

ドリアン: 女装、ドラァグクイーン問題もそうね。我々もよく「彼女」って言われるんですよ。私は「彼女」って言われたくないし。

ホイみ: 私はどちらかというと、自分の中にトランス性が含まれてるからなのかもだけど、別に「彼女」と言われても気にならないな。

ドリアン: 私は訂正しちゃうかなぁ。女装=彼女って言われると浅いなって思っちゃう。エスムさんは?

エスム: 私はどちらでもいいかな。

ドリアン: と、いうふうに、同じドラァグクイーンでもグラデーションがあって、ひとり一人感じ方が異なるのよね。

ホイみ: 笑笑 ある意味ドリアンさんは、ジェンダリングにこだわりがあって、私やエスムさんはそんなにないってことなんだよね。あぁこの人が「彼女」と思ったなら、それでいいや、と思っちゃう。

ドリアン: そうね。私はこだわりがあるのかも。

ホイみ: また、私たち女装はShe/herと言われても、まったく気にしなかったり、気にしても笑って済ませられる人が多いけど、トランスジェンダーの方々とか、人によってはミスジェンダリングが差別的に刺さったり、それによって深く傷つく人もいるのも事実。

エスム: 一人ひとり感じ方や考え方が違うから、ひと筋縄ではいかないわよね。私たち3人でさえ、こんなに価値観が違うんだもの(笑)。ひとつひとつの言葉の意味や歴史的背景を知るのもいいけど、本当に大事なのは、カテゴリーや分類というのがいかに大雑把であるかを理解すること。そして、想像力を働かせ、他者のありようを否定せず、そのまま受け入れることだと、私は思うわ。

――ありがとうございます。つい言葉だけにとらわれがちですが、人の価値観や捉え方は、いろいろあるのだから言葉で定義できない部分があるのは当然ですよね。いろいろな考え方があり、それに伴いいろいろな言葉がある。だからこそ、自分自身はどう思うかを考え、相手がどう考えているかを知るコミュニケーションが大事なのだと思いました。連載が、コミュニケーションを深めるヒントになればいいな、と改めて思います(文中敬称略)。

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新宿二丁目発ドラァグクイーンユニット
八方 不美人

エスムラルダ、ドリアン・ロロブリジーダ、ちあきホイみの3人による新宿2丁目発 本格派DIVAユニット。圧倒的なパフォーマンス力と歌唱力と、見るものを引きつけてやまない派手なルックス。加えて、バラエティに富んだ楽曲やNGなしのトーク等で、すでに各方面で高い評価を得ている。
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