沖縄本島の北部にある「屋我地島(やがじしま)」は、名護市の中心部からクルマで約10kmほど走ると現れる屋我地大橋を渡ってすぐの場所に位置する。よく離島がクローズアップされがちだが、本島でもオルタナティヴな魅力が体験できるとのことで、一路ドライブ。そこで食した一杯の「はちみつ」に脳髄までノックアウトされた。セオリーにない養蜂の仕方でまさにオンリーワンの味にたどりついた、そんな魅惑のグルメ旅をご賞味あれ。
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コバルトグリーンの海を横目に見ながら、Beyond取材班は屋我地大橋を抜けて島へ上陸。広さは外周約8kmあるかないかで軽いドライブに最適な広さだ。沖縄の美しい自然のおかげで開放的な気分も高まり、仕事を忘れて南国気分に浸る。
「仕事だからね、仕事! 遊び気分じゃ困るよ。わかってる?」
鼻歌まじりに釘を差してくるのは、同乗の上司。もはや自分に言い聞かせているとしか思えず、説得力はない。車内には浮かれ気分の沖縄ソングが流れ仕事なんてどこ吹く風。そして農村部を通り、あっという間に待ち合わせ場所のカフェ「CALiN(カラン)」に到着した。
今回、取材するのは自然のままのはちみつ製造を行う養蜂農家「おきなわBee Happy」の三浦大樹さんだ。
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カフェ「CALiN(カラン)」
出会い。そして魅惑の「はちみつ体験」へ出発
「さあ、さっそく行きましょう。蜜蜂たちの過ごす生活圏を見てもらいます」
そう話す三浦さんは、養蜂のセオリーにないやり方ではちみつを採取する方法を編み出した。一般的に、みつばちの活性化や越冬のために砂糖水などのエサを与えたり、害虫駆除のために農薬を使ったりするが、それを一切せず蜜蜂たちが集める花の蜜のみではちみつを精製しているという。
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「おきなわBee Happy」の三浦大樹さん。
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「見てください。ここから一望できる半径2kmほどが僕の育てる蜜蜂たちが働くフィールドです。温暖な気候と、沖縄の海、そして自然の草花から集められた密だけを採取しています。主要な蜜源は屋我地島に自生しているセンダングサ、カユプテからなる“百花蜜”です」
養蜂家となって約10年、三浦さんは蜜蜂たちの状態を見ながらトライアンドエラーを繰り返し、さまざまな場所に巣箱を設置している。蜜蜂が従業員だというが、まさに彼らが屋我地島のエッセンスを集めてきてくれるおかげで、はちみつは採取できる。
彼らによく働いてもらうため三浦さんは、活力を上げるセオリーである砂糖水などを「あげない」選択をした。それは蜜蜂自体の生命力を高めるためで、ある意味で手をかけない方が伸び伸びと活動するのだという。人間には見えない花を集めてくる蜜蜂たちが元気であればあるほど、はちみつの味も芳醇になるという信念のなせる業だ。
ただ、それには毎日“従業員”たちの様子を観察し、どういうふうに移動しているのか、どこの巣箱が密を集めるのに最適か、長年の試行錯誤が必要となる。たとえば温度差を一定にするため日当たり具合や北風の当たらない山、林、森などを見極めるなど、蜜蜂の職場を考え続けている。
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また三浦さんの手掛けるはちみつには、ひとつ特徴がある。それは微妙に「塩味」がするのだそうで、試食をした別の養蜂家からも「なぜこんな味がするのか?」と聞かれたこともある。三浦さん自身も言われてから研究機関で成分の分析を依頼したところ、たしかに塩分が検出され頭をひねった。
はっきりとは分からないが、この塩味の正体は屋我地島周囲の海が蒸気となり雨として降り注いだものを花が吸収した結果、その成分が混じったのではないかということ。花の蜜の甘みと、ほんのすこしだけ感じる塩味が独創的な味わいを作り出している。屋我地島の自然を食す、まさに恵みだ。
三浦さんの作るはちみつは、「他の沖縄のはちみつと味が違う」と言われている。しかもツヤまで違うというので驚きだが、元気な蜜蜂たちが屋我地島の“恵み”をたくさん集めてきているおかげなのだろう。
沖縄・屋我地島のSGDsが詰まった一杯を食す
農薬にも頼らず、手間のかかる方法ばかりを試す三浦さんに周囲から諌められることもあった。もともと関西でアウトドアメーカーに勤めていた三浦さんは、沖縄に移住してから養蜂家としての道を志しており、「常識的にはやらない方法を試したかったんですよね。もっとはちみつをおいしくして、もっとはちみつの価値を高めたかった。おかげさまで、今では通常価格を大きく上回っています」とのこと。
そのこだわりは、まさに“愛”と呼ぶべきもので、実際に蜜蜂の働くさまを見せてもらった。屋我地島のツアーを終え、カフェ「CALiN(カラン)」に戻ったところ、お店の脇にある巣箱へ移動することに。
「じゃあこれに着替えてください」
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あ!テレビで見たことあるやつだ、と思いワクワクしながら着替え。とはいえ、蜜蜂たちの大群に突っ込むのかと思うと少し恐怖感もある。
「大丈夫ですよ、興奮を抑えるクスリも巻きますし、刺激しなければ襲ってきません。機嫌が悪いときはやられますけど、それを確かめるのも養蜂家の仕事です。だから僕は手袋もしない派です。彼らの気持ちがダイレクトにわかるので」
と、全然大丈夫じゃない気もするが、これも体験。心を決めて巣箱に近づく。
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蜜蜂のコロニーの作り方や、女王蜂がどうやって選ばれるのかなど、さまざまな豆知識を教わりながら、いかに苦労して屋我地島のはちみつが作られているのか理解したころ、ついにBeyond取材班は意を決して三浦さんにあることを伝えた。
「あの~、そろそろ…はちみつを試食できますか?」
まさに珠玉の一杯。ここにしかない味がある
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「す、すみません! そもそも最初に試食してもらってから屋我地島ツアーに行くべきでしたね!」
いえいえとんでもない、などと会話を交わしつつ、テスターのはちみつを運んでもらった。なんと今シーズンの生産分は完売らしく、少し残ったこちらを試食できた。その味もさることながら、まず驚いたのがサラッとした見た目。粘性がいつも見るはちみつと違い、まるで飲み物みたいな印象だ。
そして待望の実食。口に入れた瞬間、「うわ」と声が出てしまった。まるで香水のような華やかな香りが広がり、芳醇な味わいを感じたにも関わらず後味さわやかにスッと消えていく。これまで食べたことのある、どんなはちみつとも違う、たしかに「ここでしか食べられない」味だ。
しかもシーズンによって味が全く違うらしく、同じ味のものには二度とならないという。屋我地島の状態をダイレクトに蜜蜂たちが集めるため、そうした自然の循環のなかにある食べ物ということだ。
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こちらは蜜蜂たちが集めた「花粉」をパフェにあしらった人気メニュー。花の香りがするパフェっておしゃれすぎ!
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カフェ以外でも「オリエンタルホテル沖縄 リゾート&スパ」では、季節によってさまざまな屋我地島はちみつを使ったオリジナルメニューを提供している
現在、三浦さんのはちみつは島内の限られた取り引き先のみに卸されており、それは手間のかかる製法も相まって生産量が限られているという理由が大きい。まさに沖縄のSDGsが凝縮された特別なはちみつだが、三浦さんはコロナ禍で「本当に沖縄のおかげ」という体験をしたという。
「やはり新型コロナ当初、売り上げがかなり落ちたんです。でも誰かが待っているかもしれないという思いで続けていたら、卸先から『前回の分がなくなったから次もお願い』という問い合わせが増えてきた。どんどん増えていくなかで気がついたんですが、観光客は戻ってきてないのに売れるということは、沖縄の島内の方が消費してくれていたんだなと。そのとき、本当に自分は沖縄に生かされているんだなと気がつきました」
大自然の恵みを集める蜜蜂、それを採取し提供する三浦さん、さらに島内で消費されるという完璧な循環がそこにはあったんですね。そんな話をしつつ、「沖縄を堪能する」オルタナティヴな体験にノックアウトされたグルメ旅。この循環の一部に戻るため、絶対にまた訪れます!
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