イスは“座る”に特化した単純なモノながら、もたらす価値は計り知れない。権力(見栄)を誇示したり、腰痛を改善したり、仕事を捗らせたり、寛ぎ時間を充実させたり……。だから単に座れればいいというものではない。もちろん、こだわりはないという人もいるだろうが、座ってみれば目的のないイスと目的に沿ったイスとの違いを実感できるはず。それは自宅用だけでなく、アウトドア用でも同じだ。
家具工房が手掛けるフォールディングチェア
アウトドア用のイスで出番が一番多いのはキャンプだろう。食事をする、薪を焚べる、星空を眺める……作業以外の寛ぎタイムを過ごすのはイスの上だ。
そんな無上の喜びを提供してくれる相棒が、TRUCKの「TSP FOLDING LOW CHAIR」である。地面高210mmという低めの座面にお尻を沈め、フレームに頭を預け、足を伸ばしてボーッとすれば、自然に溶け込んだかのような時間が過ぎる。
作ったのは、インテリア好きで知らない人はいない、こだわりの家具工房(メーカー)「TRUCK FUNITURE」。TRUCKらしさが漂う木の素材感を活かしたビンテージ調のデザインは、アウトドアによく馴染む。本家もインスパイア系も、キャンプ場に乱れ咲くウッドフレームのイスみたいにあまり見かけないのもいい。少々値が張る4万5100円というプライスとアウトドアメーカー製ではなく、キャンプシーンでの認知度がまだ低いことの恩恵なのかもしれない。
行き着くところは自分の体との相性
フレームはアルミ、座面は使い込んだ風合いに加工したキャンバス、肘掛はナラの無垢材を使用。折り畳んで持ち運べるけど、広げた時のサイズはW550×D600×H640mmと、アウトドアで使うイスとしては決して小さくはない。
キャンプ場であまり見ないという付加価値はあるものの、イスの真価は座ってこそ発揮される。座面の高さ、広さ、張り、背もたれの傾き、デザイン、重さ、使い勝手など、使ってみないと良し悪しが分からない。
例えば、張りすぎている座面や、立ちすぎている背もたれだと寛ぎ感は減るし、軽量なイスだと背もたれにウエアを掛けただけで倒れるし、ちょっとした風で飛ばされてしまう。そんなことが積み重なると不満を募らせたり、自分が求める座り心地じゃなかったりすることに気づく。自然の中で寛ぎに来ているのに、ストレスを感じては本末転倒だ。
その点、このイスは体との相性が抜群。つまり求めている座り心地にドンピシャ! 座面はちょっと緩めの張りで緊張感を感じないし、背もたれの角度はちょうどよく、そのまま座ってもいいし、フレームに頭を預けてダラっとしてもいい。
「焚き火をしながらスコッチを飲む、焚き火Barのために作った」というだけあって、足を折り、前かがみになれば焚き火の火をいじるのも楽だし、グラスを持てば肘掛けに自然と肘が乗る。イスの上での動作が流れるようにつながり、まるでストレスを感じない。一人だけの空間を生み出す最小の家具だといえる。
もちろんアウトドア用のイスは、使う場所やシーンに合わせて様々なタイプがラインナップされている。何を求めるかによって選び方は変わってくるが、こと“座る”に関しては、結局、自分の体との相性がいいかに尽きる。これと出会って、そんな当たり前のことに今さらながら気づいてしまったのだ。