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企画、脚本、演出、衣装、出演、すべて二人で手作りで

おもしろかわいい演劇ユニット・太郎物語の「演劇の作り方」

author: 日比楽那date: 2025/12/03

企画から脚本、演出、衣装制作に、出演まで、すべてを二人で手作りでおこなう、おもしろかわいい演劇ユニット「太郎物語」。
 
2019年に中高大の同級生である杏優さんと果音さんで結成。講談社が主催するオーディション・ミスiD2021では「アメイジングミスiD2021」と「根本宗子賞」をダブル受賞し、その後も独自のスタイルで演劇の形を拡張するような作品制作を続けている。
 
その謎に包まれた演劇の作り方を紐解くべく、話を聞いた。

太郎物語

2022年女子美術大学卒業。 2019年6月に演劇ユニット「太郎物語」を設立。 “おもしろかわいい”物語を自分たちで作り演じる、中学校からの同級生コンビ。 主に舞台で活動している。 企画・脚本担当の杏優と、アートディレクション・衣装担当の果音。 才能とルックスがかぶらない抜群のバランスで自分たちを表現。 舞台やYouTube、イベントへのゲスト出演など、さまざまな場所で“おもしろかわいい”物語を届けている。
Instagram: @thaomedetaz
X: @taro_monogatari


杏優

Instagram: @ayu_ta_ro
X: @anzuni_yasashii

果音

Instagram: @_oto___k
X: @kajituni_oto

中高大「ずっと仲良しやってた」二人が、「太郎物語」になるまで

──まず、太郎物語がどんなユニットなのか教えてください。

杏優:「おもしろかわいい」をテ──マに、基本的に私と果音の二人で作品を作って演じています。私が企画を考えて脚本を書いて、果音が衣装を作ってアートディレクションをして、演出は二人でするというスタイルです。

縦型ショートドラマ『やめとけそんな恋愛』

今までの衣装をまとめた動画

──お二人の出会いから太郎物語の結成まではどんな流れだったのでしょう。

果音:出会いは中学1年生で、中高と、同じ演劇部に所属してました。学校が女子美術大学の付属だったので、当時から衣装や舞台美術を自分たちで作ったり、役柄のメイクを考えたり、総合芸術としての演劇を手作りする感覚がありました。

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杏優:それからずっと仲良しやってて、大学の学部もたまたま一緒で、インカレのダンスサークルにも一緒に入りました。

果音:中高演劇部でがっつり舞台での表現をやってきたから、大学では新しいことをやってみたかったんだよね。それに、ステージでの表現という括りでは同じだし、踊ることも好きだったし、中学から大学まで同じ学校に通っていたので、学校外でも横のつながりができたらいいな、とも思ってました。でも結局、自分たちがやりたいことはこれじゃないって気づいて、演劇に戻ってきた。

杏優:私はそのインカレサークルを先に辞めたんですよ。それで、自分の好きなこと、やりたいことってなんだろうって考えて、「なんかおもしろいこと一緒にやらない?」と果音を誘いました。

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果音:杏優とは中学生のときからずーっと一緒にいたので、誘ってくれたのはすごく自然に感じましたね。

杏優:たしかに、「やらない?」と誘ったというか、「やるんだけど」ってもう決まってるかのように言ったかもしれない(笑)。それでユニット名を決めました。

──太郎物語というユニット名の由来は?

果音:杏優はハムスターが好きで、ハム太郎ってあるじゃないですか? アニメキャラの。それから取って、杏優のことをずっと「あゆ太郎」って呼んでて。そうしたら杏優もそのあだ名を気に入ってSNSのアカウント名にしたりしてたから、その流れでなんとなく、「太郎物語」になりました。深い意味はないんです(笑)。

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──普段から一緒にいて仲良しの二人だったからこそ太郎物語が生まれたのだと感じられるエピソードですね。太郎物語として最初に作ったのはどんな作品だったのでしょう。

杏優:昔話のキャラクターが現代にいたら、みたいな設定で、女子大生と女子高生の三姉妹の物語を書いて、私と果音と、同じ演劇部の同級生の酒井まりあで3人芝居を作りました。

果音:『三太郎』っていうタイトルで、長女・浦島太郎、次女・桃太郎、三女・金太郎っていう三姉妹の話だったね。

杏優:そう考えるとめちゃくちゃ「太郎」っていう名前からインスピレーション受けてた……(笑)。

──いい名付けだったんですね。

杏優:そうですね! 勢いに任せてまず2ヶ月先くらいの高田馬場の会場を押さえて、場所取っちゃったし……と思って初めて脚本を書いて、コロナ禍の前だったので、客席がぎゅうぎゅう詰めのなかで上演しました。それが2019年で大学2年のとき。ノリだけで突き進んだので今考えると恐ろしいですけどね……若気の至りです。

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太郎物語は作ることをやめない。手作りの裏側

──初企画の後は、どのように活動していったのでしょう。

果音:その後コロナ禍になってしまったんですけど、そのタイミングでミスiDを受けようって杏優が言ってくれて。私もミスiDはもともと知ってたけど、二人組で受けていいものなのか? って。でも二人で受けること自体を企画にして、コロナ禍で演劇ができないなかでできることをやってみようと参加を決めました。

杏優:「井の中の蛙大海を知らず」っていうことわざの文字を変えて、私たち、「おもしろかわいい演劇ユニット」なのと、鶴をモチーフにして、「蛙(かわず)」を「可愛鶴(かわいい鶴)」にして。エントリー動画は砂浜で二人芝居をして、オーディションが進むにつれて海の奥のほうへ進んでいく、世界を知っていく、という物語を作りました。

果音:オーディションで喋るのは苦手だから演劇一本でいこうっていう話をしたよね。審査の度に、最初に「お芝居をやらせてください」って言ってお芝居をする、というスタイル。「アメイジングミスiD2021」と、目標にしていた劇作家・演出家の根本宗子さんの個人賞をいただけて、嬉しかったです。

──私は太郎物語がミスiDに参加していた頃から拝見しているのですが、当時から自分たちのスタイルを確立しているように見えました。二人の演劇はどのように作りあげていくのですか?

杏優:やってみたいテーマを思いついたら、果音ちゃんをカフェに呼び出すところから始まります。そこで話しておもしろがってもらうのが最初かもしれない!

果音:杏優ちゃんがタイトルと場所となんとなくやりたい設定みたいなものを持ってきてくれて、そこから二人でイメージを膨らませて作っていくね。

杏優:イメージができてきたら脚本を書き始めて、ある程度できたら稽古場で、二人で読みあわせしながら演出していきます。

果音:杏優ちゃんの脚本は等身大で、その時々で「こう思ってる」「こうありたい」という杏優ちゃんの内面が表れていると思います。あとは、私も妥協せずに意見を伝えるので、受け入れてくれる杏優ちゃんはすごいと思いますね。

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──たしかに、一人が書いて、二人であわせながら作っていくのは芸人さんのネタ作りに近い気がしますね! 果音さんは衣装も担当されていますが、どのように作っていくのですか?

果音:公演によって違うんですけど、今までは、オムニバス形式で一つの作品のなかでいろいろな役を演じることが多かったので、役柄にあわせた衣装というよりは、作品のコンセプトにあわせつつ、太郎物語は赤と白をメインカラーとしていることが多いので赤と白で作るとか、「制服っぽいものにしたい」とか、着たい衣装や作ってみたい衣装を作っていました。

杏優:「準備体操」とか「大運動会」を銘打った公演では体操着っぽいもの、運動着っぽいものを作ってくれたよね。果音ちゃんが衣装でやってみたいイメージから、私もじゃあこういうの書いてみようかな、と考えることもあるので、本当に共に作っている感じです。

果音:今年2月に上演した『洒落をきかせて』という作品では、初めて、物語の設定に忠実な衣装を作りました。色がなくなった世界のお話だったのでモノトーンを基調に、十二単のイメージで布をたくさん重ねました。

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──役者として舞台に立ちながら、全体のプロデュースだけでなく、杏優さんは企画・脚本・演出、果音さんは衣装・アートディレクション・演出と、裏方でも、明確な役割を担っています。二人ならではのあり方だと思いますが、演じ手と作り手、どちらのアイデンティティが強いのでしょうか。

果音:作り手の意識が強いかもしれません。

杏優:私もそうですね。やっぱり太郎物語では全体の見え方を意識しているので、自分のお芝居だけに集中するのは本番中だけで、直前まではずっと俯瞰しています。

果音:舞台の上でお客さんに観てもらうのは私たちのお芝居だけど、稽古期間も私は衣装を作って、杏優ちゃんは脚本を直して、という作業があるので、やりすぎかもしれないと思う時期もあったんです。

でも、自分たちで手作りしているからこそ太郎物語としての舞台での表現に深みが出てくるのかもしれないと思うようになりました。だから、太郎物語をこれからも続けるなら、作ることをやめてはいけないと思っています。

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「いろいろな場所に演劇を持ち込みたい。演劇によってみんなを行ったことない場所に連れて行きたい」

──最近は、SNSで縦型ショートドラマをアップするなど、活動の幅を広げています。

果音:演劇を観たことがない人たちに演劇に触れてもらうきっかけを作るべく、縦型ショートドラマを作り始めました。

杏優:SNSって、本当に海に放つようにどこにどう流れ着くかわからないというのがおもしろいので、SNSで太郎物語を知ってくれた人にも舞台を観に来てもらえたらいいな。あとは劇場で公演するにはお金がかかるので、次の公演までに忘れられてしまわないように、という意図もあります……!

──今後の展望やこういう場所で公演をしたいという目標はありますか?

杏優:太郎物語として大きくなっていきたいですね! 果音ちゃんがずっと言ってる公演したい場所は、東京キネマ倶楽部だっけ?

──鶯谷にある、もともとキャバレーだった場所ですね。

果音:そうですね。いろいろな場所に演劇を持ち込みたいし、演劇によってみんなを行ったことない場所に連れて行きたいんですよね。自分たちのテンションも上がる場所でやりたいし、「なんかすごいところに来たぞ!」というのをみんなで味わいたいというか。

そういう思いで、前回の公演は浅草にある木馬亭という演芸場でやりました。あとはラフォーレ原宿とか、若者が集まる場所でもやってみたいです。

ただ同時に、ずっと演劇がおこなわれてきた場所でもやってみたい。私たちがやってるのは演劇なので、演劇をやってる人、演劇が好きな人にも認められたいです……!

──「次はどこで演劇するんだろう?」というのも太郎物語の注目ポイントですね。

杏優:たしかに、予測できない動きをしながら演劇をやっているやつらがいてもいいですよね。

──最後に、お二人が考える演劇や舞台のおもしろさを教えてください。

果音:私は3歳からバレエをやっていて、その後、演劇を始めて、太郎物語を始めて、青春すべてを舞台芸術に捧げてきてしまいました。それだけ舞台が好きなのは、生でしか感じられない、その瞬間にしかないものが舞台にはあるからだと思います。その一回に多くの人が関わって多くの時間がかけられているというのも、演劇の凄まじさだと思います。

杏優:コスパとかタイパとか言われるこの時代に、演劇を作ること、観ることはどう考えても効率が悪すぎるけど、だからこそ可能性を感じるというか。他の表現にはない、人の心を動かす力を持っている気がするので、その力を信じていきたいです。

いろいろな価値観やコンテンツがあるなかで、最近は縦型ショートドラマを作ったりポッドキャストをやったりもしていますが、どんな形でも自分たちがおもしろかわいいと思うものを作り続けて、最後はちゃんと舞台に帰ってくることを目指しています。

果音:いろいろなところで出会った人たちにも最終的に私たちの舞台を観に来てもらえたら、それがベストだね!

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Photo:大森めぐみ
Text & Edit:日比楽那

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ライター・編集者・写真家
日比楽那

2000年生まれ。ライター・編集者・写真家。14歳から役者として活動開始。その後、10代後半から執筆活動を始める。現在は、主にウェブメディアでインタビューやレポートといった記事の企画や制作を担当。ゴールデン街でも働いています。
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