一言で表すなら、順風満帆だ。23歳でコントユニット・ダウ90000を旗揚げし、その翌年には『M-1グランプリ2021』の準々決勝に進出。さらに劇作家の登竜門『岸田國士戯曲賞』にも2度ノミネートされる。
ユニークな視点で日常を切り取った脚本と、何度見返しても発見がある巧みな構成力を武器に、サクセスストーリーを一段飛ばしで駆け上がる蓮見翔さん。「将来どうなりたいの?」と聞かれることも多いという彼に、バケットリスト(死ぬまでにやりたいことリスト)を考えてもらった。
蓮見翔
1997年生まれ。2020年に日本大学芸術学部出身のメンバーを中心にコントユニット「ダウ90000」を結成する。『M-1グランプリ2021』『キングオブコント2022』準々決勝、『ABCお笑いグランプリ』決勝戦進出。劇作家の登竜門『岸田國士戯曲賞』にノミネートされ、脚本を手がけた短編映画『アット・ザ・ベンチ』第2編も話題に。今後飼ってみたい猫はサバトラかキジトラ。
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『美ら海水族館』に行く
―今回は9個のバケットリストを挙げてもらいました。その中からいくつか気になったものについてお話を聞かせてください。まずは「『美ら海水族館』に行く」を書いた理由から。
そもそも水族館が大好きで。特に花形のジンベエザメがお気に入りなんですけど、今は日本だと3館でしか見られないんですよ。そのうちの『鹿児島水族館』と大阪の『海遊館』は行ったことがあるけど、『美ら海水族館』はなくて。水槽が大きくて迫力あるって聞くし、一生に1度は見てみたいじゃないですか。僕、沖縄自体1回しか訪れたことがないんですよ。
―その時は『美ら海水族館』に足を運べなかったのですね。
というより、その1回も沖縄に行ったうちにカウントできるか分からないくらい(笑)。移動中に脚本を書くという企画の一環だったんですよ。最終の飛行機で東京から沖縄に飛んで、その間に仕事して、お昼の12時ぐらいに着いて、ソーキそばをさくっと食べて『アパホテル』で寝て、朝10時の飛行機で本土に帰ってくるという流れでした。ほとんど夜更けの沖縄しか見ていない(笑)。北海道もこの前初めて行ったし、地方そのものに憧れがあるんですよね。
―ダウ90000は旗揚げ後、すぐに人気になりました。芸人さんや役者さんの下積み時代の話としてありがちな“暇で仕方ない時期”や“多めにギャラが入ったから遊ぶ時期”はなかったのでしょうか?
そうですね。バーンと忙しくなって今に到るので、「ちょうど旅行行ける」みたいなタイミングがほとんどなくて。だから人よりも観光地への憧れが強いですよね。
複合施設を建てる
―「複合施設を建てる」はどうですか?
僕は昔からよく「劇場を作りたい」と言っているのですが、これはその延長です。劇も観られる複合施設を作りたい。たとえ公演の内容がお客さんに合わなくても「それ以外が楽しかったからよし」と思ってほしいんですよね。
―具体的にどんなテナントを入れたいですか?
水族館はマストです。劇場に入るのってハードルが高いし、あくまで個人の趣味だと思うけど、魚は大抵の人が見て幸せな気持ちになれるじゃないですか。
あとはチェーン店をたくさん入れたい。僕、イオンモールがすごい好きなんですよ。何がいいって、買い物とか飲食をしなくても無料で楽しめる。地方の国道沿いを歩くとサイゼリヤとガストが横並びになっていて、都心じゃ考えられない共存をしていることがあるじゃないですか。そういう光景を見て興奮するのと似た感覚をイオンモールでも味わえるんです。
それに、「フードコートにはどんな店を入れて、ここに本屋もあったら最高だよな」と、“最強のイオンモール”を妄想するのが昔から趣味で。複合施設を楽しくすることにちょっと自信があるんです。
作詞作曲ができるようになる
―「作詞作曲できるようになる」というのは?
学生時代にBUMP OF CHICKENに出会って以来、ずっと邦ロックが好きで、作詞作曲に憧れているんです。それと、最近は舞台を作る上で身につけるべき技術なんじゃないかとも思っていて。というのも、演劇を配信する時、既存の楽曲を使用している場合はお金を払わないといけないんです。かといって著作権フリーの音源はクオリティに限界があるから「予算がないな」とバレてしまう。それに楽曲を探すのって大変なんです。「1音目に大きい音がくる曲を探すだけで数時間」みたいなことがザラで。
―それなら自分でベストなものを作りたいということですね。作りたい楽曲のイメージはありますか?
劇の内容と関係なく聴けるものですね。リリースされたらお客さん以外の人にもたくさん楽しんでもらいたいですから。最近はお仕事でミュージシャンの方と接する機会が多いこともあって、ヒット曲というものを世に送り出したらどんな気持ちなんだろう? と気になっているのもあります。
でっかい広告を出す
―「でっかい広告を出す」というのは?
僕の名前や写真が渋谷のスクランブル交差点に飾られるイメージです。表現者の憧れですよね。今でも友達とコンビニに行った時に、僕が取材をしてもらった雑誌があったりすると「ほら、俺」と自慢しちゃったりするくらいですから。この目標はその延長線上ですね。
―もし“でっかい広告”が実現したら、友人にどんなふうに振る舞いますか?
それもシミュレーションしたことがあって。以前、ラジオ番組でご一緒していたセクシー女優の紗倉まなさんと渋谷のスクランブル交差点を歩いていたら、紗倉さんのでっかい広告を見つけたんですよ。「あれなんですか?」って聞いたら、なんてことないテンションで「ああ、なんか貼られてるみたいで」と。その気取らなさがカッコいい! と思ったんです。だから、僕もそんなふうにクールに振舞いたい(笑)。
―蓮見さんやダウ90000の活躍を見ていると“でっかい広告”が数年後に実現してもおかしくなさそうですね。ちなみに、10年後の未来像はありますか?
忙しく仕事をしていたいですね。三谷幸喜さんの『古畑任三郎』シリーズや宮藤官九郎さんの『池袋ウエストゲートパーク』のような、監督の名前を知らない人ですらその名前を聞いたことがある作品を世に残したいです。僕が目指しているのは大衆に刺さる脚本なんですよ。
―先ほど「劇場に入るのはハードルが高い」と話されていたのも、“演劇好き以外の人にも届けたい”という思いから出てきた言葉に感じました。蓮見さんが大衆を意識する理由はなんでしょうか?
ダウ90000は毎年コントライブをやっているのですが、劇場を決める時に「次はもっとキャパが大きいところに挑戦しよう」と作戦を考えるのがゲームの『シムシティ』みたいで単純に楽しくて。これから規模を大きくしていくためには、地方に目を向ける必要があるし、それなら目の肥えた人たちだけでなく、大衆にも受ける脚本をもっと書かないといけないなと思っているんです。
それと以前、毎年全国ツアーを行っている大先輩の東京03の飯塚(悟志)さんとお話したとき、「地方だとウケない時がある」と言っていたのも、奮い立たされた理由の一つですね。あんなに面白い人たちでも悩むんだから、僕たちも現状で満足してはいけないよなと。
―10年後のお話をしていただきましたが、20年後の未来像はありますか?
47歳かぁ。うーん……その頃にはテレビに出ないでゆっくりしてたいな。実は僕、タレントとしてお茶の間に出続けたいみたいな欲求はあまりないんです。それよりは自分のペースで劇場にこもって、脚本を書いて下ろしてを繰り返していたい。後輩もたくさんいるだろうし、その中にはダウ90000みたいなユニットが1組くらいはいるはずですよね。その人たちの活躍の場を奪うことはしたくないという思いもあります。
そば屋になる
―「そば屋になる」も気になります。
普段からお店巡りをするくらい大好物で、コントや脚本以外で熱中できるものの最有力候補が蕎麦なんです。おじさんになったらみんな蕎麦打ちに凝り始めるみたいな話をよく聞くけど、そんなに面白いなら若いうちからやってみたいじゃないですか。何十年もやり続けたら、お店を出せるクオリティに達せるかもしれないな、と思って書きました。
―どんな蕎麦屋を出したいですか?
週に2回しか開店しない店ですね。これは自論なんですけど、蕎麦屋ってやってない日が多いほど美味しそうに見えませんか? 実際に食べてみると思ったより普通だったりすることも多いんですけど(笑)。
―でも「この店の蕎麦を食べられた」という特別感はあると。
そうなんです。以前週に2回しかやっていない蕎麦屋に入ったことがあるんですけど、ふと厨房の方を見たらガンプラが置いてあったんですよ。絶対残りの5日で作ってるじゃんと(笑)。それがめちゃくちゃ面白いし、羨ましいなと思ったんです。
「働かないといけない」という恐怖心だけでお店を開けちゃう人って多い気がしていて。でも、本当はそんなにストイックになる必要がなかったりするんです。そのお店みたいに2日間でしっかり繁盛させて、ガンプラ代を稼ぐような生き方もある。僕もいつかはそんなふうに生活を成り立たせたいなと思っているんです。
ラーメンズに会う
―最後は「ラーメンズに会う」。脚本や演出、演者までをマルチに行う小林賢太郎さんと、存在感のあるルックスと唯一無二の表現力が魅力の片桐仁さんによるコントユニットですね。2020年に小林さんが芸能活動を引退したことで活動休止になりました。
本当に夢みたいなことを一つ書こうと。中学生の時に塾の先生が教えてくれた「不思議の国のニポン」というコントの動画でラーメンズさんに興味を持って、その後に見た「不透明な会話」で完全に僕の人生が変わったんです。
―「“透明人間は存在する”を論理的に証明する」がテーマのコントですね。ワンシチュエーションという設定や、一つの言葉から会話が思いもよらないところまで飛躍する脚本など、ダウ90000の世界観と共通する要素も多いです。
影響は間違いなく受けていますね。コント自体はその先生から教えてもらう前から好きだったのですが、ライブでお客さんに披露してみたいと思わせてくれたのがラーメンズさん。言葉一つでこんなかっこいいことができるんだって感動するんです。あの人たちのコントには脚本を書きたいと思わせる力がある。
―小林賢太郎さんは裏方として活動を続けていますし、片桐仁さんも俳優やアート作家として活躍されています。会いたい相手を“小林さんと片桐さん”ではなく、解散してしまった“ラーメンズ”と書かれているのもポイントでしょうか?
あえてコンビ名なのが“夢”の要素です。でも、急にどこかのタイミングでまた公演が行われるような気もしていて。解散してもなお、「ラーメンズなら僕たちの好きなことをまだやってくれるはず!」とワクワクさせてくれるんですよね。しかも、なかなか公演を見られなかった僕らの世代ですら、そう信じている。同じように脚本を書いている身からすると、そのカリスマ性は圧倒的で、彼らは“魔法使い”なんだなと思います。本当に憧れの存在ですね。
今もこれからも、最高。蓮見さんの“脚本中心”な人生観
―“欲しいもの”にまつわる内容がないバケットリストでした。ほとんどが演劇や脚本に紐づいているところも一貫していて、蓮見さんらしいなと感じます。
物欲が本当にないんです。これからお金を使うとしたら、旅行に行くくらいですかね。忙しくしていると知らないことが多すぎるので、長めの休みをとって、色々なことを経験してみたいです。結局、それを糧にすぐ脚本が書きたくなるんですけどね(笑)。
―バケットリストという単語は2007年に公開された映画『最高の人生の見つけ方』から引用しています。蓮見さんにとって“最高の人生”とはなんでしょうか?
今です。いろいろな人の助けがあって、お仕事をたくさんもらえていますし、昔から尊敬していた人に褒めていただく機会もありましたから。こんなラッキーなことはないなと思います。それに、すでにこれだけの経験をさせてもらえているのだから、もし仮に今後僕が売れなくなったとしても、きっと同じように“人生は最高”と言い切れる。その上でもうちょっとだけ欲を出すなら、このバケットリストを叶えられたら嬉しいですね。