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特集

フリースタイルフットボーラー・Kazaneの生き様

ルーツと未来をつなぐ、フリースタイルなバケットリスト

author: 生駒 奨date: 2024/06/09

フリースタイルフットボーラーのKazaneさんには、人を惹きつける魅力がある。人懐っこい笑顔、丁寧な物腰。アウトフィットもとびきりお洒落だ。話すだけで笑顔になる、そんな人物。彼は、日本で「フリースタイルフットボール」というカルチャーを広めてきた先駆者でもある。そんなKazaneさんは人生にどんなビジョンを持っているのだろうか?

Beyond Magazineが気になる人に「死ぬまでにやりたいこと」を聞く特集「バケットリスト教えてください!」。今回はKazaneさんにリストを上げてもらった。「これまではやりたいことを意識せず、とにかく走り抜ける中でいつの間にか達成してきた」と語る彼。サッカー、ファッション、音楽、ダンス、映像など、あらゆるクリエイティブカルチャーを横断して注目を集めるKazaneさんが、あらためて自分の現在地を見直し、未来に向けて定めた目標とは?

Kazane

1998年3月2日生まれ、滋賀県米原市出身。小学生時代にフリースタイルフットボールと出会い、中学生の頃からYouTubeなどのソーシャルメディアを駆使してチームメンバーを募りながら活動を本格化。2016年にチェコで開催された世界大会Super Ballでベスト16に入って以来、国内外の様々なコンペティションで好成績を残して注目を集める。最高順位は世界4位と日本1位。また若手トップパフォーマーが所属するチーム「AIR TECHNICIAN」と「MONSTER BALLAZ」を主宰し、フリースタイルフットボールのさらなる発展と普及にも貢献している。

X : @KazaneFlowerboy
Instagram:@Kazaneflowerboy

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スキルもファッションも含めて「Kazaneかっけぇ」と思われたい

まずは自己紹介させてください。俺のことはKazaneって呼んでほしいです。

俺がやっているフリースタイルフットボールは、サッカーから世界で同時発生的に生まれたカルチャー。多分、一番最初にやった人は一人でサッカーをやりすぎたんでしょうね(笑)。ダンスとリフティングが融合して、音に合わせて踊りながらボールテクニックを披露します。競技としての大会では、MCバトルのようにDJがいて、トラックに合わせて対決するものが主流。俺はもともとサッカーをやっていたけどリフティングが上手いお兄ちゃんと出会って、魅了されたんです。

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いつも使っているボール

フリースタイルフットボーラーは一種のアーティストだと思っています。中にはスポンサーがついて、競技の大会に挑戦し続ける人もいますが、俺はそっちじゃなくて、自分が主催するチーム「AIR TECHNICIAN」や「MONSTERBALLAZ」の活動と音楽やファッションをフリースタイルフットボールと融合した表現をするのが今は好きです。

だから、演技をする時のファッションもめちゃくちゃ重要で、フリースタイルフットボーラーの中には動きやすさを重視した格好を好む人ももちろんいますが、俺は好きな服を着てボールを蹴っていたいです。そこも含めて「Kazaneかっこいい」と思われたい。

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そういう意味で、リストには「自分が作った衣装でMVやアー写を撮影したい」という夢を書きました。これは自分でファッションブランドを作って販売したいというよりは、自分たちが着る物をしっかり自分自身で作りたい、という気持ちが強いです。周囲にはブランドをやっている友達もいるので彼らとコラボして、パフォーマンス時の衣装を作ってもらう話を進めています。

例えば獣耳のついた帽子や、ベイビーピンクのセットアップ。そんな衣装を着て、すべてにこだわって納得いくMVやPVを撮って、みんなに見てもらいたいんです。

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もう会えない「自分を産んだ人」を知りたい

自己紹介の続きみたいになりますが、俺は基本的におじいちゃん・おばあちゃん・お父さんに育てられたんです。母親は俺が生まれて間もなく亡くなったらしく、写真でしか見たことがない。だから、できることなら母親についてもっと知りたいと思って、リストに入れました。

母の声も知らないし、映像も見たことがないんです。いつか帰った時に父や祖父母に母のことをもっと聞いてみたいし、映像とか写真とかもっとないのか聞いてみたい。特に母が動いているところを見たことがないから動画があれば最高です。

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もし母に質問できるなら、生い立ちから人生すべてについて聞いてみたいです。仙台で生まれて、デザイン系の学校に入るために東京に来た、ということは知っていて。どうやって父と出会ったか、どんなふうに結婚して、何が好きで、何が嫌いで、どんな人間だったのか。やっぱり、産んでくれた人のことは知りたいなと思いますね。

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一番好きな街で恩返しがしたい

母が亡くなってすぐの時は、父が片親で一生懸命育ててくれていました。父はデザイナーだったのでクリエイティブなことをいろいろ教えてくれて、サッカーも好きだったから、影響を受けてボールを蹴り始めました。

ただ、父も少し事情があって一緒にいられなくなり、その後はおじいちゃんとおばあちゃん、特におばあちゃんが俺の世話をしてくれました。もう2人とも80歳を超えるんですけど、以前「どこか行きたいところは?」と聞いたら、「鎌倉に行きたいな」って言うんです。

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俺、鎌倉がめちゃくちゃ好きなんです。上京してきて、首都圏で一番好きな街だなと思ったのが鎌倉や江ノ島、湘南あたりのエリアでした。このエリアって、都会すぎない良さがあるじゃないですか。海も緑も身近にあって。

好きになったきっかけは大好きなアニメ映画で、鎌倉が舞台の『ねらわれた学園』(2012年)。チームメイトにおすすめされて観たんですけど、俺のほうがハマっちゃって。すごく映像が綺麗な作品で、「これは聖地に行くしかない」となって、鎌倉エリアを巡ったんです。実際の街並みは、映画以上に綺麗だった。育ててくれた人が、俺が大好きな街に行きたいって言うなら、絶対に連れて行きたいですよね。

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ディープなサブカルチャーの世界に登場したい

自分がアニメキャラクターになるのは本当に憧れます。「Kazane」というキャラが既存アニメに出演するのでもいいし、自分がモデルになった新キャラが出る、とかでもいいのですが、とにかくアニメに出演してみたい。声優としてでも参加したりできたら最高です。

アニメ・漫画は本当に好きなカルチャーのひとつ。一番最初に好きになったのは、サッカー少年らしく『キャプテン翼』(集英社・高橋陽一)でした。父が漫画を全巻買ってくれて、夢中で読んだな。そこから『ONE PIECE』(集英社・尾田栄一郎)にもハマるという、王道ルートを歩んできました。

でもその後、少しディープなほうにもハマり始めて、『さくら荘のペットな彼女』っていうアニメがめちゃくちゃ好きになったりして、どんどんアニメカルチャーが好きになりました。

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実はゲームキャラには既になったことがあって。フランスの世界的なフリースタイルフットボーラーのシアン・ガルニエがフリースタイルフットボールのゲームを作ったんです。彼は俺含めたチームメイトに良くしてくれていて、そのゲームに「Kazane」というキャラを出してくれたんです。ゲームの中で、俺のオリジナルの技を繰り出したりするんですよ! でも、その当時あんまりお気に入りじゃない髪型をしていて、その姿でゲームキャラになっちゃってるんです。それだけが心残り(笑)。

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自分が落ち着いた時に、「落ち着きのないヤツ」が身近にいてほしい

「太く短く生きる」という価値観もあると思うけど、俺は圧倒的に「長生きしたい」派。もし子どもや孫を超えてひ孫と仲良くなれるくらい生きられたら、すごくいい人生だろうなって思います。

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「結婚しなくていい」とか「子どもは作らない」という人もいると思いますけど、俺はいつか子どもがほしい。今は自分がいろんなことに挑戦して刺激的な毎日を送っているけど、いつかは今のようにすべてに全力ではいられない時が来ると思うんです。その時に、「まだまだ人生だこれからだ!」っていう落ち着きのないヤツが無限に身近にいたらいいなって(笑)。自分が経験してきたことを伝えられるし、何よりワイワイできるから。そうして世代を受け継いで、ひ孫に会うまで生きたいですね。

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アドレナリンが止まらない瞬間を1秒でも長く

日々、活動している中で「心から幸せ」と思える瞬間があります。例えば「やばい技を思いついてその場でできた時」あと映像を作るのが好きなんですが、撮影している時に「うわ、めちゃくちゃいい画が撮れた。こっちのテイクもいいし、今のもいいし」と考えていると、自然に笑顔になっている。そんな時間をもっと増やしたい。

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ステージでフリースタイルのスキルを披露している時も、例えばそれがバトルであっても「相手に勝ちたい」というよりは「オーディエンスが驚いているか、笑っているか」が俺にとっては大事。自分のステージを後で映像で見直す時とか、観客が笑ってたら本当に嬉しくなります。

バトルで勝つとか、難しい技を決めるとかってことだけを考えていたら、フリースタイルフットボールの世界もどんどん先鋭化されて狭くなっていってしまう。俺はそれより、かっこいいスタイルやファッションで面白いこと、面白い映像を作っているチームがある、ってみんなに思ってほしい。そう伝えられた時はアドレナリンが止まらなくて、本当に幸せだなって感じます。そういう瞬間を1秒でも増やしたいという意味で、リストに「生きているだけで毎日幸せと心から言えるようになりたい」と入れました。

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夢はいつの間にか達成してきた―Kazaneの現在地とこれから

これまでの人生、「やりたいこと」を特に細かく整理して考えることはあまりしてきませんでした。高校時代とかに目標を書き殴ったことはありましたが、今思うとそれはすべて「なんかちっぽけだったな」と思うんです。「世界大会に行く」とか「フリースタイルでテレビに出る」とか「高い服を買う」といったことを書いていたのですが、振り返れば案外達成しているけど、「それでも当時の自分には大きな夢だったんだな」と。

もともと「世界一になる」とか「大金持ちになる」みたいな夢は掲げないタイプ。東京はおかしな街だからか日々信じられないことが起こるから、細かい目標は気づいたら達成していることが多いんです。特に上京したての時は毎日夢を達成してた気がしていた。そういうこともあって最近は個人的な目標を深く考えないようにしていたんですが、今回機会をもらって、自分自身を整理できた気がします。

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改めて、やりたいこととか、作りたい作品についても考えられた。ありがたいことに最近はいろんなファッションブランドや他カルチャーの人と一緒に映像やビジュアルを作ることも多いのでもっと経験して色々なことを吸収できたら自分たちの作品もさらに面白くなるんじゃないかなと思います。フリースタイルの技だけじゃなくて音楽やファッションも全部ミックスして、ミュージシャンやファッションデザイナーと協力しつつ、自分の技に合わせて自分で音楽を作ったり。普通は既存の曲に合わせてフリースタイルをやるんですけど、逆にフリースタイルの技に合わせて自分で曲を作れたりしたら表現の幅がぐっと広がる気もしますしね。

もっといろんなことを経験して俺のことを知ってくれてる人や応援してくれてる人がびっくりするようなことができたらいいなと思います。こういう奴がいるんだって思ってくれて一緒に面白いことができれば申し分ないです。せっかくリストアップしたからには家族とかチームメイト、友達巻き込んでバケットリストを達成する生き方をしていきたいですね。

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編集者・ライター
生駒 奨

ファッション、アート、映画、文芸、スポーツなどさまざまな分野で編集者・ライターとして活動。企業のオウンドメディアでのコンテンツディレクションにも携わる。好きなものはビーグル犬、洋服、森博嗣の小説、ホラー映画。
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