JR元町駅を降りて“西の中華街”南京町方面に向かうと、観光客と地元客とが混在するおおらかなアーチを構えた神戸元町商店街がある。西に歩くこと約6分、商店街から少し外れた先にユーカリ・ポポラスの鉢植えが置かれたおしゃれなガラス張りのお店が静かにたたずむ。2020年9月にオープンした「本の栞」だ。本屋なのに本屋という感じがしない不思議な空気感をまとう店。本、音楽、カフェといった多彩なカルチャーをゆるく楽しむイベントスペースのような場所になっている。
稀人No.006
「本の栞」店主・則松栞(のりまつしおり)
1996年大阪府高槻市生まれ、神戸市在住。立命館大学映像学部卒業。2020年9月神戸・元町に「本の栞」をオープン。小説やエッセイ、アートブックを中心に、ZINE、インディーズCDなどを取り扱う。月に2〜3回店内で音楽ライブや朗読会などイベントを定期開催。
HP:https://honnosiori.buyshop.jp
Instagram:@honnosiori
異国情緒と新旧の文化が入り混じる町の、小さな書店
扉を開けると、りんごの木箱の上に置かれた薄いねずみ色のお香が目に入った。煙がゆらゆらたゆたい、するすると力が抜けていく。そのまま視線を左に移すと、アートブックなどの大型本が飾られた真っ白なカウンターと本棚。存在感あるレコードプレーヤーとDJ機材がどっしりと鎮座し、シンプルな空間に異彩を放つ。その前に真っ黒なワンピースに身を包んだ女性がレコードを手にして立っていた。
「こんにちは」
にっこりと出迎えてくれたのは、店主の則松栞さんだ。すっきりとした店の奥を見ると、小説、旅や日記などのエッセイ、漫画、写真集、古書などの本がずらりと並ぶ。中央の台には新刊だけでなく、蛇腹折りだったり栞のような細長さだったりと、さまざまな形状のZINEやリトルプレスが整然と置かれている。
店の奥を見るとつまみがたくさんついた黒い音響機器がたたずみ、天井に8面体の木製スピーカーが吊るされている。カウンターには、ドリンクのメニュー表の前に焼き菓子。
パッと見ると何屋さんなのかわからない、さまざまなカルチャーが違和感なく融け込む場。則松さんの存在も店主という肩書きなどどこ吹く風と、空間に馴染んでいる。ミステリアスな魅力を持つ小さな書店「本の栞」は一体どんなふうにでき上がったのだろうか。
小説と漫画、アニメにのめりこんだ小中高時代
棚には個性あふれるZINEが並ぶ
1996年6月、大阪府高槻市に生まれた則松さんは、父、母、弟、祖父の5人家族で育った。家には本棚だけで埋め尽くされた部屋があり、そこは主に父の居場所だった。といっても、ただの本好きというわけではない。雑誌や新聞、折込チラシといった「文字」が書かれてあるすべてのものが父の興味関心の対象で、「いつも何かを読んでいる」のが日常風景だった。
則松さんが本に夢中になったのは、小学生の時。中学受験のため大阪から京都まで電車で塾に通った。帰路は母と合流、その待ち合わせ場所が塾近くのショッピングモール内にある大型書店だった。
「漫画は自分のお小遣いで買うルールでした。でも小説など文章がメインの読み物は、私が欲しいと言えば何冊でも買ってくれましたね」
青い鳥文庫やライトノベルのほか、東野圭吾や重松清といった長編小説に至るまで、「おもしろそう!」の好奇心が沸き立つと、すぐに本を手にとっていた。
壁一面の本棚と、新刊&ZINEが置かれた平台
漫画も大好きだった。休みになったらひとりでバスに乗り、ブックオフなどの古本屋まで出向いた。リュックがパンパンになるくらい購入し、学校の友人と漫画の話題で盛り上がった。
中学生になるとアニメの世界に心を奪われ、鮮やかなビジュアル表現に魅せられた。同時にニコニコ動画などのネットコンテンツにも夢中になり、本以外にも興味の幅がどんどん広がっていく。
おもしろそうなものを見つけると、次々に関心が芽生える則松さん。高校時代は映画と音楽に傾倒する。映画は『ジョゼと虎と魚たち』をはじめとしたミニシアター系の作品を好んで観た。音楽はニコニコ動画で知ったバンドの曲を皮切りに、「モーモールルギャバン」や「愛はズボーン」などのインディーズバンドにも惹かれた。そのうち大きな生音を求めてライブハウスに通うようになる。
とりわけ目を引くカウンターのDJコーナー
「高校生の時は、学校のある京都からライブハウスのある大阪まで、片道1時間半かけて月に15日以上通っていました。頻繁に通うからスタッフさんと顔見知りになって仲良くなるんです。それで好きなバンドを掛け合わせる企画を持ちかけたら面白がられて採用されて、通算10回ほど関わりました」
しかも、企画するだけではない。演者の出演段取りやイベントのチラシ作り、告知などイベント運営全般に携わったという。
気になるライブハウス通いの軍資金は、アルバイト禁止の高校だったこともあり、お小遣いや貯金から賄った。母親からは「またライブ? 今月もこれで終わりやで」とよく怒られていたものの、則松さんのライブに入れ込む熱意に折れた。
普通に学校にも行っているし、しんどくなかったんですか? と聞いてみると、「全然。苦じゃなかったし、やりたいことだったから楽しかったですよ。でもその分お金がかかったのは事実なので、呆れながらも好きなことをさせてくれた両親には感謝しています」と懐かしそうに笑う。
『AKIRA』を知らない映像学部? 2年間の暗黒期
店内BGMの音源はレコード盤。音楽が終わると手際よくレコード盤を替える
本、漫画、アニメ、音楽と、自分の好きな世界を探究してきた則松さん。「音楽と映画が好きやし、そのうちプロモーションビデオを作る仕事ができるかも」という軽い気持ちで、2015年4月、京都にある立命館大学映像学部に入学する。
映像学部なら映画を観ている人が多いに違いない。そう信じて疑わなかった。しかし、自己紹介時に高まっていた期待はあっけなく崩れてしまったという。
「グループ内の自己紹介で、誰もが知っていると思っていた超名作のアニメ映画『AKIRA』が好きだと発表したら、誰も知らなかったんですよ。おい、映像学部なのにウソだろ? と」
心のシャッターが一瞬で降りた。大きくショックを受けた則松さんは「『AKIRA』も知らないこのグループとは実習作品を一緒に作れない」と絶望した。
実習を含めた授業は、自己紹介時に結成したグループで進行する。しかし則松さんは小学生の時から団体行動が得意でなかった。自主企画ライブイベントを進める高校時代のエピソードでもわかる通り、主体的に物事を進めるタイプだ。趣味嗜好が合う仲間と一緒であれば楽しく授業に参加していたかもしれないが、心を閉ざしてしまった則松さんは積極的に大学に通えなくなってしまう。
落胆した気持ちは、ライブハウスに通って紛らわせた。20歳を過ぎるとアルコールでも寂しさを埋めるようになった。その間は則松さんにとって「暗黒の2年間」だった。
店の奥にある音響機器
体中に電気が走った、神戸六甲の古本屋「口笛文庫」
大学に足が向かなかったのは2015年~2017年の2年間。ただその日暮らしの、無為な時間を過ごしていたわけではない。則松さんの心の支えになっていたのは「本がある場所」だった。
「高3くらいからまた、村上春樹などの本を読むようになったんです。その流れで大学の図書館や古本屋さんに通っていました。本を読むのが楽しかったというか、『本のある場所』が好きやったなって思い出したんです」
同じものが好きで、感覚を信用している人から薦められたものは、すべて片っ端から試してみたという則松さん。当時付き合っていた彼に影響を受けて夢中になったのが、外国文学だった。絶版のものも多く、元町にある古本屋10軒ほどに足を踏み入れ、読みたい本を探し求めた。
大学2年生の2016年秋のある日、いつものように授業をサボって友人と遊びに出かけていた。この日の目的地は、神戸・六甲。昼食後に友人と別れ、ただあてもなく散策した。そろそろ帰ろうとJR六甲道駅に向かって坂道を下っていると、建物に沿って本がずらりと並べられた平台に目を奪われた。窓から中をのぞくと、本しか見えない。玄関ガラスには「古本とジャズ 口笛文庫」と白文字で書かれていた。
「なんだ、ここ……」
店内に一歩足を踏み入れる。おびただしい数の本と古い紙のにおいが広がる空間を目の前に、立ち尽くした。山のように、縦に、横に、本が整然とうず高く積み上げられている様は、古いフィルム映画に出てくるような古書店の雰囲気そのものだった。
山と山の間にわずかに生まれた隙間をすり抜けるように、視線を上に下にずらしながら、ゆっくりと歩く。生活、暮らし。映画、芸能、建築、アート。哲学、思想、経済。日に焼けた古めかしい雑誌。小説、新書、外国文学。さながら時空を超えた本の旅のようだ。
窓からは柔らかな光が差し込み、時折風がそよぐ。音もなく、ただ静かな時間だけが流れていた。
「とにかく“かっこいい”の一言です。店主もジブリ作品から出てきたような雰囲気で、眼鏡をかけて本の山の中にちょこんと座っている。本棚から漂う美学そのままのたたずまいがとても素敵でした」
そこで、数冊購入。普段は店主に話しかけることはしない。でも洗練された空間に一目惚れした則松さんから言葉がこぼれた。「お店はいつからあるんですか?」と。「もう10年くらいですかね?」「あっ、もうそんな時からやってはるんですね」と、交わした言葉は少ないものの心は晴れやかだ。
店を後にし、「めっちゃいいお店を見つけた!」と宝物を見つけたような気持ちのままに、近くのコーヒー店に入って最高の出会いの余韻に浸った。
その後も、週に一度の頻度で通ったり、友人を誘って一緒に訪れた。口笛文庫の放つ“かっこよさ”に、定期的に触れにいった。
ドリンクや焼き菓子も楽しみながら店内で寛げる
だが、3年生でゼミに入ったのをきっかけに、大学生活におもしろさを少しずつ見出せるようになる。その頃周りは就職活動を始めていたが、集団行動を避けてきた則松さんは「組織で働けるはずがない」と、就職する気は1ミリもなかったと話す。
「いつか本屋をやってみたい」。いつの頃からかわからないほどずっと胸の奥に眠っていた淡い憧れ。卒業後の進路を考えることではっきりとした輪郭を帯びるようになる。
そこで、本屋になるための勉強をしようとアルバイトをしようと思いつく。当時、神戸三ノ宮のセンタープラザ2階にあった「清泉堂書店」のバイト募集の貼り紙を見て飛びついた。「いつか古本屋をやりたいんです」と懇願し、すぐに働けることになった。
レジ、検本、値付けなど一通りの作業を覚えた。古書市への出店時にもスタッフとして参加したことで、古本屋との横のつながりができ交流を深めた。
則松さんがアルバイトした「清泉堂」は、2022年12月に元町商店街に移転。「本の栞」から徒歩3分ほどの場所にある
4年生で2単位足りないことが判明し半年間留年することになったものの、無事に卒業論文を提出した則松さんは、2019年9月に大学を卒業。
「本屋さんをやる」。
両親には「はあ? あんた、なに言うてんのん?」と驚かれた。特に堅実な父親からはお金のことを心配されたが、一度決めたら曲げない性格を理解していた母親は則松さんの志を応援。友人からは「栞らしい選択だね」と納得された。
人生の休み時間に出会った「口笛文庫」が脳裏をかすめる。迷うことなく道を決めた。
古書店アルバイトで開業資金を貯めて、古書店「本の栞」オープン
改装前の「本の栞」(写真提供:則松栞)
しかし、卒業してすぐは資金も足りずお店も開けない。そのまま「清泉堂書店」でアルバイトを続けた。
2020年3月、新型コロナウイルス感染症が猛威をふるった。一時閉店になったタイミングでアルバイトを辞めることにした。自由の身になったし本屋を始めてしまえと、勢いのままにテナント探しに手をつけるのが則松さんらしい。
店は神戸に構えようと決めた。大学卒業後は神戸で暮らしていたこともあり、馴染み深い町だったからだ。なかでも元町は、三ノ宮よりも落ち着いた雰囲気。そこそこの人通りがある神戸元町商店街と古書店が10店舗ほど点在しているエリアでもあり「本好きが散策がてら立ち寄ってくれるだろう」と見込んだのも、元町に決めた理由のひとつだ。
開店資金は、貯めたバイト代と両親から借りた計200万円超。ジャンルレスな古本を集めたオーソドックスな古本屋「本の栞」を、2020年9月にオープンさせた。
改装前の「本の栞」(写真提供:則松栞)
しかし、いきなり頓挫してしまう。本屋にしては並んでいる本の種類が少なく、玄関をのぞかれては「ここ、何屋?」と怪訝な顔をして帰る客が多かった。
また買い取りで持ち込まれる古本の量が膨大で、ジャンルも自己啓発やビジネス本など偏りがありすぎて「ひとりではどうすることもできない」状態が続き、埒が明かなくなってしまったのだとか。
オープンから程なくして、京都にある知り合いの出版社「さりげなく」に連絡し、新刊を入れることになった。膨大な古書のなかから労力をかけて掘り出し物を見つけることに疲弊していた則松さんは、出版社が厳選した本を自分で選んで決められることに喜びを覚えたという。
新刊はテーマを決めて選ぶんですか? と聞いてみた。すると、きょとんとした顔になって笑った。
「店のテーマをよく聞かれるんですけど、私からしたら『テーマって何?』って感じなんですよ。自分の家の本棚にテーマってないじゃないですか。おもしろそうやなっていうよりも、これは興味ないなっていう本は入れない感じですね」
古書10割だった店内は、今ではおよそ9割を新刊や漫画、リトルプレスが占める。新刊を入荷したら、Instagramで告知する。少なからず反応があり、発信を見たユーザーから注文が入ることも多い。
2022年4月には、最近注目を集めている若手作家、小原晩の自主制作作品『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』(以下『唐揚げ弁当』)を入荷販売。約150部を売り上げたという。
「小原晩さんの『唐揚げ弁当』は、全国の個人書店でも異例の売り上げを記録しました。一般的な書店で売れている本とは全然販路が違うから、異彩を放っているというか。一般書店では取り扱わないような本を、これからも紹介していきたいですね」
本屋として、イベント会場としても居心地の良い「場」
オープン2ヶ月半後に開催したイベント「朗読会」(写真提供:則松栞)
則松さんは月に2~3回、店内でさまざまなイベントを開催している。書店で初めて開いたイベントは、オープンから約2カ月経過した2020年11月14日土曜日の閉店後。テーマは「朗読会」。10人以上の参加者が集まった。おのおの好きな本を持ち寄り、好きなように読んだ。各自アルコールを持ち込んだりするなど、ゆるりとした自由な時間を過ごした。
朗読会の次はミニライブ。思いつきで企画して、不定期にイベントを開催した。2021年9月、昼間に1時間だけのささやかな1周年記念ライブを企画開催。シンガーソングライターと焼き菓子屋を営む友人が二つ返事で引き受けてくれた。則松さんは集まってくれたお客さんに、コーヒーとお茶を淹れてもてなした。
オープン1周年の音楽イベント(写真提供:則松栞)
その後も定期的にイベントを行った。高校生の時にライブハウスで知り合ったミュージシャンに声を掛けるなど、これまでの人脈も大いに活かす。
「本や音楽を、おいしい食べ物やドリンクを片手に、みんなで楽しめる場を作りたいっていう思いはずっと考えていました。ここをきっかけにして、ゆるく繋がりが生まれたらいいな、と」
イベントを開催するようになると店内が手狭になり、ドリンク提供の動線も不便に感じてきた。本屋プラスアルファの部分のイベント会場としても居心地のいい場を作りたいと思うようになり、改装を決めた。2023年6月から1カ月間、改装のために休業。ここでも則松さんの人脈が活きる。
今回の改装工事は、感覚の近い信頼できる誰かに依頼したいと考えた。そこで浮かんだのが、本の栞オープン当初にライブハウスで友人を介して知り合って仲良くなったオーナーが営む、神戸・六甲の「Coffee Bar Hecke(ヘッケ)」。
ヘッケで知り合ったお客さんに、内装デザインを生業とする人、音響に詳しい人、そして施工会社勤務の人がいたので、その人たちに依頼することにした。なんでも話せる気の置けない人たちばかりで、少ない言葉でも通じ合えるのが心地よかった。
則松さんのこだわりは、イベント開催時に今より居心地のいい場にすること。それ以外に置く機材や配線の場所など最小限の要望だけを伝えて、あとはすべて任せた。
2023年7月、シンプルさが際立つ、クールで真っ白な空間ができ上がった。本棚の位置はそのままに、カウンターの位置を入り口側に移動。店の入り口と奥に、奈良の音響メーカー「listude(リスチュード)」の木製スピーカーを2基設置した。
改装後初の音楽イベントでは「体感する音が自然で気持ちいい」と、パフォーマーとお客さんからさっそくうれしい感想が寄せられている。
「私自身もお気に入りの空間になりました。喜んでもらえてうれしいですね」と照れたように笑った。
複合的なカルチャーが混じり合う、居場所のような存在に
2020年9月、古本屋からスタートした「本の栞」。4年目の2023年は、小説や文芸書、漫画などの本だけでなく、音楽、コーヒー、アルコールをゆるく楽しめる場所に進化した。
まるで則松さんの人生そのもののようだ。彼女を作り上げたカルチャーがぎゅっと詰まっている。また、カルチャーをきっかけに出会った多くの人から受けた影響もまた、グラデーションのように溶け合い、店の“色”になっている。
「本の栞」をどんな場にしていきたいのか、今後のことを聞いてみた。
「大学があった京都には、銭湯でライブをやるとか一見よくわからないバーとか、いろいろな文化がごちゃまぜになっている場が多かったんです。そういう場所を神戸に作れたらいいなと。多様なカルチャーを受け入れる箱になって、表現する人、体験したい人それぞれが、気軽に足を運べるような場になったらいいですね。ここが、居場所になってくれれば」
則松さんは、風のような人だ。好奇心が沸き立つ場所を見つけては、心に羽根をつけて自由に羽ばたいていく。行き着く先で出会った人たちとなにげない会話を楽しんでは、生きるエネルギーを溜め込み、また自分の場所に帰っていく。がんばらなきゃと肩ひじ張ることは極力しない。
取材した日は、通常営業時間より少し早く、17時に閉店するのだという。気になって理由を尋ねてみた。
「大阪のライブハウスに行くんです。ハハハ、私ぜんぜん変わっていないですね」
「本の栞」店主・則松栞が選ぶ ユース世代におすすめの2冊
『中島らも エッセイ・コレクション』中島らも著/小堀純編(ちくま文庫)
中島らもは尼崎市出身。則松さんは『その日の天使』とついたタイトルのエッセイに心底救われたことがあるのだそう。もうあかんわ死ぬし、みたいな極限状態の時、とんでもない友達から電話が掛かってきたり、ふと画集を開いたときに見た一葉の絵にホっとしたり。ちょっとしたことで救われる瞬間がある。ひとりひとりに「その日の天使」がいることを教えてくれて、まだ前を見て生きてみようかなと思えるのだとか。
「名エッセイ『その日の天使』も本作に入っています。毎日がんばっているユース世代に、らもさんの文章はきっと染み入るはず。とても読みやすいので、しんどくなったら心のお守りにしてほしいです」
『常識のない喫茶店』僕のマリ著(柏書房)
実際に喫茶店で働く著者の、毒舌満載の愉快痛快エッセイ。無礼な人や迷惑な人には思いっきり怒っていいし、なんなら“出禁”にしたっていい。20代から30代は、責任が生まれて背負うものも多くなる年齢だからこそ、この本を読んでかわいらしい表紙とのギャップを楽しんでほしい。
「帯の『出禁です』がキャッチーです。刺さります。接客にタブーとされていることばかりしているから、読んでいるとスッキリするんです。あまり日々を重く捉えすぎずに。生活とか仕事とか、これでいいんだって心が軽くなります」
執筆
野内菜々
兵庫県在住ライター。 ジャンルレスで地域のヒト・モノ・コトの魅力を掘り下げるべく、取材・インタビューライターとして活動中。「聞くこと、書くこと」を通じて「誰もが自然体で笑顔で過ごせる世界」を目指す。自然に寄り添う暮らしが好きで、気がつけば草花木、生き物を観察する日々。プライベートは二児の母。きなこが好き。
編集、稀人ハンタースクール主催
川内イオ
1979年生まれ。ジャンルを問わず「世界を明るく照らす稀な人」を追う稀人ハンターとして取材、執筆、編集、イベントなどを行う。
Instagram:
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