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「中華製」のチープさはもはや過去の言葉に

まさに巨艦。白物家電の王者、ハイアールの欧州でのふるまいとは

author: 田中 謙太朗date: 2023/11/02

今年も中国家電メーカーのハイアールの勢いが止まらない。7年連続となる白物家電シェア世界一を達成した同社が今年もIFAの舞台に姿を表した。ハイアール、フーバー、キャンディに加えて高級路線のカサルテと、4ブランドを抱えて3500平米を有する出展スペースは今回のIFAの中でもトップクラスの規模だ。IFA2023から、その王座を確実なものとしつつあるハイアールの欧州での戦略を、ユース世代の現役大学生がレポートする。

白物家電シェア世界一!ハイアールってどんなメーカー?

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7年連続となる世界シェア1位。この功績をほかの業界で例えてみようと思ったのだけれど、案外と見つからない。世界の名だたるメーカーだったとしても、7年連続で首位をキープし続けるというのはそれくらい難しいことなのだ。

今回で2年連続でIFAに訪れたわけだが、恥を承知で正直に話すと、去年までハイアールというメーカーがそこまで巨大なブランドだなんて思ってもみなかった。歴史をたどると10年以上前に破綻したサンヨーの白物家電部門を買収したのがこのハイアールであり、自宅で元気に回るドラム式洗濯機のアクアの製造元だということを知るのは、取材が終わり執筆のためのリサーチの最中のことである。

たしかな技術力と歴史をあわせ持つ日本メーカーの家電に囲まれる環境で育ったため、とくに一般的な価格帯の白物家電では外国産家電を目にすることはほとんどなく、日本市場のガラパゴス性を強く感じたものだった。「ハイアール」というメーカーについて、そんな感覚を読者諸兄と共有しているのではないかと思いつつ、世界の現状をお伝えしたい。

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現在、ハイアールは主要な家電市場において17.0%のシェアを獲得している。前述の通り、これは7年連続の世界シェア1位とその王座を盤石なものにしているのだけれど、同様に7年連続で2位のメーカーとの距離を離し続けているのも驚くべき事実だ。

製品ポートフォリオにおいては、とくに冷蔵庫・冷凍庫、家庭用洗濯機といった定番の家電製品ではそれぞれ冷蔵庫で22.9%、冷凍庫で23.6%、家庭用洗濯機で23.0%と「4つにひとつがハイアール」という広い守備範囲を見せ、メーカーとしての地力が表れる結果となっている。

中国メーカーということもあって、やはりアジア地域においては21.4%でシェア1位と無類の強さを誇り、新たな挑戦を続けるための土台となっている。そして、北アメリカ、ラテンアメリカ、オセアニア、欧州と、主要な地域のマーケットのすべてで5本の指に入るシェアを確保し続けている。

しかし、北アメリカとオセアニアでは2位、ラテンアメリカ地域では3位と、それぞれ2桁パーセント以上のシェアを確保しているのに対して、8.3%と2桁パーセントに届かず、4位に甘んじているのが、IFAの開催されたドイツを含む欧州市場なのだ。

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ハイアールの存在感を語るハイアール欧州CEOのヤニック・フィアラン氏

そういった背景から、ハイアールは欧州市場に対してダイナミックな投資を続けている。椅子が争奪戦になるほどの盛況となったプレスカンファレンスの壇上に立ち、ハイアール欧州最高経営責任者のヤニック・フィアラン氏は次のようにコメントした。

「ハイアールが欧州に投資を始めた10年ほど前、私たちはこの展示会場よりもずっと離れた狭い場所に出展していましたが、今や3500平米の出展スペースを構えられるようになりました。

2015年には5億ユーロ(日本円:約650億円)に満たなかった売上も、2019年には2000億ユーロ(日本円:約30兆円)、2023年には4000億ユーロ(日本円:約60兆円)を予測するまでに成長を遂げています。2018年からの5年間で市場価値は108%向上し、欧州で最も成長する企業のひとつです」

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 椅子が足りなくなるほど盛況だったプレスカンファレンス

フィアラン氏は2019年から本格化した欧州への投資についてコメントした。

「製造フロー全体で3億5000万ユーロ(日本円:約530億円)の生産拠点への投資、3万5000点の新製品のリリース、5億ユーロ(日本円:約650億円)のブランディングへの投資、そして雇用労働者数は倍増しています」

とくに製造フロー全体での投資額については、昨年発表した1億8000万ユーロ(日本円:270億円)と比較すると、この一年間でその投資額はほぼ倍増しており、成長スピードに見合った積極的な投資も同社の成長を支えているといえる。

コネクテッドで「誰よりもユーザーを知る家電」を作り出す

近年の家電製品では、IoTによる機能拡充はもはや標準装備といったところだろう。大別すると、センサーを利用した「自動認識」やアプリケーションによるスマホなどの「リモコン機能の集約と拡充」、そしてそれらのデータを利用した「エネルギー消費の可視化や最適化」などが挙げられる。これらのデータ利用や制御機能のデザインを基にしたサービス設計が各社の掲げるIoTだ。

ハイアールではデータ管理とコンロトロールのためのアプリケーションとして“hOn”をリリースしている。同社のIoT戦略について、フィアラン氏は次のようにコメントした。

「我々が提供するのは製品ではありません。それを通した経験です。それぞれのカスタマーに合った体験を提供するのです。我々はそれをとてもシンプルな方法で実現します。それぞれの市場を理解し、最大限のコネクティビティとAI機能をキッチン、リビング、洗濯室で実現することです。

これまでも言い続けてきたように、我々は誰よりもカスタマーのことを知っています。近い将来には100%のハイアール製品がコネクテッド製品として利用できるようになり、欧州域内でコネクテッド製品における25.9%となる600万以上のユーザーを抱えています。これはつまり、次世代の製品においてカスタマーとのギャップを確実に埋める方法を熟知しており、それこそがメーカー、ブランドとして、より大きな違いを生むことになるのです」

製品利用によって蓄えられたデータの活用によるパーソナライズによって新たな体験価値を提供することを強調した。加えて、2028年までの目標としてコネクテッド製品としてのシェアを2倍、コネクテッドユーザーを3000万人獲得することを目標として掲げた。

白物家電メーカーから総合電機メーカーへ

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ハイアールが真に違いを生むのはIoT製品によって集積したデータの利用にある。現在、ハイアールの主戦場は洗濯機や食洗機、冷蔵庫などの白物家電だが、暖房・換気・空調などのいわゆるHVACシステム(Heating, Ventilation, and Air Conditioningの略)や、ソーラーシステムのメーカーとしての役割も進めている。これにより住環境のデザインに直接的に影響を及ぼすデータの取得や管理が可能になり、エネルギーサプライヤーとの協業を進めることで莫大なデータ集積量を活かしたhOn上でのエネルギーデータ利用の統合を目指すことを明かした。

「我々がやろうとしていることは製品を作るということ以上に、カスタマーの悩みの種となる課題に向けたソリューションの提供です。スマートフォンを想像してください。スマートフォンは毎週、毎月、ソフトウェアの新たなバージョンをダウンロードします。将来的に、洗濯機、食洗機など、家電製品も同じように最適化されたソリューションを提供できるようになります。

最新式の最も効率的なワークサイクルをダウンロードし、利用できるようになることがコネクテッドの大きな利点のひとつです。水消費量や電力消費量をアプリケーションで直接管理することに加え、最大限のコネクティビティを得ることで、製品の状態をモニタリングし、より適切なメンテナンスを施して製品生命をより長く保つことが可能になります」

ハイアールはこれまでの主戦場である白物家電からHVACなどの住環境整備、ソーラーシステムによるエネルギーに関わる事業に踏み込んでいることを明らかにした。これにより、より抽象的な課題である住環境デザインへの直接的なアクセスが可能になったことで「白物家電メーカー」というよりも「総合電機メーカー」としての役割が強くなっていくだろう。

加えて、ソリューションを届けるためのソフトウェアのアップデート機能も重要なポイントだ。これまでハードウェアで定義されてきた家電製品の性能を、ソフトウェアとの両輪で制御する方式へと転換しようとしているということは、今後の家電製品の議論のポイントになるはずだ。

売れ筋の製品を輸出して取引するという形式だけではなく、メーカーとしての強みを活かした上で、より抽象的な課題にアクセスする立場を確保できたのは、やはり生産拠点の整備などのスピーディな投資により商圏ごとの対応力を培った結果である。まさにハイアールにしかアクセスできないポジションへと進もうとしているのだ。

「0.03%の富裕層」を狙うカサルテシリーズ

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これまでのハイアールは幅広い層をターゲットに据えた巧みなブランド設計が特徴的だった。エントリーモデルでありデザインと操作性に優れた「CANDY」、性能への信頼性や充実した機能を利用できる中間モデルの「Hoover」、そしてユニークで発達したテクノロジーやテーラーメイドなデザイン性を掲げた「Haier」など、カスタマー像に合ったブランドポートフォリオを構築することで強固なブランド網を確立し、ライフステージに合わせたカスタマーとの関係性を構築していた。そして、これら3つのブランドに加えて「Casarte」シリーズによるプレミアムブランドとしてのキャラクターを形成しようとしている。

「Casarte」シリーズは、2006年より展開を始めたハイアールのハイエンドブランドだ。“Casarte”というつづりの通り、イタリア語の“La Casa”(家)と“Arte”(芸術)を合わせ、芸術的にデザインされた居住環境こそがカサルテシリーズの目標で、“0.03%の富裕層”のニーズを満たすことをベンチマークとして設立されたブランドだ。

ハイアールの提供するブランド自体、これまでは実用性や住環境へのアクセントとなるデザインを重視したブランドという印象で、重厚なハイエンド向けのブランドとしての性格ではないというのが正直なところだった。

しかし、今年の発表において欧州市場におけるプレミアムブランドのポジションの確保も進める戦略を明らかにしたことで、すでに強固なブランドポートフォリオの拡充を進める方針を示したのである。

いうなれば、ブランドの拡充による縦展開とHVAC製品やエネルギー生産製品による製品幅の拡充による横展開を明らかにしたことが、今回のIFAにおけるハイアールのトピックであるといえるだろう。

“中華製”という言葉に宿るチープさは過去のものに

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近年成長が著しい中国だけれど、2000年代初頭まではまだまだ発展途上にあるというイメージが先行していた。言葉を選ばずに言えば、筆者の世代くらいまでは「パクリ」とか、“ガラの悪い”印象を持つ人も実際にいる。

しかし、家電製品を含めた様々な業界における中国企業の躍進を数字で見れば明らかで、デジタルデバイス産業ではシャオミやファーウェイ、電池産業ではCATLやBYD、自動車産業ではMGブランドとしてのSAICやボルボやロータスを傘下に持つジーリーなど、膨大なシェアを確保できる国内市場を存分に活かした戦略により様々な中国系企業が世界的な企業へと成長している。

ハイアールにおいても、家電製品だけではなく住環境整備に関係するHVACシステムへの進出は大きな決断だ。買い替えや交換を前提とせず、住環境のクオリティに直接関わる空調システムへの参入はしっかりとした技術的土台や家電製品だけではない地域そのものへの高い理解度なしには実現しない。そのため、さまざまな国際的な電機メーカーが参入を計画したものの、高い障壁に苦しんだ歴史がある。

もはや「安かろう、悪かろう」という側面での「中華製」という言葉は意味をなさない時代になった。価値観のアップデートが必要な時期になっているのだ。

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ライター
田中 謙太朗

2001年東京生まれ。早稲田大学在学中。共同通信社主催の学生記者プログラムに参加したことをきっかけに執筆を開始。その後、パナソニックのイベントへの登壇など、記者としての活動と並行して、英自動車雑誌『Octane』の日本版にて翻訳に携わる。主専攻である土木工学に関連したまちづくりやモビリティに加えて、副専攻に関係するサスティナビリティに関する話題など、これからの時代を動かすトピックにアンテナを張る。
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