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ミーレの次の挑戦は、カスタマーを勇気づけること?

IFA2023に行って分かった、ミーレがプレミアム家電ブランドであり続けるワケ

author: 田中 謙太朗date: 2023/11/08

毎年9月に開催される国際家電ショーのIFAに、プレミアム家電ブランドとして世界的にトップレベルの知名度を誇るMiele(以下、ミーレ)が今年も出展した。IFA2023から、サスティナビリティをブランドの柱とする同社の新たなステージへの取り組みをユース世代の現役大学生がレポートする。

今年の展示のテーマは“Miele Open House”、開放的なブースでブランドの価値を体験

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 左から、ミーレ氏、クニール氏、ツィンカン氏

ドイツ製のプレミアム家電ブランド、というとまずはミーレを思い浮かべる。ドイツ国内でもそのポジションは確立されているようで、2015年には“ドイツ人が選ぶドイツを代表する企業ランキング”にて、数々のメーカーを抑えて1位を獲得している。そんなミーレが今年もベルリンにて行われる国際的な家電見本市、IFAに出展した。

昨年と同様に、ミーレのプレスカンファレンスには共同経営者兼代表取締役であるラインハルト・ツィンカン氏とマルクス・ミーレ氏、そしてマーケティングおよびセールス担当取締役のアクセル・クニール氏が並んだ。まずは今年の展示のコンセプトとブランドとしての立ち位置について、ツィンカン氏が口を開いた。

「今回のIFA出展におけるテーマは“Open House”です。開放的な展示空間とともに、高品質でサスティナブルな住環境の体験を提供します。体験を重視したブースデザインを目指すため、3000平米以上の広さのブースにて300以上の家電製品の展示を行い、300人を超える弊社の従業員が皆様を迎えます」と、ツィンカン氏はミーレ・ブランドの柱でもある品質への信頼性とサスティナビリティへの貢献体験の提供をテーマとしたブースデザインのアイデアを発表した。

昨年に引き続き今回のブース展示においてもリサイクル材を利用した設計などの廃棄物削減への取り組みや、物流を考慮した材料選びにより環境へのダメージを最小化している。

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共同経営者のラインハルト・ツィンカン氏

ミーレにおけるサスティナビリティへの意識は出展ブースのためにしつらえたような、いわば年に一度のお祭り用の衣装ではない。ミーレの提供する食洗機のG7000のリニューアル版について、ツィンカン氏は「ミーレ製品における最も典型的な成功の方法」として、高い品質性の担保とより高いエネルギー効率性を突き詰めるスタイルによる製品デザインを紹介した。

2022年の食洗機部門の業績。94万個以上の売り上げは34秒にひとつ売れるペース

食洗機内のバスケットのリデザインにより空間利用率を改善し、ガラス製ストローやボトルなどの特殊な形状の容器を支えるための構造の一部をアタッチメント化している。特殊な形状の容器に加え、大きな食器や小物類の組み合わせが可能になったことでより高効率な空間利用を実現している。

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シーンに合った食洗機バスケットの設定がアタッチメントの着脱により可能になった。また、ガラス製などの再利用可能なストローにも対応できる

バスケットのリデザインというハードウェア面での改善に加えて、G7000にはソフトウェア面での改良も施されている。高いエネルギー効率を実現する従来の「エコプログラム」にも改良が加えられた。

水温45℃でデリケートなガラス製品の洗浄にも適した「ComfortWsh」、ガンコな汚れに対応する水温55℃の「ComfortWash+」は、従来のインテンシブ・プログラム(75℃)の前にオプションとして使用する。

乖離するメーカーとユーザーの意識。“より高いエネルギー効率性”を求める両者のすれ違いは「エコプログラム」に表れた。

「エコプログラム」を通して、ユーザーの実際の生活により近い場所からブランドの柱でもあるサスティナビリティへの貢献の体験を提供しようとするミーレだが、その道のりは険しいようだ。ツィンカン氏に代わって登壇したミーレ氏がハンブルグの市場調査機関の実施した1000人規模のアンケートでの興味深い結果に言及した。

「このアンケートではサスティナビリティに関するユーザーの意識を調査しました。その中で、『消費する電力や水量を節約することに価値を感じる』という答えが86%にのぼる一方、『家電製品を購入する際に、環境性能に気を配っている』との答えは42%、そして『日常的に食洗機や洗濯機のエコプログラムを利用する』と答えたユーザーにいたっては11%にとどまっています」と、家電製品における消費エネルギーの削減というテーマは市場のニーズとして定着しながらも、エネルギー・レーティングAクラスの家電によるエコプログラムの利用という実際の行動にはつながっていない事実を共有した。

「そして、41%の人々は『エネルギーレーティングAクラスの製品を使えばすでに省エネできていると考えるので、エコプログラムはなくても良い』と信じられているのです」と続け、メーカーとユーザーの間にエコプログラムへの認識に対する大きな乖離が起きていることを指摘した。

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消費電力や水量の削減に興味があるユーザーが8割を超えた一方、購入時にそれらの性能を考えるユーザーは4割、日常的にエコプログラムを利用するユーザーは1割程度にとどまる結果となった。ドイツにおける1000人を対象としたユーザーアンケートより

ミーレ氏が言及した調査結果は、ユーザーとメーカーの間のUX設計において大きなすれ違いが発生していることをハッキリと示す形となった。

メーカー側としては、これまでの体験デザインの戦略が理解されていないことを示す結果となったため歯痒い限りだろうが、「サスティナビリティへの貢献体験の提供」をブランドの柱とするミーレが取り組むべき大きな課題のひとつを明確にしたのである。

そして、「ミーレブランドとしてその結果をどう評価し、どのように改善するのか」という質問に対して、ミーレ氏は次のように答えた。

「この調査結果の中で最も興味深い点は、消費エネルギー削減へのユーザーの意識とエコプログラムの利用という行動に繋がっていないということです。サスティナブルなブランドであるという価値を提供するためには我々メーカー側だけの努力ではなく、カスタマーにもそのように製品を利用してもらわなければなりません。

実のところ、ミーレ製品におけるライフサイクル全体のCO2排出量を考えたとき、その84%*を占める量はカスタマーによる利用中に排出されるもの、いわゆるスコープ3の11番のものなのです」

*84%といってもミーレ製品によるCO2排出量が特別多いわけではなく、現在の家電製品のライフサイクルにおけるCO2排出量は8割ほどが使用期間中に排出されている。またミーレ製品は使用期間が長いので、その分CO2排出量が高くなるというわけだ

ミーレ氏は続ける。

「より具体的には、我々はカスタマーに対してエコプログラムを使うように“勇気づける”必要があります。例えば、多くのカスタマーがエコプログラムの稼働時間の長さ(食洗機のG7000シリーズのConfortWashの場合、4時間)について懸念を口にします。しかし、稼働時間が長いプログラムとは、すなわちよりエネルギーや水を使うものではないのです」と、エコプログラムへの正しい理解を促す施策の必要性を語った。

そしてその施策こそ、クニール氏によって発表されたミーレ製品とユーザーを繋ぐデジタルの架け橋である。

省エネが「楽しく」なる、ミーレ流のサスティナビリティへのUXデザイン

ミーレ氏に代わってクニール氏が壇上に上がった。

「ミーレがサスティナビリティを柱とするプレミアムブランドであるように、プレミアムブランドを定義するものは製品性能そのものやクオリティ、ブランドの品格だけではありません。より核心に迫った価値として製品への信頼性や生活との調和性によっても定義されるものです。

そして、カスタマーの価値観が変わるごとにプレミアムブランドの定義も変化しています。現代の人々が価値を置くこととは“見せびらかすことなく自分の所有物を誇る”こと、つまり(本質的な価値を追求する)ミニマリズムこそが新たなモノへの価値観なのです」と、カスタマー像の価値観の変化を指摘した。

モノの本質的な価値を追求するミニマリズムをミーレ・ブランドに対して考えるとき、それは製品や性能そのものだけではなく、ミーレブランドから得られる体験であり、ブランドから得られる体験を重視する価値観こそが現在のカスタマー像の価値観なのである。

クニール氏はそのような価値観の変化によりブランドとカスタマーの間の関係性も変わり、製品利用の体験をこれまでよりも重要視するようになっている、と付け加えた。

「ミーレはデジタルプロダクトをより重要なタッチポイントとして活用することで、ユーザー体験の満足度を向上させて明確な違いを作り出します」と続ける。ここでクニール氏の紹介した機能こそ、メーカーとカスタマーを繋げるデジタルの架け橋、“Miele App”に搭載されたエネルギー使用量の管理機能である “Consumption Dashboard”(訳:消費量ダッシュボード)だ。

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“Consumption Dashboard”について説明するクニール氏

“Consumption Dashboard”はミーレが提供するアプリケーションに搭載された機能のひとつだ。電気使用量や水消費量などのエネルギー量の利用傾向をまとめた上で、具体的な解決策を提示する。

また、日々の結果から月ごとにレポートが作成され、データベースとして全世界のミーレ・ユーザーの平均値と比べることで、消費エネルギー削減に向けて少しずつチャレンジする機会を提供する。本来、エネルギー消費量の削減に向けては自分の使用している製品の情報のみで事足りるはずだ。

世界中のユーザーと比較する機能を実装した理由について、クニール氏は「(消費エネルギー削減へのアクションを)楽しむことができるようになるからです。ミーレの製品を最もエコ・フレンドリーな方法、エコプログラムを利用することを楽しみ、意義を感じてほしいと考えています」とコメントしている。

「消費エネルギー削減へのユーザーの意識とその行動に違いが生じているという点について、ミーレブランドとしてどのように評価し、どのように改善するのか」という前述の質問に対しても、次のように答えてくれた。

「『なぜやらないか』を考えるとき、まず最初に考えるべきことは『そもそも選択肢を知らない可能性がある』という単純な理由です。

Consumption Dashboardは上から“教える”ような感覚ではなく、より楽しく新たな選択肢を学ぶ機会を提供できるようになります。私たちが望んでいることは、多くのカスタマーがエコプログラムに対する彼らの振る舞いを変えることに対して自信を持ってくれるようになることです」

ミーレの提供するアプリケーションでは、Consumption Dashboardによる消費エネルギーの可視化のほかにも、『AI Diagnostics』(日本語訳:AI診断)による家電製品に問題が生じた際の自動診断サービスと、それを用いたテクニカルサポートチームへのレポーティングなどによるカスタマーサービスの強化が挙げられた。

デジタルが当たり前で育ったユース世代として感じたこと

ミーレ氏とクニール氏の回答を聞きながら「考えてみると、エコプログラムやらコネクテッドというものに対して、あまり珍しいとは感じないな」とふと思っていた。コネクテッドやIoTなどといったものに対して、よくいえば成熟しており、あえて悪くいえば予想の内側にあるものが段々と実現しているような気持ちがどうしてもあるのかもしれない。

実のところ、日本の家電を含めた電機メーカーの業界団体の日本電機工業会によると、今回挙げたミーレの家電のコネクテッド化は2000年代から始まったそうだ。象印マホービンがiポット(ポットであってポッド、ではない)による『みまもりほっとらいん』という高齢者向けの利用記録の送受信サービスを2001年に開始したことがアイコニックなサービスとして紹介されている。スマホへのコントロール機能の集約などの現行の標準的な機能の登場は各社でバラツキはあるものの、2010年代前半のことである。

『みまもりほっとらいん』と同い年の筆者としては、IoTやらコネクテッドという話題に対して鮮烈な目新しさがないというのは当然のことで、家電製品のそういった機能が育つとともに家電を使うようになった世代に生きている。いつの間にかオーブンや洗濯機にはディスプレイがついてモードが選べるようになったし、あらゆるコントローラーが気付けばスマホに集約されていた。

これから10年、20年ほど後に、彼らの顧客になる世代の一人としては、「新しい! すごい!」という感覚は、特にデジタル化においてはその成熟とともに薄れてきている。「デジタルに慣れないオジサンの困惑」は確かに存在するけれど、「デジタルに慣れすぎた若者の哀愁」も同時に存在しているのだ。そんな彼らにとっては「デジタル化をして、何を体験するのか?」という問いのほうがよっぽど大切で、それこそがブランドや製品の価値を定義づけている。

ミーレ氏とクニール氏の言葉を借りるならば、ミーレにおけるデジタルは“勇気づける”ためのソリューションのひとつとして、メーカーとユーザーが相互にコミュニケーションをとる機会として設計されている。10年後、20年後のポテンシャル・カスタマーのために、そのデジタルへの設計思想はブランドを助けると思うから是非とも大切にしてほしい、と極東から海を越えてお伝えしたいところである。

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洗濯機の場合の「AI Diagnostics」の実例。絵を用いた解説により、問題を解決する手助けをしてくれる

また、キッチンシーンでもミーレのデジタルコンテンツを活用するべきだ。「Smart Food ID」による内蔵カメラと事前に設定されたレシピを基にしたオーブンの庫内温度や調理時間の自動設定に加えて、非常に成熟した要求にも応えようとしている。

例えば、ゲストが来たときに料理を振る舞うことを考えよう。ミーレの提供するオーブンはスチーム調理とオーブン調理という一般的な調理方法に加えて、それらふたつを同時に用いるコンビネーションモードがある。つまり、一段目ではオーブン機能を用いてメインディッシュを調理して、二段目ではスチーム機能を用いて付け合わせを調理する、という機能がある。

従来、そのふたつの調理を完璧なタイミングで完了させることは至難の技で、料理をする前にそれなりの準備が必要になっていたのだけれど、「MealSync」という機能を用いることで完了目標の時間から逆算して、調理の工程の指示やスチーム・オーブン機能の開始時間を自動設定することができる。これにより、付け合わせができる頃にはメインディッシュが冷めていた、なんていう悲劇に見舞われることなくより良い料理体験をデザインできるというわけだ。

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新たな価値を創り出す実行力こそ、ミーレブランドの真の強み

昨年のIFAでのミーレの発表と比較して、サスティナビリティに関してはより難しい領域に踏み込んだ印象だ。昨年は工場やロジスティクスに関する取り組み、いわゆるスコープ1とスコープ2についての話題を多く挙げ、メーカー側としての取り組みについて触れることが多かった。しかし、今年は製品におけるより高効率な機能の実装やユーザーに対してどのようにサスティナビリティへの貢献体験を与えていくかという、一歩先のことが最も重視されていたのである。

サスティナビリティをブランドの柱として掲げるミーレは、理念の追求、メーカーによる努力、そして次はユーザーへの新たな価値観の創出と、着実に進化を遂げている。売上や見た目ではわからない、プレミアムブランドを定義する新たな価値を生み出そうという強い意気込みと実践的姿勢こそがミーレの本当の強みなのだ。

※同記事内の機能については、日本導入未定のものが含まれます。

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ライター
田中 謙太朗

2001年東京生まれ。早稲田大学在学中。共同通信社主催の学生記者プログラムに参加したことをきっかけに執筆を開始。その後、パナソニックのイベントへの登壇など、記者としての活動と並行して、英自動車雑誌『Octane』の日本版にて翻訳に携わる。主専攻である土木工学に関連したまちづくりやモビリティに加えて、副専攻に関係するサスティナビリティに関する話題など、これからの時代を動かすトピックにアンテナを張る。
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