新宿2丁目発の本格派DIVAユニット・八方不美人のメンバーとしても活動する、ドラァグクイーン歴30年のエスムラルダさん。性教育パフォーマー、セックス活動家としても活動する、歴5年目のLabianna Joroe(以下、ラビアナ・ジョロー)さん。そんなお2人に、華やかなドラァグクイーンの世界の変遷や、ドラァグクイーンを取り巻く社会の動きについて、ざっくばらんに語っていただいた。それぞれにとって、ドラァグクイーンとしての活動はどのような意味を持つのだろうか。
エスムラルダ
1972年3月13日生まれ。1994年よりドラァグクイーンとして各種イベント、メディア、舞台公演等に出演し、講演活動も行っている。2002年、東京都の「ヘブンアーティスト」ライセンスを取得。
2018年にはドラァグクイーン・ディーヴァ・ユニット「八方不美人」のメンバーとして歌手デビュー。
また、ライターとして書籍やコラム連載、ドラマ・舞台等の脚本を手掛け、東宝ミュージカル『プリシラ』(宮本亜門演出)の翻訳も担当。近著に『話しやすい人になれば人生が変わる』(アルファポリス)。
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Labianna Joroe
ブラジルがルーツの性教育パフォーマー、ドラァグクイーン。
自分のセクシュアリティやジェンダーに悩んだ際に出会った性教育と、
ジェンダー規範で遊ぶドラァグのアートを組み合わせた異色の存在。
他にもトークショーやMC、執筆、翻訳家としても活躍する。
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@labiannajoroe
“らしさ”を笑い飛ばすのがドラァグクイーン
(左)Labianna Joroe、(右)エスムラルダ
─そもそもお二人は、どんなきっかけでドラァグクイーンの活動を始めたのでしょうか?
私は1994年に活動を始めました。当時、女装パフォーマーのブルボンヌさんが、セクシュアルマイノリティのためのパソコン通信「UC-GALOP」というのをやっていたんです。そのパソコン通信のオフ会パーティーを、新宿2丁目に初めてできたクラブ「Delight」でやろうという話になって。
ル・ポールさんのヒット曲『Supermodel (You Better Work)』のMVを観て、ブルボンヌさんが「みんなでこういうのやろうよ」と誘ってくれて、ドレスアップしたのが最初かな。だからちょうど来年、デビューして30年になります。ラビアナちゃんは「ル・ポールのドラァグ・レース(※)」世代?
私は2018年にデビューしたんですけど、当時はまだ「ル・ポールのドラァグ・レース」は観たことがありませんでした。ドラァグクイーンを初めて観たのも2015年か2016年くらいのことです。まだ大学生だった頃に京都に遊びに行って、「Diamonds Are Forever」というショーを観ました。
レジェンドのショーね。
そう、伝説的な。当時はまさか自分がドラァグクイーンをやるなんて思っていませんでした。でもそのあと、2017年のハロウィンの時に友達に「ドレスアップしようぜ」と誘われて、やってみたらすごく楽しくて。2018年に、名古屋で毎月やっている「Metro Club Nagoya」というインターナショナル・クィアパーティーで本格的にデビューさせていただきました。
(※)「ル・ポールのドラァグ・レース」:アメリカ合衆国のリアリティ番組。LGBTQ+向けのテレビチャンネル・ロゴテレビにて放送されている他、Netflixなどの配信サービスでも視聴できる。
─そんなお二人が考える「ドラァグクイーンの定義」とは、どんなものでしょうか?
私がドラァグクイーンを始めた頃に学んだ基本的な定義としては、まず派手なメイク。目は1.5倍〜2倍ぐらいにして、口紅もオーバー気味に引く。そして、ドラァグクイーンの「ドラァグ」には引きずるという意味があるので、裾を引きずるようなゴージャスな衣装を着る。それでクラブなどでパフォーマンスをする存在かな。
そうですよね。私も同じようなイメージで、誇張された“女性性”などを、メイクや衣装で表現するパフォーマーと認識しています。
ドラァグクイーンのカルチャーの根底には、「“らしさ”を自由に遊ぶ」という精神があると叩き込まれてきました。例えばメイクは“女性らしさ”の象徴とされているけれど、女性の中にも色々な人がいて、メイクすることに疑問を持っている方もいるし、逆にメイクするのが大好きだという方もいる。
誇張したメイクをすることで、その“らしさ”のナンセンスな部分を笑い飛ばす。“らしさ”というものを絶対的な正解とするのではなくて「必要以上に他人に“らしさ”を押し付けるのをやめようね」とか、「自分が“らしさ”に縛られて不自由になるのは勿体無いよ」というメッセージを発信していく存在なのかなと思っています。
私もすごく似た意見です。エクストリームな“女性らしさ”とか“男性らしさ”があるけれど、それは社会が決めているもの。それを「誇張して遊ぶ」ということをやっているんですよね。
ドラァグクイーンでも髭を生やしたままとか、すごいマッチョの方もいるもんね。
私もそうです。
(胸毛を見せながら)
確かに! “男らしさ”も“女らしさ”も両方とも遊んでるんだよね。だけど、私たちがセクシュアルマイノリティのイベントで司会をしたり、発信したりする機会が増えると、非難されることもあるよね。ドラァグクイーンばかりがフィーチャーされると「LGBTQ+全体がこんな感じだというイメージを持たれかねない」という意見もあって。悩む部分ではあるけれど、こういう格好だからこそ見てくれる人や伝わることもあるから、やる意味はあるのかなと思って続けてる。
そうですね。でも、私たちは「ドラァグクイーン=LGBTQ+」だなんて思っていないし、そういうイメージをつけようとも思っていません。
ドラァグメイクの情報源は雑誌からYouTubeへ
─派手なメイクをドラァグクイーンの定義のひとつとして挙げられていましたが、お二人はどんな風にドラァグクイーンの装いを学びましたか?
ラビアナちゃんは何で学んだ?
メイクはYouTubeですね。
時代(笑)! 私は、マーガレットさんやhossyがゲイ雑誌に書いていた、ドラァグクイーンメイクの仕方を参考にしていました。そのあとの世代になると、好きなクイーンの写真を引き伸ばして、それを参考にするっていう人もいたな。さらにそのあとになると、YouTubeで学ぶようになって。変遷があるんだね。
YouTubeでドラァグクイーンがメイクしているのを観て、メイクから入るっていう方は増えていますね。私も、ドラァグクイーンを始める前から、メイクにとても興味があって。友達に誘ってもらって勇気を出して、ドン・キホーテで大量に化粧品を買って2か月間くらい練習しました。
─YouTubeのお話が出ましたが、SNSの普及によってドラァグクイーンの方の活動を目にする機会も増えている印象です。パフォーマンスを観に来るお客さんの層や反応に変化はありますか?
コロナ禍でクラブイベントができなくなったとき、YouTubeに力を入れるドラァグクイーンは結構増えましたよね。
オンラインパフォーマンスも割とありましたね。エスムラルダさんの感覚だと、昔のゲイバーとかゲイクラブのイベントってゲイのお客さんがほとんどでしたか?
うん。私が出たイベントは割とそうでしたね。
そうですよね。でも今は、2丁目でドラァグクイーンが出演してるイベントって、女の子のお客さんもすごく多いですよね。
確かにSNSとかYouTubeがきっかけで、今まであまり見なかった女性のお客さんが増えているのは感じます。あと、これはSNSが関係するかわからないけど、八方不美人を組んでから、ライブとかは女性のお客さんが多いんですよ。
私もオンライン上で「ファンです」と言ってくれる方は女性が多いなと思います。なぜ女性のお客さんたちがドラァグクイーンに魅了されるのかずっと考えていて……。男性からドラァグクイーンに変身するというファンタジーに惹かれるのかなって。あと、渋谷とか六本木より2丁目のクラブの方が安心して楽しめるという方もいます。
もしかしたら、何かご自身の心の内にあるものを投影されてるのかもしれないね。ただね、ひとつ思うのは、よく「メイク参考にします」っておっしゃる方がいるけど、(大げさなメイクだから)参考にしちゃだめ(笑)。
参考にしない方がいいですね(笑)。
あと私達は別に、女性の気持ちと男性の気持ちの両方がわかるわけじゃないんです。
「どっちの気持ちもわかるんでしょ?」と求められること、結構ありますよね。いやいやいや、自分の気持ちしかわからないですって思っちゃいます(笑)。
自分の気持ちさえわからないときだってある(笑)。あくまでも私達は、自分の気持ちをベースに、想像して相談に乗ることはできるけれど、みんなの気持ちがわかるわけではないですね。
「世代が違うから受け入れられない」は本当?
─お二人は活動してきた時代に違いがありますが、世間からの目線や捉えられ方に違いや変化は感じますか?
少なくとも私が認知している世界では、最初から好意的な眼差しで見てくれる方が多かったです。まあ、ドラァグクイーンを観にくる人は好きで観に来てくれるから。
でも、どちらかというと問題は今ですよね。本当だったら「昔に比べたらずいぶん寛容になって」とかって言いたいんだけど……。
そうなんです。問題は今ですよね。
海外でも日本でもちょっと風当たりが強くなっていて、いろんなヘイトの延長線上で、ドラァグクイーンにも攻撃の矢が向いている感じがします。例えば、ドラァグクイーンは「女性差別」「女性蔑視」だとかね。でもさっきも言った通り、ドラァグクイーンのメイクは女性を馬鹿にしているのではなく、社会が“女性らしさ”の象徴としていることをパロディ化しているんですよね。そしてそこには、“女性らしい”とされているものに憧れる気持ちもある。繰り返しになりますが、「“らしさ”なんて必要ない」と全否定するのではなく、「“らしさ”に縛られたり他人に押し付けたりする必要はないけど、楽しめる部分があれば楽しんでもいいんじゃない?」というスタンスだと私は思っています。
“男らしさ”や“女らしさ”で真面目に遊んでいるんですよね。私は、ドラァグクイーンの認知は高まってきたけれど、どうしても「お前らはこの枠に留まっておけ」と言われているような感覚があります。ドラァグクイーンが今までやってこなかったコスメやファッション分野のコンテンツとか、エスムラルダさんがやられているような子どもへの読み聞かせの活動とかに入っていくと、なんだか非難のターゲットにされやすいような。
「ドラァグクイーンは夜の世界の生き物で性的なパフォーマンスをするものだ」みたいなイメージはあるよね。たしかにクラブイベントでの仕事も多いけど、それだけじゃない。ショーの内容も、TPOに応じて変えているクイーンがほとんどです。一部の人からだけど、偏った知識や誇張された情報をもとに攻撃されている感じはします。とはいえ、ちゃんと理解してくれている人数も少しずつ増えてはいますね。
─2023年6月には「LGBT理解増進法(正式名称:性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律)」の可決もありましたが、率直にどう思われましたか?
私はこれまでの経緯をいろんな人から聞いて知っているので複雑な気持ちで、一概に「私はこう思います」って言い切れない部分があるかな。当事者の中でも「当事者にとっては何も良いところがない」という見方をする人もいれば、「法律が成立しただけでも一歩前進なのでは」という捉え方をする人もいるよね。
LGBTQ+といっても、いろんな考え方の人がいるので、一概にこれが良い・悪いとは言えないですよね。
この法律ができたことによって何が変わるのかずっと考えているんですけど、個人的にはやっぱり教育とセットで動くべきだと思っています。日本では人権に関する教育が全然されていないので、この法律をどのように受け取ればいいのかわからない人が多いと思うんです。名前だけ見るととても良い法律のように見えるけれど「本当にそうなのか?」と、もう少し考えられる力をつけるためには教育が必要なのかなって。
そうですね。子どものうちから「世の中には色々な人がいる」という情報をちゃんと与えることは大事だと思います。ただ、私としては子どもよりも大人の教育が大事なんじゃないかなと思うんですよね。
めちゃくちゃ大事ですよね。
子どもって親の価値観とか、周りの大人の価値観にすごく左右されるので。例えば、子どもが「自分が好きな対象が異性じゃない」とか、「人と違う部分が自分のなかにある」って知ったときに、やっぱり相談しやすい親御さんであってほしいと思うし、親御さんでなくても周りの大人で相談できる人がいたら、それだけでだいぶ変わると思います。
よく「世代が違うから理解にギャップがある」と言われるけれど、学び直すのは無理なことじゃないと思うんです。私の叔母はレズビアンなのですが、亡くなった私のおばあちゃんは叔母に対して「何もおかしくない。娘として愛している」と言っていて。だから、世代が違うから受け入れられないっていうのは通用しないと思っています。
広がるドラァグクイーンの活動の場
─ドラァグクイーンとして、活動の幅を広げ続けているお二人ですが、最後に今後の目標を教えてください。
エスムラルダさんは色々やってきて、履歴書が長いですよね(笑)。逆にやっていないことってありますか?
歌もお芝居もMCもライターもやって、あとは何でしょう……。ラビアナちゃんは何かやってみたいことある?
実は「TED Talks」に出たいなと昔から思っています。あとは大学の講義を持ちたいなとか、そういった目標はありますね。
いいじゃない。ラビアナちゃんなら、TEDに出演できそうな気がする。
あ、私やりたいこと2つある! ひとつ目は、日本のドラァグクイーンのショーって、あんまり海外にないタイプのものがあるから、その面白さを海外にも伝えたい。もうひとつは「ドラァグクイーンが主人公のお話」を自分の手で作りたい。やっぱり当事者が作るのってまた違うじゃない?
全然違うと思います。「ドラァグクイーンによるドラァグクイーンのためのドラァグクイーンの話」を、ぜひ!
ドラァグクイーンを神格化するんじゃなくて、ドラァグクイーン当事者が見て、違和感を覚えないものを作りたいな。
キャスティングの際はぜひ、お待ちしております(笑)。
はい。頑張ります(笑)。
Text:白鳥菜都
Photo:西 優紀美
Edit:那須凪瑳
Video:Shinji Arai