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メゾン267年の歴史をひもとく

洗練されたジュネーブを体現し続ける「ヴァシュロン・コンスタンタン」

author: 渋谷ヤスヒトdate: 2023/07/03

3月27日から4月2日まで、ジュネーブの国際見本市会場で開催された世界最高峰&唯一無二の時計フェア「ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ 2023」。1755年にジュネーブで創業した、この地でもっとも長い歴史を持つヴァシュロン・コンスタンタン。その注目の新作は? またヴァシュロン・コンスタンタンはどんなブランドなのか。1990年代からこのブランドを取材してきた時計ジャーナリスト・渋谷ヤスヒトが解説する。

スイス時計発祥の地を代表する老舗時計ブランド

どんなに取材を続けていても毎年、必ず新しい発見がある。めくっていると、1ページごとに見逃せないことが見つかって、その素晴らしさに感動して先に進めなくなる分厚い本のように、とにかく奥が深い。知れば知るほど素晴らしさがわかる。「ヴァシュロン・コンスタンタン」とは、お世辞抜きでそんな時計ブランドだ。

創業の地とされるジュネーブの旧市街ケ・ド・リルにあった旧ブティック(2008年撮影)©Yasuhito Shibuya 2023

ジュネーブはスイス時計発祥の地だ。その主役になったのは、16世紀から17世紀にフランスから宗教的迫害を逃れて逃げてきたプロテスタント(新教徒)たち。彼らは知的レベルが高い人々で、その中には当時最先端の技術者だった時計師たちもいた。ジュネーブに時計師組合が設立されたのは1601年。ジュネーブはこの時代、ヨーロッパ最先端の学術都市だったのだ。

現在、ジュネーブのブティックは旧市街、ローヌ通りに面したロンジュマルにある。
こちらはジュネーブ郊外、プラン・レ・ワットの本社兼工場にあるアトリエ。
こちらはジュウ渓谷にあるアトリエ。マルタ十字型のトゥールビヨンの面取り作業が手作業で行われている。

そしてこの街で今から267 年前の1755年、当時24歳の時計師・ジャン=マルク・ヴァシュロンが時計師を雇ってスタートさせた工房こそ、名門ヴァシュロン・コンスタンタンの始まり。以来、今日まで途絶えることなく最高峰の時計作りを続けてきた。

たとえば機械式時計の最高峰である「複雑時計(コンプリケーションウォッチ)」の世界で同社は、間違いなく世界最高峰のメゾンのひとつだ。ブランド創業260周年にあたる2015年には現在、57もの複雑機構を備えた世界で最も複雑な懐中時計「リファレンス57260」を発表している。

リファレンス57260

さらに2017年には23もの複雑機構を備えた「レ・キャビノティエ・セレスティア・アストロノミカル・グランド・コンプリケーション 3600」を世に送り出した。そして今年も11種類もの複雑機構を備えた「レ・キャビノティエ・デュアルムーン - グランド・コンプリケーション」を発表している。

2023年発表の天文複雑時計の最新作「レ・キャビノティエ・デュアルムーン・グランド・コンプリケーション」

2023年、注目の新作はレトログラードモデル

まずは今年、もっとも注目したい新作をご紹介しよう。それはラグジュアリースポーツウォッチの「オーヴァーシーズ」、そしてシンプルなドレスウォッチの「パトリモニー」。上記コレクションに登場した「レトログラード式表示機構」を備えたふたつのモデルだ。

レトログラード式の表示は1930年代のポケットウォッチの時代から、ヴァシュロン・コンスタンタンが得意とし、そのアイコンのひとつともいえるメカニズム。時分針とはまた違った動きとスピードで、時の移ろいを感じさせてくれる。

まず「オーヴァーシーズ・ムーンフェイズ・レトログラード・デイト」は、海の青を彷彿させる美しい半透明のブルーラッカー文字盤が印象的な新作時計。このコレクションでは初めて、文字盤の12時位置にレトログラード式のデイト表示を搭載している。

日付を指す針が日を重ねるごとに右に動いていく。そして月末の深夜0時ちょうどに、針が左の1日の位置に一瞬で戻り、再びまた日を重ねるごとに右に動く仕組みだ。

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「オーヴァーシーズ・ムーンフェイズ・レトログラード・デイト」/SSケース&ブレスレット(交換用のカーフスキンレザー、ラバーストラップ付属)、ケース径41㎜、ケース厚10.48㎜、自動巻き、このモデルのために開発されたパワーリザーブ約40時間のCal.2460 R31L/2を搭載。5気圧防水。ブティック限定。価格629万2000円(予価)。夏以降発売予定。

一方、6時位置には、表示誤差が約122年間に1日という高精度を誇るムーンフェイズ(月齢表示)が搭載されている。ディスクのみで視覚的に満ち欠けを知らせる一般的なものとは違い、今の月が約29日という周期のどこにあるのかを数字のインジケーターで読み取れる仕様にしてあるのが面白い。

またブレスレットに加えてカーフスキンレザー、ラバーと2種類のストラップが付属し、ワンタッチで交換できるのもこのモデルの魅力。レトログラード式表示が加わったことで、これまでのオーヴァーシーズよりもエレガントな雰囲気が魅力だ。

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そしてもうひとつの、レトログラード式表示機構を備えた新作が「パトリモニー・レトログラード・デイ/デイト」。こちらはメゾンの中でも最もシンプル&ミニマムで優雅なデザインのコレクション「パトリモニー」のプレミアムなプラチナケースモデル。

文字盤上の12時位置にオーヴァーシーズの新作と同様にレトログラード式の日付表示が、さらに6時位置にもレトログラード式の曜日表示が搭載されているエレガントな薄型ウォッチ。

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「パトリモニー・レトログラード・デイ/デイト」/プラチナケース、アリゲーターレザーストラップ、ケース径42.5㎜、ケース厚9.7㎜、自動巻き、パワーリザーブ約40時間のCal.2460 R31R7/3を搭載。3気圧防水。2023年限定生産モデル。ブティック限定。価格888万8000円(予価)。夏以降発売予定。

ケースはシースルーバックで、メゾンのアイコン「マルタ十字」をモチーフにした22Kのゴールド製ローターを備え、職人によるジュネーブ伝統の装飾仕上げが施された「ジュネーブ・シール」を取得したメゾン自慢の美しいムーブメントをいつでも鑑賞することができる。「これぞヴァシュロン・コンスタンタン」という1本だ。

加えて注目したい新作が、実はもうひとつ。それは「オーヴァーシーズ・オートマティック」の直径35mm、直径34.5 mmサイズ。35 mmサイズのモデルはベゼルにダイヤモンドがセットされている一方、34.5 mmサイズにはない。どちらも男女を問わず楽しめる、今もっとも旬なケースサイズ。控えめな印象のラグジュアリースポーツウォッチを探している人にオススメしたい。

ヴァシュロン・コンスタンタンに「秘められた粋」

ところで、ヴァシュロン・コンスタンタンとはどんな時計メゾンなのか。それは世界で最も「粋な時計」をつくるメゾンだ。

「粋」というのはなかなか奥深い言葉で、さっぱりしていて、都会的で、趣味が良くて、色気があるなど、複雑な意味があるが、ヴァシュロン・コンスタンタンの時計はどれも、この言葉を体現したものになっている。

しかも心憎いのは、その「粋」なところが、ひと目でわかるレベルではないこと。モノづくり、特に伝統工芸品には、製作過程についてよく知らないと見逃してしまう、それを作る職人に教えてもらえないとわからない、この「粋」を作り出す部分がある。

そしてこの「秘められた粋」が、分かる人にはわかる特別な魅力、ヴァシュロン・コンスタンタンの時計にしか感じられない独特の“色気”の源泉になっている。

たとえばそんな「秘められた粋」のひとつが、繊細な針のかたち。文字盤とケースとのサイズバランスも考えて生まれたアワーマーカーの形状や長さ。文字盤や針、風防に付けられた絶妙なカーブ。ヴァシュロン・コンスタンタンの時計が放つ“色気”は、こうした要素を完璧に調和させることで生まれるのだろう。

「トラディショナル」コレクションのドーフィン型の針は、片側がポリッシュ、片側がサテン仕上げ。インデックスの長さも考え抜かれたもの。こだわりのディテールから独特の“色気”が生まれる。©Yasuhito Shibuya 2023

ただし、ヴァシュロン・コンスタンタンの時計はこうした魅力を声高に主張することはない。最高峰の時計師や職人から生まれた圧巻のメカニズムや、華麗で芸術的な装飾が施されたモデルにも、「これでどうだ!」という類の「押しの強さ」はない。そこには主張が強過ぎる、出しゃばることは「粋ではない」というメゾンの哲学があるからだ。

世界で最も「アートな時計」

またヴァシュロン・コンスタンタンは、「芸術的な時計」を作る、「アートと最も親密な関係にある」時計メゾンのひとつだ。メゾンは2019年から、フランスのルーヴル美術館とパートナーシップを締結。その偉大な芸術、文化遺産を保護し未来に継承することに全面的に協力している。

パリのルーヴル美術館のトリアノン広場。絵画だけでも7500点を超えるその収蔵展示品はどれも世界最高峰の芸術作品であり世界遺産。美術芸術の愛好家にとって、ルーヴルは世界で最も魅力的な美術館のひとつだ。

そしてこのパートナーシップを象徴するのが、ルーヴル美術館連帯プロジェクトの一環として2020年に開催されたオークション「Bid for the Louvre(ルーヴル美術館への入札)」への参加。落札した購入者が選んだルーヴル美術館所蔵の作品を、ダイヤルにエナメルで再現し製作されたユニークピース「レ・キャビノティエ - ピーテル・パウル・ルーベンス『アンギアーリの戦い』へのオマージュ」である。

ルーヴル美術館とのパートナーシップにより、両者のコラボレーションはさらに拡大し、“A masterpiece on your wrist 「あなたの腕に傑作を」”と銘打った新しい「レ・キャビノティエ」の提案へと発展し、顧客はルーヴル美術館が所蔵する芸術作品を1点選び、その作品をダイヤル上に、ヴァシュロン・コンスタンタンが誇る職人たちがエナメルで再現したユニークピースを制作できるようになる。

しかもヴァシュロン・コンスタンタンは売上げの全額を、ルーヴル美術館の「Le Studio(ル・ストゥディオ) 」に寄付している。このル・ストゥディオは世界のあらゆる人々に解放され、美術館と収蔵品に親しんでもらうことを目指し、さまざまな造形芸術の技法を紹介する活動なども積極的に行っている。

「レ・キャビノティエ - ピーテル・パウル・ルーベンス『アンギアーリの戦い』へのオマージュ(La lutte pour l'étendard de la Bataille d'Anghiari)」の落札者は、ルーヴル美術館の学芸員やヴァシュロン・コンスタンタンの熟練職人たちとの打合せのために美術館やマニュファクチュールをプライベートで訪問するなど、さまざまな体験をしたという。

ヴァシュロン・コンスタンタンが誇る最高峰のエナメル職人によって、ルーべンスの傑作が文字盤上に見事に再現されていく。

ルーヴル美術館とヴァシュロン・コンスタンタンの前代未聞のパートナーシップから実現したこのプログラムは今後も継続することを今年春、宣言した。ルーヴル美術館の愛してやまないあの傑作を、文字盤に再現した世界唯一無二の時計を手にすることができる。こんなコラボレーションを実現しているのは世界でもヴァシュロン・コンスタンタンだけだ。

完成した「レ・キャビノティエ - ピーテル・パウル・ルーベンス『アンギアーリの戦い』(La lutte pour l'étendard de la Bataille d'Anghiari )へのオマージュ」。

コノサー(目利き)のための時計

このように昔からヴァシュロン・コンスタンタンの顧客は、控え目だが実は奥が深く、眺めるほどに使い込むほどに感じることができる、「秘められた粋」や「歴史的なアート作品」の目利きができる「コノサー(connoisseur※フランス語。英語でも使われる。日本語では『目利き』と訳される)」の人々だ。

古くは世界中の王侯貴族。そして大成功を収めた伝説の企業家、何世紀も続く名家の人たち、そして世界的な時計コレクターたち。彼らは“本当のセレブリティ”であり、ヴァシュロン・コンスタンタンはそんな彼らに愛されてきたブランドなのである。

あなたがこうしたブランドの世界に共感できる、魅力を感じるなら、ヴァシュロン・コンスタンタンの時計をぜひ手に入れることをオススメしたい。

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時計&モノジャーナリスト・編集者・エッセイスト
渋谷ヤスヒト

文芸編集者、モノ情報誌&時計専門誌の編集者を経てフリーランスに。1995年から時計専門誌の編集者としてスイス2大時計フェアやスイス、ドイツ、日本国内の時計ブランドの現地取材を続ける。時計に加えてスマートウォッチ、スマートフォン、カメラ、家電、クルマ、食品、医療、自動車レースまであらゆる情報をカバーする。時計専門誌やウエブ媒体に特集記事や愛用品のエッセイも連載中。趣味は取材とコンテンツ視聴と料理。
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