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価格をはるかに超えた機能と絶妙なレトロデザイン

他の時計ブランドには到達できない異次元の魅力 新生「チューダー」の独走

author: 渋谷ヤスヒトdate: 2023/08/10

2023年3月27日から4月2日まで、ジュネーブの国際見本市会場で開催された世界最高峰&唯一無二の時計フェア「ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ2023(WWG2023)」で、いくつもの魅力的な新作を発表した「チューダー」。その新作からわかる、時計業界でいま最も注目されている時計メゾンの製品戦略、未来とは? 1995年以来、取材を続ける時計ジャーナリスト・渋谷ヤスヒトがその戦略と未来を分析する。


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Watches and Wonders Geneva 2023のチューダーブース©Yasuhito Shibuya 2023

チューダーは、強力な背景を持つ「新ブランド」

TUDOR(チューダー)は、2018年10月31日から日本で正式に販売が始まった時計ブランド。かつて「チュードル」という名前で並行輸入品として流通したこともあるが、いまや知る人はごくわずか。

実は現在のチューダーは、生まれ変わった「新生チューダー」と呼ぶべき存在だ。日本ではほとんど知られていないが、2000年代初頭に主なマーケットだったアメリカと、本国とも言うべきイギリスで販売が中止された。そしてリブランディングが行われ、2009年に「新生チューダー」と呼べる初のモデルが誕生している。そして10年あまりのブランクを経て2013年にアメリカ、2014年にイギリスでの販売が再開される。

そして、これまでの汎用ムーブメントではなく、マニュファクチュール・キャリバー(自社専用開発ムーブメント)を搭載したモデルが登場したのは2015年。ここから新生チューダーは、海外の時計関係者の間で次第に注目される存在となっていく。

筆者が新生チューダーの魅力を「発見」したのは2018年3月の、今はなきバーゼルワールドのチューダーブースのショーケース。ロレックスの隣にある、2017年よりも拡張され、独自の存在感を放っていたチューダーのブース。そこには「ブラックベイ」の新作とマニュファクチュールムーブメントが誇らしげに展示されていたのだ。

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2018年のバーゼルワールドでチューダーのブース正面にあったショーケースによる新作展示。写真左が「ブラックベイ」で右がそのクロノグラフの展示。どちらにも製品に加えて「マニュファクチュール キャリバー」という説明板とともにムーブメントが展示されている。©Yasuhito Shibuya 2023

これまで「日本未上陸のロレックスの関連ブランド」だったチューダーが、いきなり自社一貫製造のマニュファクチュール・ブランドであることを強烈にアピールしたのだ。こんなことがあるのかと、とにかく驚いたことを憶えている。

そしてまさにこの年、2018年の秋、チューダーは“満を持して”ついに日本への正式上陸を果たした。そして、あれからまもなく5年。

新生チューダーは世界中の時計愛好家や時計ジャーナリストにとって、スイスの時計ブランドの中でも絶対に目が離せない存在であり続けている。

事実上、1950年代に始まる“ツールウォッチ”ブランド

ところで、チューダーとはそもそもどんな時計ブランドなのか。日本では「チュードル」という名前で時計好きの間では知られていたが、2018年秋まで事実上、並行輸入のかたちでしか流通して来なかったこともあり、正確に知る人は少ない。そこで、ブランドの歴史も含めて改めておさらいしておこう。

創立者はロレックスの創立者でもあるハンス・ウイルスドルフ。そして彼の代理人の手でその名がスイスで商標登録されたのは1926年。だが時計ブランドとして大きく飛躍するのは、第二次世界大戦後の1946年、モントル チューダー SA(チューダー ウォッチ カンパニー)がウイルスドルフの手で設立されてからだ。そして1952年、大きな転機がやってくる。「チューダー オイスター プリンス」の登場だ。

「私は長年、ロレックスの技術と信頼をもって 確固たる品質と先駆性を備えた腕時計、“価値ある新しい腕時計”を創りたいと思ってきた。そのために、チューダー ウォッチ カンパニーを設立することにした」とウイルスドルフは述べている。

ねじ込み式リューズとねじ込み式ケースバックで優れた防水性を実現した「オイスターケース」と自動巻きパーペチュアル「ローター」機構。ロレックスのこの2大技術を採用したこの時計は、まさにその言葉通りのものだった。そしてチューダーはここから、現在まで続くブランドイメージを確立するキャンペーンを開始する。

過酷な環境でさまざまな仕事をする人たちの過酷な使用に耐える、頑丈で耐久性に優れた腕時計。つまり「ツールウォッチ」だ。そしてこのキャンペーンに登場したのは著名人ではなく、炭鉱労働者やレスキュー隊員など、無名だが社会のために働く人たちだった。

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1952年、ウイルスドルフ自身が登場した、ブランドの本格的な展開を告げる広告記事。ロレックスの2つの先進技術を活用した「チューダー オイスター プリンス」の開発を「Big Decision(大きな決断)」と述べている。またそこには「6本のチューダーをエア駆動式のドリル(削岩機)を使って仕事をする労働者に着けてもらったが、ダメージなく完璧な機能を果たした」と書かれている。


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左から1952年に発売が開始された「チューダー オイスター プリンス」。そして1954年、1955年の広告記事。ビル工事でリベットを打つ人の作業や1000マイルを走破したライダーの過酷な振動にも耐えられることをアピールしている。  

この「タフなツールウォッチ」という堅牢なイメージと優れた機能性、耐久性は何十年もの時を超えて新生チューダー、そして最新のモデルにもしっかりと継承されている。

時計通も唸るレトロなデザイン

では現在のチューダー・ウォッチの「他のブランドにはない特別な魅力」とは何か? まずお伝えしたいそのひとつが、時計愛好家も唸る、レトロテイストを活かした巧みなデザインだ。

今の腕時計の基本デザインのルーツは、間違いなく1950~60年代のスイス時計にある。この時代、スイスの時計ブランド各社は時計デザインのあらゆる可能性を探求していた。そして、ここでさまざまな腕時計の基本スタイルが確立された。チューダーの現行モデルのデザインは、当時の自社製品のデザインを現代的な解釈で磨き上げたもの。

なかでも際立つのが、レトロテイスト。どのモデルにも過去のモデルや当時のテイストが針や文字盤やベゼルなどのディテールに反映されている。しかもその活かし方が濃すぎず薄すぎずの絶妙なレベル。コレクターなど当時のモデルを熟知しているほど、感心せずにはいられない巧みさだ。

驚異のコストパフォーマンス

そしてもうひとつの特別な魅力が、価格をはるかに超えた時計の品質の素晴らしさ。つまり驚異的なコストパフォーマンス。新作モデルが発表されるたびに「え、本当にこの価格?」と思わず自分の目を疑ってしまうほどだ。

その代表ともいえるのが2021年に発表され、同年度の「時計界のアカデミー賞」として知られるジュネーブウォッチグランプリ(GPHG)で「小さな針賞」を受賞した「ブラックベイ セラミック」だ。

「ブラックベイ セラミック」
ケース径41㎜、マットブラックセラミックケース、レザー&ラバーライニングのハイブリッドストラップ(交換用ファブリックストラップ付属)、自動巻き、パワーリザーブ約70時間のマニュファクチュール キャリバー MT5602-1U搭載。METAS(スイス連邦計量・検定局)のマスタークロノメーター認定取得。200m防水。64万4600円(税込)」

この時計はケーシングされた時計の日差(1日の時計の進み遅れ)が5秒以内(0、+5秒)というCOSC認定クロノメーターを超える高精度に加え、15,000ガウスの磁場にさらされた状態の精度も保証する超耐磁性などの過酷な条件も含む、スイス連邦・計量認定局(METAS)の「マスター クロノメーター認証」を取得している。

搭載ムーブメントはもちろんマニュファクチュールキャリバー(自社専用開発製造)で品質保証期間も5年間。これだけのスペックを実現しながら、セラミックケースで税込み60万円台半ばという価格には、ただ驚かされるばかり。

特に注目したいのは2種類の「ブラックベイ」

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ブース内で展開された2023年の新作プレゼンテーションで。全部で5種類の新作が登場した。©Yasuhito Shibuya 2023

そしてチューダーは2023年も、この2つの魅力を兼ね備えた新作をいくつも発表した。今年も昨年同様に「はずれ」は1モデルもない。その中で筆者が特に注目し、おすすめする今年の新作はダイバーズ「ブラックベイ」の2つの新作だ。

すでにどのメディアでも真っ先に紹介されているけれど、レトロなデザインという点から見逃せないのが、1954年にチューダーが初めて発売した最初のダイバーズ「オイスター プリンス サブマリーナー」、フランス海軍とアメリカ海軍に納入されたモデルをモチーフにした「ブラックベイ 54」だ。

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「ブラックベイ 54」
ケース径37㎜、自動巻き、SSケース&ブレスレット、COSC(スイスクロノメーター検定協会)認定を取得した、パワーリザーブ約70時間のマニュファクチュール キャリバーMT5400を搭載。200m防水。49万600円。ブラックラバーストラップ仕様は46万3100円(ともに税込)

1954年のモデルがモチーフで、シャープな3角形をした12時位置のインデックスや、ブラックにゴールドを差し色にした基本デザインを踏襲している。だが「スノーフレーク針」などディテールに新生チューダーのアイコンを織り込むなど、デザイン演出の巧みさに感心させられる。

クイックアジャスト機構付きのブレスレット、COSC認定の高精度&ロングリザーブのマニュファクチュールムーブメント「キャリバーMT5400」と、機能面でもまったく隙がない。だがこのモデルの最大の魅力は、現代のダイバーズとしては小ぶり、でも日々着けるデイリーウォッチに最適な直径37㎜サイズだ。

また2021年のセラミックケースモデルに続いてSSケースで初登場したMETASのマスタークロノメーター認定モデル、直径41㎜サイズ、バーガンディ・ベゼルの「ブラックベイ」も見逃せない。価格もブレスレットモデルながら税込み60万円を切る、セラミックよりもかなり身近な価格なのもうれしい。

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「ブラックベイ」
ケース径41㎜、自動巻き、SSケース、ラバーストラップ、SSブレスレット(5列、3列)、自動巻き、パワーリザーブ約70時間のマニュファクチュール キャリバー MT5602-1U搭載。METAS(スイス連邦計量・検定局)のマスタークロノメーター認定取得。200m防水。ラバーストラップ仕様(左)が53万1300円、5列ブレスレット仕様が57万2000円(中)、3列ブレスレット仕様(右)が55万8800円(すべて税込)

さらに、レトロ感という点では「ブラックベイ GMT」に追加されたホワイトオパライン文字盤にバーガンディ&ブルーベゼルのモデルも見逃せない。これまでのブラック文字盤の精悍なイメージとは対照的な明るくエレガントなテイストなので、より多くの人にフィットするのは間違いない。

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「ブラックベイ GMT」
ケース径41mm、自動巻き、SSケース&ブレスレット、またはファブリックストラップ、COSC(スイスクロノメーター検定協会)認定を取得した、パワーリザーブ約70時間、GMT機能付きのマニュファクチュール キャリバーMT5652を搭載。200m防水。SSブレスレット仕様は55万1100円、ファブリックストラップ仕様は51万400円(ともに税込)

さらに100m防水、直径41mm、39mm、36mm、31mmと4サイズ展開される「ブラックベイ」のスタンダードモデルがこれまでの汎用ムーブメントからマニュファクチュールムーブメントである「キャリバーMT系」に一新され、パワーリザーブが41mm、39mm、36mmサイズが約70時間、31mmサイズが約50時間に伸びた。スタンダードウォッチを購入するとき、これは絶対に視野に入れておきたい選択肢になる。

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「ブラックベイ 41」
ケース径41㎜、自動巻き、SSケース&ブレスレット、COSC(スイスクロノメーター検定協会)認定を取得した、パワーリザーブ約70時間、マニュファクチュール キャリバーMT5601を搭載。100m防水。51万8100円(税込)。文字盤カラーは写真のアンスラサイトのほか、ブルー、ライトシャンパンカラーの3種類。さらにインデックスにダイヤモンドを使ったモデルも用意される。

加えて、汎用ムーブメントを搭載したやはり100m防水、直径41㎜、38㎜、34㎜、28㎜サイズが用意されるスタンダードウォッチ「チューダー ロイヤル」にも、新たにサーモンピンクダイヤルとチョコレートブラウンが追加された。文字盤はスタンダード仕様がローマンインデックスで、12時、3時、6時、9時以外にダイヤモンドをインデックスにしたタイプもある。しかも直径41mmサイズは12時位置に曜日をフルスペルで表記したデイデイトタイプ。どれも、マニュファクチュール ムーブメント搭載モデルより格段にお手頃な価格設定なのもうれしい。

しかもノッチドベゼル&インテグレーテッド(ケース一体型)ブレスレットのチューダー ロイヤルのケース&ブレスレットのデザインは、改めて見るととても新鮮だ。

「チューダー ロイヤル」
12時位置に曜日、3時位置に日付表示。サーモンピンク&ダイヤモンドセット文字盤。ケース径41㎜、自動巻き、SSケース&ブレスレット、パワーリザーブ約38時間。100m防水。41万300円(税込)。

また先日発表されたばかりの、世界最高峰のヨットレース「アメリカズカップ」に挑戦する「アリンギ・レッドブル・レーシング」との初コラボレーションモデル、軽量なブラックカーボンコンポジットケース&ブラックカーボンコンポジット製インサートを備えたチタニウムベゼルの「ペラゴス FXD」新作ダイバーズクロノグラフとダイバーズや、2022年7月発売のアウトドアウォッチ「レンジャー」も同様に、デザイン&価格とも文句の付けようのない逸品。チューダーのラインナップだけフォーカスしても筆者自身、どれを選ぶか悩まずにはいられない。

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上から)最新モデルの「ペラゴス FXD」、2022年夏に発表された「レンジャー」

日本上陸から5年目を迎えてさらに加速するこの「独走」はいったいどこまで続くのか。「ツールウォッチ」ブランドとして、新生チューダーにあと残された「課題」はフルマニュファクチュール化=フルクロノメーター化くらいしか筆者には想像できない。だがあらゆる想像を超えてくるのが新生チューダー。だから、これからもやはり目が離せない。

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時計&モノジャーナリスト・編集者・エッセイスト
渋谷ヤスヒト

文芸編集者、モノ情報誌&時計専門誌の編集者を経てフリーランスに。1995年から時計専門誌の編集者としてスイス2大時計フェアやスイス、ドイツ、日本国内の時計ブランドの現地取材を続ける。時計に加えてスマートウォッチ、スマートフォン、カメラ、家電、クルマ、食品、医療、自動車レースまであらゆる情報をカバーする。時計専門誌やウエブ媒体に特集記事や愛用品のエッセイも連載中。趣味は取材とコンテンツ視聴と料理。
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