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アジア料理の エッセンスを融合させたモダンフレンチ?

京都祇園の真ん中でジャポニズムを体感できるレストラン「Jean-Georges at The Shinmonzen」

author: 田中 謙太朗date: 2023/05/03

京都・祇園の古美術街、新門前通に位置するラグジュアリーホテル「The Shinmonzen」内のレストランとして、世界的な三つ星フレンチシェフのジャン=ジョルジュ・ヴォンゲリステン氏が手がける「Jean-Georges at The Shinmonzen」がオープンした。

グランドオープンを記念して同レストランにてふるまわれるディナーコースが披露され、全世界で60ものレストランを経営するジャン=ジョルジュ氏に「The Shinmonzen」と「Jean-Georges at The Shinmonzen」との調和を聞いた。

 

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新幹線の乗り入れる京都駅から近鉄線で北東部の祇園四条駅へ向かう。日本の都であり続けた京都らしい、賽の目状のスマートな街道を北に進み、「せせらぎの道」と書かれた岩看板を目印に古美術商の立ち並ぶ新門前通が現れる。

「こんな小径のような場所にあるのか」と少し不思議に思いながら、古美術商や日本料理屋、和菓子屋が行儀良く立ち並ぶ新門前通を突き進む。そして祇園を東西に貫く白川が見えてきたら、そのすぐ隣に佇むホテルこそが「The Shinmonzen」だ。

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「The Shinmonzen」の正面玄関である間口 

安藤忠雄が建築設計を施した「The Shinmonzen」の外観には、京町屋に特有な“うなぎの寝床”という間口を狭く、奥行きを深くした造りが採用されている。2022年に開業した新しいホテルだが、まるで何十年も前から京都と共にあったような雰囲気で、「ホテル」というよりもむしろ個人所有の京町屋のようである。

白川にかかる新門前橋からの側面の外

Sの字をたたえる特徴的なのれんをくぐって、コンクリート打ちっぱなしスタイルの廊下に“アンドーらしさ”を感じながら進むと、ロビーの入り口ではこだわりのアートコレクションが出迎えてくれる。

アートコレクションは季節により定期的に入れ替えがある。現在はダミアン・ハースト氏の話題作、<桜>の作品を展示中

廊下を抜けるとロビー、ロビーに接するリバーサイド・バルコニーといった具合で、レセプションやクロークがないことも特徴的だ。

担当者曰く、「ホテル運営ではレセプションやクローク、ルームサービスなど、機能ごとに担当者が決まっていることが一般的です。しかし、『The Shinmonzen』ではよりパーソナライズされたサービスを可能にしたいとの考えのもと、一室ごとに担当者を割り当てる旅館ライクな形式を採用しています。

滞在期間を通してお客様の旅行体験のお手伝いをするため、流れ作業では決して生まれないお話をしてくださるお客様もいらっしゃいます」とのこと。

ホテルの共用部となるリバーサイド・バルコニー

スターシェフ、ジャン=ジョルジュが送るレストラン・メニューとは?

リバーサイド・バルコニーで食前酒を嗜んでいると、レストランからジャン=ジョルジュ氏が姿を現した。

グローバルで60ものレストランを経営し、2023年で50周年を迎える長いキャリアの字面から受ける印象とは裏腹に、エネルギッシュで気さくな彼が「食事の準備はできましたか?」と、我々をレストランに招き入れてくれた。

「The Shinmonzen」のレストラン、「Jean-Georges at The Shinmonzen」を率いるジャン=ジョルジュ・ヴォンゲリステン氏は世界で最も影響力を持つ料理人の一人だ。

16歳から料理人としてのキャリアを歩み始め、1991年、彼が34歳のとき、初めてオーナーシェフを務めるレストラン「JOJO」をオープンし、ニューヨーク・タイムズ誌にて3つ星を獲得した。2005年のミシュランガイド・ニューヨーク版の発刊以降、19年連続で星付きレストランとしての評価を獲得し、その地位を守り続けている。

モダンフレンチの巨匠であるジャン=ジョルジュ氏のキャリアの中で特徴的なのが、シェフとしての修行を積む期間に、バンコクのオリエンタルホテルやシンガポールのメリディアンホテル、香港のマンダリンホテルなど、アジア地域での経歴が並ぶことだろう。

22歳のときに赴任したバンコクにていくつものスパイスやハーブで構成された強烈な味に衝撃を受け、滞在中の2年間毎日毎食タイ料理を食べ続けるほど、彼はアジア特有のスパイスとハーブからなるフレーバーの虜となった。

この経験が、肉のブイヨンやクリームを使う伝統的なフレンチの料理法だけではなく、フルーツのエッセンスやハーブのビネグレットソースを用いて新たな味や食感を開拓する、現在の彼の料理法へと繋がっている。実際に「JOJO」のオープンの翌年である1992年には、フレンチとタイ料理を融合させた「VONG」をオープンしている。

Jean-Georges Vongerichten(読み:ジャン=ジョルジュ・ヴォンゲリステン)。アメリカをはじめとして、世界13カ国に60以上のレストランを展開するスターシェフ。レストラン経営と並行して、若い料理人への奨学金、料理教育やキャリアへの挑戦の機会を提供するNPO「Food Dreams」の代表を務める。1957年生まれ、66歳

元々がグルマン(どちらかというと食い道楽の意味で)な筆者としては、そんなジャン=ジョルジュ氏のメニューに触れる格好の機会ということで、ホテルに足を踏み入れるときに感じていた少しばかりの緊張感は消えていたのだった。

席に着いてすぐ、待望のランチタイムが始まった。

今回のグランドオープンイベントで提供されたのは、通常はディナーとしてラインナップされることになるコースメニューだ。季節や仕入れの状況などに応じてシェフが選ぶ8品からなるコースである。

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 Uni Toast with Yuzu, Tuna Noodles with Ginger, Sea Trout Crispy Rice。ゆずを添えた雲丹をのせたトースト、スパイスの効いたツナ・ヌードル、クリスピーライスの鱒寿司

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Egg Toast Caviar and Herbs。コンフィにした黄身を挟み、キャビアをのせたトースト。ジャン・ジョルジュ氏のコースのシンボルともいえる料理だ 

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 Madai Sashimi, Spring Peas Buttermilk Vinaigrette。真鯛のお刺身に春野菜のサラダをのせ、バターミルク・ビネグレットで味わう

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 Warm Asparagus with Japanese Mushrooms Vegetable Vinaigrette。きのこと細かく刻んだ野菜のピクルスをのせたアスパラガスの温製

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Crackling Amadai, Roasted Carrot Lemon-Leek Emulsion。鱗を残したまま高温の油を回しかけてパリパリの食感を付けた甘鯛と、ローストにんじん。ソースはレモンとねぎのエミュルジョン(乳化)ソース 

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 Tiger Prawn Roasted in Buckwheat Crepe Herbal Kombu Butter。そば粉のガレットで包んだクルマエビ、ハーブと昆布とバターのソース

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Caramelized Kyo-Tamba Hirai Beef Tenderloin Poached Daikon, Mustard Essence and Crispy Kale。京丹波平井牛のテンダーロインのキャラメリゼ、大根の煮染め、クリスピーなケールとマスタード 

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 Strawberry, Yuzu Cream and Pistachio Sorbet。いちごとゆずクリーム、ピスタチオソルベのデセール

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メニュー表にはなかったメニューだが、一口サイズのお菓子が提供された。一番手前のパッションフルーツの味のお菓子はクマの形。ジャン=ジョルジュ氏がクマ好きだから、というなんとも可愛らしい理由。 

Jean-Georges at The Shinmonzen

・オープン日:2023年3月15日(水)
・営業時間:朝食、7:00~10:30
(宿泊者でない場合、ラストオーダー:9:30)
夕食、17:30~22:00(ラストオーダー 20:30)
・メニュー:アミューズ+5品のコース 1万8000円、アミューズ+7品のコース 2万4000円(税サ込)+ワインペアリング(ルームサービスやアラカルトメニューは宿泊者限定)

一皿ずつに十分なポーションと強いキャラクターやインパクトを持たせながらも、スムーズに食指が動く。比較的重めのメインで締め括るというフレンチコースに特徴的な構成であっても、オイルや塩味のパンチだけに頼ることなく、スパイスによる多様な風味づけでリズミカルな食卓を演出しているのである。

特に印象的だったのは、コース中のアミューズとしてひと品目にラインナップされた「ツナ・ヌードル」だ。アジア地域に料理人としてのキャリアのルーツのひとつを持つジャン=ジョルジュ氏らしく、アジアン・スパイスの豊かなインフォメーションにまさに胃袋を掴まれたようだった。

アピタイザーという名前の通り、食欲を呼び起こしコース全体への期待感を高める役割を持つスターターは、ときおりメイン料理よりも重要な役割を持つ。ジャン=ジョルジュ氏はすでにその名前だけでもすでに“食べる価値のある料理”を提供しているとはいえ、初めて彼の料理に触れた筆者にとってより強い印象を残し、その後の料理に対して向き合いたいと思わせる、真剣な姿勢を構築してくれた料理だったのである。

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 ひと品目のアミューズ内の「ツナ・ヌードル」

マジシャンに手品のタネを聞くようで野暮かもしれないが、スパイスに対する興味を抑えきれなかった。そんな筆者の問いにスー・シェフの水野剛氏が答えてくれた。

「『ツナ・ヌードル』で使用しているスパイスは7種類です。メキシコ産のアンチョチリとチポートレイが、それぞれ木のような香りとまろやかな印象を与える働きをしています。(赤色の発色をよくして風味づけをする)ベニバナの種のアナトーシード、(シナモン・クローブ・ナツメグの香りを併せ持つ)オールスパイスに加え、メースやスターアニス(八角)、コリアンダーなども使っています」

「ツナ・ヌードル」に使われた各種スパイス。バット上の左からアンチョチリ、チポートレイ、缶のものが左からアナトーシード、オールスパイス、袋のものが上からスターアニス(八角)、メース、コリアンダー 

浅薄な知識が露呈してしまうため筆の乗らない事実だが、筆者が一度でも耳にしたことがあった名前はたったの2種類だったことを共有したい。予想もしない選択肢を活用してこちらの琴線に触れる答えを出すという営みこそ、まさに「プロの仕事」を感じるのだ。

「The Shinmonzen」にはジャポニズムのヒントが隠されている。

食事後、ホテル「The Shinmonzen」の一室を見学するチャンスを得た。

室内空間は40~60平米程度と特別広いわけではないものの、全室に白川に面して屋外バルコニーがあるため、数字上のイメージよりも広めの印象を受ける。インテリアデザイナー、レミ・テシエ氏によるしっかりとくつろげる時間体験を演出するインテリアを取り揃えながらも、手狭には感じない設計だ。

大きな窓から差し込む自然光による表情の変化も魅力的だ。白川向きにバルコニーがあるということは建物の東側から採光する形式のため、活動的になりたい午前中には明るい部屋を演出し、落ち着いた時間を過ごしたい午後遅くには暗めの印象を与える。

この自然光の使い方の巧みさこそ、安藤忠雄建築の妙味だという。建築系の友人に聞いたところ、安藤忠雄がどうしてすごいのか、というとそれは「光の使い方」なんだそうだ。空間に落ちる光の印象を考えることに優れているのだという。

バルコニーは全室白川向き

実のところ、建築やインテリアという基礎の部分だけではなく、調度品に至るまで、和と洋のテイストを調和させようとしている試みこそが「The Shinmonzen」の最大の特長といってもいいかもしれない。例えば、檜の風呂を採用する和のデザイン・アイデアを持ちながらも、大理石の壁肌を取り入れるなど渡来の思考を組み合わせている。

障子という日本の伝統的な様式の仕切りを採用しながら、ベッドルームとリビングルームで構成された室内には当然のように洋風のインテリアが配置され、それらが宿泊客が暮らしやすいように何食わぬ顔で並んでいる。いや、何食わぬ顔で並ぶことができている、といったほうが正確かもしれない。

和と西洋のコンビネーションを図るコンセプト上、たしかに外国人の宿泊客が多いものの、日本人が泊まっても新たな発見があるだろう。日本に住んでいると感じることが難しい、日本が西洋に与えた価値観や影響「ジャポニズム」を感じる体験を演出してくれるかも、と建築やインテリア、調度品の一つひとつから期待したくなってしまうのである。

各部屋に備えられたアメニティや飲料。

「Jean-Georges at The Shinmonzen」を手がけるジャン=ジョルジュ氏に、京都の文化やホテルとの調和を図るために、レストランにどのようなアレンジを加えたか聞いたところ、次のように答えてくれた。

「レストランのデザインを考えるとき、常に近隣の様子やロケーションから着想を得ています。例えば、ニューヨークで私が経営する『JOJO』はアッパーイーストサイドにあることから、インテリアデザインではその雰囲気を反映しています」

「JOJO」のあるアッパーイーストサイドは、セントラルパークの東側に位置するシックな雰囲気の高級住宅街。グッゲンハイム美術館やメトロポリタン博物館など著名なミュージアムが9つもあることから、ミュージアムマイルと呼ばれることもある芸術とレジャーが融合した街である。

「『Jean-Georges at The Shinmonzen』の構想を練っていたときも、ホテルそのものとの調和に加えて近隣の地域を引き立てたいと考えていました。オープンキッチン、カウンター、ダイニングルームの中で、表面の質感や食器類、色合い、そして飾る花々に至るまで、広い視点で考え抜かれています。レストランやホテル、近隣の地域の流れは美的にシンクロしているものの、それぞれが個性をもち特別な存在であり続けています」

実のところ、筆者が最も印象的だったのはジャン=ジョルジュ氏本人の振る舞いだった。世界中で評価を受けるシェフ・レストラン経営者となった今日でも、真剣な眼差しと溢れる愛嬌、そして底のない好奇心こそが彼を説明するためのキーワードとして相応しいのである。

「毎朝目が覚めると、『これから12時間後に何が起きるだろう』と、楽しみでいてもたってもいられなくなって、レストランに駆け込みます。私が常に意欲的でいられる大きな理由のひとつとして、常に新たなことを学ぶのに熱心であることが挙げられると思っています」(ジャン=ジョルジュ氏談)

和と洋のデザイン・アイデアの調和から、“ジャポニズム”を感じさせるホテル「The Shinmonzen」が、フレンチの基礎の上で和を含めたアジアン・テイストを巧みに組み合わせるシェフであり、同時にレストランの、文字通りの“経営者”でもあるジャン=ジョルジュ氏という最高のパートナーを得た。

これまで、建築やインテリア、そして調度品が到達していた範囲を超えて披露されるデザイン・アイデアの調和がより高い次元の“ジャポニズム”を感じさせてくれると思うと、ワクワクが止まらない。そして、見て、聞いて、触って、嗅いで、そして味わう、という五感を駆使した“ジャポニズム”の探求体験こそがホテル「The Shinmonzen」と「Jean-Georges at The Shinmonzen」の提供する価値なのだろう。

取材協力:The Shinmonzen

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ライター
田中 謙太朗

2001年東京生まれ。早稲田大学在学中。共同通信社主催の学生記者プログラムに参加したことをきっかけに執筆を開始。その後、パナソニックのイベントへの登壇など、記者としての活動と並行して、英自動車雑誌『Octane』の日本版にて翻訳に携わる。主専攻である土木工学に関連したまちづくりやモビリティに加えて、副専攻に関係するサスティナビリティに関する話題など、これからの時代を動かすトピックにアンテナを張る。
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