日本最大級の家電メーカーにして、世界でも名を馳せるパナソニック。あなたの家庭でも、一度はパナソニックの製品を使ったことがあるのではないだろうか。そんなパナソニックが、体制新たに世界の舞台を見据えて刃を研いでいる。日本を代表するサムライ・カンパニーにはメラメラと燃える闘志が宿っていた。
サスティナビリティの価値観を活かせるか。
パナソニックの欧州市場戦略とは
2022年4月、パナソニックは事業部の統廃合と分社化などの大幅な組織改編を行った。欧州最大の家電展示会「IFA 2022」のプレス・プレビューにおける15分程の発表には、そんな新たな船出を迎えたパナソニックの力強い生まれ変わりの息吹が感じられた。
パナソニック社長の品田正弘氏は、同社の欧州市場に対する姿勢を次のように語っている。
「欧州市場はパナソニックにおける海外売り上げの25%を占めており、安定性が高く発展した市場であることが魅力です。加えて、欧州はサスティナビリティに関して非常に先進的な地域であり、我々の掲げる環境アジェンダを達成する上で必要不可欠な地域でもあります」
欧州における同社の意気込みを語る品田氏
また、純水素燃料電池の開発によって、完全再生可能エネルギー化を目指す環境アジェンダのひとつである“RE100”。その世界初となる施設レベルでの実証を行なっていることをアピールした。
実証施設におけるエネルギーバランスを示している。水素燃料電池(202kW)と太陽光発電(237kW)によって、他の電源なしでの運用を可能にすることを確かめる実証
「このような環境への取り組みは、我々が今後の100年の間にどのような企業として生き残っていくかということを示しています。性能の良い製品を提供するに留まらず、我々が顧客に向けて提供できる価値として“well-being”(「健やかに生きること」の意)というキーワードに着目しています。
そして、メーカーとしてのアクション・スローガンこそが“Create today, Enrich tomorrow”(「今日を創る。明日をより良く」の意)です。製品価値として提供する“well-being”によって“今日”をつくると同時に、環境問題や開発問題に対する行動を通して、“明日”をより良いものにしていく考えを込めました」と品田氏は語る。
また、冷暖房機器への注力を掲げたことも大きな変更点だろう。これまでの海外事業におけるパナソニックはいわゆる“黒物家電”を主戦場としており、新たな領域である空調事業への本格的な注力は今後の海外における家電事業に切り込んでいく積極的な姿勢が窺える。
発表後の品田氏のコメントが、同社のサスティナビリティへの姿勢を表している。
「欧州はサスティナビリティへの取り組みにおいては最先端を走っています。しかし、世界一の舞台で挑戦して勝ち切らなければグローバルでは勝てません。もう一度グローバルで戦うぞ、という意思表示です。空調技術や水素燃料電池などの技術においてパナソニックは先んじており、そのような技術が必要とされるサスティナビリティという価値観を導入できることは我が社としても大きなチャンスです」
欧州では欧州委員会の推進するプロジェクトのもと、さまざまな研究開発が進められている。特に盛んな水素関連事業においては、5年間で1兆円の大規模なプロジェクトである“JIVE”をはじめとして、様々なプロジェクトが現在進行中だ。
実行段階に移ろうとしている欧州における同社の水素関連事業の戦略を、品田氏は次のようにコメントしている。
「今回話題に上げた純水素燃料電池の一号機は晴海フラッグで、二号機は研究開発と生産機能の本部のある滋賀県草津市で運用しています。二号機は一号機と比較して半分のコストで試験運用できており、現段階ではおおよそ自社での開発を行なっています。今までパナソニックでは中から外まで一本化した設計を行っていましたが、エネルギー領域での差別化は難しいため、欧州ではどのようにビジネスパートナーを探していくかということが課題です」
パナソニック・マーケティング・ヨーロッパ社長の片山英樹氏は次のように付け加えた。
「水素燃料電池に関しては全社的に取り組むことが決まっています。欧州が世界で最も適した市場であるという判断から、今回このように発表をしました」
ターンテーブルがみせる若者のアナログへの回帰
IFA 2022では、同社が力を入れることを発表した分野以外にもさまざまな製品が展示されていた。中でも、1972年に発売されたTechnicsのターンテーブル「SL-1200」の50周年記念限定モデル「SL-1200M7L」は、若い世代の意外な嗜好を表した製品だ。
1972年に発売されたターンテーブルを、より洗練された現代的な質感で復刻したTechnics「SL-1200M7L」
製品担当者は次のように語る。
「若い世代に対してはこういったアナログ製品の方が、完全なデジタル製品よりもウケがいい印象です。例えば、渋谷のタワーレコードの最上階にはレコードのジャケットを売っているブースがあります。本当の意味での“ジャケ買い”があって、その上で実際にレコードを聴き始める層が表れているようです」
遠いからこそ愛おしい。そんな人間特有の欲求の表れがデジタルの海で育まれた若い世代のアナログへの回帰なのだ。
この製品はオーディオそのものの再現度と同様に、インテリアとしての機能にもアンテナが張られている。聴覚で楽しむだけではなく、生活の一部として五感を使って最大限に楽しむという感覚がこれからの世代の“善い”ライフスタイルに対する理解には必要不可欠になってきているといえるだろう。
日本のリーディング・カンパニーは、
現代のグローバル・カンパニーになれるのか
同じ企業であっても、日本で見せる姿と国際舞台での姿では異なる印象を与えることは当然だろう。同社は6兆円以上の売上を誇り24万人以上の雇用を抱えている国内では絶対的な存在だが、国際舞台ではチャレンジャーとしての熱い姿勢を見せた。
これからは一時的な顧客の関心や要求に応えるだけではなく、より高い次元での生活の提案ができる企業こそが我々の生活を彩っていく時代だ。日本のリーディング・カンパニーであるパナソニックが、国際社会において果たすべき役割を模索しながら戦える真の意味でのグローバル企業になれるのか。国際舞台での戦いはまだまだ始まったばかりだ。