長い間都心のトップランナーとして君臨する渋谷区原宿のオフィススペースとして、「the Folks BY 10Q」(以下、Folks)がオープンした。5階建ての鉄骨造という頑強な字面とは裏腹に、大人の遊び心満載のオフィススペースは現代の仕事スタイルにフィットしていた。
半蔵門線表参道駅を降りて、青山通りから脇道に入る。掲示板にMSゴシックフォントを使った地域美化活動のチラシが貼られているのを見て、自分が“都会”から“地域”に入り込んだことに気づく。二叉路を間違えないように坂を降っていくと、「Folks」のアイコニックな外観を望むことができる。
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「Folks」は株式会社東急が保有し、株式会社リアルゲイトが運営を行うシェアド・ワーキングスペースだ。「もう一つの地元」を意味する“Another LOCAL”をメインコンセプトとして、もともと美容室運営会社の事務所だった場所を改装している。
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ワークスペースといっても、すべてが仕事をするためだけに用意された場所ではない。1階に位置するバスクラウンジでは、休憩のための腰掛け椅子やクラフトビールショップ、レストランがおり、利用者同士の交流が図れるように設計されている。
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「Folks」ではアートディレクションにも力を入れている。シンボリックな壁画や、ふとした瞬間に目に入るアメニティのイラストは、イラストレーターの及川真雪とカワグチタクヤによって製作されており、それぞれの得意とする表現が心地よく配置されている。
及川真雪はビビッドな色彩と群像画を持ち味とし、カワグチタクヤはモノクロームを用いた抽象画を得意とする。この二人の対照的な世界観がリズミカルに彩ることで、このスペースのキーワードである「遊び心」が表現されている。
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忘れてはいけないが、「Folks」はオフィススペースだ。打ち合わせや個人の作業など、オフィスでの「やりたいこと・やらなければならないこと」は多岐に渡る。仕事をする場所として満足できるのかが、利用者にとっては何よりも重要なポイントだ。
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現在、ワークスペースのユーザーの多くはテレワーカーや個人事業主、経営者であり、家や会社とは異なるサードプレイスを持とうとして契約している。
その意味で担保されるべきオフィスの要素とは、快適な温度湿度の部屋、通信環境、十分な広さの机、長時間座れる椅子、そして時間的な自由度……そういったことに集約されるだろう。「Folks」はそれらを高いレベルで満たしており、フロアとスペースの役割を明確化することで、「仕事」として一括りにされることの中でもメリハリを生み出すことのできるスペースとなっている。
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ここからは遊び心を感じる設計を見てみよう。2階のラウンジの奥の本棚には面白い仕掛けがある。
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三つの節がある本棚のうち電子暖炉のある真ん中の棚を押すと、そこにはバー・ラウンジが広がる。隠し扉というギミックはどうしてこうも我々を楽しませてくれるのだろう。古典的な手法だからこそ誰もが見逃してしまう。お行儀のいいオフィスビルにはない遊び心に胸が高鳴る。
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都市計画が着実に進められてきた地域だからだろう。屋上からは都心とは思えないほどにひらけた景色を望むことができる。学園ドラマでは入っていたのに、実際の学校では鍵の閉まっていた屋上という場所は、僕たちの憧れがいっぱいに詰まった場所だ。ここに人の丈を覆うような柵は必要なく、大人の中にある遊び心を発散する場所としてただ存在している。
一口に“仕事”と言っても、一人で集中する作業や複数人でのミーティングなど、その言葉の意味するところは多岐に渡る。それなのに、ひとつの定規で作られたプラットフォームのようなオフィスで仕事をするのは効率的といえるのか。オフィスの役割は人と人との関わりをスムーズに進めることであり、本能的な側面と機能的な側面の共存するオフィスでこそ、それぞれの業務が最大化できるのではないないだろうか。
遊び心のあるオフィススペース「Folks」から今後どんなものが生み出されるのか、期待せずにはいられない。