オーストラリアといえば、コアラ、そしてカンガルー。特にカンガルーは増え過ぎて問題になっているので、どこにでもいるのかと思いきや、実はかなり田舎に行かないと遭えないのだ。おそらくオーストラリア旅行をしたことがあっても、野生のコアラやカンガルーに遭遇したことがない人が大半だと思う。そこで、今回はオーストラリア旅行で、野生のコアラやカンガルーに間違いなく遭遇する方法を紹介したい。
意外とコアラやカンガルーに遭うのは難しい
今春、30年勤めた会社を辞めて、妻と一緒に、留学中の娘に会うため、オーストラリアのメルボルンに行った。娘は、メルボルン大学に進学して3年目。必ず一度は娘の進学先に行くと約束していたのだが、世界の情勢がそれを許してくれなかった。やっと状況が緩んできたので、貯め込んでいたマイルが切れる前に、退職時の有休消化を使って行くことにした。ちなみに娘は、2年近くオーストラリアにいるが、まだ一度もカンガルーにもコアラにも遭ったことがないという。
東京に行っても、サムライもニンジャもいないし、ゲイシャガールはしかるべきところにしかいない。オーストラリアに行っても、カンガルーとコアラにすぐに遭えるわけでないのだ。
状況を考えれば当たり前で、日本だって、シカやイノシシが増え過ぎて農作物を荒らしているからといって、我々が日常的に出会うほどではない。都市部や農村部を離れ、山間部に入って運が良ければ出会うといった程度だ。オーストラリアで野生のカンガルーに出会える可能性はそれよりちょっと高いぐらい。
まずはカンガルーに遭う方法
今回、レンタカーを借りて5日間で1000kmほどのドライブをした。メルボルンを出て、郊外のヤラバレーのワイナリーを巡り、牧場地帯を抜けて、昔、金山として栄えたというバララットを抜け、平地に突然盛り上がった山岳地帯であるグランピアンズ国立公園に向かい、そこからウォーナンブールで海岸線に出て、グレートオーシャンロードという海岸沿いの壮大な道を250km走ってメルボルンに戻った。1000kmというと長いようだが、広大なオーストラリアからすると、メルボルン近郊をくるりと回ったぐらいだ。
さて、まずカンガルーはどこにいるのか? ヤラバレーなど山岳地帯では見かけない。牧場地帯になると居そうなものだが、平原は柵でしっかりと囲われ、羊、牛は大量にいるが、カンガルーがいるスペースはなさそうだ。
オーストラリアの人口は約2600万人。それに対して、牛は約2400万頭と人口に匹敵。羊は約6800万頭と人口の3倍近い。たしかに、地方に行くと、広大な牧場に、ゴマをぶちまけてしまったようにたくさんの羊がいる。カンガルーは約5000万頭がいる。草食であるカンガルーが牧場に入ると羊や牛のエサである牧草を食べてしまう。だから、牧場はしっかり柵で囲われており、そこにはカンガルーはいない。
つまり、もっと郊外。牧場に向かないほど乾燥した、潅木と痩せた草原が広がるエリアまで到達して、ようやくカンガルーを見ることができる。
カンガルーがいるのは牧場より田舎の草原
そういうエリアが近づくと、道路脇にカンガルーが飛び出すことを警告する標識を目にする。
我々も、そういったエリアを300kmほど走ったので、その間、目を皿のようにしてカンガルーを探した。
結果、何度か草原の彼方にカンガルーを目撃することができた。
カンガルーは群れで行動している。そして、我々がカンガルーを見つけて、路肩に車を停めると、群れで走り去る。群れはたいてい草を食べており、何頭かが身体を起こして周囲を見渡している。そして、我々が近づこうとすると仲間に警告を発するようで、群れ全体が後脚でピョンピョンと跳ねて視界から逃げ去る。大柄な一頭がしんがりを守っており、身体を起こして我々の方を見つめながら、仲間が逃げるのを確認してから最後に走り去る。
カンガルーは薄明薄暮性で、日中は休んで、明け方と夕方に行動するという。たしかに、我々が目撃したのも、夕方が多かった気がする。
カンガルーバンパーがリアルに必要
ご存知のように、オーストラリアでは車とカンガルーの衝突事故が問題になっている。
アウトバックを走る機会が多そうな大きな四駆には、『カンガルーバンパー』と呼ばれるバンパーが装備されていることが多い。これはカンガルーとの衝突で車にダメージを受けないようにするためだ。
私は、アメリカでバイクに乗っている時にシカに飛び込まれて転倒した経験がある。もはやそんな経験はしたくないので、オーストラリアではカンガルーに飛び込まれないようにかなり気をつけていた。幸いにもそんな目には遭わなかった。
しかし、路上では車に撥ねられたカンガルーらしき動物の死体を見かけることがあった。いろいろな動物の死骸を見かけるのだが、サイズからして明らかにカンガルーだろうと思われる死体を2度見かけた。
一度は、その数百メートル先に(田舎では、スピードが出ているので、慌てて停めてもそのぐらいの距離は走ってしまうのだと思う)家族旅行らしきファミリーが車を停めて携帯電話で話していたので、おそらくそのファミリーが衝突したのだと思う。レンタカーを借りる時に聞いた話では、子連れのカンガルーを撥ねた場合には子供カンガルーが生きている可能性があるので、関係機関に報告する義務があるらしい。そういう連絡をしていたのかもしれない。
注意して走ってはいたが、草むらや木陰から飛び出されたら避け切れる自信はない。運転には自信がある方だが、アメリカでシカが飛び出して来た時も、ブレーキレバーに指がかかる前に激突した。注意していても突然飛び出す野生動物を避けるのは極めて難しい。
目の前に現われた巨大カンガルー
そんなわけで、最終日までカンガルーには遠目でしかお目にかかれなかったのだが、最終日に目の前で目撃することになる。
日が暮れて、19時頃だったと思う。我々は郊外から徐々にメルボルンに戻りつつあり、ちょうど小田原か熱海のような、ビーチ沿いの小さな街で軽食を食べた。そして、主要街道に出ようと、住宅地の中の抜け道をゆっくり走っている時……目の前に私の身長と同じぐらいではないかと思えるほどの巨大なカンガルーがヌッと現われた。
ゆっくり走っていたので危険はなかったが、さっきまで歩いていた『熱海』の裏通りに巨大なカンガルーが出現したので驚いた。やはり、人間の生活圏のかなり近くにもいるようだ。
あなたがもしオーストラリアに行ってどうしても野生のカンガルーに遭いたいなら、レンタカーでアウトバックに出掛ける必要がある。しかし、郊外の街中でも朝夕にバッタリと出会う可能性もありそうだ。
肉はスーパーで普通に買える
なお、オーストラリアではカンガルーの肉は普通にスーパーで売っている。増え過ぎたカンガルーの駆除目的で狩猟が行われており、その肉が流通しているようだ。
娘によると2年ほど前には普通にどこのスーパーでも売っていたそうなのだが、コロナ禍と関係があるのか、今回は1度しか見かけなかった。見かけたタイミングでさっそく購入して食べてみたが、赤身の堅い安い牛肉に近い味わい。クセはないが冷めるとすぐにパサパサしてくるので、オリーブオイルなどをふんだんにかけて調理して、熱い間に食べるととても美味しかった。地元の小さなお店で、地元のワインを購入し、カンガルーの肉を食べながら飲んだ。これまた旅ならではの味わいだ。
個体数の減少が危惧されるコアラ
カンガルーに対して、コアラに遭うのは難しい。
コアラの正確な数は把握されていないが、ウェブで検索する限りでは4~10万匹ぐらいという数値が出てくる。コアラの生息地域は、オーストラリア東南。海が近く山があり、湿度が高くユーカリがビッシリ生えた森があるエリアだ。しかし、それはメルボルン、キャンベラ、シドニーなどの大都市がある場所でもあり、大半が乾燥した砂漠であるオーストラリアの中で、人間が住みやすい場所と競合する。つまり、コアラが居住できる森は西洋人が入植してから減少の一途を辿っている。
さらに2019年には、世界的に話題になった乾燥を原因とする森林火災で、ユーカリの森が焼け(ユーカリは油分を多く含み、よく燃える)、コアラの生息圏はさらに厳しい制約を受けている。オーストラリアに生えているユーカリは多彩だが、コアラが食べられる種類は限られており、さらに親から受け継いだ微生物によって分解できる特定のユーカリしか消化できないので、必然的に自分たちの一族が消化できるユーカリがある程度群生している場所でしか生きられない。なかなか難しい生き物なのである。今、オーストラリアではコアラの保護活動に力が入れられている。
というわけで、住んでいるエリアは狭く、個体数は少ないのだが、コアラの移動能力は限られている。カンガルーのようにピョンピョン跳んで逃げるということもない。つまり、いる場所に行けば、確実にじっくり見られるのである。
ほぼ確実にコアラに遭える村
我々は、グレートオーシャンロードの途中にあるケネットリバーという小さな村に向かった。ここはキャンプ場のある海辺の小さな村。日本でいえば、西伊豆の小さな漁村のような距離感、サイズ感の村だ。ガイドブックやウェブサイトなどによると、キャンプ場の近くの森でコアラが見られることで有名なのだという。
キャンプ場の入り口近くのKafe Koalaというそのままの名前(CafeではなくKafeとなっているのが面白い)の店の近くに車を停め、歩き始めると、我々は数歩目でコアラを発見した。
コアラはユーカリの木にしがみついて、ムシャムシャと葉っぱを食べていた。後ほどGoogleマップで検索すると、この場所は『Koala Sleeping Tree』とマークがついているので、もしかしたらキャンプ場を訪れる人のためにこの木にコアラが連れてこられているのかもしれない。そう疑いたくなるほど簡単にコアラに遭えた。
樹上のコアラの見つけ方
もしかして、このコアラは完全な野生ではないのかもしれないと思い、我々は山に上がる未舗装路を1~2km散歩してみた。すると、なんと、野生のコアラが樹上にいるのを5~6匹発見することができた。
最初は見つけるのに苦労したが、次第にコアラを発見するコツが分かってきた。コアラはたいていユーカリの木の高さ1/3ぐらいの、枝が二股になった場所に腰掛けている。じっと眠っていることもあるし、ユーカリの葉を食べていることもある。当然のことながら葉を食べている場合の方が動きがあるので見つけやすい。
立ち止まって探すより、歩きながら探す方が見つけやすい。ユーカリの葉を動きながら透かし見ることで、コロンとした塊であるコアラに気付きやすいのだ。ほとんど動かない動物なので、一度発見したら家族に教えたり、観察したりするのは容易。ただし、たいてい木のかなり高いところにジッとしているので、アップで写真を撮るには望遠レンズが必要。また、ほとんどの場合寝ているか、葉っぱを食べているので、多くの人が見たことがあるような顔の写真を撮るのは難しい。たいてい丸いお尻しか見えない(笑)
我々がコアラを探して未舗装路を歩いていると「コアラはいるのかい?」といって車から話しかけてくる観光客の人が何組もいた。「いるよ!」「何匹か見たよ!」と答えたが、彼らはクルマで走りながら探していた。多分車からは見つけられないと思う。地道にユーカリの木を見上げながら歩くことが必要だ。
1時間ほどコアラを探して歩き回ったが、上の方ばかり見ていたので首が疲れてしまった。みなさんも、どうしても野生のコアラを見たければ、メルボルンでレンタカーを借りて160kmほど走り、ケネットリバーを目指して欲しい。朝と夕方であればかなり高確率で野生のコアラに遭えるはずだ。
意外な場所でも目撃した
そういえば、この他にもう一度、コアラを目撃している。ちょうどケネットリバーを目指して走っている途中、アポロベイという町に着く直前に、道路沿いのユーカリの木に掴まって葉を食べていたのだ。何台もの車が停まって、人が木を見上げていたので気がついた。つまりはオーストラリアの人たちにとってもコアラは十分に珍しいのである。
それにしても、道路沿いにいるということは、他の木に移るために地面を歩く際に道路上を通る可能性もあるということで、車に轢かれないことを祈るばかりである。コアラのいるエリアには標識が出てはいるが、地上を歩いている可能性は低いので、注意している人は少ないだろう。そして、広い国土なので、ゆっくり走っていてはなかなか隣街に着かない。多くの車は日本と同じぐらいのハイペースで走っているので、田舎道で突然コアラが路上にいても避けられるとは限らないだろう。
野生のコアラやカンガルーを見るにはレンタカーは必須
というわけで、オーストラリアを5日間ほどドライブした感想としては、野生のカンガルーやコアラに遭うためには、レンタカーを借りてドライブする必要があると思う。カンガルーは牧場がなくなるぐらい田舎に行けば、割と高確率で遭えそうだ。コアラに遭える場所は少ないので、検索して特定の場所に行く必要がある。我々が行ったケネットリバーは有力なポイントだが、他にも何カ所かそういう場所があるようだ。
もし、公共交通機関しか使えなくても、動物園に行けば日本の動物園よりは野生に近い環境でこれらの動物に会える。なにしろ、風土は彼らに適しているのだから。また、メルボルン市街近くでは、野生のペンギンを見られる海岸もある。我々が行ったのは、セントキルダという路面電車で行けるような場所だが、バイクレースで有名なフィリップアイランドという島に行くと、もっと多くのペンギンに出会えるらしい。野良ペンギンはかわいい。
オーストラリアで野生の動物に出会うためには、十分にゆとりのある日程で旅行する必要がある。ぜひ、たっぷりと休暇を取って、野生のコアラやカンガルーを見る旅に出掛けてほしい。彼らは十分にその価値のある動物だ。