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Interview

東急の提供するモビリティの価値とは

求めるものは「便利」から「快適」へ

author: 田中 謙太朗date: 2022/07/07

私たちのライフスタイルの中に組み込まれて久しい「サブスクリプションサービス」(以下、サブスク)は、技術の進歩とともに対象領域を大きく広げ続けています。そして、私たちにとって昔から身近なサブスクといえば電車の定期券でしょう。今回は東急電鉄が2021年5月12日から10月31日まで提供した、定期券に付随するサービス「TuyTuy(ツイツイ)」について取材しました。

便利な路線沿いに住みたいと思うのは、鉄道網の発達した都市から影響を受けているからでしょうか。コロナが明けつつある今、再び鉄道プラットフォームによる価値創出の機運が高まっています。

変化の著しい渋谷の開拓のパイオニアとして、サービスにおいても挑戦的な姿勢をとる東急電鉄。そんな同社の提供するサービスである「TuyTuy」は、沿線生活でのサービス体験の機会を生み出すことを目的としたサブスクです。(なお、すでに実証期間は終了しており、今後については未定)

TuyTuy の提供するサービス

サービスの利用例。左から、充レン、アイカサ、LUUP。(写真提供:東急電鉄)

TuyTuy(ツイツイ)は東急線のPASMO定期券ご利用者さま限定の環境配慮型サブスクリプションサービスです。(TuyTuyホームページより)

 以下にサービス内容と分類をまとめてみました。※内容は2021年10月31日時点のもの

本業のモビリティに関することだけではなく、「沿線内の色々な魅力に気づいてもらおう」という意図があることがわかります。

TuyTuyサービス始動のきっかけ

「TuyTuyのサービスを始めたきっかけは、コロナ禍による定期券の減収がありました。新たな価値を付与することで、これまでのユーザーだけでなく新たなユーザーを開拓することを目的として始まりました」と、東急電鉄・鉄道事業本部運輸計画部沿線マーケティング課の小島さんは語ります。しかし、サービスが現実化していくにつれて目的が変化したそう。

「さまざまなサービスとの連携によって移動の快適性を上げていき、利用者のロイヤリティを強化することが目的となりました。これまでは、距離・量・速さという効率性向上が最大のミッションでしたが、それらはすでにかなり洗練されています。これからは移動手段としての鉄道をどのように使いやすくしていくか、ということが鉄道会社の主なミッションへ変化していると感じています」

「環境配慮型サブスク」の現在地

かの渋沢栄一が東急電鉄における事業をスタートしたのは「まちづくり会社」としてのことでした。その血脈を感じさせるのがこのサービスにおいて銘打たれている「環境配慮型」という文言です。

「環境配慮というと我慢するイメージを持ってしまいがちですが、意識の外側での行動による貢献もあります。それらを実感してもらうことは環境配慮を進めていく上では重要なテーマであると感じています」

ユーザビリティの向上や環境貢献の可視化によって環境配慮との距離を近づけ、利用者のロイヤリティ向上とブランディングを行い、環境配慮を「配慮」で終わらせない工夫をしています。

一例として、2019年に東急世田谷線の運行は再生可能エネルギー100%電力での運行を開始しており、2022年4月からは全線を対象に、再生可能エネルギー由来の電力100%での運行を開始しました。全線での再エネによる運行は日本初の取り組みで、鉄道業界における環境配慮のステップを大きく進めたといえるものです。

再生可能エネルギー由来の電力100%で走る東急世田谷線

環境への取り組みを早くから分かりやすい形式で実施してきたからこそ、利用者側の変化もわかりやすかったそう。現在同社において取り組む「遺失物のリユース」における反応を次のように語りました。

「通常、遺失物は一定期間で廃棄物として扱われ、通勤の減少した2020年度でも25トンの遺失物が廃棄されています。そういった遺失物をリユースする、という取り組みでしたが当初は賛否両論がありました。しかし、続けていくとだんだんと賛成意見が増えてきて、現在では体感で9割ほどの方から良いご感想がいただけています」

この取り組みのように、利用者から事業者というニーズの流れが、事業者から利用者へも働いていることから様々な取り組みへのリーダーシップがうかがえます。

東急電鉄の描く未来

最後に、東急電鉄からのメッセージを聞いてみました。

「東急電鉄はまちづくり会社です。地域への定住が何よりも重要で、鉄道はあくまでもそのためのプラットフォームのひとつだと考えています。より良い地域環境の整備のために、多くのフィードバックを得ることで個人のニーズにより強く応えていきたいです」

「決める手間」を省いてくれるサブスク

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我々の生活はすでに高度に便利化されています。電車は10分に1本のペースで出ているし、お昼どきから夜中まで食べる場所に困らない生活が当たり前の日常として身に染み付いています。そして、我々の生活に残った唯一の「不便さ」は「決めること」にのみ宿っているのです。

サブスクは私たちの「決める手間」を省いてくれます。どんなときも一度決めたサブスクの利用をひとつの手段として生活すれば「決めること」も「迷うこと」も最小限に抑えられる。サブスクサービスの本質とは、「決意へのコストの最小化」なのではないでしょうか。

TuyTuyにおいては、サービスのカバーする生活領域の広さによってパーソナライズの余地を残していることが特徴的なサブスクです。「沿線生活の豊かさの拡張」という意味合いだけでなく、夕食の献立からスキマ時間の利用方法まで、「TuyTuyを確認してみる」という選択肢を手に入れることこそが東急電鉄の提供するこのサービスの本質的な価値なのです。

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ライター
田中 謙太朗

2001年東京生まれ。早稲田大学在学中。共同通信社主催の学生記者プログラムに参加したことをきっかけに執筆を開始。その後、パナソニックのイベントへの登壇など、記者としての活動と並行して、英自動車雑誌『Octane』の日本版にて翻訳に携わる。主専攻である土木工学に関連したまちづくりやモビリティに加えて、副専攻に関係するサスティナビリティに関する話題など、これからの時代を動かすトピックにアンテナを張る。
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