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Review

“風の時代のマスターピース”

キリッと仕上げられたディテールに刮目せよ

author: 竹石 祐三date: 2022/03/12

長い時の流れのなかで、今は200年に一度の変革期なのだという。お金の価値や仕事のあり方が変わり、そして何より“所有する時代から所有しない時代へ”とシフトしつつある。そんな、持たない時代に“あえて”所有したくなる腕時計とは何か?

時計というジャンルに携わるようになってから約10年。いいと感じた時計は数多くあるが、初めて実物を目にした瞬間に魅了され、今でもその時の印象が忘れられないブランドがある。「グランドセイコー」だ。

グランドセイコーは、スイス製こそが最高級時計と認識されていた1960年、世界最高級の腕時計を作り上げるという意志を持ってデビューしたブランド。その後は精度を追求するのみならず、ブランドのデザイン理念である「セイコースタイル」を確立し、世界に挑戦する国産最高級時計にふさわしい佇まいをも作り上げた。1969年に起こったクォーツ革命によってブランドは一時休眠状態に陥るものの、1988年には高精度ムーブメントを搭載したクォーツモデル「95GS」で復活。以後、機械式モデルの復活やスプリングドライブムーブメント搭載モデルの発売を経て、2017年には独立したブランドとしての歩みをスタートさせ、世界的な支持を獲得している。

1959年発売の「クラウン」をベースに、特別調整を施して誕生した初代グランドセイコー。搭載する「Cal.3180」は、当時最も高精度とされていたスイス公式クロノメーター検査基準の優秀級企画と同レベルの精度を実現した。
クォーツ革命によって1970年代に入ると休眠状態となってしまったグランドセイコーは、1988年、年差±10秒の高精度ムーブメントを搭載したクォーツモデル「95GS」で復活。

独創性あふれる「マスターピース」を筆頭に、スタンダードなデザインを展開する「ヘリテージ」、パフォーマンスを重視した「スポーツ」など多彩なコレクションを擁するグランドセイコーだが、なかでも今、最も注目されているのが「エボリューション9コレクション」だろう。これは、これまで鏡面を中心に構成されていたグランドセイコーのデザインコードに効果的に筋目を加えることで美しいグラデーションを生み出すとともに、視認性や装着性を進化させた新コレクション。とりわけ、機械式、スプリングドライブ式のグランドセイコーをそれぞれ製造する岩手県、長野県の白樺林をモチーフとした「SLGH005」や「SLGA009」の力強くも静謐さを漂わせるパターンは、目にした瞬間から心を揺さぶられたし、さらに、限定モデルのみに用いられている年輪をモチーフとしたダイアルは、本物のウッドを使ったのではないかと思わせるほど有機的だ。

昨年、セイコーの創業140周年を記念して発売された、世界限定140本(うち国内60本)の「SLGH007」(660万円)。年輪に着想を得た有機的なダイアルのパターンとプラチナ製ケースとの組み合わせが重厚な雰囲気を放っている。

もともと型打ち模様を施した時計としては、2005年発売で、雪白ダイヤルやスノーフレークダイヤルと呼ばれる「SBGA011(現在のSBGA211)」などがあったが、ここ最近で積極的に用いられるようになった。前述の白樺ダイアルを嚆矢として、年輪ダイアルや長野県・諏訪湖の水面に着想を得たパターンなど、シリーズ誕生からわずか1年の間にバリエーションを拡充。高い技術力によって生み出された多彩な表情は、グランドセイコーのタイムピースに新たな魅力を付与したといえるだろう。

グランドセイコー エボリューション9 コレクション スプリングドライブ 5 Days SLGA009 104万5000円

2021年発表の「SLGH005」に続く、“白樺”モデルの第2弾。搭載するスプリングドライブムーブメントCal.9RA2は、本体の薄型化に寄与するのみならず、平均月差±10秒の高精度や約120時間ものパワーリザーブを実現。パワーリザーブインジケーターはケースバックにレイアウトされ、白樺ダイアルが放つ静謐な雰囲気を存分に堪能できるようになっている。スプリングドライブ自動巻き、Cal.9RA2。SSケース、ケース径40mm、日常生活用強化防水(10気圧)。

と、ここまでグランドセイコーの新世代コレクションにフォーカスしてきたが、実のところ、筆者の心を大きく揺さぶったのは、ハイビートムーブメントを搭載したシンプルなデイト付き3針モデル。現行モデルでは「SBGH277」がこれにあたる。歪みのない平面の多用によって構成されたケースが光の反射によって立体的な造形をみせるばかりか、そこに組み合わせられる時分針やインデックスもキリリと角が立っており、実にエッジィでモダンな表情を生み出している。もちろん、こうした仕上げはグランドセイコーのタイムピース全般に用いられているのだが、「SBGH277」をはじめとするベーシックなモデルはとりわけシンプルなデザインであるがゆえに、繊細な仕上げが際立ち、ひとつひとつのディテールがデザインエレメントとして十分に機能していることを実感させる。それゆえ、ディテールを眺めているだけでも楽しいのだ。

グランドセイコー ヘリテージコレクション SBGH277 70万4000円

3万6000振動/時の振動数によって外乱の影響を受けにくく、安定した精度を実現するハイビートムーブメントCal.9S85を搭載。歪みのない平面を多用したケースと放射状のパターンを施したダイアル、さらにはエッジの効いた針とインデックスを組み合わせることで、時計全体が上品な輝きを放つ。シンプル&ベーシックなデザインだが、それゆえに丁寧な仕上げが実感できる。自動巻き、Cal.9S85。SSケース、ケース径40mm、日常生活用強化防水(10気圧)。

かつて、この時計が気に入っている旨を話したところ「グランドセイコーは“上がり時計”だね」と言われたことがある。さすがに欲しい時計はまだまだあるので“上がり”にはならないが、TPOを考えずに着けられるデザインに加え、傑出したクオリティを持つグランドセイコーは、一生涯使える時計であることは間違いない。

(問)セイコーウオッチ TEL.0120-061-012

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編集者/ライター
竹石 祐三

編集プロダクション、出版社勤務を経て2017年に独立。(ほぼ)時計メインの編集/ライターとして、専門誌やライフスタイル誌などで執筆している。
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