「王様のアイディア」というお店をご存じだろうか? 開店は1965年(昭和40年)、最盛期には全国50店舗以上を展開していた、アイデア商品のお店だ。私個人としても、小学生から高校生にかけて、頻繁に足を運んでいた。私の行きつけは吉祥寺の駅ビル「吉祥寺ロンロン(現「アトレ吉祥寺」)」にあった吉祥寺店。毎回買うわけではなく、多くは見るだけであったが、新しい商品を発見するだけで刺激を受けていた。
多くの少年少女の知的好奇心を刺激していたであろう「王様のアイディア」も2007年には全店舗が閉店してしまう「東急ハンズ」や「ロフト」、「ヴィレッジヴァンガード」の登場もあって、2000年前後には以前の輝きがなくなっていたと記憶している。最後に店を覗いたときは「王様、アイディア枯れちゃったのかな?」と心配になったからね。
そんな「王様のアイディア」がECサイト(ネットショップ)で復活するというので、さっそく取材してみた。
2022年2月22日(火)、東京カルチャーカルチャー(東京都渋谷)にて「王様のアイディア大復活祭」が開催。ECサイトのオープニングカウントダウンや商品紹介、参加クリエイターによるトークショーがYouTubeでオンライン配信された。
大人買いしたくなる、懐かしの人気商品
会場には、新たなECサイトで販売されるアイテムが並べられていた。まずは、かつての店舗で売られていた懐かしの人気商品を紹介していこう。当時、欲しかったけど買えなかったアイテムを大人買いしたくなるのではないだろうか。
1975年にブームを巻き起こした毛虫のようなおもちゃ「モーラー」。コツを掴めば、まるで生きているように動かせる。おっさんが想定する利用シーンとしては、バーカウンターで飲みながら手指に這わせていると、隣で飲んでいた女子が「何それ!?」と食いついて会話が弾む。そんなクラシカルな妄想が似合う、昭和なアイテムである。
アナログレコードの上をぐるぐる回りながら音楽を再生する「レコードランナー」。当時は実用性とオシャレ、面白さを兼ね備えたアイテムとして人気を博した。アナログレコードをオシャレアイテムと認識している平成世代には新鮮な驚きもあるのではないだろうか。金メッキの特別バージョンはすでに売り切れ。
日本名『水飲み鳥』である「ドリンキング・バード」。かつての子どもは、「これは永久機関ではないか」と眺めていたものである。実際は、管の中の液体(液化メチレン)が熱力学で移動することによって動くのだが、太陽電池で動くおもちゃよりもはるかにセクシーだ。
これも知っている人には説明不要なアイテムである「ニュートンのゆりかご」。端の球を持ち上げて離すと、反対側の球が弾かれ、カッチンカッチンと音を立てながら往復運動をする。物理の説明にも使えるが、当時はオシャレなインテリア雑貨でもあった。
無数のピンに手などを押し付けると、その形状が立体となって現れ、それをフレームとして飾っておける「ピンアート」。「だから何?」と思うかもしれないが、手を押し付ける感触が楽しい。平面から立体が生まれるのは、映画『ターミネーター』の液体金属ロボットっぽさもある。ちなみにピンの素材はかつて金属だったが、今回は安全性を考慮してプラスチックになっている。
寝転びながらテレビの視聴や読書ができるメガネ「怠け者専用メガネ」。今でこそ、寝たまま使えるスマホスタンドのような製品がたくさんあるが、そういった“意識低い系アイデアグッズ”の先駆けと言える。とにかく疲れることはしない、王様ならではのアイデアである。
500円玉でいっぱいにすると、それぞれ100万円、10万円になる貯金箱「貯まるBANK」。10万円はともかく、100万円で達成した人はいるのだろうか。さらに夢のないことを言えば、今小銭を銀行に預け入れると手数料が高い問題が発生しており、それも考慮して使用しなくてはいけない。
イスの上に置いて、座るとおならの音が出るイタズラグッズ「ブーブークッション」(ほぼ説明不要と思われるが、一応説明してみた)。かつての「ブーブークッション」は、使う度に息を吹き込まなければならなかったが、最新モデルは低反発クッションのように勝手に形状が回復するので、その都度息を吹き込まなくてもいい。単体としては非売品で、「懐かしのグッズセット」(モーラー、ドリンキング・バード、ニュートンのゆりかごS、ピンアート)に付いてくる。
令和の「王様のアイディア」を彩る新商品
納豆のようなパッケージに入った金色のクリップ「金色納豆くりっぷ」。タレの袋には磁石が入っており、クリップが吸い付いている様子は納豆のよう。
先端が浮き上がっていて、テーブルに触れずに置くことができる箸「ウキハシ」。食器の上に箸を置くのはマナー違反、さりとてテーブルに直接置きたくはない。毎日の食卓に箸置きを用意するのは面倒だ。そんな問題を全て解決する本商品。コロナ禍の時代でもありヒットしそう。
二つ折りの形状のティッシュケース「Folio フォリオ ティッシュケース」。ティッシュの引出口は凸凹の両側になるので、置き方の自由度がかなり高い。ゲーム『テトリス』のブロックのように隙間にはめ込みたくなる。
コウモリをモチーフにしたコルク抜き「Design Vino コルクスクリュー&ボトルオープナー」。頭の部分は栓抜きとしても使える。ワインを3割増しでオシャレに見せられる。
耳に装着すると、まるで長ーいダックスフントが頭を貫通しているように見える耳せん「ミミペット」。ツッコミ待ちみたいなアイテムだが、大きな声で指摘してくれないと聞こえない。
温度で色が変化する、葉っぱの形の温度計「Leaf Thermometer」。シール付きで部屋の壁などに貼ることができ、季節によって緑、黄色、焦げ茶色と色が変わるのが面白い。Sサイズは8枚、Lサイズは5枚入り。
他にも多数、スタッフが厳選した約50種類の商品があるので、ぜひECサイトで確認してみてほしい。
新たな商品は、昭和のアイテムに比べれば、どことなく洗練されている気がする。そうはいっても、王様のアイディアらしさは感じられる。あったら便利なアイテムと、ひと目見て欲しくなるが冷静に考えたら必要ないアイテム、絶妙なバランスで成り立っているのが「王様のアイディア」の魅力だった。
「必要ない」ってディスってるわけじゃないですよ。要らないけど欲しいって、純粋に魅力が高いってことですからね。しかも、これらのアイテムに触れると、自分も何か新しいアイデアを生み出せる気がしてくる。でかいことを言えば、「王様のアイディア」の復活は、日本のものづくりの再興につながっていくはずだ。