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Interview

パナソニックの答えを求めて。

レイアウトフリーテレビは、次なるテレビの可能性を提案する

author: 小林 雄大date: 2022/02/02

以前、Beyond magazineでパナソニックの新型テレビ「レイアウトフリーテレビ」を紹介した。その記事の中で、製品の概要とともに20代後半の筆者の感想を交えて遠慮なくマイナスポイントも述べさせていただいた。しかし、担当者の想いや開発の裏側を知らずに、一方的に意見するのはいかがなものか! ……ということでパナソニックの本拠地、大阪・門真にお邪魔して、商品企画の野村さん、デザイナーの谷村さんに話を伺ってきた。

「レイアウトフリーテレビ」とは、テレビ本体を同梱のチューナーと無線接続することで、アンテナ端子の位置を気にせず設置できる、2021年10月に発売されたパナソニックの新型テレビ。詳しくは「20代の目には、どう映る? 「レイアウトフリーテレビ」は僕たちの生活を変えるのか」をご参照いただきたい。

この記事の中で良い点も悪い点も紹介させていただいたわけだが、今回は筆者の目線だけでなく20代女性の目線でも「レイアウトフリーテレビ」を見て判断してもらうべく、編集者の中野里穂さんにも同行してもらった。

レイアウトフリーテレビの開発背景

写真左から、パナソニック株式会社・デザイナーの谷村陽一さん、商品企画の野村美穂さん、Beyond magazineディレクターの小林雄大、編集者の中野里穂さん。

小林:先日は記事を執筆させていただきありがとうございました。改めて、商品開発の背景や意図を教えていただけますでしょうか。

野村:前提として、お客様のリビングでの過ごし方が変わってきたことがあります。ひと昔は、家族がリビングに集まってみんなでテレビを観るというのが主流でしたが、いまは家族がなんとなくリビングに集まって、それぞれ好きなことをしていますよね。例えば、リビングで勉強する子どもがいたり、スマホをいじりながらテレビを観る人がいたり、なんとなく家族の存在や気配を感じながら過ごす場所に変わってきていると思います。

一方のテレビは大画面化が進み、使っているときはいいけれど、使っていないときは黒い大きな物体になってしまってインテリアを損なうという声がありました。そこで、新しいリビングでの過ごし方に合ったテレビを提案したいという想いで「レイアウトフリーテレビ」を開発しました。

小林:私はこの製品のターゲットは20代後半~30代の夫婦、子どもは5歳くらいのファミリー層がターゲットだと想定していたのですが、実際はどのようなターゲットを設定されていたのでしょうか。

野村:30代後半の夫婦で、末子が幼稚園に通っている家族を想定していました。また東京や大阪などの都会で住居が手狭になっており、子どもがいるからリビングを広く使いたいという人をペルソナに設定しています。ちなみに20代後半以上だと想定していた理由はなんでしょうか?

小林:「レイアウトフリーテレビ」の可動性を考えると、とくに小さな子どもがいると機能が最大化されると感じたからです。ただ最大の理由はカジュアルなデザインです。30代後半~40代だと、もう少しデザインにラグジュアリー感が求められるかなと思いました。

谷村:実はラグジュアリーな方向にデザインしたモックも作っていました。しかしコンセプトが決まる前の段階で、この製品をどういうモノにするか、どう使うか、空間の中でどういう存在であるべきか、ということを先に考えました。そこで、どの空間にもディスプレイだけ欲しいよねという話になったんです。極端な話、画面以外はなにもいらないというのが理想。ただどうしても支える足が必要になります。モノとしての価値よりも、この製品を使って何をするかという体験価値を高めたかったのです。

小林:デザインの美しさやかっこよさを主張する製品ではなく、調和や体験を邪魔しないデザインにしたということですね。

調和するデザインと徹底的に求めた安全性

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谷村:実際に見てもらうと分かるのですが、製品とリビングの雰囲気がマッチしていると思います。黒物家電という言葉があるようにテレビはブラックカラーが主流ですが、「レイアウトフリーテレビ」ではホワイトカラーを採用しています。とくに女性の意見として、黒い大きな物体があるのをよく思わない方もいらっしゃいます。背面は壁紙のようなエンボス加工を施しており、テレビを使わないときは裏向きにしておけば、インテリアにも馴染ませて置いておけます。

中野:初めて拝見しましたが、背面のデザインがすごくきれいです。配線がごちゃごちゃしていなくて、壁紙みたいで可愛い。フラットになっているのもいいですね。しかも四隅の角が丸いので、小さいお子さんがいるご家庭でも安心かなと思います。

谷村:まさに女性目線ですね、男性だとなかなか気づいてもらえない(笑)。男性には角張った金属調のデザインが好まれるんですよ。ちなみに土台を円状にしているのですが、これはテレビを動かしたときに四角形だと足に当たってしまうからです。

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野村:あとコンセントがマグネット式になっており、仮に足をひっかけてしまっても外れるので転倒のリスクも低いです。またテレビを使わないときは土台にコンセントを収納できるのですっきりと見せられますし、使用時にコンセントが長すぎた場合は調整もできます。

谷村:開発メンバーに女性も多いので、男性には出てこない意見が多く挙がりました。転倒のリスクを回避するための仕組みはものすごくこだわりました。

中野:ただ土台が小さくなると、もっとインテリアに馴染みやすくなるかなとは思います。

小林:転倒防止などの安全性を配慮されて、この設計になっているのが重々承知しているのですが、もう少し土台は小さくならなかったのか、画面を支える首を伸縮できる設計にできなかったのかと僕も正直思ってしまいました。 

谷村:まさにそうなんですよね。我々としても改善したい点ではあるのですが、そこは安全性を配慮した結果になります。耐震テストを何度も行い、坂道に立てたときの倒れにくさ=転倒角という法規もクリアする必要があります。そうなると下の土台と、上の大きさの関係が決まっちゃうんです。高さを上げれば上げるほど、土台のサイズも大きくなってしまいます。一応首が伸ばせるタイプも作ってはいましたが、さらに土台が大きくなってしまうことから今回の製品では見送りました。ただ安全性を保ちながら、できる限り小さくするために、土台におもりをいれるなどの工夫をしています。

野村:もちろんその中で美しく見せるためのちょうどいいバランス感にはなっています。実は一般的な43インチのテレビをテレビ台に置いたときと同じくらいの高さに設計してるんです。

小林:ちなみにテレビの厚みはもっと薄くならないのでしょうか。

谷村:厚さは改善できると思います。例えば、ディスプレイを有機ELに変えるだけでも違いますが、その分値段が上がってしまいます。あと「レイアウトフリーテレビ」を移動させるときに厚みが薄すぎても動かしづらいし、割れる危険性もあります。運びやすさや価格面などを開発段階でさまざまなパターンを検証した結果、今回の厚みに決まりました。

インテリアのあり方を変えるテレビ

小林:移動範囲の想定畳数はどれくらいになりますか?

野村:リビングとダイニングで15畳くらいを想定しています。平均的な都市部のマンションの設計図を見ながら検討し、あとは一般的なコンセントの位置がだいたいダイニングとリビングの間にあるので、そこからコンセントの長さを決めました。

谷村:建築家さんから伺ったのですが、設計するときにまずテレビの位置から決めるらしいんですよ。テレビはここだから、ソファをここに置いて、という縛りが嫌だとおっしゃっていました。自由に設計したいのにテレビに縛られてしまうんです。「レイアウトフリーテレビ」はテレビ台がいらなくなるので、自由の幅が広がるはずです。

中野:それは思ってました! 部屋のレイアウトを決めるときって、テレビが主役になってしまいがちですよね。他のインテリアも「テレビに合うかどうか」で選んでいました。

小林:前回の記事の中でせっかく新しいコンセントのテレビなのだから、インテリアに調和するデザインではなく、インテリアとして部屋に置きたくなるくらいかっこいいデザインだと良かったと書かせていただきました。“体験価値”を重視したというお話があったので、的外れな意見かも知れませんが今後の可能性をお聞かせいただけますでしょうか。

谷村:先ほどお話ししたラグジュアリータイプのモックを作ったとき、個人的には気に入っていましたが、メンバー間では評価が別れていました。ただそのときに思ったのが、そもそもレイアウトフリーテレビって価値の方向性が違うということ。まずはお客様にモノ価値ではない体験価値を受け入れてもらって、その後にラグジュアリーの選択肢を提供するのはありだと思います。あと「レイアウトフリーテレビ」は、地上波放送を観るだけのテレビではなく、人によって違う使い方があるはずです。残念ながら、地上波放送を見ない人が増えていますよね。

中野:私はテレビの電源を付けたら、すぐにリモコンのYouTubeボタンを押しちゃいますね。

谷村:なので単なるテレビとしてだけでなく、ひとつの可動式ディスプレイとしての可能性を感じてもらえたら嬉しいです。

小林:最後に価格についてお聞かせください。市場想定価格で24万円、2021年12月時点の実勢価格が22万円と、少々高く感じてしまいました。たしかにテレビ、レコーダー、チューナー、スタンドを足し算すると納得の価格なのですが、例えばレコーダーをなくすという考えはなかったのでしょうか。

野村:レコーダーをなくすという選択肢はなかったです。ターゲットがファミリーということもあり、子どもたちは地上波放送の話題もしますし、お母さんたちはドラマを録画して観ます。また新しいテレビの使い方として、ハードディスクにスマホの写真などを溜めることができるんです。リモコンの写真ボタンを押すだけで、大画面で思い出の写真を楽しめるという機能です。これまでは子どもが写真を見せてとお願いしてきても、スマホの小さな画面を覗くことになってしまう。テレビの新しい使い方の提案をしたかったです。

中野:いまの話を聞いて、すごくいいなって思いました。例えば、食卓を囲みながら運動会の写真をみんなで見れば、家族で共有できる時間を増やすことに繋がりますね。

野村:ディスプレイを常にオンにしておいて、フォトフレームのように写真を表示させる「ギャラリー」機能もあります。これまでのテレビは使っていないときに大きな黒い物体になってしまう問題がありましたが、「レイアウトフリーテレビ」は使わないときにも価値が生まれる製品ではないかと思います。

谷村:もちろん需要はそれぞれ違っていて、映画を観るためにオーディオシステムを組んで高画質、高音質でテレビを利用される方はいると思います。ただ今回の製品はアンビエントなテレビ、生活の中に馴染むテレビとして使っていただけると嬉しいです。

知れば知れるほど惹かれるテレビ

今回の取材を終えて、「レイアウトフリーテレビ」が好きになった。正直、自分のライフステージを考えるとまだ購入することはないが、従来のテレビから脱却する新しいテレビであることを再認識できたし、この製品によって暮らしが豊かになる人も多いはずだという考えに至った。また取材前の大きな誤解にも気がついた。それはモノ価値ではなく“体験価値”を提供するテレビだということ。テレビ単体でのカッコ良さや可愛さを売りにする製品ではなく、このテレビを通してどういう体験を提供するかと考えて作られていたのだ。使う人によって多様な使い方が生まれる、僕が考えていたよりずっと先を見据えていたテレビなのかも知れない。

レイアウトフリーテレビ(4K液晶テレビ)

液晶ディスプレイ:43V型
外形寸法(スタンドあり):98.0×118.2×49.2 cm
録画機能:内蔵ハードディスク 2TB
チューナー数:BS4K・110度CS4K=2、
地上デジタル=3、BS・110度CSデジタル=3
市場想定価格:24万円

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Beyond magazine編集長
小林 雄大

ファッション業界や音楽業界、ソニー・ミュージックエンタテインメントのWebメディア「d365」副編集長を経て、独立。現在はフリーランスの編集者として、企画・編集・執筆を中心に活動。新規メディアの立ち上げや企業内の新プロジェクトなど、情報発信に関わる土台構築から実行まで広く携わる。
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