「DS 7 CROSSBACK」という車名を聞いて、ピンときた人は結構なクルマ通でしょう。シトロエンから独立したプレミアムブランド「DS AUTOMOBILES」のフラッグシップマシンで、母国フランスでは大統領の就任パレードにも起用されるなど、同国を代表するSUVです。今回試乗したのは「E-TENSE 4×4」というプラグインハイブリッド(PHV)バージョン。フロントとリアに2機の電動モーターを搭載し、4輪を駆動させられるだけでなく、電気だけでも走行できる先進的なモデルです。
内外装だけでなく走りもエレガント
このマシンのエクステリアは一言でいえばエレガント。尖ったデザインではありませんが、遠くから見ても「自分のクルマだ」と一目で見分けられる存在感があります。ドアを開けて広がる空間はラグジュアリーという言葉がぴったり。シートはパールグレーのレザーで幾何学模様のステッチが施され、インパネやドアの内張りに至るまで、同様の意匠でまとめられています。
ダッシュボードにはB.R.M 社製のアナログ時計が。初めて乗ると見つけるのに迷うイグニッションスイッチは、この時計の下に配置されています。ほかにはなかなかない、このクルマのオーナーにだけわかるユニークなインターフェイスです。
パワートレインは1.6LのPureTechガソリンターボエンジンに、2機のモーターを組み合わせシステム最高出力300ps、最大トルク520Nmを発揮。リチウムイオンバッテリーを搭載しているため車重は1940kgと重量級ですが、その車体をわずか5.9秒で100km/hまで加速させる実力を秘めています。
走行モードは全部で5種類。エンジンと前後モーターを適切に活用する「ハイブリッドモード」が基本となりますが、電気のみで走行する「エレクトリックモード」、エンジンを主な動力源とする「スポーツモード」、悪路などで4輪を駆動させる「4WDモード」も選べます。
このクルマらしさを最も感じられるのは「コンフォートモード」。モーターを積極的に活用して静かに走れるだけでなく、フロントのカメラが路面をハイスピードでスキャンし減衰力を最適に調整するアクティブスキャンサスペンションが作動するので、極上の乗り心地を味わうことができます。街中によくある路面の継ぎ目や、マンホールの蓋などを踏んだ際もふんわりといなしてくれます。
フランス車らしい減衰の効いた足回りによるエレガントな走りは、ほかのSUVではなかなか味わうことができないもの。「スポーツモード」では一転してキビキビとドライバーの意図に反応し、鋭い加速感を堪能できる二面性もこのクルマの魅力です。
エンジンを主に用いるこのモードでは、バッテリーを温存するモードも選べ、街中では「コンフォート」、郊外のワインディングでは「スポーツ」を選び、自宅周辺に戻ったら静かな「エレクトリックモード」で走るといった使い分けが可能です。
上質さに磨きをかけるモーター走行
4輪が駆動するモードも備えているので、雪道や悪路の走行もお手の物。モーターによる駆動はグリップ状態に応じて前後輪にかかるトラクションを最適に制御できるので、ドライバーは心配をすることなく舗装路と同じように操作をするだけでOK。
週末はアウトドアに出かけるなど行動範囲を広げてくれるマシンです。ラゲッジスペースも広く、リアシートを倒すことでさらに拡大することができるので、キャンプ道具なども楽に積み込むことができます。
「エレクトリックモード」での走行距離は56kmとされていますが、実際に街中を走った感想ではもう少し短い印象。圧倒的な静寂の中で音もなく加速するこのモードのフィーリングは魅力的なのですが、使うシーンは選んだほうがいいかもしれません。
普段は「ハイブリッドモード」で走行し、夜間に帰宅する際に「エレクトリックモード」を起動、というような使い分けがスマートでしょう。
充電時間は3kW/200Vで約5時間、6kW/200Vで約2.5時間。日本の高速道路などによくあるCHAdeMO式の高速充電に対応していないのがちょっと残念なところですが、200Vの充電器はだいぶ普及が進んでいますし、自宅への導入も安価にできるのでオーナーになったらぜひ備えておきたいところです。
モーターのみでの走行フィーリングは、音も振動もないため、このマシンのエレガントな走りをさらに磨き上げてくれます。クルマの潮流は今、確実に電動化に向けて動いていますが、日常の使い勝手を考えるとガソリンでも走行できるPHVが最も現実的な選択肢。流行りのSUVであっても、多くの人と同じクルマは選びたくない人や、先進性を感じたい人には無二の選択肢といえるでしょう。