以前、SUVの足回りはフランス車の特性と相性が良いという話をプジョー「5008」を例に書きましたが、フランス生まれのSUVのなかでも個人的に乗り心地の良さに驚かされたのがシトロエンの「C5 AIRCROSS SUV」です。そのモデルにプラグイン・ハイブリッドが追加されたと聞き、以前から乗ってみたいと思っていたのですが、ついに念願がかないました。
かつてのハイドロの乗り味を再現!?
シトロエンの乗り心地というと、古くからのクルマ好きなら油圧を使ったハイドロニューマチック・サスペンションを思い起こすでしょう。残念ながら、現在のシトロエンはこのシステムを採用していませんが、「C5 AIRCROSS SUV」に搭載されるプログレッシブ・ハイドローリック・クッションというシステムは、かつての”ハイドロ”の乗り心地を再現したと高く評価されています。
プログレッシブ・ハイドローリック・クッション(以下、PHC)とは、ショックアブソーバー内にセカンダリーダンパーを組み込むことで、従来のサスペンションでは吸収しきれなかったショックを抑制するというもの。
通常のサスペンションは、フルストロークした際にバンプラバーと呼ばれるウレタンやゴムのパーツでショックを受け止めますが、その際に小さくない反発が生じます。この突き上げるような反発が乗り心地の悪化につながりますが、PHCではもう1つのダンパー(ショックアブソーバー)を内部に仕込むことで、衝撃を減衰させているのです。
その構造を理解していなくても、乗り心地の良さは誰しも感じられるものです。走り出すと、「あれ? この道の路面ってこんなに滑らかだったけ?」と思わされます。当然、舗装が良くなっているわけではなく、荒れたアスファルトであってもPHCが滑らかに感じさせてくれるのです。峠道などにある減速帯の上を走っても、その衝撃をしなやかに受け止め、何ごともなかったかのように通過できてしまうことには驚かされました。
かつての“ハイドロ”サスペンションは、その乗り心地が「魔法の絨毯」に例えられましたが、「C5 AIRCROSS SUV」の乗り心地は、まさしく絨毯の上を走っているかのようです。そして、その効果が砂利道などのオフロードを走っても感じられます。しかも、ゴツゴツした突き上げを絶妙にいなしながら、路面の変化は確実にドライバーに伝えてくれるので、タイヤのグリップ感を把握することもできます。
乗り心地の良さには、乗り手の身体を包み込んでくれるような感触のシートも一役買っています。
アドバンストコンフォートシートと呼ばれるシートの中央部は柔らかく、サイドはしっかりと身体をホールドしてくれるので、長距離ドライブも快適にこなせます。運転席には空気圧で肩や腰周りをサポートしてくれるマルチポイントランバーサポートを採用。このシートだけでも部屋に欲しくなるような座り心地です。
EV走行も可能なプラグインハイブリッド
「C5 AIRCROSS SUV PLUG-IN HYBRID」に乗ってみたかったのは、このモデルとプラグインハイブリッド(PHV)システムは相性が良いという確信があったから。
最高出力110PS、最大トルク320Nmを発揮する電動モーターはEV走行も可能なので、音も振動もなく走れます。エンジンは1.6L PureTechガソリンターボで、180PSの最高出力と300Nmの最大トルクを発揮。
システム合計での最高出力は225PSに達するので、1860kgの車体を軽々と加速させてくれます。
モーターのみで走行できる距離はWLTCモードで65km。通勤など日常的な走行であれば、1日分を十分にカバーできそうです。
仮にバッテリーが切れたとしてもエンジンで走行できるので心配いりません。気候変動への対応から、世界各国で電気自動車(EV)への注目度が高まっていますが、休日には長距離走ることも多いSUVにはPHVが適していると感じます。
充電は200Vの普通充電が基本で、高速道路のSAなどによくあるCHAdeMO式には対応していないのが残念なところですが、壁掛け式の200V/6kW充電器を自宅に設置しておけば、約2.5時間(コンセントタイプの普通充電では約5時間)でフル充電することが可能です。
実際にEV走行してみると、静かで振動がなく、PHCの滑らかな乗り心地と相まって極上の体験。フランス車の乗り心地を表す言葉として凹凸を感じさせない「フラットライド」というものがありますが、このクルマは本当に凹凸のある路面がフラットになったかのような乗り心地です。
それでいて、速度の乗るコーナーでもしっかりと路面を捉えてくれるので、都市高速などでもかなり元気な走りが味わえました。
ファミリーユースの多いSUVとしては気になるリアシートの乗り心地も上々。シートの座り心地が良いのに加えて、ヘッドスペースも十分に取られていて、開放感のあるパノラミックサンルーフを装備しているので窮屈さを感じることはありません。
ラゲッジスペースもSUVらしくたっぷりと確保されています。リアシートを倒せば、さらに広大なスペースが出現。リアシートは3分割式なので、荷物の形状やサイズに応じてシートを活かしたまま積むことも可能です。
魔法の絨毯のような乗り心地を実現するサスペンションが最大の魅力の「C5 AIRCROSS SUV」ですが、PHVとなったことで、その魅力がさらに磨き上げられています。
日常の走行は電気だけでこなし、週末にはキャンプ道具などを積み込みアウトドアに繰り出す。SUVでイメージされるこうした使い方に「C5 AIRCROSS SUV PLUG-IN HYBRID」はピッタリです。
そして、キャンプ場までの未舗装路を含めた道のりで、ほかのクルマとは一線を画する極上の乗り心地を味わうことができるでしょう。