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伝説的モバイルPC『VAIO U』の精神的後継モデル……かも!?

最新ゲーミングUMPC『GPD WIN 3』はビジネスにも効く!

author: 山下 達也date: 2021/08/06

この6月に正式発売された中国・GPDの最新ゲーミングPC『GPD WIN 3』は、既存の製品とは見た目から大きく異なる超・個性派モデルです。GPDはこれまでも多くのユニークなPCを世に送り出してきましたが、『GPD WIN 3』はその中でも群を抜いて個性的。ただ、そのスライド式ディスプレイと両端に張り出した操作部などを見て、“あのマシン”を思い出した人も多いのでは? ここではその魅力と真価についてレビューします。

これは令和の『VAIO U』なのか?

Windows 8登場時に流行った2 in 1モバイルノートを最後に、ノートPCの形状は再び古式ゆかしいクラムシェル(2つ折り)タイプが主流となっています。いろいろ挑戦してみたけれど、この形状が一番無難で使いやすいってことなんでしょうね。でも、スマホなんかもそうですけど、進化が行き着くところまで行くとガジェットってトキメキがどんどんなくなっていくように感じませんか? 進化としては正しいんだけど、無駄がなさ過ぎてちょっと物足りないみたいな……。

そんな中、今、ガジェットファンの間で話題になっているのがコンパクトなゲーミングPC『GPD WIN 3』(実勢価格:14万800円/Core i7モデルの場合)。カテゴリーとしてはUMPC(ウルトラ・モバイルPC)に該当する製品で、画面サイズ5.5型、重量約550gという超コンパクトなマシンです。画面の両脇にはゲーム用のコントローラーがNintendo Switchのように配置されており、画面を上にスライドさせるとキーボードが現れます。

これ、30代後半以上の人なら「これ『VAIO U』じゃん!」って思うかも。『VAIO U(VGN-UX50)』はソニーが2006年に発売した「世界最小・最軽量のWindows XPマシン」。画面を上にスライドすると現れるキーボードや左右の操作デバイスなどがたしかにそっくりなんですよね(写真右が『VAIO U』)。

でも、最初の話に戻りますけど、こういう挑戦的なスタイルが廃れたのって結局、実用性がなかったから。『VAIO U』は私も購入しましたけど、マシンパワーは貧弱だし、バッテリーは全然もたないしで(節約しても2時間弱くらいでしたね)、正直に白状すると半年くらいで限界を感じて売却しちゃいました。

じゃあ、『GPD WIN 3』もダメなのでは? と思われてしまいそうですが、これが全然違う。こんなにコンパクトにもかかわらず、高性能モバイルノートPC並みのパフォーマンスを備えており、しっかりとした実用性があるのです。『VAIO U』登場から15年。ついにモバイラーの“夢(妄想?)”が現実のものになりました。

パフォーマンスは必要充分以上。じゃあ何に使う?

『GPD WIN 3』は両サイドにゲーム機然としたアナログスティックやボタンが配置されていることからも分かるよう、ゲームのプレイを前提とした「ゲーミングPC」です。ですのでメインターゲットはゲーマーと言うことになります。実際、こんなにコンパクトにもかかわらず、『GPD WIN 3』はエントリーゲーミングノートPC級の性能を誇り、3Dグラフィックスを多用したタイトルもかなり快適に動作します。

基本スペックは以下の通り(Core i7モデルの場合)

OS:Windows 10 Home
CPU:Intel Core i7-1165G7(4コア/8スレッド/2.80GHz)
グラフィックス:lntel Iris Xe Graphics
メインメモリー:16GB
ストレージ:1TB SSD
ディスプレイ:5.5型(1280×720ドット)タッチパネル
インターフェイス:Thunderbolt 4/USB 3.2(Type-C)×1、USB 3.2(Type-A)×1、microSDカードスロットなど
ワイヤレス:Wi-Fi 6、Bluetooth 5.0
バッテリー駆動時間:最大14時間
本体サイズ:約W198×H92×D27mm
本体重量:約550g

ただ、ここではあえて、ゲーム以外の用途に使うことを提案させてください。このマシン、ゲームだけに使うにはもったいないポテンシャルを秘めているのです。

まずはビジネスモバイルとして。Beyondでは以前、『VAIO Z』を最強のモバイルノートPCとして紹介させてもらいましたが、どんなに薄型・軽量でもオフの日にまで持ち歩きたくはないんですよね。その点、『GPD WIN 3』ならウェストポーチにサッと入れておけるサイズなので、ノーストレスでどこにでも持っていけます。メール程度ならスマホでも確認・返信できるんですが、コメント・変更履歴を参照しながらWordファイルやGoogleドキュメントに手を入れたりするならやっぱりPCがいい。ファイルの扱いもスマホと比べてクセがないのでZipで送られて来たファイルを解凍して修正して、また圧縮して送り返すなんていう作業もスムーズに行えます。

あとやっぱりキーボードがあるのが便利。タッチ式なので快適なタイピングが可能とは言いがたいのですが、慣れればそれなりの速度で入力できます。UMPCでは記号類の配列が変態的になりがちなのですが、本機については特にそう言ったこともありません(ただしUS配列です)。目立ったところでは本来最上段右端にあるべき「ー」と「=」が最下段に移動し、「右Ctrl」「右Shift」が省略されているくらいですかね。

なお、こうしたビジネスユースでは役に立たないように感じる本体左右のゲームコントローラーはマウスの操作などに利用可能。デフォルトでは右スティックでマウスカーソルを動かし、L1ボタンで左クリック、R1ボタンで右クリックといった操作が可能です。十字キーなどに好みの操作を割り当てれば小さなキーボードの弱点であるコンビネーションキー操作もスムーズに行えますよ。

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コントローラーのボタン割り当てには専用のアプリを利用。十字キーなどのほか、本体背面に配置された2つのボタンにも操作を割り振ることが可能です。

本体右下には指紋センサーが搭載されており、いちいちキーボードを開かないでもワンタッチでログインできます。

さらに別売のドッキングステーション(実勢価格:8600円)を利用すれば、『GPD WIN 3』を据置型のPCとしても利用可能に。ドッキングステーションにはUSB端子やHDMI端子が用意されているので、キーボードやマウス、外付けディスプレイなどを接続可能です。

何度も言いますが基本スペックは非常に高いので(最新世代の高性能モバイルノートPCクラス)、パフォーマンスに不足はありません。下の写真ではキーボードとマウスを接続していますが、さらに外付けディスプレイ(テレビでもOK)に繋いであげれば、メインマシンとしても充分に活躍してくれるでしょう。

普段はこの状態で利用し、お出かけ時にはドッキングステーションからサッと取りだしてカバンの中へ……悪くないワーキングスタイルだと思いませんか?

もちろんゲーミングPCとしても一線級のパフォーマンス

なお、参考までに本来の用途であるゲーミングPCとしての性能をベンチマークスコアでお伝えすると、『ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク』では7000点オーバーの「非常に快適」を、より高いグラフィック性能を求める『ファイナルファンタジーXVベンチマーク』でも3000点台の「普通」という結果を叩き出しています。ベンチマークスコアはありませんが、定番人気の『Fortnite』や『Fall Guys』なんかもほとんどカクつくことなくちゃんと遊べましたよ。

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ただ、こうした本格的なタイトルをプレイするのであれば、『GPD WIN 3』ではなく、きちんとしたゲーミングPCを買うべきでしょうね。『GPD WIN 3』は画面解像度がHD(1280×720ドット)と粗く、画面も5.5型と小さいため、情報量の多いゲームのプレイには向いていないのです。さりとてドッキングステーション経由で外付けディスプレイに繋ぐとせっかくのコントローラーが使えなくなるというジレンマも。

また、ヘビーなゲームタイトルは『GPD WIN 3』のパフォーマンスをギリギリまで引き出すため、空冷ファンが最高速度で回転してかなり耳障りに感じました。UMPCでここまでできることには感動すら覚えましたけど、本格的なゲームをプレイする環境としてはストレス要因が少なくないように思います。

本機とベストマッチなゲームは3Dグラフィックスをそこまで多用しない、もう少しライトなタイトル。そういう作品であれば、携帯ゲーム機感覚で快適に楽しめます。たとえば以前SNSでバズった『NKODICE』なんかは快適に動作しました。UIが小型画面に最適化されていないため、設定画面などで操作しづらい問題はあったもののゲームプレイ自体には何の問題もありません。飲み会などに持っていったらバカウケしそうです(ああいう内容なので携帯ゲーム機やスマホではプレイできないんですよね・苦笑)。先日発表された『FINAL FANTASY PIXEL REMASTER』のようなレトロ系2Dゲームも相性良さそう。いわゆるメトロイドヴァニアやビジュアルノベルなんかもおすすめです。

『GPD WIN 3』は “あの頃のワクワク感”を持つ最新モバイルマシン

超コンパクトなゲーミングPCとして売り出されている『GPD WIN 3』ですが、(全方位で高いパフォーマンスを求められる)ゲーミングPCとして優秀ということは、どんな用途にも充分な実力を発揮するということ。今回、実際に購入し、使用してみてその認識に間違いがないことを改めて確認できました。『GPD WIN 3』はゲーミングPCとしてだけでなく、ビジネスモバイルPC、そしてデスクトップPCの代わりにもしっかり使えます。

ただし、全く完全無欠というわけではありません。まず今どきの在宅ワークで必須となるWebカメラが内蔵されていません。そのためビデオ会議をやりたい場合は別途Webカメラの購入が必要です。また、モバイルデータ通信(5G/LTE)に対応していない(SIMカードスロット非搭載)ので、出先でインターネットに繋ぐためにはスマホのテザリングなどに繋ぐひと手間がかかります。

とは言え、問題の多くはユーザーの創意工夫でクリアできるものがほとんど。『VAIO U』に憧れた世代であれば、そうしたところも含めて楽しめるのではないでしょうか。ひさびさにイジっているのが楽しい、ワクワクするマシンに出会えたと感じました。実用性もバッチリ備えていますから「高価なオモチャ」では終わりません。

今どきのPCは優等生過ぎてつまらないと感じている人にぜひ購入していただきたいですね。ていうか、国内メーカーも負けずにこういうPC出してくれないかな……(VAIOさん、ぜひ!)。

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デジタルグッズライター
山下 達也

ジアスワークス有限会社所属。「デジタル」が世の中に浸透し始めた90年代後半から、さまざまな情報誌・オンラインメディアで、PC、カメラ、スマートフォン、AV機器など、幅広いデジタル機器を紹介してきた。近年はサブカルチャーやテクノロジーなどの分野でも活動中。合理性、機能性だけでは説明できない“トキメキ”のあるガジェットをこよなく愛する。
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