趣味は、日常の中に楽しさやワクワクを添えてくれる存在。今はまだこれという趣味はないけれど、夢中になれる何かが欲しいなら、その“何か”を一緒に探してみませんか? 好きなことに没頭する素敵な方たちにその魅力を伺い、さまざまな選択肢に出合う「ニューホビー・スターターキット」。4回目にご紹介するのは、“刺繍”です。
自宅でまったり過ごす人も多い冬。今年は、ぬくぬくしながら刺繍にチャレンジしてみるのはいかが? とはいえ、緻密な作業で地道に仕上げる刺繍に、「なんだか難しそう……」というイメージを抱いている人も多いはず。時間さえあれば刺繍をしているという俳優の瀬戸かほさん曰く、「心の赴くまま、糸で絵を描くように進めるだけ。楽しむことが一番!」なのだとか。
今回は、趣味から始めた刺繍の作品を展示する初の個展を控えている瀬戸さんに、そのいろはを教わります。刺繍を始めるために必要な道具の買い出しから作業まで一緒に体験!

瀬戸 かほ
1993年11月11日生まれ。モデル・俳優。映画『リビングの女王』では第6回賢島映画祭にて助演女優賞受賞。2025年は主演作『NEW RELIGION』(Keishi Kondo監督)、『はらむひとびと』(中嶋駿介監督)が公開。趣味は刺繍で、彩り豊かな色を用いた細やかな作品が特徴。同年12月に自身初となる個展『花園』を開催予定。
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難しいことは考えず、とにかく気楽に。
「刺繍をしたい!」と思い立っても、まず何から手をつければよいのかわからないもの。初心者はどんなモチーフから始めるのがいいのか、必要なアイテムは何なのか、そもそも本や動画などを参考にした方がいいのか。そんな「基本のキ」から瀬戸さんに教えてもらいます。
瀬戸:まずはじめに、「とにかく気楽に楽しむこと!」と伝えたいです。私自身始めたばかりの頃は、刺繍の本を買って「その通りにしなくちゃ」と思っていたのですが、そうするとうまくできない自分に嫌気がさしてしまって。
そんなとき、旅先の旅館で出合った刺繍作品にハッとさせられたんです。植物をモチーフに、色も形も思い思いにのびのびと刺されていて、「もっと自由でいいんだ」と気づかせてくれるようなものでした。
そこから、「ルールに縛られず、自分の思うままに刺していけばいいんだ!」と思えるようになり、そこから一気に楽しくなりました。だから、とにかく気負わず! 自由な心で楽しみましょうね。
編集部:心強いです! なんとなく難しそう、と思っていたので、一気に肩の荷が下りました。初心者は、どんなモチーフから挑戦するのがよいでしょうか?
瀬戸:まずは小さめのモチーフがおすすめです。放射線状に刺していくシンプルな作業なので、今日はハートを作ってみましょう!
編集部:材料はどんなものが必要ですか?
瀬戸:まず糸と白い布、針ですね。それに加えて、刺繍枠、ハサミ、チャコペンがあればOKです! 手芸用品を売っている店であればどこでも大丈夫ですが、私はユザワヤで購入することが多いです。
編集部:それでは早速、ユザワヤに買いに行きましょう!

左上から糸、チャコペン、白い布、刺繍枠、針、糸巻き。刺繍をはじめるのに最低限必要な道具だそう。
いざ、ユザワヤに買い出しへ!
瀬戸さんと一緒に、ユザワヤ・蒲田店へ。都内でも有数の大型店舗だけに、目移りするほどのラインナップにワクワク。まずはビギナーが揃えておきたいアイテムを選んでいきます。

手芸道具を豊富に揃えるユザワヤさん
瀬戸:まず、糸から選びましょうか。今日のハートは何色がいいかな。黄色とか、かわいくないですか?
編集部:いいですね! と思いきや、黄色系だけでたくさんの選択肢が…… ! どうやって選びましょう?

瀬戸:私は一つのモチーフを作るときに、単色ではなく複数色を使うようにしていて。そうすると絶妙なグラデーションが生まれて、素敵に仕上がりやすいんです! それに、アラも目立ちにくいんですよ。今回だったら3〜4色くらい使えるといいですね。
編集部:なるほど! その場合は、色番号が隣り合わせの似ている色だけにするのですか?
瀬戸:いろんな組み合わせを手のひらに乗せながら、バランスを考えることが多いです。今回なら、オレンジ寄りの色、濃いめの山吹色、黄色、クリームっぽい色など、少し差をつけるのも可愛いですよ!

編集部:糸のメーカーもいろいろあります……。瀬戸さんはどのメーカーのものを使っていますか?
瀬戸:メーカーに関しては好みですね! 私は、DMCというメーカーの糸を好んで使っています。光沢があって、作品が映える気がするんですよね。太さもいろいろあるのですが、25番が一般的だと思いますよ。
編集部:一面に綺麗に並んでいる糸を見るだけでも、テンションが上がります!
瀬戸:ここにいるとどんどん時間が溶けていきます(笑)。

自分のテンションが上がる糸を探すのも楽しいポイントのひとつ。
編集部:糸を選んだら、次は布ですね! 布も種類が多くて悩ましい。選ぶ基準を教えてください。
瀬戸:より作品が美しく見えるように、白い布を主に使っています。あとは柔らかい方が刺しやすいので、触りながら選んだり。とはいえそんなにこだわりがないので、レジ前などに置かれている端切れを買うこともありますよ。もしくは「シーチング」という布にすることもあります。

お買い得商品発見〜! お目当ての布は無かったです、残念。
お買い得コーナーには、端切れもシーチングの白色もなかったので、大きな布を断裁していただきましょう!

編集部:次は針を選ぼうと思っていますが、想像以上に種類があってどれを買えばよいのでしょうか......。
瀬戸:基本的に、「刺しゅう針」と書いてあるものであれば、どれでもOK。ただ、針穴が小さいと糸を通しにくいので、気持ち大きめだと良いかと思います。針の長さに関しては、どれがやりやすいかは人それぞれ。そのため、アソートパックがあればそれを購入して、いろいろ試しながら自分にマッチするものを探してみてください。

編集部:次に選ぶのは「刺繍枠」です。あるのとないのでは、やりやすさが違うのでしょうか?
瀬戸:刺繍は布が張っている方が刺しやすいので、この枠を使って布をピン! と貼るための道具です。なので、これはマストアイテムですね。サイズ選びに悩むと思うのですが、最初は10cm枠が良さそうです。慣れてきたら、作りたい作品に応じて枠の大きさを変えたりします。

刺繍枠もゲット〜
編集部:あとはチャコペンとハサミですね!
瀬戸:チャコペンは、布に下書きするために欠かせません。私は「チャコパー」というブランドのものを使っていますが、水などで消せるものであればどれでも大丈夫。ハサミに関して、私は糸切りバサミを使っていますが、最初は自宅にあるものでも大丈夫ですよ!

種類が豊富で必要な道具を選ぶところから楽しい、刺繍の世界
「規則正しく綺麗に」ではなく「思うままに自由に」刺す
材料が調達できたら、いよいよ実践! 楽しみな気持ちが高まって、心なしか足取りも軽くなります。ここからが、刺繍レクチャーのスタートです。実際に瀬戸さんに教えていただきながら、黄色のハートモチーフを刺していきます。
🧵刺繍の手順🪡
①布セット
②下絵
③糸選び
④刺す
⑤整える
瀬戸:まずは布を刺繍枠に当てがって、少し大きめのサイズに断裁。そうしたらチャコペンを使って、ハートの下絵を描いていきましょう。ここまでできたら、布を刺繍枠にセット。 このときに布がピン! と張るように、しっかりとネジを締めるのがポイントです。
今回のモチーフは、ハートに決定
編集部:下絵から自分でつくると自由度が高くてワクワクしますね。黄色の糸はグラデーションにするために4色購入しましたが、どの色から使っていきましょう?
瀬戸:今回は中心を濃く、縁に行くほどに薄くなるグラデーションにしようと思います。
刺繍枠の中心→縁→中間色……とバランスを見ながら順に刺していきます。このときに、中心は濃い色、縁周辺は薄い色を重ねていくことで色が混ざり、より自然なグラデーションになっていくのです。ちなみに、1色あたりの糸の長さは約20cm。次何色にするか考えてチクチク作業するのも楽しいポイントですよ。
瀬戸さんは糸通しを使わないタイプらしいです。さすが先生。
編集部:一気に1色の糸で埋めるのではなく、あえて隙間を作りながら、グラデーションになるように色を重ねていくのですね。
瀬戸:そこがポイント! “1色で綺麗に埋め尽くそう、規則正しく刺そう”ではなく、意図的にまだらに刺すことがキモです。
【グラデーションのポイント】
①まずは真ん中に濃い色をチクチク

②縁を薄い色でチクチク

③真ん中を中間色で埋めるようにチクチク

これを繰り返します!

編集部:そう思うと気が楽になりました。 細かなルールがなく、フリースタイルで刺せるから「ミスした!」と思うこともないし、こうしておしゃべりしながらできるので、楽しいです。
瀬戸:せっかくの息抜きなのに、「〇〇しなきゃ」と思うと、息が詰まってしまいますよね。私も以前はそうで、一時は刺繍が嫌になって離れたこともありました。でも、自分の思うままに刺せばいいんだ! と思い始めてからは「楽しい」の一心で、気づいたらこんなに作品を作っていました(笑)。
刺繍を通して、「何をしているかわからない時間」が実りのある時間に変わっていく
瀬戸さんから教えていただいたように、4色の糸を順繰りに刺しながら、どんどんハートを形づくっていきます。無心で進められる作業だから、一人のときは黙々と、誰かといるときはおしゃべりしながらできるのも魅力的。手もとを動かしつつ、瀬戸さんとのおしゃべりにも花が咲きます。

編集部:そもそも、瀬戸さんはどんなきっかけで刺繍を始めたのですか?
瀬戸:コロナ禍で仕事がストップしたり、自宅で過ごす時間が増えたときに「何か趣味が欲しいな」と思ったのがきっかけで。服飾学科出身だったこともあって、もともと刺繍に憧れはあったのですが、難しそうと思って手を出せずにいました。けれど「今だ」と一念発起して、DMCの糸が全色揃ったセットを購入。4万円くらいしたのですが、「色はたくさんあった方が楽しい」と思い切りました。
編集部:瀬戸さんも「何か趣味が欲しいな」という気持ちが出発点だったのですね! 実際始めてみて、どうでしたか?
瀬戸:刺繍作家さんの本を買って、図案の通りに作業してみたのですが、なかなかその通りにできなくて。先ほどもお話ししたように一度は挫折したのですが、完璧を求めすぎず、自分なりのスタイルで楽しめばいいんだ! と思い、今に至ります。

編集部:今は刺繍が生活の一部になっていると思いますが、どんなところに魅力を感じていますか?
瀬戸:日常の中に「何をしているかわからない空白の時間」って結構あると思うんです。1日を振り返ったときに「スマホを触っているだけだったな」とか。そういう時間があってもいいと思うのですが、今は「刺繍がここまで進んだな」という達成感を感じられる瞬間が多くて。そういうときに、刺繍が暮らしを彩ってくれているんだな〜と思ったりします。
編集部:確かに、「空白の時間」ありがちです……。
瀬戸:あとは達成感という点で、「形に残る」というのも魅力だなと思っていて。料理を作るのも“ものづくり”ではあるけれど、食べたらなくなってしまう。読書も自分の糧にはなる。でも形として残るわけではありません。刺繍は形に残るから、より一層達成感や喜びを感じられるんです。

瀬戸さんの作品。色使いがとっても素敵です。
編集部:そうして約3年間の間に生み出した作品たちを、来月の個展でお披露目されるのですよね! 瀬戸さんにとって、個展を開くことはどんな意味を持っていますか?
瀬戸:「刺繍作家」として名乗る、第一歩だと思っています。趣味が欲しいと思って始めた刺繍ですが、気づいたらこんなにどっぷり浸かっていて。私のことを“刺繍の人”として知っていただけることがすごく嬉しくて、もっともっと刺繍の仕事もしていきたいと思っています。そのためにも作品を多くの方に見ていただきたい、作家として一歩を踏み出したいという決意を込めて、個展を開くことにしました。
編集部:全貌を見られる日が待ち遠しいです。おしゃべりしている間に、ハートができてきました!

完成!左が瀬戸さん作、右が編集部作
瀬戸:いい感じです!! 4色が混ざり合ってグラデーションになっていて、綺麗です。正解やゴールはないので、 「このくらいの色合いがちょうどいいかな」と感じる自分の好きな仕上がりになったら、完成です。
編集部:こんなに簡単なのに、4色を使ったことで奥行き感のある仕上がりになって、感激! 無心になれる時間がメディテーションのようで、落ち着きます。そしてやっぱりこの達成感は、何事にも変え難いですね。刺繍、ハマりそうです!
瀬戸:嬉しい! 思っているよりも遥かに簡単ですよね。ぜひ一緒に、刺繍ライフを始めましょう。


『花園』
日時:2025年12月5日(金)〜12月7日(日)
11:00~19:00(最終日は17:30まで)
会場:HALO SPACE01
東京都渋谷区恵比寿1-23-21 ヤマトハイツ1F(コインパーキングの奥の建物1F)
アクセス:JR恵比寿駅東口から徒歩5分
入場料:1000円
詳細はこちら:@hijilisan










