服を選ぶのは、毎日のこと。「ただの選択肢」って思いがちだけど、実はその「服」には、暮らし方や今日の気分、積み重ねてきた価値観が無意識に映し出されている。
「別に理由なんてないけど…なんとなくこれにした」その曖昧な選択の奥に、今の自分が現れているのかも。Beyond magazineでは、そんな「服を着る理由」について探るべく街のユースたちに直撃!
「今日、その服を着た理由ってなに?」
桜子さん

「走るときも、かわいくいたいんです」
そう話してくれたのは、ランニング中だった桜子さん。
普段のファッションは、古着、きれいめ、アメカジ……と幅広く、“その日の気分”に正直に楽しむタイプ。そんな彼女にも、「着る理由」を聞いてみた。

― 普段からスポーティーな服装が多いんですか?
全然です(笑)。古着、大好きなんですよ。
色味やシルエットなど、古着にしかない“ちょっと変わった”アイテムを見つけるとつい買っちゃいます。淡い色も好きで、青とか緑、ピンクもよく選びますね。名前が「桜子」だからか、自然とピンクに惹かれるんですよね(笑)。
― 今日のランニングコーデにも淡い色が入っていますね。走るときも意識されているんですね。
しますね。やっぱりかわいい服だと、モチベーションが上がるので。気分次第で色を揃える日もあれば、古着のTシャツにナイキやプーマのパンツを合わせることもあります。
― 服を選ぶときは、気分で選ぶのが最優先?
そうです。自分が「着たい」と思えるかどうか。それだけですね。
その服でテンションが上がるか? という基準で色だったり、シルエットだったりを選んでいます。日によって、フリフリな服を着る日もあれば、くたびれたスウェットを選ぶ日もあるし。気分に正直に、幅広く着ていますね。
誰かを参考にするというより、「このズボンを履きたいから、それが似合う自分になる」rという感覚です。

桜子さんの「着る理由」は、「これが着たいから着る」という、とてもシンプルでまっすぐなもの。服は、自分の気分を上げてくれる、身近なツールのひとつかもしれない。
KENさん、RUNAさん

左:KENさん、右:RUNAさん
バギーシルエットのパンツがお揃いのKENさんとRUNAさん。学生時代からファッション好きな2人に話を聞きました。
― 今日のファッションのポイントは?
KEN:僕はこのトップスを着たいなと思っていて、それに合うパンツを選びました。
RUNA:私は逆に、パンツを主役にコーディネートを組みました。自分でつくったアクセサリーを差し色にしてるのがポイントです。


手作りのネックレス
–いつ頃からファッションを楽しむようになったんですか?
KEN:僕達が通っていた高校が私服OKの学校で、自然とファッションに興味を持つ環境だったんですよね。
RUNA:中学生の頃から青文字系の雑誌を読んでいて、そこから少しずつ自分の好みやこだわりができて、お金をかけなくても“自分のかわいい”を古着やプチプラのなかから探したりしていくうちに、お洋服を選ぶのが楽しくなりました。
― 普段は会社員として平日はスーツで過ごしていらっしゃるそうですね。休日のファッションにはどんな意味がありますか?
KEN:平日は、自分の好きな服はなかなか着られないんです。だからこそ、週末はおしゃれを楽しめる大事な時間ですね。自分のスタイルを表現できる、数少ないタイミングだと思っています。
RUNA:休日のコーディネートを写真に撮ってSNSに投稿しているんですけど、それがきっかけで同じ感覚の人とつながれるのがすごく楽しくて。
― ファッションは、ただ「着る」ためだけのものじゃなくて、自分を表現する手段であり、誰かと出会うきっかけにもなる?
RUNA:気分が上がるのはもちろんだけど、誰かとの出会いや、自分を好きでいられるきっかけにもなっているのかもしれません。今では自分にとってすごく大切な趣味になっています。

RUNAさんとKENさんにとって、ファッションは単なる趣味ではなく、自分らしさを取り戻す時間であり、自分を発信する楽しさでもある。
「着ること」は、日常のテンションを上げるだけでなく、誰かとの関係や、自分自身へのまなざしをやさしく変えてくれるのかもしれない。
類さん

サッカークラブのゲームシャツに、スラックス、革靴をさらりとあわせたスタイルが目に止まり、声をかけたのは外資系銀行に勤めている類さん。
–今日のファッションポイントを教えて下さい。
腕にタトゥーを入れる予定があったので、脱ぎやすい格好という基準で服を選びました。ファッションポイントは、トップスのサッカーゲームシャツですかね。
–好きなサッカー選手のユニフォームなんですか?
ユヴェントスというチームに所属していたアレッサンドロ・デル・ピエロ元選手のユニフォームです。元々母が好きな選手だったので、自然と彼のプレースタイルやファッションなどに憧れていきました。
アレッサンドロ・デル・ピエロ選手のユニフォーム、背番号10
–トップス以外のアイテムはどのような基準で選びましたか?
ボトムスは父から譲り受けたラルフローレンのパープルレーベルのパンツで、靴はメルカリで3万円だったパラブーツの革靴をあわせてみました。ゲームシャツはラフでスポーティーな印象だと思うので、クラシックな要素を組み合わせてバランスをとってみました。
–古着やヴィンテージのアイテムが多いですね。
最近は特に古着がほとんどですね。新しいものを買うより、昔のピースをどうやって“今”に馴染ませるかを考えるのが楽しいです。
–なにか影響を与えるものがあるんですか?
映画好きの父の影響でジェームズ・ディーンやスティーブ・マックイーンを観て育ちました。劇中の衣装がすごく素敵だなと今でも思います。そういった昔の俳優さんのファッションやデル・ピエロのような子どもの頃に影響を受けたカルチャーや昔からかっこいいなと思っていた人物の影響は大きいと思います。昔から変わらず素敵だなと思えるものを今の自分に落とし込むと自然と古着になっているのかもしれないですね。
類さんの「着る理由」は、昔から変わらず惹かれてきたものに、いまの自分の感覚を重ねること。 ずっと「かっこいい」と思い続けてきたものに目を向けてみると、自分の“着る理由”が、少しずつ見えてくるのかもしれない。
neneさん、かれんさん

左:neneさん、右:かれんさん
アパレルブランドの宣伝に携わるneneさんとかれんさん。スポーティーなウェアにカジュアルアイテムを重ねたスタイルのお二人の着る理由は?
–今日のファッションのポイントを教えてください。
nene:今日は人生で初めてのマラソン大会だったんです。走りやすさを意識しつつ、あまり気合いを入れすぎると楽しめない気がして…。なので、普段からよく着ている服を組み合わせて、力の抜けたコーディネートにしました。スポーティーな服装だけだと私らしさが薄れる気がしていて。好きなシャツを取り入れたことで、自分らしさも残せたかなと思っています。
かれん:私はこのスポーティーなアウターを、普段着っぽく見せられるように意識しました。実は、ふだん全然走らないのでスポーツ用のキャップとか持っていなくて。でも、何かアクセントが欲しいなと思って、バンダナを小物として取り入れてみました。

–普段から、その日の予定をもとに服を選ぶことが多いですか?
nene:「どこに行くか」よりも、「誰と会うか」で服を選ぶことが多いですね。自分らしいスタイルでありながら、相手と心地よく調和できる服装だといいなと思っていて。
仕事柄、いろんなスタイルの服を着ている人と接することが多いんですが、そういう方々って“誰かと会う”というシーンを大切にしながらも、自分のスタイルをしっかり持っているんです。
相手の系統に完全に合わせるわけではないけれど、「この人と会うならジャケットを着ていったほうが自分らしいかもな」みたいに、少しだけ寄せてみる感覚ですね。
かれん:私も、「誰と会うか」は服選びの大事な基準ですね。あとはサイズ感やバランスも大切にしています。今日はワイドパンツを履いているので、丈が短めのトップスの方がバランスがいいかなと思って選びました。自分の見せたい雰囲気やスタイルに合わせて、少しずつ工夫しています。

–自分のファッションスタイルは、いつ頃から確立されたと感じますか?
かれん:物心ついた頃から、ファッションにはずっと興味がありました。小さい頃にバレエを習っていたんですが、そのきっかけも「衣装が好きだったから」なんです。映画を観ていても、つい衣装に目がいっちゃうくらい、服を見るのが好きでした。
–では最後に、“着る理由”を教えてください。
nene:難しいですね…(笑)。でも、自分が自分のために選んだ服を「好きだな」と思えたとき、すごく嬉しくなるんです。好きな服で誰かに会えるのは、とても前向きな気持ちになれる。自分らしさを保ちながら、そっと背中を押してくれるようなツールだと思います。

かれん:私は、服はもちろん好きなんですけど、衣食住を含めたライフスタイル全体に興味があって。服は、気持ちよく、豊かに暮らすための“道具”かな。
ふたりの話を聞いていると、「着る理由」は、単なるおしゃれや自己表現ではなく、
誰かと過ごす時間や、その日の空気感に自然と寄り添うようなものだと感じる。
服は、自分らしさを整えながら、人との関係や日々の気分をさりげなく映し出してくれる、そんな道具なのかもしれない。
ryokatoさん

過去にBeyond にも出演してくれた東京と福岡を拠点に活動するラグアーティストのryokatoさん。
この日、身につけていたのはフーディーにデニムという、シンプルなスタイル。
― 今日のファッションのポイントはなんですか?
フーディーは、number3nakameguroという古着屋のオリジナルで、パンツはizumidaleeちゃんがワークショップで描いてくれたものなんです。どちらも友達が作ったり描いてくれたものですね。デザインが気に入ってて、最近よく着てます。
― 昔から服は好きだったんですか?
好きでしたね。10代の頃なんて、毎週のように買ってたし、Tシャツは100枚以上持ってたと思います。でも、いろいろ買っていくうちに気づいたんですよ。10足の靴があっても、履くのって2~3足だけだったり。服も、気づけば毎回同じものを手に取ってるなって。
2拠点生活が始まって、持ち物を減らすようになったのもあって、服も自然と“ほんとうに着るもの”だけが残りました。
― 今、服を選ぶときに大事にしていることは?
落ち着くかどうかですね。サイズ感や丈感、帽子の深さまで、全部が自分の身体にフィットしているか。どんなにグラフィックが好きで物として好みでも、サイズが合わなかったら結局着ない。
逆に、フィットするものなら、毎日でも着られる。それくらい自分の中では大事な基準になっています。

― “着る理由”って、何だと思いますか?
自分が無理せず、心地よくいられることですかね。身軽さのなかに、自分のテンションを上げてくれる要素がちょっと入っていればそれでいいんだと思ってます。“好き”と“生活しやすさ”が重なっている服。それがいちばん理想かもしれません。

服は、無理をして装うためのものではなく、自分の体に、生活に、気分にぴたりとフィットする一着。心地よく生きるための道具であっていい。それが、長く付き合っていける“着る理由”になるのかも。
5人のユースに聞いた「着る理由」には、自分の内側から湧き上がる"心地よさ"があるようだった。
流行やトレンドを追うことも大切だけど、最後は「今日の私がこれを着たい」という、シンプルな気持ちが原点になるのかもしれない。
あなたは今日、どんな理由でその服を選びましたか?
その“なんとなく”の奥には、思いがけず大切な何かが隠れているのかもしれません。