CDからサブスクへ、ラジカセからスマートフォンへ。聴くフォーマットやツールは変わっても、いつの時代も私たちに寄り添ってくれるのが、音楽やラジオなどの音声コンテンツ。「耳ディグ」と題し、気になるあの人のお耳のお供を“digる”本連載。
第6回に登場するのは、イラストレーター・デザイナー・音楽家とマルチに活動するeryさん(音楽活動ではEryyy名義)。歌にPodcastにイラストに、さまざまなチャンネルを駆使して自己表現を続ける彼女が選んだのは、4つのオーディオコンテンツと1つの楽曲。「ラジオに遠慮はいらない」「俺の話を聞け」「インターネットにこれ以上ゴミデータを増やしてはいけない」など、パンチラインとなって炸裂したラジオへの強い思いとともに紹介。
ery
1994年生まれ。東京都出身。日本大学芸術学部デザイン学科卒業後、2016年広告制作・デザイン会社にグラフィックデザイナーとして入社。2019年に独立し、イラストを中心としたポップなデザインでクライアントワークや展示、オリジナルアパレルグッズなどを手掛ける。またアートディレクターとして、アーティスト写真等の撮影のディレクションやホテルのブランディング・プロデュースなども行っている。
Instagram:
@erikatoike
Podcast: https://open.spotify.com/show/0ZB0oG3nl8iZ8SlsnZIHV5
WEB:
https://www.eryeryery.com/
漫画家の東村アキコと東村プロダクション所属のお笑い芸人・女優の虹組キララがリスナーの悩みに身も蓋もなくお答えするPodcast番組。
お悩み相談系のPodcastは多くありますが、私が一番好きなのは『東村アキコと虹組キララの身も蓋もナイト』。自分のPodcast番組『ery ののうみそヘブン RADIO』を始めた頃に、「eryちゃんの番組と切り口が似ているかも」と、友人から勧めてもらいました。リスナーからのお悩みに寄り添いすぎず、東村先生と芸人・女優の虹組キララさんが一通り悩みを聞いたあと、“身も蓋も無い一言”をテンポよく言ってしめる流れが好きです。
ある意味で職業病なのかもしれませんが、私も絵を描くので、昔の出来事を「絵」として覚えていることが多いんです。「小学2年生の時、教室の後ろの席にあんな髪型の男の子いたよね」みたいな。普通ならとっくに忘れてしまうようなことを覚えていることが多く、友人からはたまに気持ち悪がられてしまうのですが、東村先生も番組内で幼少の頃の記憶を鮮明に話していることが多くて、記憶力の良さに共感しながら聴いています(笑)。
原宿のレコードショップ「BIG LOVE RECORDS」に入荷する新譜のレコードを紹介するPodcast番組。
「ラジオに遠慮はいらない」というのが私の信念なのですが、『BIG LOVE RADIO』はそれを体現している番組の1つかもしれません。原宿のレコードショップ「BIG LOVE RECORDS」のオーナー・仲さんが、取り扱うアーティストの新譜を紹介するこの番組は、とにかくフランク。アーティストや作品をベタ褒めする音楽番組特有のテンションではなく、「この新譜やばいね」みたいに友だちと話しているテンションが心地良いです。
音楽を紹介する番組は音楽のジャンルや歴史の話にいくことが多いですが、仲さんはいつも「仲さんが思う今新しいアーティスト」の紹介に、時事的なトピックやちょっと偏った視点を織り交ぜて話してくれるのが面白く、「新しいものに触れたいとき」にいつもお世話になっています。
イラストレーター・音楽家のery(Eryyy)が、毎回ゲストを迎え、絵や音楽に特に関係ない話ばかりしているPodcast番組。
自分の番組を挙げるのは恐れ多いですが、職業柄、音楽制作もイラスト制作も1人で机に向かうことが多いものの、無心でいることは少なく、むしろ作業中に気づくことやや芽生える感情は結構多くて。こちらは、そんなことを話す「感覚掘り下げ系」の番組です。毎回さまざまなゲストを呼んで対話形式で話していますが、ほとんど「俺の話を聞け」状態ですね(笑)。言葉で表現する場所が欲しいなと思ったとき、エッセイやブログなどの文章よりも話す方が私には向いているなと思い、Podcastを始めました。
元々、歌人の伊藤紺ちゃんと自費出版をした際の刊行イベントとしてトークショーをやっていた流れもあり、1人語りではなくほとんど友人やゲストと一緒に話しています。毎回「最強を決めたいこと」や「結婚したい? したくない?」などのトークテーマを設けて話しているのですが、会話の中で引き出されるエピソードや感情が好きなんです。
テレビやYouTubeで見た内容ってあまり記憶に残らない一方で、声だけのコンテンツは記憶に残りやすいと思っていて。「顔も名前も覚えてない学校の先生に言われた一言」を未だに覚えている、みたいな経験は誰にでもあると思うんですが、そんなふうに「なぜか心に残っている話」ってすてきだなと思うんです。なので私も、そういう記憶の片隅に残せる話をできる番組を目指して、これからも続けていきたいですね。
毎週日曜午前にテレビアナウンサーの安住紳一郎がお届けするラジオ番組。
安住さんは、物心ついた時から知っている「テレビの人」で、知らない人はほぼいないくらいの存在だと思いますが、「実はちょっと変わってるよね」という話を友人としたことがあって。ラジオが一番、安住さんの“本領”が発揮されているということを知り、聴くようになりました。
それでもやはり、アナウンサーらしい言葉のきれいさや上品さ、間の取り方のうまさは聴いていてとても美しく、自分でPodcastを始めてからは「パーソナリティーとしての安住さん」も意識するようになりました。スマートフォンひとつで音声コンテンツを作ることができるようになりましたが、安住さんの番組を聴くと「インターネットにこれ以上ゴミデータを増やしてはいけない」と、背筋が伸びるんです(笑)。
私は、自分のPodcastを収録したあとに聴きかえすと、「笑い声が思っている0.5秒遅い」とかが気になったりして、誰も気にしないだろうに永遠に編集してしまうので、いつか安住さんのようなスマートな番組にしたいです。お手本のような番組ですね。
アルゼンチンのシンガーソングライター・Juana Molina(フアナ・モリーナ)が2013年に発表した6枚目のアルバム『Wed 21』の表題曲。
音楽を作るときはつい「ライブ」を意識して制作することが多いので、自分が作る音楽はアップテンポなエレクトロ系が多くなってしまうのですが、普段はどちらかというと、テンション低めの落ち着く音楽を聴くことが多くて。Juana Molinaは、ループさせながら1つの曲にするスタイルが自分と似ていることもあって、昔からとても尊敬しているアーティスト。2024年に立川で開催されたフェス『FESTIVAL FRUEZINHO 2024 』でJuana Molinaのライブを観て以来、ずっとリピートして聴いています。
私は、絵でも音楽でも「自分を表現をしよう」と思うことはあまりなくて。どちらかというと、観たり聴いたりして受けた感動や憧れを自分のフィルターを通して作品で表すことが多いかな。吸収したものに突き動かされて表現することや「私が今思い描いているeryちゃん像」に当てはめるようにイラストや音楽を制作することが一番好きなので、「本当の自分」を出すことは、自分にとってあまり重要ではないかもしれません。
“どうでもいい深い共感”をたくさんの人に植え付けていきたい
最近は、気になることがあったらSpotifyやPodcastで調べます。例えば、「スパイスカレー」とSpotifyやPodcastで検索すると、作り方や魅力を語っているエピソードがたくさんあるので、知っている人の番組でもそうでなくても参考になるんです。
eryさんは、SONY「h.ear on 2 Mini Wireless(WH-H800)」トワイライトレッドを、デコって愛用中。
イラストを描いているときは誰かと喋りたくなるし、人前に出たいというある種の承認欲求も元々ある。それでも、たまにはパーソナルなことも話したい……。そんな私にとって、今は不満もなく、やりたいこと全てにバランス良く取り組めています。音楽、イラスト、Podcastが私にとって欠かせない「きれいな正三角形」になっているんです。
パーソナリティーとしての目標は、自分が納得のいく内容を一発で収録できるようになること。それがひとつの到達点かもしれないです。もっとたくさんの人に聴いてもらうに越したことはないけど、それよりも“どうでもいいずっと記憶に残る深い共感”をたくさんの人に植え付けていきたい。そしていつか、私の話を思い出したついでに、私のことも気にかけてくれたら最高ですね。
Text:Takahiro Kanazawa
Edit:那須凪瑳