2019年にキングオブコントの決勝に進出した人気コンビ・かが屋。仕事が忙しくなった矢先の2020年、加賀さんは「脳波が死んでいる」と病院で診断され休養を余儀なくされた。賀屋さんは1人で活動を続け、8ヶ月の休養を経て復帰を果たす。加賀さんがその時間で感じた休む必要性や、賀屋さんが落ち込んだときに弱音をどう吐き出していたのかを訊ねた。
そして休養から4年が経った今だからこそ感じる、自分を大切にするための方法や落ち込んだときにとる行動、そして、泣き言をどうやったらこの世の中で言いやすくなるのか、2人に聞いてみた。
かが屋
マセキ芸能社に所属するお笑いコンビ。2015年結成。コンビ名は、メンバー2人の名字「加賀」と「賀屋」を合わせたもの。「キングオブコント2018」で準決勝に進出して注目を集め、2019年、2022年にキングオブコント決勝進出。2019年1月には初の冠ラジオ番組「かが屋の鶴の間」(RCCラジオ)が放送され、4月よりレギュラー化された。ライブやバラエティー番組の他、ドラマや映画などでも幅広く活躍中。
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耳元で囁かれた、初めての邂逅
かが屋の結成は2015年。当時、芸人を目指す加賀さんと放送作家を目指す賀屋さんは、同じ東京のコンビニでアルバイトをしていたが別のシフトのため会うことはなかった。忘年会が開催され2人は出会うも、初めての会話は加賀さんの耳元で囁かれたある一言だったそう。
加賀:僕は同級生に誘われて大阪のNSCに入ったのですが、その子が「やっぱりNSCに行くのをやめて大学へ行く」とバックれたんです。僕は入学金も振り込んで引っ越し先も決めていたので、引き返せなくて。最悪だ! という悲しい気持ちと、なんか面白いことが起きるかも……という希望的な気持ちが半々で入学したけど、周りの面白さのレベルにやられちゃって。すぐに辞めたいと母親に言ったら「高校も中退しているんだから帰ってくるな」と。なんとか卒業して、コントがやりたいと思い上京しました。
東京に来たものの、2年間くらいはアルバイトの日々。でもバイト先のコンビニで、どうやらお笑いが好きな人が別のシフトにいるらしいと店長から聞いて。お笑いの趣味も合う予感がしたんです。それが、賀屋だった。
賀屋:僕は当時放送作家になりたかったんですが、どうやってなればいいのか分からなかった。店長から加賀のことを聞いて、芸人さんと仲良くしておいて損はないだろうし、単純に仲良くなりたい、声をかけたい、と思っていました。それに、このタイミングで出会うってことはチャンスだと感じて。
加賀はそのときまだタバコを吸っていて、忘年会のとき喫煙所に行くのを見たんです。「今しかない」と思ってついて行って。最初の一言をドラマチックにしたくて「バナナマン好きなんだって?」っていきなり声をかけたんですけど緊張していて耳元で言ったみたいで。
加賀:痴漢だ! と思いましたね(笑)。僕はNSCの同期からコンビを組みたいと声をかけられていて、その子が上京するのを待っていたんですけど、芸人になるのをやめると急に言われて相方がいなくなったんです。僕は相方とやるための2人用のネタを、賀屋はコンビの作家になりたいから2人用のネタをそれぞれ書いていたので、1回2人でやってみますかとなったんです。
フリーライブにエントリーしてとりあえずネタをやってみたら、すっごいスベったんですよね(笑)僕は悔しいなと思っただけなんですけど、賀屋は同級生を誘っていて。
賀屋:ちょうど就活の時期で、面接終わりに来てくれたんです。僕はもちろん就活をしていなくて、軽い気持ちで調子に乗って誘ったんですけど……めっちゃ気まずかったあ。悔しくてこのままじゃ終われないなと思って、そこからスタートした感じです。
うまくいかなかった日は、とにかく食べる
最初のステージのように、ウケる日ばかりじゃない。うまくいかなかったことをどのように消化したり、立て直したりしているのだろう。
加賀:昔はネタを書きまくったり、何か活動していましたね。やだ! 悔しい! 恥ずかしい! という気持ちをそのまま持ってノートに向かっていました。今は慣れてきてそこまで落ち込まなくなって。ポテチ食べたり、カレーを食べたりしています。
賀屋:僕もごはんを食べることかなあ。食べることが1番好きなので。ライブ終わりに近くにある立ち食い蕎麦屋や中華屋さんに行って。例えばインドカレー屋さんで、スープやビリヤニ、カレー、ナン、サラダ……全部頼んじゃう。とにかくたくさん食べてますね。
加賀:賀屋は基本的にずっとウケたね!と言ってます(笑)。
賀屋:スベったなんて言いたくないんですよ。どこかいいところを探して、ウケたなあと思いたい。
休んだからこそ見えた世界
賞レースの決勝まで進出しこれからだというときに、加賀さんが休養することに。その理由は脳波の異常だったという。
加賀:眠れない日々が続いて病院に行ったら「脳波が死んでいます」って言われて。バリバリ喋ることができているのにそんなわけないとツッコんだんですけど「脳波が一部だけ活発になりすぎているだけで、実際は限界を超えています。回復させたら、100%の力でお笑いができますよ」と言われて。
今休めば将来的にもっと面白くなるなら、と思って休むことを決めました。休んだことで、人生が変わったなと思いますね。休養してよかったなと感じています。適度に休むことはすごく大事ですが、休むのが苦手な人っているじゃないですか。僕もそうだったので。仕事や人間関係以上に大事なものを作ることで、休むきっかけになるかなと。
賀屋:加賀の休養を聞いたときは「マジか」と思いましたが、1人で頑張る道しか考えられなかったです。1人の時期があったからこそ、前に出られるようになった気がします。今までやってなかったギャグをやったりして。
ご機嫌でいるために、自分の時間を大切にしています。今はゲームの生配信をやっていて、すごく楽しい。休むことはもちろん大事だと思うんですけど、何かに集中する時間って必要だなと思いますね。遊びや趣味に没頭できる時間は大事。読書に集中したり、成果的なものがあったりすると、心の回復に繋がる。
加賀:休養から4年ほど経って、今が1番仕事をしていますね。ストイックとか頑張ってネタを書いているとかイメージされがちなんですが、ちゃんとサボっているんですよ。この日までに台本を書かないといけないとかあっても、当日に完成させたりしています。
休養以前は、天才的な人に憧れていましたが、今は自分の能力を認められるようになりました。お笑いの世界にいる期間も長くなってきて自分の限界が分かった気がしますね。
賀屋:今はお休みがあれば色々やりたくて。ゲームの配信をやったり、絵を描いたり。絵は独学で、最近はデジタルで漫画を書いてSNSに載せています。
加賀:僕は休みの日にネタをまとめて書いていましたが、今は時間の使い方が上手くなって。隙間の時間でも書けるようになってきましたね。
新しい自分に出会う行動をしてみる
加賀さんも賀屋さんも、弱音を吐くことはあると言う。愚痴や弱音を吐ける人もいれば、そんな自分を許せない人もいる。そんな人はどうしたらいいのだろう。
賀屋:加賀が休養したとき、散歩しようかと言って2人でよく散歩していたんです。1人での仕事を始めて、最初は周りが気を遣ってくれていたのを勘違いして確変に入ったと思って(笑)。でもだんだんうまくいかなくなり、スベってばかりで辛くなって……。歩きながらずっと相談していましたね。
加賀:早く戻らなくちゃなと思いました(笑)僕も以前は、泣き言ばかりで。もうやだ! もう分からん! とすごく言っていましたけど、良くも悪くも大人になったかな。一般社会の人はもっと大変だと感じて。普通の会社だったら、失敗したことをネタにできないじゃないですか。でも芸人って、失敗も栄養になるんですよ。こんなに捨てることのない職業はないなと。
加賀:弱音を吐くことを許せない人や真面目すぎる人、多いですよね。そういう人はふざけるのが苦手な人だと思うんです。弱音を吐くことが苦手なのではなく、弱い自分や真面目じゃない自分をやることが苦手。まずはふざけてみることがいいのかなと。真面目じゃない行動をとっていくことで、いつか人に甘えられるようになるはず。甘えられる人は魅力的だと思います。
例えば誰にも見られないSNSのアカウントで下ネタを呟いてみる。そしたらいいやん! ってなると思うんです。ちょっとずつ自分を許せるようにすることが必要かなと。
賀屋:ふざけるのは小さい頃から慣れてないと難しいんじゃない? 小学校でおふざけの時間とかあったらいいですよね。曝け出すこと=恥ずかしいという文化が根付いている気がします。
それに、弱音を吐くだけ吐いても、自己肯定感が下がっちゃう気がするんですよね。共感してくれる人や励ましてくれる人が必要だし、プラスになることが大事。例えば弱音を100個書けたとか、やりすぎてもいいと思います。
普段やっていることをやめてみて、いつもと違うことをしたなというところから始まるのではないかと。1日携帯を見なかったとか、料理をしたとか、些細なことから新しい発見があって、嬉しくなるんじゃないかな。
コントを書く信念は捨てたり拾ったりする
日常の中にありながら、独自の視点が面白いかが屋のコント。譲れないポイントがあるのかと思いきや「信念はあったりなかったりさせることが大事」と語る。
加賀:人間の感情を描くことを大事にしているけど、全部それを考えてやっていたら間に合わない。だから信念は捨てたり拾ったりしていますね。僕は興味のないものがなくて、想像することが好きで。そのおかげでコントが書けていますね。
例えばクッキーや誕生日という単語で面白いことを考えてくださいと言われたらできるんです。単語にまつわる人の感情の変化や起こりそうなことを想像できる。僕は一人っ子で友達もいなくて、身の回りのものを全部面白がらないと地獄だったんです。
自分とは無関係だと思えることも、想像することで関係を見つけられるはずだと思っています。それに、すべての職業の人に愛を持って接する、みたいなところはあるかもしれない。
賀屋:僕はネタを書いていないという前提なんですけど(笑)、自分が気になったことがどうして気になったのかと広げて、面白さを探ることが大事かなあ。気になる一言から広がるということもあると思うので。例えば喫茶店に行って、イヤホンをして音楽を聴いているふりをしながら周りの声を聴くとか。
加賀が書いたコントを思いっきりやることを僕は意識していますね。これからもコントをやりながら、楽しく仕事ができていたらいいなあ。
加賀:僕は事務所にトロフィーを持って帰りたいですね。まだ僕らの事務所にはM-1やキングオブコントのような大きなネタの大会の優勝がなくて。トロフィーを獲れるようなネタを作っていきたいです。