職業の数だけ“つい目がいく”光景あり。
「クリエイティブさんぽ」は、クリエイターや職人、研究者など、さまざまな専門分野を持つ人が好きなエリアを散策し、独自の視点で気になった場所を紹介してもらう連載企画。読んだ後にちょっとだけ視野が広がるかもしれない、未知の仕事への理解が深まるかもしれない、そんなレポートをお楽しみあれ。
3回目となる今回さんぽしてくれたのは、アルミニウムなどを用いて造形作品を手がける作家の永瀬二郎さん。
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永瀬二郎
金工作家。1990年生まれ。多摩美術大学工芸学科で金属を専攻。同大学院修了後、アートユニット「明和電機」のアシスタントを経て独立。金工の技術や技法を用いて道具、機能、装置といったテーマで制作している。
Instagram:@jiro__nagase
WEB:www.jironagase.com
高円寺で金属探訪。何気ない風景に潜む“誰かの意匠”を探す
今回は高円寺から東高円寺周辺をさんぽしました。友達が何人か住んでいたり、おじいちゃんのお墓があったり、親しみのある好きな街です。
注目したのは、作った人の性格や癖、嗜好等を感じられる物。撮影した写真を見返しながら、製作者の目線で「なぜそうなったのか?」を想像したり、そこから思ったことを書いてみました。
ジレンマ柵
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出発地点の高円寺駅のすぐ近くにあったガードレール。眺めるほどに紅白のしましまの間隔、黒黄のしましまの間隔、それを繋いでいる金具の間隔、それぞれの位置関係がちょっとずつズレているのが気になってきます。「どう金具を配置すれば気持ちよく収まるのか」としばらく考えたのち、全箇所ズレているから安定しているのだという結論に落ち着きました。
几帳面なスロープ
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普通のスロープですが、角の処理や角度の決め方、場所との合わせ方等、端々から製作者の几帳面な人柄を感じました。依頼主から「いい感じにやっといて」と委ねられたときほど、作り手の性格がよく出ると思います。
たるんだ鉄柵
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高円寺高架下の再開発エリアにあった、カーブを描く鉄の柵。このカーブは横に並ぶ鎖のたるみを模しているようです。鉛筆をつまんでふにゃふにゃにみせる遊びをついやってしまうように、硬いはずのものが柔らかく見える瞬間にある種の快感をおぼえるものなのだと感じました。
凝り柵
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東高円寺方面へ蛇行しながら進んで見つけた、良さそうな柵。床面にある石をかわすように鉄筋を切り欠いていて、壁と地面にボルト留めされています。所々凝っている割に、柵の横棒が低すぎて一番右側の石とぶつかり、すぐ上に鉄筋をもう1本付け足している。製作者にとっては痛恨のミスだったに違いないですが、むしろそれがこの柵に深みを与えています。
竹みたいな鉄
「竹?」と思って近づくと、実際は鉄パイプ。塗装の色、擦り傷や凹み、雑な溶接痕が混ざり合い竹に化けていたようです。
華奢すぎる装飾
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どっしりと作られたフレームに対して、中央の装飾(?)があまりに華奢な気がします。歪み具合や配置のセンスも独特で、細いところまでしっかり赤いのも可愛らしい。
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近くの公園で同じポールを発見。こちらは中央部が円形です。先ほど見つけたポールの中央部は、円形だったものが半分に折れたものだったのか、と想像します。もしかすると、ポールの細い部分は作業場のありあわせの棒材で作ったのでは? という気も。そう考えると、細すぎる材料を選んだ理由も説明がつくし、さっきの公園のポールが半円形なのは材料が足りなかっただけなのかもしれません。製作者に真意を伺いたいところです。
パッチン錠のある街灯
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同じ公園でパッチン錠(アタッシュケースについてるようなワンタッチで開閉できる錠)がついた街灯を発見。電球交換を楽にするための工夫でしょう。小学生の頃の頃、廊下の壁にある消火栓の扉を開けたことを思い出しました。開けちゃいけないものを開ける時のワクワクに近い背徳感。
公共物というのは老若男女問わずウェルカムである一方で、メンテナンスや安全に関わる部分には鎖、錠前、特殊ネジ等でしっかり一線を引いてくるもの。しかし、このパッチン錠には、高い位置にあるからか「ここまでは来ないはず」という公共物らしからぬ油断を感じました。
おまけ① エッジが効いたポール
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普通のポールより内角のエッジが効いています。
おまけ② 隙だらけの柵
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立ち入ってほしくない気持ちもこれぐらいなのでしょう。
今回さんぽを終えて、見返すと公共物と柵の写真ばかりとなりました。変わり映えのなさそうなモチーフなだけによくみると特徴があって、誰かが意図してこの形に作ったんだなぁと改めて感じられるさんぽでした。最後まで読んでいただきありがとうございました。