花粉に黄砂、紫外線、「もうやめてくれ!」と叫びたくなるような暑さ。気づけば家の外は一年中そんな悩みの種だらけで、窓を開ける時間もめっきり減ったように感じる。自然の心地良い風を浴びることが贅沢になりつつある今、興味をそそられる扇風機「Green Fan Studio」がバルミューダから発売された。
先にお値段を書いておくと、税込みで4万2900円。決して安い買い物ではないが、間違いなくそれ以上の価値がこの一台にはある。そう思えたのは、発売に先立って行われた製品発表会で「GreenFan Studio」を体験したからだ。
心地よい風をデザイン。目指したのは“通年使える”扇風機
「GreenFan Studio」4万2900円
そもそも「GreenFan」の初代モデルがリリースされたのは14年前。このシリーズが革新的なのは、“風”をデザインしたこと。バルミューダ独自の二重構造の羽根が速度の異なる2種類の風を生み出し、それが互いにぶつかりながら広がっていく。会場で実際に浴びてみると、その肌触りは昔家族と訪れた森林浴を思い出すほど優しくて、馴染み深い扇風機の風がいかに人工的なものだったかに驚く。さらに、風が広がって届くため洗濯物が早く乾くので、部屋干しの時にも活用できるのだとか。
「GreenFan Studio」に使われている羽根の試作品
稼働中の静かさも規格外だ。数値にすると、実に10デシベル(風量1の場合)。これは木の葉が触れ合う音よりも小さいそうで、モーター音が無性に気になって寝られないという“あるある”とも無縁なのだ。
さらに、「GreenFan Studio」の新機能である「ジェットモード」にも注目したい。心地よい肌触りはそのままに、ハイパワーの風を起こせる。約23m先まで届く強力な風は、家中の空気の循環や室温の均一化に便利だという。
この機能は換気に役立つだけでなく、梅雨のカビ予防、冷暖房効率の向上などにも役立つとのこと。つまり「GreenFan Studio」は夏だけに活躍するただの“扇風機”ではなく、通年でサーキュレーターや換気扇、衣類乾燥機のようにも使える“オールシーズンファン”なのだ。
“2000分の1”のデザインが行き着いたのは、尊さ
製品発表会ではバルミューダ代表の寺尾玄さんと、日産やアウディの元カーデザイナーであり現在はバルミューダの外部デザインディレクターも担当している和田智さんの対談も行われた。
「何千万キロ離れた月は肉眼で見えても、匂いは嗅げない。五感の中で最も遠いものを感じ取れるのは視覚。そんな敏感な感覚に対して、デザインは真っ先に自己主張してしまうんです」。
そう話す寺尾さん。「GreenFan Studio」を形にする上で意識したキーワードは、“尊さ”だという。
バルミューダ代表の寺尾玄さん
カーデザイナーの和田智さん
「和田さんが毎週のようにおっしゃった言葉がクラシックです。それは古いものという意味ではなく、今に至るまで残っているもの。僕が以前スペインのロンダという街を訪れたときに、600年以上の歴史がある橋を見たんです。古くから牛や人がそこを歩いて、今もバイクや車が通っている。なぜ現代までその橋が残っているかというと、尊いからです。多くの人に『壊しちゃいけない』と感じさせるものがある。僕と和田さんが今回目指したのも、そんな尊さがあるクラシックな扇風機なんです」
その言葉を実現するための労力は並大抵ではない。「GreenFan Studio」が生まれるまでに約2000ものデザイン案が作られたというのだから、ストイックを通り越して“クレイジー”なクリエーションだ。
「GreenFan Studio」の世界観を描いたスケッチ
脚を三脚のような形状にすることで“扇風機っぽさ”を限りなく排除し、部屋に一年中置いても不自然さのない佇まいを実現。表面はつい触れたくなるような品のある質感に仕上げ、ケーブルは理想的な弧を描く材質に特注した。そうして生まれた“2000分の1”のデザインを眺め、和田さんはしみじみとこうコメントした。
「この三脚に光が当たって生まれる陰影が好きなんです。物があるから影が生まれるという普遍的な美しさを感じさせてくれる。『GreenFan Studio』はオブジェとしても素晴らしい存在です」
エネルギー問題にも貢献。生活に革命を起こす扇風機
最後に、「GreenFan Studio」のもう一つの魅力は、エネルギー効率のよさ。従来の約10分の1以下の消費電力を実現しているのでお財布に優しく、広い目で見ればエネルギー自給率への対策にもなるのだ。その自信の現れとして、2023年からバルミューダはこのファンの技術を応用し、新たな挑戦として風力発電の研究開発も開始。「GreenFan Studio」がブランドの“顔”になる日も近そうだ。
バルミューダが手がける風力発電機の2分の1模型。「効率的に風を生み出す独自構造の羽根は、風を受け止める力も強いのではないか」という仮説からスタートした
扇風機を通年で活用するという新たなライフスタイルを実現するだけでなく、環境問題に対するアクションにもなる。この一台からそんな“生活革命”が起こると考えると無性にワクワクして、一層「GreenFan Studio」が欲しくなってきた。
Edit&Text:山梨幸輝
Photo:Miki Yamasaki