「マッチングアプリ」はいつのまにか「出会い系」という言葉を吹き飛ばし、親世代の偏見もなんのその、あっという間に一般的な「出会い」のツールとして普及した。パートナーやちょっとした遊び相手を求めて利用する人がほとんどだが、フォトグラファーのあさのりなさんは「友だち作り」を目的にこのマッチングアプリを駆使しているという。
そもそも「都内の主要駅を歩けば必ず友だちに出会う」というほど自他ともに認める顔の広さを持つあさのさんが、さらに友だちを増やすべく、どのようにマッチングアプリを利用し、そこで出会った友だちたちとどのような関係を築いているのだろうか。あさのさんを通して「2024年の友情」のひとつのかたちが見えてきた。
あさのりな
1996年生まれ。岐阜出身都内元会社員、フォトグラファー。会社員時代に47都道府県を巡り、旅先の様子を中心に発信。夏と写真と喫茶店が好き。
Instagram:@asanorina_
X:@asanorina_
PairsでもwithでもなくTinderを使う理由
マッチングアプリは2020年のはじめ頃に、恋愛目的で使いはじめました。友だちから勧められて「Pairs」と「with」に登録してみたんです。その頃は「マッチングアプリは恥ずかしい」というイメージが自分の中にまだ残っていたので、恐る恐る2人の方に会ってみたんですが、なんだかしっくりこない。
今にして思えば、Pairsもwithも年収、学歴、仕事の内容といった「スペック」や、結婚への意思、子供は欲しいか、といった「条件」をガチガチに決めて、お互いに「将来のパートナー・結婚相手となりうるか」を念頭に使っている人が多いアプリなので、そこに抵抗があったんだと思います。私の場合はいきなり恋愛から入るのは難しいことがわかったので、無理に恋愛はせずに、アプリを使って「友だちを作ったほうが面白いな」って思ったのがきっかけです。
それから使い始めたのはおなじみ「Tinder」。使っていない人からすると、チャラい、治安が悪い、といったイメージが一番強いアプリですよね。半分くらいは当たっているかもしれませんが、実際はすごくいろんな幅を持った人たちがいるので、友だち作りにはピッタリで、今でも活用しています。
Tinderはパートナー探しに使っている人がそんなに多くないので、誰とでもすごくラフに会えるから自分としてはすっと受け入れることができて楽しかったんです。2021年から数えて3年間で50人くらいに会いました。
自分がTinderで出会う相手は、そのときに興味関心があることを教えてくれたり、一緒に楽しめる人。たとえばスケボーをやってみたいと思ったらプロフィールに「スケボー教えてください」と書くんです。ヒップホップにハマっているときは「最近ヒップホップ聴いてます」とか、本をよく読んでる時期は「おすすめの本を教えてください」と書いてみる。そうやって興味関心に合う人を根気強く探していると、気が合いそうな人がどこからともなく現れるんです。実際にそうやって出会った人たちにスケボーを教えてもらったり、一緒にヒップホップのライブに行ったり、神保町で古本屋巡りもしました。
「誰も教えてくれなかった」けど「超魅力的な世界」の住人たちとの出会い
自分の交友関係や生活の中でピンポイントに趣味が合う人ってなかなかいないし、いたとしてもそれをお互いに共有できる機会って実はあんまりないように思います。Tinderでの出会いはそれがひとつ大きな特徴だと言えそうです。
だからと言って、趣味が多く被っている人とばかり会いたいと思えないのが難しいところで、私が仲良くなりたいのは「自分とは少し違う界隈の人」「自分の知らないことを知っている人」なんです。以前「ボトルディギング」という、河原や空き地を掘って昔使われていたガラスの瓶を探すという、聞いたこともなかったけど一発で興味をそそられる趣味を教えてくれた友だちもいました。こういう自分の幅を広げてくれるような出会いのためにアプリを使っているんだなって思います。
もちろん共通の趣味で盛り上がれるのも、それはそれですごく嬉しいです。一時期「Nujabesのアルバムのジャケットに似ているゴミ箱の写真」をプロフィールに載せていることがあったんですが、ある人がそれに「めっちゃNujabesじゃないですか!」って反応してくれて本当に嬉しかった(笑)。その人とはすごく仲良くなれました。版画家の川瀬巴水の画像に反応してくれた人がいたときも嬉しかったな。共通の趣味を持ちつつも、自分の知らない世界のことを教えてくれる人を探して見つけられるんだからすごいですよね。
他にも、「この人には会ってみたい」と思う基準として、テキストコミュニケーションの質は自分にとってかなり重要。やりとりをしてる時点で気が合う人、合わない人の判断がだいたいついてしまいます。あくまで自分のこだわりですが、書き言葉がラフすぎる人だったり、いきなりタメ口で話しかけてくる人とはあんまり仲良くなれないだろうな、と思ってその時点で一線を引いてしまう。テキストの時点で違和感なくやりとりできる人はリアルでも仲良くなれることが多いんです。
「知り合い」よりも「友だち」のほうがお互い嬉しい
今の時代、SNSでゆるやかに繋がれてしまうので、友だちの境界ってかなり曖昧です。一回だけ飲みに行ってインスタを交換しつつも、お互いにフォローしあってるぐらいのなんとも言えない関係の人も多いですよね。
自分の中に友だちと呼べるかどうかの明確なラインはないけど、私の「友だち」の基準はすごく低いんじゃないかと思います。だって「知り合い」よりも「友だち」と言ったほうがお互いに嬉しいじゃないですか。私も友だちだって言われたい。「友だちって言ってくれてるんだ」って思えたほうがきっと楽しいと思うんです。でも「親友」って言葉はなるべく使いたくないなって思うんです。友だちに順序をつけてしまうようで、そこはみんな「友だち」と呼びたい。
SNS上だけの友だちも何人もいます。X(旧Twitter)やインスタ上だけでつながっていて、直接会ったことはないけど何年もメッセージのやり取りが続いている人もいます。「友だち」と言っても直接会うのがすべてではないですよね。
そういう意味で、Tinderでの出会いが他のマッチングアプリやSNSと大きく違うところは、相手のことをほぼ知らない状態から関係性が始まることだと思うんです。SNSの場合、生活の雰囲気や気にしているトピックとか、いろんな情報を自然と知ることになりますよね。でもTinderでは自分の容姿を載せていない人もたくさんいるし、プロフィール文も最低限の情報しか載っていないことも多い。どんな人が来るのかなという楽しみと、出会ってから相手のことをどんどん知っていく面白さはTinderならではかも。学校の入学式とか会社の初出勤の日に感じるワクワクに似てる気がします。
もともとTinderと関係なく、人とつながりたい気持ちがあるんだと思います。小学生のころから「同じ学年の人全員と話したい、全員と仲良くなりたい」と思っていて、友だちは増えるほど面白い、友だちは多いほうが楽しい、というスタンスは今でも変わりません。
友だちが増えると友だちから受ける影響も増えていく。音楽が好きな友だちが増えたら自分の音楽の幅も増えるし、写真を好きな友だちができたら写真のことをもっと知る機会になる。やっぱり友だちによって自分が広がっていくことが、自分が新しい友だちを探し続けている理由なんだと思います。