検索
menu
close
loading...
Special特集
close
検索
Tags
  1. top/
  2. Column/
  3. フローリスト・越智康貴とクリエイティブさんぽ
Column

上野公園から谷中あたり

フローリスト・越智康貴とクリエイティブさんぽ

author: 越智 康貴date: 2024/04/24

職業の数だけ“つい目がいく”光景あり。

「クリエイティブさんぽ」は、クリエイターや職人、研究者など、さまざまな専門分野を持つ人が好きなエリアを散策し、独自の視点で気になった場所を紹介してもらう連載企画。読んだ後にちょっとだけ視野が広がるかもしれない、未知の仕事への理解が深まるかもしれない、そんなレポートをお楽しみあれ。

第2回目となる今回さんぽしてくれたのは、フローリストであり、写真家や文筆家としても活躍する越智康貴さんです。

越智康貴

1989年生まれ。文化服装学院を卒業後、フローリストに。2011年にフラワーショップ「DILIGENCE PARLOUR」を開業し、2024年にはその2号店となる「omnibus DILIGENCE PARLOUR」をオープン。写真や文章、占いなどの分野でも幅広く活躍する。
Instagram:@ochiyasutaka
X:@ochiyasutaka

サクラの季節、上野にて。花と人、言葉の関係に思い馳せる

fade-image

上野へ出掛けた。「SCAI THE BATHHOUSE(以降、SCAI)」で、アピチャッポン・ウィーラセタクンという大好きなアーティストの個展が開催されているから。それから、他のギャラリーや美術館もまわれたらいいな、と考えていた。

JR上野駅の公園改札を出る。平日の昼間だというのに強烈な人混みで、早くも少し後悔する。歩きはじめて国立西洋美術館を越えたあたりから、サクラ並木が見えてくる。遠くからでも満開の様子がわかり、「なるほど……」と、相当な混雑に対して独りごちる。

サクラ並木の手前に出ていた庭木の露店に目が留まり立ち寄る。

ツバキ、ツツジ、サクラ、レンギョウ、ミツマタ。さまざまな植木が所狭しと並んでいる。短く仕立ててあるものから、僕の背丈以上ある根巻きのものもある。

しばらく悩んでから、『天の川』という名札がつけられた、蕾ばかりのサクラを買った。——名付けは大切だな、と思う。もし蕾がついていない状態だったとしても、絢爛に咲く様子が想像できる。きっとロマンティックに咲くだろうと想像できる。もちろん名前には誇張されていたり見当違いなものもあるけれど。人を見ても、名は体を表すとはよく言ったものだな、と思うことがある。

織姫と彦星は、年に一度しか会えない。子供の頃は、それってすごく淋しいことなのではないか、と思っていた。けれど今となっては、きっとちょうど良い、と思えてしまう。僕が他人との優れた関係を築くためには、距離が必要だと知ったから。

庭木屋の店主の写真を撮らせてもらう。

サクラ並木に出る。観光客らしき人もすごく多い。サクラは咲き乱れ、塊となって発光している雲のようにも見える。

ひとりで来ている人もいるし、家族や友人や恋人など、さまざまな組み合わせでたくさんの人々が往来している。時折り、背丈ほどまで降りてきて咲くサクラを活かしてセルフィーをしている人たちがいる。

片っ端から声をかけて、その様子を撮らせてもらう。瞬間が面白いな、と感じる。セルフィーをするときには、きっと本人が本人と認識している顔になっているだろう瞬間が。サクラの咲いている瞬間が。

SCAIへ。アピチャッポン・ウィーラセタクンの個展が同場所で開催されるのは7年ぶりらしく、その当時も観に来たけれど、すっかり内容を忘れてしまっている自分に呆れる。今回の個展も、すごく好みで、人混みを掻い潜って来た甲斐があったな、と思う。アピチャッポン・ウィーラセタクンの作品は、いつもどこか儚く、そして恐ろしい。

fade-image

上野公園へ戻ると、シャガが群生しているのを見つけた。ぽっかりと隙間ができているところに寝ころぶ。シャッタースピードやストロボの設定をしてカメラを渡し、シャッターをきってもらう。

たっぷりと湿気を含んだ地面が妙に心地良い。

fade-image

不忍池にある弁財天へお参りに。

的屋のまえにいた老人が「BOY」と太く刺繍されたキャップを被っていておもしろく、写真を撮らせてもらう。

fade-image

「someday you’ll go far」とプリントされたTシャツを着た女性が前を歩いていた。目に飛び込んでくるものは、象徴という予感をたずさえて心に残ってしまうのがわかる。

言葉は、ほとんどただの記号にしかすぎないはずなのに、知っていれば、もしくは気がつけば記号的な指示を超えて象徴になってしまうということがわかる。勘違いかもしれないけれど、「偶然だね」と言う時に頭のどこかで「偶然じゃない」と直感しているあの感覚に似ている。

fade-image

仕事以外で外出することは少ないけれど、たまに散歩に出ると、自分の気分がわかる気がする。興味や衝動の方向性がわかる気がする。

くるくるくるくる頭の中で、とりとめのない考えが浮かび、消え、また浮かび、また消えてゆき、人混みのなかで目に飛び込んでくる他人の顔つきから想像される心の機微にやがて疲れてしまい、他のギャラリーや美術館へ行くことは諦めて、改札へ向かった。


author
https://d22ci7zvokjsqt.cloudfront.net/wp-content/uploads/2024/04/145_2-scaled.jpeg

フローリスト・写真家・文筆家
越智 康貴

1989年生まれ。文化服装学院を卒業後、フローリストに。2011年にフラワーショップ「DILIGENCE PARLOUR」を開業し、2024年にはその2号店となる「omnibus DILIGENCE PARLOUR」をオープン。写真や文章、占いなどの分野でも幅広く活躍する。
Follow us!!
Copyright © Connect Beyond. All Rights Reserved.