世界中のスニーカーヘッズからリスペクトされている日本人が静岡県藤枝市にいる。同市でショップ「MAGFORLIA」を運営する山田隆也氏は、筋金入りのプーマコレクター。自身のコレクションを元にした復刻版のディレクション依頼を、日本はもとより本国ドイツのプーマからも受けるほど。そんなMAGFORLIA山田氏に、コレクションについて語ってもらうこの企画。第一回目はPUMA BASKET、PUMA SUEDEと、PUMA BASKET90680/90681だ(ディレクション・編集部早坂)
私の仕事は靴屋。オーナーだが店頭にも立つ、いわゆる売り子だ。当たり前だが普段はお店で靴を売っている。そんなかたわら、藤枝という静岡の地方都市に立地しているのも関わらず、ありがたいことに雑誌等の取材を受けたり、メーカーに新商品開発(復刻製品)へのアドバイスやディレクションの仕事もしている。
あまり聞きなれない“ディレクション”という仕事。「DIRECT=直接」。一番耳にするのは、テレビ業界でいうところのディレクター。ディレクターは監督の役回りだが、ここでいうディレクションとは、今後発売される新商品のディテールを、大枠自分が決めていくという役回り。つまり平たく言えば、自分の決定がそのまま商品になるということ。
フルディレクションした「PUMA BASKET90680/90681」
MAGFORLIA
近いところでは、2017年に発売された「PUMA BASKET90680」と、2018年に発売された「PUMA SUEDE90681」という2モデル。これは自身のフルディレクションモデルであり、どちらもわが息子のような存在だ。ちなみに、このモデル名も私が考えた。
2017 PUMA BASKET90680(右)、2018 PUMA SUEDE90681(左)
PUMA BASKET、PUMA SUEDEとは
「PUMA SUEDE」については、割とわかりやすく説明してくれているサイトがたくさんあるため、今回は割愛。ということで、前置きとして「PUMA BASKET」というモデルについて説明しようと思う。
PUMA SUEDEと並び、PUMAの中では代表モデルで、1968年から現在まで販売されている超ロングセーラーモデル。一般的には、「スウェード素材がPUMA SUEDE」で、「表革素材がPUMA BASKET」という認識だが、PUMA BASKETは長い歴史の中で、1980年代まで様々なディテール変遷を繰り返しているというところが、PUMA SUEDEとは少し違った運命を辿っているところが異なる。それゆえ、バリエーションが非常に豊富で、私自身もこのPUMA BASKETというモデルのバリエーションの多さに魅了されている。もちろん、PUMASUEDEも好きなのだが。
伝説のNBA選手が愛したモデル
このPUMA BASKETは、1970年代にNBAニューヨークニックスのNo.10(永久欠番)でレジェンドプレイヤーのウォルト=クライド=フレイジャーが、選手生涯長きにわたり愛用したモデル。自身のシグニチャーモデル「Clyde(PUMA SUEDEの前身にあたるモデル)」とともにコートで愛用していたのが、私が復刻を手掛けた「BASKET90680」で、彼が愛用した時期のスペックなのだ。
写真で見れば一目瞭然のとおり、このモデルはバンプ(靴のつま先)とシュータンがスウェードで、サイドにもスウェードの補強がついている。これは1971年~1975年頃まで採用されていたスペックで、この時期の特徴的なディテールなのだ。細かく言うと、この間も様々なマイナーチェンジが施されている。
今回のBASKET90680というモデルは、その中でも「1975年版旧ユーゴスラビア製BASKET」を私がディレクションしリバイバルしたものになる。PUMA BASKETの中でも、このスペックでの復刻がリリースされたことは一度もない。
PUMAのスローガン「macht's mit qualität」
私自身、兼ねてからヴィンテージPUMAが大好きだった。90年代当時、古着の世界ではPUMAというブランドのプライオリティは非常に低かったが、22歳の頃に初めて古着屋で現物を目にしたPUMA Clydeのロイヤル(ブルー)は、当時市場で人気があったNIKE、Converse、adidasのヴィンテージスニーカーを押しのけ、私にはひと際輝いて見え、心を奪われたのだ。
理由は簡単。PUMAのスローガン「macht's mit qualität(ドイツ語で品質第一、高品質といった意味)」の言葉通り、PUMAのビンテージスニーカー(~80年代)は、競技種目に合わせ、常に選手やコーチに寄り添い意見交換をし、要望を事細かに応えた商品開発をしている為、作りが非常に繊細で、それゆえ異常なほど履きやすい。見た目も、革が非常にしなやかで、着用するほどに足に馴染み、履きじわが雰囲気として現れる。スウェード素材のモデルに関しては、スウェード(ベロア)の発色が非常に良く、50年ほど経過した70年代のシューズでも、今なお色あせることなく色が残っているものが多い。現代のPUMA製品が決して悪いというわけではないが、靴屋として、いつか自分のディレクションでmacht's mit qualitätの精神を受け継ぎ、当時の雰囲気を踏襲した、後世に名が残る名品復刻を手掛けたいという思いが日に日に芽生えていった。
1970s PUMA Clyde
MAGFORLIA
〒426-0034 静岡県藤枝市駅前2丁目6-12
撮影/早坂英之