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Interview

DESIGNART TOKYO 2023:UNDER-30 Gala Espel

デザインに求められる正当性。その答えは文化人類学に在り

author: 高橋 正明date: 2023/09/25

「DESIGNART TOKYO」で毎年注目を集めるのが、30歳以下のクリエイターを選出する若手支援プログラム「UNDER 30」。「DESIGNART TOKYO 2023」の会期(2023年10月20日〜10月29日)を前に、Beyond magazineでは、この「UNDER 30」部門に選ばれた国際色豊かで才能あふれる5組のクリエイターのインタビューを敢行した。


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「DESIGNART2023」のUNDER -30に選出された、Gala Espel(ガラ・エスペル)は若干25歳のフランス人建築家、デザイナー。パリのインテリア・建築学校「エコール・カモンド」に学び、スイスのECAL(ローザンヌ美術大学)を卒業。その後、香港への留学や、アジア大陸を放浪しつつ、中国、台湾、韓国、日本、ミャンマーの工芸を学んだという放浪するノマド的な作家である。

2019年にはミラノサローネに参加。パリ装飾美術館やパリ・デザインウィークでもその作品が展示され、一躍注目を集めた。そして、日本のデザイン事務所「nendo」とともに作品と手がけた実績を持ち、文化人類学的なリサーチによるユニークな創作活動を展開している。

「DESIGNART TOKYO 2023」の展示では、考古学の視点で未来から今の時代の事物を見たらどうなるか、というSF的なテーマのもと、『Archaeology of the Future(未来の考古学)』というデジタルスキャンデバイスを用いた作品を展示する。

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驚きに満ちた国での展示

──今回、「DESIGNART TOKYO 2023」において「UNDER -30」に選ばれた感想をお聞かせください。

ガラさん:「DESIGNART TOKYO 2023」に参加させていただき、光栄に思っています。去年の「DESIGNART TOKYO 2022」でもいろいろな作品を見させていただき、各会場の展示はどれも素晴らしかったです。今回、「UNDER 30」に選ばれて、日本で私の作品が公開されるのをとても楽しみにしています。

日本は私にとって驚きに満ちた国なのです。仕事で一時期三軒茶屋に住んでいましたが、居心地も良かったです。当時、「DESIGNART TOKYO 2021」に参加していたデザイナー集団「マルチスタンダード」と出会ったり、彼らが教えてくれた若手デザイナーとの仕事はとても興味深かったです。彼らの作品はもっと世界的に評価されていいのではないかとも思いました。

決してヨーロッパのデザインが研究思考ではないというわけではありませんが、日本では、ヨーロッパよりもリサーチをしっかりやっていながら、最後はアーティスティックに作品を仕上げているのが興味深いです。

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──「nendo」の人たちはどういう印象はどうでしたか。

ガラさん:「nendo」の佐藤オオキさんが学生向けのデザインのコンペを開催し、パリの有名百貨店「ル・ボン・マルシェ」のアートディレクターとともに私を優勝者に選んでくれたんです。これが私が日本に来るきっかけとなりました。

「nendo」のチームからは本当に良くしてもらいましたし、彼らのクリエーションを通して、彼らが何を表現したいかを感じ取ることができました。実際の仕事は物理的な実験を重視していて、理論と実践の間を行き来し、設営、操作、トライアル&エラーの検証に時間をかけていたのです。

そして、日本のデザイナーは、素材に対する繊細な感覚、空間におけるボリューム、技術がうまく融合して訴求力のある質の高いものができているということを身近に経験することができました。この経験から、さまざまなインスピレーションから、柔軟な発想ができるようになりました。現在複数のプロジェクトを準備していますし、そういった意味でも日本での経験は生きていると思います。

放浪の文化体験で知ったこと

──ガラさんは、パリの建築・デザイン学校「エコール・カモンド」で学ばれた後に、「Hong Kong Design Institute」でさらに勉強をされました。なぜ香港を選んだのですか。

ガラさん:パリの建築学校の2年生のときに香港に行こうと決めました。香港の学校に行きたいというよりも、私自身がこれまでどっぷり浸かってきた西欧のカルチャーとはまったく異なる文化に身を置きたいと思ったのです。

文化や生活習慣の違いに期待しましたし、異なるデザインや建築を見たいとも思いました。当時は通りを歩いていて見るもの、聞こえる音、人々のふるまいや行き交い、すべてが興味深く、その背後にある意味や様式、ルール、歴史、宗教なども文化的な視点で考えたりしました。

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──いろいろな文化での経験をしたかったのですね。

ガラさん:もともと15歳から一人旅を始めた私は「世界の多様性をこの目で見てみたい」「冒険に身をさらしたい」と言う衝動に突き動かされていましたし、何かを探求すること、発見することを続けていきたいという思いがいつもありました。そして、自分が親しんだ生活圏から抜け出して、世界各地の人々がどんな暮らしをしているのかをもっとよく知りたいと思っていました。

「職業がその人の生活を形づくる」と言いますが、人の暮らしをよく理解するためには、そうした情報をたくさんインプットすることが必要だったのです。それによって、私のこれまでの建築やデザインについての知識やキャリアをその土地の文化に当てはめることができたのです。香港は私にとってそうしたことを経験できた初めての場所でした。

──旅から何を得たと思いますか。

ガラさん:香港の学校を卒業して、中国本土、台湾、韓国、日本、そしてミャンマーと、アジアを旅してまわるなかで、各地の伝統工芸は私の生活のなかにストレートに入ってきました。

旅の目的は、私が気になる伝統工芸のある場所をルートにして巡ること。植物を使った編み物や銀細工、あるいは独自のテキスタイルや石工などの技法、土地土地の素材にいたるまで、ローカルの技術に触れ、最終的にはそれらが持つシンボル性やモノをめぐる文化やストーリーを発見できたことが最大の収穫でした。

──そうしたフィールドワークは作品にどうやって生かされるのでしょうか。

ガラさん:私の作品では、リサーチや職人たちと一緒にデザインを展開することを大切にしています。職人さんたちは、デザイナーの仕事をサポートしたり、補ったりできるほどの深い知識を持っているのでとてもリスペクトしています。

机上の知識だけではパワフルな作品は作れません。人と出会いながら、フィールドリサーチを続け、現地の経験に身を浸して、建築やオブジェという表現に落とし込むというのが手順です。スイスのローザンヌ美術大学院(ECAL)での研究「ラグジュアリーのためのデザイン(クラフト)」では、著名な工芸職人と組んでこのアプローチをさらに深めることができました。

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──ガラさんの作品からシュルレアリスムのアートを連想します。そういった影響も受けていると感じますか。

ガラさん:私の名前・ガラは、シュルレアリスムの画家、サルヴァドール・ダリの妻・ガラに直接言及したものではないとしても、それは、私がアートと近い距離で育ったことの表れと言えるでしょう。人生において芸術的なキャリアを追求するように私に勧めてくれたのは、建築家である母でした。

さらに、私は南仏のフレンチ・カタランの出身。「カタラン」は「カタルーニャ」のことで、フランス側のカタルーニャ地方を指します。この辺りはさまざまなカルチャーが交差融合する特殊な地方で、ダリやミロの出身地にも近く、シュルレアリスムとも親和性がありますから、間接的にも影響を受けているかもしれません。

──そうしたアートからの影響も感じられるガラさんですが、ご自身を建築家、デザイナー、アーティスト、どこに位置付けていますか。

ガラさん:パリと香港では建築を学び、スイスでは造形を学び、両方で学位をとったこともあり、私自身は建築家兼デザイナーであるというふうに自分を位置付けています。私の場合は、その対象が概念的であったり芸術的であったりしても、「最良の反応」あるいは「最良の構成」を追究することが、もっとも自然な感情の動きなのです。

文化人類学を手引きに創作する

──近年、多くのデザイナーたちが文化人類学的な視点の重要性を認識するようになったと思うのですが、どう考えますか。

ガラさん:嬉しい質問ですね。実は私も同じように考えています。

デザインの仕事は、その使用用途や使い方を考えるうえで文化人類学と接点がありますが、工業デザインの場合は領域が広く、デザインそのものが必ずしもそうとは限りません。とくに見た目から文化人類学の影響を感じるのは難しいでしょう。つまり、デザインと文化人類学のつながりは、直接的なものではないことがわかります。ただし、昨今は文化人類学がデザインを生み出す文化や社会の分析を深める“創作の前提の手法”として注目されているのではないでしょうか。単なるブームで終わらないことを期待しています。

また、私自身デザイナーを名乗っていますが、自分は創作する側の人間でありながら、それを受容する側でもあると思っています。その両サイドで、人類学とヒューマン・サイエンスを土台に考えるようにしています。今回「DESIGNART TOKYO 2023」で発表する私の作品は、考古学にちなんだものです。文化人類学は現在の文化を扱いますが、私の研究は、過去、現在、未来を総合的に分析しています。

──デザイン界から文化人類学への接近はなぜ起こったと思いますか。

ガラさん現在の文化人類学ブームがなぜ起こっているかと言えば、デザイナーたちが「自分たちが何をしていて、それはなぜなのか」の説明を求められるからだと思います。

私たちデザイナーは、常に作り出したものを正当化しなくてならないというプレッシャーを感じています。そのうえで文化人類学はデザインを正当化するのではなく、ほかの議論を呼び込んだり、説得力のある説明を与えたり、リサーチの結果に深みを与えてくれたりします。それによって作品は、将来より輝けるものになっていくのではないでしょうか。

──文化人類学といえば、例えば有名なところで、レヴィ=ストロースの著作などは読まれましたか。

ガラさんレヴィーストロースも読みますが、レヴィ=ストロースの弟子筋にあたる、フィリップ・デスコラやティム・インゴルドのような人類学者にはとてもインスパイアされています。彼らのほとんどの著作を読んでおり、私の作品にもその影響を受けていると思います。私の場合は、ビジュアルからよりも思想家の言葉からより一層インスピレーションを受けています。

新しい環境に身を置き、そこからフィードバックを得て、ローカルの人々と一緒に思考するという創作スタイルは、ティム・インゴルドの著作から影響されているように思います。

私はニューヨークにある「ヴィラ・アルベルチーヌ」(米仏連携の文化施設でアートや思想に関わるコミュニティ)にレジデントとして2ヶ月滞在していたときにも、ニューヨークをリサーチのフィールドと見立ててまったく同じ手法で仕事をしていました。

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未来に対してはオプティミストでいたい

──「DESIGNART TOKYO 2023」での作品について教えてください。日本のオーディエンスにはどのように作品を見てほしいですか。

ガラさん作品名は『Archaeology of the Future(未来の考古学)』です。この作品では「未来の考古学者は何を発見するだろうか。今の世界は近未来からは、どのような過去として再発見されるだろうか」という問いを立てることから始めました。

架空のSF的なシナリオを作り、現在身の回りに存在するものが未来から見ると「今の時代の痕跡を残す遺物」に変わります。それは、現在と過去と未来の距離を楽しむ時間旅行でもあります。

考古学用のスキャニング技術に、発見された遺物の形状をスキャンする装置を用いたのです。新しいものを提示するような単純なやり方ではなく、すでに日常に存在しているもの、花、石、貝殻などを自然の中から集め、デジタル的に変形させて過去の遺物として表現し、インダストリアルな外見のオブジェとしました。

メタリックな仕上がりなので、いつの時代のものかが曖昧で、年代測定ができないものになります。選ばれたエレメントは親しみのあるものばかりです。シルバーという素材の仕上げが美しく褪色していながら、しかもフォルムは未来的です。銀と銀細工や宝飾に飾られ、表参道のギャラリーに展示されたら、斬新で見応えがあるものになると思います。

作品の仕上がりには私自身が驚くほどで、美的判断を超越した不思議なものになり、表参道のティアーズ・ギャラリーに展示される予定で、ぜひみなさん見に来ていただきたいです。古いものと新しいものが混在する時間意識の混沌した、東京のような都市で展示されることにワクワクしています。みなさんが「時間」というテーマについて自分の思索を深めてくれたらと思います。

──あなたの制作の中で一番大切な点は何でしょうか。

ガラさん私の作品を見てくれた人が、今私たちが生きているこの世界を真剣に、繊細に、見直す視座を持ってくれたらうれしいです。それが、デザイン的にも先進性と遊び心を兼ね備えた、未来のクリエイションに繋がるのならなおうれしいです。

今、世界はいろいろな意味で大変な時代になっていますが、私自身は未来に対しては楽観的です。深い心の底にはペシミズムがあるかもしれませんが、それとは反対に作品はオプティミスティックでありたいと思いながら創作しています。

ガラ・エスペルさんが選ぶ「TOKYO ART SPOT」

根津美術館

初めて東京に行ったときに訪れてとても気に入ったのが「根津美術館」です。室内と屋外の関係、自然環境と対話するようなしつらいが好きです。ポルトガル、リスボンにあるカルースト・グルベンキアン財団のミュージアムとも共通するような自然に抱かれるような心地よい雰囲気を感じました。

Gala Espel

デザイナー、インテリア建築家、舞台美術家。2020年、パリの百貨店「ル・ボン・マルシェ」主催の全国コンテストで優勝。インテリア・建築学校「エコール・カモンド」に学び、スイスのECAL(ローザンヌ美術大学)を卒業。2022 年、フランス文化省が開催するプロジェクトの新世界募集に選出され、ミラノ デザイン ウィーク、パリ デザイン ウィーク、などで多くの展示で世界的な注目を集める。

DESIGNART TOKYO 2023

開催期間:2023年10月20日(金)〜29日(日)
会場:表参道、外苑前、原宿、渋谷、六本木、広尾、銀座、東京
規模:参加クリエイター&ブランド数 約300名/約100会場(予定)
主催:DESIGNART TOKYO 実行委員会
▼インフォメーションセンター
設置期間:2023年10月20日(金)〜29日(日) 10:00〜18:00 予定
場所:ワールド北青山ビル
住所:東京都港区北青山3-5-10

HP: DESIGNART TOKYO 2023
Instagram: @designart_tokyo

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高橋 正明

建築、デザイン、アートを取材するライター、翻訳者、キュレーター。オランダのFRAME誌や英、米、独、香港、マレーシア等国内外の雑誌媒体に寄稿。『建築プレゼンの掟』『建築プロフェッションの解法』『DESGIN CITY TOKYO』など著書多数。翻訳書に『ジェフリー・バワ全仕事』『カラトラヴァ』などがある。近著は『MOMNET Redifininfing Brand Experience』。建築家を起用したDIESEL ART GALLERYでのキュレーターや韓国K-DESIGN AWARD審査委員なども務めた。2018年からJCD(商環境デザイン協会)主催のトークラウンジ「タカハシツキイチ」のモデレーターを続けている。東京生まれ、独英米に留学。趣味は映画。
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