「入るのは簡単だが、卒業するのは難しい」とよく言われているアメリカの大学。今回は私がアメリカ・サンノゼ州立大学への留学の間に受講した講義について話していきたい。「交換留学」では、学生ビザを維持するため、半年間で最低12単位を取得する必要があった。Business学部 に所属していたが、留学生はどの学部の講義でも受講できるカリキュラムのため、日本では開講されていないようなユニークな講義を履修したので、その一部紹介していこう。
長い講義は1コマ180分!
私は交換留学でアメリカに渡ったので、「留学生」のための講義を受講するのでではなく、現地の学生として扱われ、現地の大学生と同じ講義を履修することになっていた。
そのため、大学で学習する専門性の高い内容を英語で理解する必要があったが、それに加えて、アメリカの大学はどの講義も基本的には参加型のスタイルで、日本のようにレクチャーを聴くだけの受身型の講義はひとつもない! 講義内容はグループワークで取り組むことが多いのはもちろん、先生の話を聴くときも生徒は積極的に質問をしたり、意見を出したりとアクティブな姿勢だ。
講義によって講義時間はさまざまで、60分のものから180分近いものもあった。また、日本はひとつの講義を週に1回受けるのが一般的だが、アメリカでは同じ講義を週に2回以上受けることが多く、履修する講義の数自体は少なくても、実際に受講する時間は日本のときよりも長いことが多い。
私は英語に不慣れだったこともあり、予習をしないと講義についていけなかったため、毎回講義までに講義内容を確認し、講義の後は課題の提出に追われるという日々。我ながら、日本の大学では考えられなかった優等生ぶりだ。
キャンパス内に残る人権運動の「軌跡」
「Digital Humanities(デジタルヒューマニティーズ)」とは、人文学と情報学の融合であり、人文学的問題をデジタルを用いて新たな分析を加えたり、アーカイブしたりする活動のこと。私が留学をしていたサンノゼはアメリカでもとくに昔から人権運動などが盛んに行われてきた地域で、大学にもそれらの活動に関する記事や文献が多く残されている。
1968年のメキシコオリンピックの陸上男子200mの表彰台で、拳を突き上げて人種差別に抗議したことで有名な金メダリストのトミー・スミスと、銅メダルを獲得したジョン・カーロスもサンノゼ州立大学の出身で、キャンパス内には彼らの銅像が建てられているほどだ。
この講義の最終課題では、大学内でかつて学生らが人権を訴えるために起こした運動の歴史を現代の学生にどう伝達するかというテーマが課せられた。そのために毎日大学で発行されている、1960~1980年代までの約20年分の新聞を読み漁る必要があったのだ!
私のクラスでは、「Take a walk with us」というキャンパスツアーを企画し、キャンパス内の各所で起こった運動について学ぶことができるイベントを開催。私はポスター作成を主に担当し、各スポットにQRコードを添付し、それを読み込めばほかのメンバーが作成したwebサイトに遷移し、活動に関して残されている文書やニュース映像などをオンラインで見ることができる動線に設計した。
これからアメリカ留学を予定している人には、人権に関する講義を履修することを強く推したい! 人権運動が盛んに行われてきたアメリカで学ぶことで、これらの歴史的な出来事やその背後にある理念を深く理解し、その影響が今日の社会にどのように与えているかを感じることができるだろう。
過去の人権を訴える運動でつくられたバッジ
受講生の半数以上が「Queer(クィア)」
「Queer(クィア)」とは、「LGBTQ」の「Q」に当たる部分でもとの単語は「風変わりな」という意味であり、侮辱されてきたセクシャルマイノリティがあえて自身を指す言葉として使ったのがはじまりだ。
つまり、「Queer Arts(クィアアート)」は性的マイノリティを中心としてさまざまな人々が人権などを訴える活動のなかで作ってきたアート作品のこと。抑圧された社会のなかで表に出ていなかった作品なども多く存在し、それらを歴史とともに紐解いていくのが「Queer Arts」の講義。最終課題は、自分のクィアネスな体験やライフスタイルに対するクィアリングを作品として提出することだった。
この講義は、受講生の半数以上が自分の生まれ持った性別とは異なるジェンダーを自認しているという、日本ではあまり見られない特殊な環境だ。ジェンダーについての議論は日本国内でも注目されつつあるが、性別と性自認が一致する私がマイノリティになる空間は初めての体験であり、異なるジェンダーアイデンティティに関する深い理解と共感を育むことができた。
大学生のアイデアをイベント会社が実践することも!
「Hospitality Management(ホスピタリティマネジメント)」では、イベントの企画や運営の方法について体系的に学んだ。実際にアメリカの大きなフェスなどを運営するイベント会社が公演に訪れ、実践的な方法を学ぶことができた。こういった講義も実にアメリカらしい講義だ。
この講義の最終課題は、実際に架空のイベントを開催することを想定し、その企画・運営について詳細な計画を立てること。企画チームは、開催地、日時、イベントの規模、ターゲット層、テーマなどを決定し、運営チームは予算、広告、ポスター、スタッフ、必要機材、開催地・ケータリング、衛生管理などを準備することが主な内容だ。これらをグループメンバーで何度も話し合い、最後はプレゼンテーションを行った。
最終発表自体も、当日のスケジュール設定からケータリングの準備まで学生チームが運営し、座学よりも実践を通して学ぶことを重視するアメリカならではのスタイルだと改めて感じた。また、光るアイデアはイベント会社が新しい企画として実現する可能性もあるということで、学生のクリエイティビティを対等に評価してくれる姿勢に感動した。
講義はビールを飲みながら…⁉️
講義のたびにテーマに合わせた十数種類のビールをテイスティングするという講義が「beer appreciation(ビアアプリケーション)」。日本ではなかなかこのような講義は受けられないと思い、興味本位で履修。テイスティングはただ飲めばいいというわけではなく、香りや舌触り、味などの感想を細かく記録していく必要があり、もちろん酔っ払っている場合ではない。
また、近くのブルワリーにも足を運び、実際の醸造方法などについて学んだ。アジア人は、欧米人に比べて酔いにくい体質をしているので、日本人の私だけが毎回酔っばらって顔を赤くしていたのだが(笑)、お酒を交わしてコミュニケーションが活発になるというのは世界共通。この講義を通して、多くの友達をつくることができた。
留学生にとっての現地講義
アメリカの講義はイメージ通りハードで、予習と課題に追われる毎日だった。とくに私が受講した講義はどれもアウトプットに評価の重点を置かれているような印象だったが、それを作りあげるプロセスはとてつもなく大変な作業だ。
そのぶん、日本にいるときよりも大学生として学習している自覚を強く持つことができ、有意義な時間を過ごせたという達成感がある。留学生にとって決して楽な毎日ではないが、きっと得られることは数えきれないほどあるため、迷っている人はぜひ飛び込んでみて欲しいと思う。