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避暑りながら歩く、盛夏

光るヒナ子のときめき放浪記 -上野編-

author: 光るヒナ子date: 2023/08/13

つい先日、高円寺の路上で友達と口論になり、少し高円寺が嫌いになった。お互いお酒が入っていた事もあり、記憶は曖昧で解消する術は無い。イライラだけが今も残っている。落ち込んでなどいたくない。いつものように散歩したいけど、今回はいつもと違う街を歩きたいと思った。どこに行こうかと考え、ふと脳裏に過ったのは、数年前の今頃に見た“上野の不忍池”だ。「あの光景、なんか良かったな」という記憶がある。


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私はワクワクしていた。先日の口論の事も引きずっているが、今なら上野の不忍池の蓮がいい感じなんじゃないか? と期待しているのである。蓮の花を見るには、遅くてもお昼頃までで、午後になると花が閉じてしまうと聞いたことがある。

急がなければならない。昼前までに準備を済ませ上野に向かった。電車の乗り換えもスムーズにできた。順調だ。しまった……少し歩いただけで汗だくだ。梅雨が明けて真暑日が続いている。

まずは不忍池に行かなければならない。無理だ。すぐに汗をかき過ぎた身体を潤さなければ、この先がもたない。数秒間葛藤し、不忍池の後に行こうと思っていた、お気に入りのお店に向かった。

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平日の昼頃、この暑さもあってかアメ横へ向かう道は観光客もまばらで、スムーズにそのお店に到着した。ここは鮮度抜群の魚介が堪能できる「呑める魚屋」として有名な立ち飲み屋さんである。女性の一人呑み(今回はいつものカメラマンがいるが)もしやすい素敵なお店だ。

キンキンに冷えたビールでようやく落ち着きを取り戻した。数年前に上野へ来たときも、やはりこのお店で呑んだ。とても美味しかったからまた訪れたかったんだ。

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今日は「お昼ごはんにこれを食べる!」と決めていたスペシャルな海鮮丼を頼んだ。マグロを中心に新鮮なお刺身がふんだんに載っている。美味すぎた、ダメだ止まらない……。いくら丼も頼んでしまった。珍しいサメの心臓のお刺身にサバの西京焼もつまんでしまった。何をやっているんだ私は。しかし上野にはあんまり来ないからと、スタートして1時間弱でここぞとばかりに堪能してしまった。

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散財してしまった。でも後悔は無い。お腹もいっぱいで清々しい気分だ。気温はどんどん上がっているように思う。コンビニでアイスコーヒーを買って、目的の不忍池に向かう。

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大通りを渡ってすぐに着いた。上野恩賜公園内にある不忍池。大きな池全体に広がる蓮の葉。水面はほとんど見えない。一面に広がる緑の葉の中に、ピンク色の蕾が点在している。そしてその背景に見えるビル群。この対比がたまらなく儚く美しい。この光景が見たかったんだ。数年前よりもグッと来た。来て良かった。

蓮の花はほとんど蕾だったが、咲いている花もちらほらあり、嬉しくなった。感慨深くなりながら池沿いを歩いていると、一羽の鵜が羽を中途半端に広げて(羽を乾かしているらしい)こちらを見ている。デカい。目が合った。私も同じポーズをとり戯けて見せた。するとその鵜は首をキョロキョロさせ、ゆっくりと羽を閉じた。

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太陽が高く真上で、どんどん気温が上がっているのを感じた。不忍池を堪能し、大きな石段を登り「上野公園さくら通り」を歩く。暑過ぎる。まばらな人々も傍の木陰に沿って歩いている。街中とは違い、この大きな公園内はとても静かだ。

ふと、この通りのど真ん中を歩いてみた。白い地面が眩しくて、思わず目を細める。視界が狭まり、この大きな通りに私一人だけ歩いている感覚になった。高揚感を感じると同時に、何も遮る物のない炎天下の灼熱に私は溶けてしまった。危ないと思いすぐに傍に逸れて歩く。

しばらくすると、奥に連なる鳥居が印象的な「花園稲荷神社」を見つけた。記念写真を撮っていると、一人の男性に声を掛けられた。「写真……」とカタコトの日本語でiPhoneを指差すジェスチャーをする男性。まさか一緒に!? と嬉しくなったが、普通にiPhoneを渡され、鳥居の前でポーズをとる男性にシャッターボタンを押した。iPhoneの表記はハングル文字だった。観光の方だ。

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道なりに進んで、噴水のある広場に着いた。一番暑い時間帯なので、ほとんど誰もいない。みんな木陰に避難している。とにかく広い広場が、カンカン照りの日差しに照らされ真っ白に飛んじゃってるように見える。その中で噴水が静かにリズムを刻んでいた。

少し遠くに何かが見える。近付いてみると実物大のシロナガスクジラの模型だった。私は上野のど真ん中でシロナガスクジラを見た。デカかった。そしてカッコよかった。クジラが飛んでる! いや、模型だ。危ない。

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「国立西洋美術館」の前庭。柵越しにロダンの彫刻群が見える。考える人を見て、私も熟考する。しかし暑過ぎて何も考えられない。奥には地獄の門。あぁ、クラクラしてきた。滴る汗と真っ白い大きな公園。現実と非現実が混じり合った異様な空間に私はいる。

ダメだ危ない! 暑過ぎる!

急いで避難しなければと足早に歩く。上野の東側に渡れるパンダ橋が見える。日陰が一切ない。ヤバい。

さらに歩く速度を上げた。

「パンダ橋」に差し掛かると風が抜けるのを感じた。ふと見えた上野の風景が妙に鮮明に見えて、暑さでこんがらがってる私を現実に戻してくれたように思えた。落ち着いて休憩できる場所に向かおう。

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このあまりの暑さから逃れる為に「喫茶 古城」へ。上野で有名な純喫茶でずっと訪れてみたかった。地下に降りる階段から、騎士のステンドグラスやシャンデリアに圧倒される。二、三段降りた辺りから涼しい風を感じ、ほっとした。すでに身体の力が緩み始めている。

席に案内してもらう途中で確信した。奥の壁一面に広がるステンドグラス、豪華なシャンデリア、座り心地の良さそうなソファー、こだわりが詰まった中世ヨーロッパ風の内装、そして全席喫煙可。ステンドグラスの淡い光と、タバコの煙がまたいい演出をしている。すべてが私好みである。

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クリームソーダを注文した。見渡すとご年配の方やスーツ姿の男性、ヘッドフォンをして文庫本を読む若者など、それぞれがこの空間を満喫していた。クリームソーダが美味い。どこまでも深く沈んでいけそうなソファー。

昭和の香りが残る店内はとても落ち着き、ゆっくりとした時間が流れる。タバコを燻らせ、さっきまで暑さで思考停止状態だった私は生き返った。この雰囲気は高円寺とはまた違う、趣きと安心感があった。昭和の頃から喫茶店に求める美や安らぎの価値観は、揺らぐことなく令和の今も健在である。

心地良過ぎてかなり古城に長居してしまった。外に出ると、さっきまでの暑さは少し和らいでいた。夕方に差し掛かりつつある。事前にうっすら立てていた計画によると、アメ横に戻り「肉の大山」のメンチカツを食べなければいけない。

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高速道路の高架を潜り抜けて、再びアメ横に戻る。しかし、今回はメンチカツを流し見して、あえて見過ごす。食べたい気持ちはあった。暑さと脂の関係性を知った。

この時間のアメ横は活気づいており、どんどん人が増えて来ている。人混みを避けるように高架下へ入ってみると、細長く小さなお店が入り組んで並んでおり、昭和の哀愁を感じた。昭和を知るはずもないのに、何処か懐かしさを覚えるこの感覚は何なのだろうか?

社会のスピードについていけない私にとって、このアナログ感に温かみを感じているのではなかろうか。それにしても、この高架下はクーラーが効いていて涼しい。

アメ横高架下を探索しているうちに、御徒町駅まで来てしまっていた。堪能した。今回の散歩はこれで充分だ。いや、足りない。まだだ! 気になっている古着屋が御徒町にあるんだ!

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御徒町駅から徒歩2分、「ハレル スリフトストア」に着いた。楽しい。発掘しがいがある! 近所にあったら良いのにと心から思う。このお店は、幅広いジャンルの豊富な品揃えなうえに、安くて状態も良い。しかも月曜日は全品半額(オリジナルアイテム以外)、月曜日以外は4色の値札の中1色が週替わりで半額や学割と、常にいろいろなセールをしている。

疲労を忘れて夢中になった。安くて大量に買ってしまいそうになったが、厳選して4点に絞って購入した。嬉しい。散歩の〆に古着というのは良いのではないでしょうか? 思い出も物として残るので。と、ふと思った。

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お店を出ると夕陽が眩しく、暮れかけていた。午前中からたくさん歩いた。今回の上野散歩は、暑さで思考停止になりもしたが、結果大満足だった。

この日込み上げて来た感情たちは、きっと求めていたそれだ。先日の口論のイライラなど掠めもしなかったのだから。もう少しここら辺に居たいかも……と、夕暮れに後ろ髪を引かれながら、御徒町駅から帰路に着いた。

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動画クリエイター
光るヒナ子

日常の中にある“ときめき”を求めて動画を制作、YouTubeやTikTokを中心に投稿している。どこかサイケデリックな空気が香る不思議な世界観に中毒者が続出中。総フォロワー数は10万人を超える(2023年5月現在)。
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