世界弾丸一周、廃校キャンプなど、個性的な旅を作るトラベルプロデューサーの堀 真菜実さん。今回、新たに提案するのは沖縄でのウエディング旅。未知の体験と結婚式を組み合わせた、ただの旅でもハネムーンでもない異文化体験とは?
いま、結婚のかたちは、ライフスタイルの変化やパンデミックの影響で急速に多様化している。
そもそも、結婚というイベント自体が極めてパーソナルな体験だ。どの夫婦にもふたつとして同じストーリーはないし、将来に向けて価値観をすり合わせていく結婚のステップにはふたりの個性が詰まっている。
従来からのスタンダードなブライダルイベントのかたちだけでは、その多彩なニーズを満たすことが難しくなりつつあるのだ。
「ブライダルフォトをプロデュースしてほしい」
入籍したばかりの友人夫婦からの相談だった。聞けば「ありきたりな写真にはしたくないけど、どこで何を撮ればいいかわからなくて、行き詰まっている」とのこと。
大切な友人の晴れ舞台である。是非ともひと肌脱ぎたいと、張り切って打ち合わせをした。まずはネット上で集めたサンプルを見せて、2人のイメージを探る。
ところが、何を聞いても返ってくる答えは「本当に希望はないから、まるっとおまかせしたい」の一点張り。力及ばず、ヒアリングは失敗に終わった。
作戦変更。フォトから離れて、ふたりの考えを整理してみることにした。
ふたりの思いを掘り出せ!
それからというもの、新婦と私は、電話や対面でとにかく話をした。どうして「写真にはこだわりたいはずなのに、撮りたい写真は一切ない」という不思議な現象が起こったのだろう。
ー結婚式はどうするの?
挙げない予定。お互い再婚だからね。2度も呼ぶのはゲストに申し訳ないし、まだコロナも落ち着いてないし。
ー愛を誓ってほしいとは思わない?
思わないよ(笑)
でも言われてみれば、何か区切りがほしいかな。
これまで、お付き合いの告白やプロポーズのような、はっきりとした言葉はなくて。なんだか「結婚した」っていう実感がないんだ。
ー写真にこだわりたい理由は?
コロナでなかなか会えなかった両家の親に写真を送って安心してもらいたいから。それに式を挙げない場合の選択肢って、フォトウエディングなのかなって。
ーハネムーンには行く?
予定はないけど、旅行はしたい!
彼は仕事が忙しくて、お付き合いしてからもほとんど休暇を取ったことがないんだ。結婚のタイミングなら取れるかなぁ。
ーもし旅行に行けるなら、行きたい場所はある?
海外も惹かれるけど、コロナ情勢が読めない今は怖さの方が大きい。
一番行きたいのは沖縄。ただ、青い海と白いビーチだけなら私の地元にもあるんだ。わざわざ結婚の記念に沖縄っていうのは特別感に欠けるかな。
ーこれまでにふたりで行った場所は?
首都圏でホテルステイ。土日でさくっと行ける範囲かな。それから帰省先。
いつかは、歳を重ねてもふたりでリピートして行ける「お気に入りの旅先」を見つけるのが夢なんだけどね!
繰り返し話すうちに、ふたつのことに気がついた。
ひとつは、フォトに関してはまったく希望が出てこなかったのに、旅行については何を聞かれても即答であること。
もうひとつは、ブライダルイベントには一般的な「型」があって、無意識のうちに夫婦がそこから選択をしていること。
ふたりの間には「結婚式を挙げる? 写真だけ撮る? それとも何もしない?」というような会話があったに違いない。「人生の節目を大切に過ごしたい」「幸せな姿を両親に見せたい」という思いがあり、結婚式を挙げない場合はブライダルフォトにこだわらなければと。
だったら、もっと自由に柔軟にアウトプットすればいい。必要なものだけを、必要なボリュームで抽出しよう、と思い立った。
シンプルに、「やりたい」ことから積み上げる
私たちははじめに「どんな写真が撮りたいか」を考えるのを、止めにした。代わりに、願いを丸ごと叶える時間を創る。その姿をカメラに収める。こちらの方がよっぽど自然だ。
では、いまのふたりにとって大切なことは何だろう。改めて整理した。
「結婚」をたしかに実感できる、時間、空間、祝福。
日常の喧騒から離れ、地域と繋がるように旅すること。
ふたりの幸せな瞬間を、目に見えるかたちに残すこと。
「なら、旅しながら撮ればいいね、どこでも行くよ」
友人カメラマンの一言が後押しとなり、新郎新婦、カメラマン、わが家の7名で行く「旅するウエディング」計画がスタートした。
行き先は、「ふたりの願いをもっとも叶えられる場所」をチョイス。
お祝いの舞台には、新婦が好きな沖縄のなかから「名護市」を選んだ。名護を推したのには、3つの理由があった。
名護なら、海だけじゃない沖縄に出会えるから
まずはその立地。名護は「やんばる」と呼ばれる沖縄県北部の森林エリアと、3つの異なる海に囲まれ、さらに町の見どころも多いため、じつにさまざまな景色に出会えるのが特徴だ。海とビーチだけでは特別感に欠けてしまうという新婦の懸念も、クリアできる。
やんばるは、漢字で「山原」と書き、深い緑が生い茂る。
名護は、人の温かみに触れられる場所だから
沖縄には、他人の幸せを喜ぶ文化が根付いている。町を挙げて長寿の人を祝う「カジマヤー」という習わしは、全国でも有名だ。
そんな沖縄のなかでも、特に私が人情に触れてきたのが名護だった。たとえば妊娠中に大きなおなかを抱えて飲食店に入ったときのこと。女将や常連さんに声をかけられたことを皮切りに、たまたま居合わせたお客さんが、みんなで歌って踊って、安産を祈ってくれた。そんな場所だから、きっと友人たちのことも祝福してくれると確信していたのだ。
新婦から「2人で繰り返し行くような旅先がほしい」と聞いた瞬間、「地域との関わり」「祝う文化」「人情」というキーワードとともに名護が浮かんだ。
名護では、日本にいながら異文化体験できるから
最後に、まるで海外に来たような体験や景色に出会えること。たとえば名護では買い物をすると、「しーぶん」といってオマケをもらえることがある。
八百屋さんでお茶缶をもらったり、ドリンクを買っただけでケーキを3種類も試食させてもらったりと、最初は驚いたものだ。
海外旅行を見送ったふたりに、国内にいながらカルチャーショックを体験させたくもあった。
海外さながらの景観も多い。東南アジアのような熱帯雨林や、まるで遺跡のような建築物は、十分に非日常を味わうことができる。
ハネムーンでも、結婚式でもない。「旅するウエディング」へ
名護に住む知人に相談したところ、快く現地でのサポートを引き受けてもらえ、準備は万全。
”ドレスのまま各地を訪れ、旅を楽しむ姿を写真を残す
夜は、友人と地元の人たちに囲まれて、手作りの宴を”
そんなテーマで行われた「旅するウエディング」のようすは、後編でご紹介したい。
現地のみなさんの力が加わって、旅するウエディングin名護は一気にパワーアップ!
写真:cap
現地協力:ナゴラブ