好きなことを続けるって案外難しい。どんなに楽しいことでも疲れるときはあるし、もしそれを仕事にするなら世間の評価と向き合う瞬間がくる。だからこそ、脇目も振らず“好き”を貫く人は美しく、その姿は自分たちに勇気を与えてくれる。ミュージシャンのa子さんもまさにそんな存在だ。新進気鋭のクリエイティブチーム・londogの仲間たちと、純度120%の“好き”が詰まった音を発信し続ける。そんな彼女のパーソナリティに迫りつつ、ミュージシャンという仕事について話してもらった。
Chapter1.
学生時代
──まずは簡単なプロフィールを教えてください。
a子です。ミュージシャンをやっております。
a子
シンガーソングライター。2020年に本格的にアーティスト活動を開始。情緒的な楽曲の数々はa子自身がプロデュースしながら制作。ミュージック・ビデオ等もa 子率いるクリエイティブチーム・londogが制作するなど活動内容は多岐に渡る。
2020年9月に1stEP『潜在的MISTY』、2021年1月には2nd EP『ANTI BLUE』を自主レーベルlondogよりリリース。現在までに、EP2枚、シングル14曲をリリースしている。2023年1月放送のテレビ朝日「関ジャム完全燃SHOW」"プロが選ぶ年間マイベスト10曲"にて、佐藤千亜妃氏より2022年8月にリリースした「太陽」が選出される。
2023年6月にa子名義として初となるワンマンライブ『FEED MY BODY』@Shibuya WWWをソールドアウトにて開催。12月にはa子初の東京・大阪ツアーとなる「a子 Live Tour 2023『l'm crazy now, over you』」を開催する。
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──学生時代はどんなことをしていましたか?
小学生の頃は、近所の山に1人で毎日登っていました。中学生の頃は、放課後に1人でブックオフに行って、漫画とCDを買っていました。ワゴンに入っているセール品をよく探していて。ジャンルを問わず“ジャケ買い”していましたね。高めの値段がついていることが多いジャズのアルバムがワゴンに入っていたりすると“アタリ”だったんです。友達も少々いましたけど、基本的に1人で何かすることが多かったです。新しい漫画やCDと出会うのがとにかく楽しくて。
Chapter2.
音楽のルーツ
──a子さんの音楽人生に影響を与えた人はいますか?
家の近くにあるレコードショップのおじいさんです。「音楽が好きなんですけど、何か教えてください」って私から話しかけて仲良くなりました。それからソフト・マシーンやエリック・クラプトン、ライザ・ミネリ、ビートルズなど、いろいろなジャンルのレコードやCDを買いました。そのお店に通うようになって、音楽の知識が増えたと思います。
──ソフト・マシーンといえば実験的なプログレッシブ・ロックが有名ですが、難解には思わなかったですか?
いえ、そんなことはなかったです。アーティスティックといいますか、感情とかそういうのが混ざっている感じがして聴きやすかったです。
──どのようなジャンルでも、ある種平等に独自の感性で聴かれていたのですね。音楽の話ができる人は他にいましたか?
私が上京した時に出会った中村(エイジ)さんです。今では私が所属しているクリエイティブチーム・londogでキーボードや作編曲をしています。当時好きだったインディー・ロックバンドとか、メラニー・マルティネスとか、これまでの友達だと全然通じなかったアーティストの話をしても「めっちゃかっこいい」って興味を持ってくれたんです。中村さんもモーリス・ブラウンとか、ジェイムス・ブレイク、フライング・ロータスとかいろいろなアーティストを教えてくれて。「こんなに音楽を知ってる人いるんだ」と思って楽しくなれたし、より詳しくなるきっかけにもなりました。
Chapter3.
ミュージシャンとして生きていくこと
──いつから作曲をしていましたか?
中学校に上がる前に父親がギターを買ってくれた時からです。作曲といってもそんな大層なものではなく、「ちょっと曲作ってみようかな」「ちょっとコードを鳴らしてみよう」くらいでした。
──本格的にミュージシャンになろうと思ったのはいつからですか?
高校に入ってからです。先生には「大学行ってからでどう?」みたいに言われたんですけど、2年生の時にはミュージシャンになるために上京しようと思っていました。
──他の道を考えた瞬間はありましたか?
漫画家もいいなって思ってた時期もあったんです。でも、小学生の頃に漫画を1冊描いておばあちゃんに見せたら「面白くない」って言われて。ああ、こっちの才能はないんだと。
──なるほど。どちらの道にせよ、好きなことで生きていくという姿勢はブレていないのですね。
子どもの頃から“明日死ぬかもしれない精神”があるんですよ。だから好きなことをして、悔いのないように生きようと思っております。
──ミュージシャンとして生きていく大変さは感じていますか?
もちろんです。2020年にlondogで初めてMVを撮った時に、2週間ぐらい狭いスタジオに篭りきりで制作してほとんど寝られなくて。でも、作品を通して自分を表現する喜びも感じたんです。しんどいけど楽しいな、みたいな気持ちです。
──しんどさよりも楽しさが勝つから続けられている?
いや、基本的にしんどい、しんどいって思っています(笑)。でも、しんどさの部分は「好きなことをやってるからそういうもの」と割り切れるというか。自分は音楽以外は何もできないと思っていますから、他の道は考えないですね。
──難しい質問かもしれませんが、自分にしかない才能ってなんだと思いますか?
根性だけは取り柄だと思っております。以前リリースしたMVで、納期ギリギリになってしまったものがあったんですけど、どうしても気に入らないシーンがあって。その映像を手掛けている、londogでも3Dアーティストとして参加しているYuya Utamura(NEET.COM)を深夜にファミレスに呼び出して「このシーンを変えてほしい」って泣きながら頼み込んだことがあったんです。その結果「一緒に頑張りましょう」って向こうも折れてくれて。その帰り道に中村さんに「a子は根性だけはあるよ」って言ってもらえたんです。
──根性であり、土壇場でも折れない意思の強さとも言えますね。その力の源はどこからくるのでしょうか?
好みがはっきりしているんです。“嫌い”があるからこそ、“好き”を妥協せずに突き進むことができる。もちろんlondogの皆様には大変なご迷惑をかけつつですが……。
Chapter4.
“やりたいこと”の見つけ方
──10代や20代の人がやりたいことを見つける上で大事なことはなんだと思いますか?
好きを集めて、嫌いをはっきりさせることですね。私もTwitterやInstagramでクリエイティブのインスピレーションになりそうな好きなもの、いいなと思うものにひたすら「いいね」を押したり、YouTubeを観たり、CDを買ったりをずっと続けていて。その延長線上にやりたいことがあるのかなと思います。
──それこそレコード屋に通っていた時のように、いろいろなものに触れることで、自分の好きの解像度を高めていくことが大事だと。
そうですね。昔から好き嫌いははっきりしていましたが、ディグることで好き嫌いをさらに研ぎ澄ますことができたと思います。私の場合であれば、「下手と言われたから漫画家の道は難しそうだ」と諦めたり、「音楽ならもしかしたらなんとかなるかもしれない」とチャレンジできたりと、その先に道が広がっていきました。
あとは、誰かに見てもらうのも大事だと思います。実は私、ギターも「指が短いから多分下手くそやで」って父親に言われたんです。でも、作詞作曲の道ならチャレンジしたいと諦めずに続けられた。人に何か言われても“やりたい”と我を通せることを見つけるのも大事だと思います。
──ありがとうございます。最後に、自分のやりたいことが決まらない10代、20代に対してアドバイスをお願いします。
昔、友達が「好きなものがない。強いて挙げるならお金」と話していたので、「じゃあお金関係の仕事したらええやん」って言ったんです。その子、今は税理士をやっていて。ある意味で好きなことを貫いていると言えますよね。だから“好き”は大きいことだけでなくて、些細なことでもいいと思います。ちょっとでも「好きかも」と思えることがあるんだったら、無理かなって思う前に1回チャレンジしてみたらどうかなって思います。
Edit:那須凪瑳
Text:山梨幸輝
Photo:野口悟空(londog)