さまざまな事象を分かりやすい図解で表現し、Twitterやnoteでの発信で支持を集めるこばかなさん。多摩美術大学を卒業後、デザイナーとして歩み始めたのち、コーチング会社THE COACHの代表へ。SNSなどで発信する内容は理路整然としているこばかなさんだが、普段どんなことを考えているのか。そして普段の発信から削ぎ落とされている“無駄”な部分にこそ、感性を刺激する大事なモノが宿っているはず! 外からの力が作用しなければ、物体は静止、または等速度運動を続けるという「慣性の法則」をなぞり、「こばかなの無駄話から生まれる“感性”の法則」と題した連載。こばかなさんと無駄話をして、日々の生活で静止しがちな思考を動かし始めよう。第13回目は、悩む時間と決断のタイミングの関係についてのお話し。
選んだ道は「就職」
THE COACHの代表を退任してしばらくの間、次のキャリアをどうするか考えていたんですが、つい最近、決断しました。選んだ道は「就職」。ベンチャー企業のボードメンバーとしてジョインします。
実はこの選択、自分ではかなり意外だったんです。というのも、また会社を起業するか、もしくはフリーランスでクリエイターになるか、という二択でそもそも悩んでいて。経営者になりたいという思いが強かったのですが、一方で本職のデザインにも引き続き興味はありました。ありがたいことに選択肢が多く、決め切れない状況だったんです。
だから、マーケティングを生業とする会社の代表からお誘いをいただいたとき、実は最初まったくピンと来なくて。代表は経営者としての経験が豊富で、パーソナリティも魅力的な人だったので、最初の印象よりは面白そうだとは感じたものの、やっぱり大事にしていた「自分らしさ」軸からは外れてしまうと感じました。
その後も何回か食事して話を聞いたんですが、最終的にはやっぱり自分で何かしようと思い至りまして。誘いを直接口頭で断るため、食事のアポを取りました。そういう構えで話をしに行ったのに、会食の場でなぜか「入社します」という言葉が自分の口から出てきたんです(笑)。もちろん説得された部分はありますが、その場のノリというか、勢いみたいなもので自分の次のキャリアが決まりました。
焼肉定食にするか煮魚定食にするか、正解はない
自分自身、こういうふうにノリでキャリアを決めるみたいなことって今までありませんでした。私は基本的にけっこう熟考するタイプです。でも今回は、本当に道を決めきれなかったということがあって……。朝起きたときは就職かなと思うのに、寝るときは起業しようみたいに、気持ちのブレがすごかった。
これは一生決められないなって思いました。でもどこかのタイミングで決めないと前に進めない。だから最終的に勢いが勝ったんだと思います。ごはん屋さんで肉か魚で迷っていたときに、店員さんが来てとっさに出た言葉が焼肉定食だった、みたいなときってありますよね。まさにそんな感じです。
この経験を通じて学んだこととしては、悩んでいるという状態って「決断をしていない」ということだなと。悩み続けていれば決断を永遠に先送りにできます。それで結果的に、100%の確信を持ってAとBの選択肢のどちらかに決めるって、あまりない気がするんです。1時間悩んで肉か魚でベストな選択を決め切れるかと言うと、やっぱりそうでもない。ある程度のラインを超えると、悩んでいるよりも時間の価値の方が圧倒的に髙いです。だから早く決めて、まずやるということが大事なんじゃないかと思います。
悩んでいることがストレスになったら、決める
もちろん人間は悩む生き物です。ただ、道を決められなくて辛くなったり、悩んでいること自体をストレスに感じたりし始めたら、それは何かしらの決断をする良いタイミングなのかもしれません。そういう場合、人は悩みたがっているだけだったり、もしくは決めるのが怖いだけだったりする、とも言えます。
それは仕事でも同じだと思うんです。仕事は正解がない中で決めなきゃいけないことの連続。例えば、時間をかければ良いクリエイティブが作れるかというと、結局最初に作ったロゴが一番良かったね、みたいな場面は往々にしてある。それと同じことがキャリア選択においても言えるのではないでしょうか。直感のような非合理的な何かに頼った方が、人生が豊かになる場合があるはずです。
もうひとつ言えるのは、私はこれまでの人生で後悔ってあまりしたことがなくて。もちろん、「あのときこうすればよかったな」と振り返ることはあります。でも、そのときの自分はそういう決断をしたわけで、当時の知識や情報、感情からはそれしか引き出せなかったということなので、後悔のしようがないというか。当時の自分にとってはそれがベストな選択でしかなかったわけです。だから今回も、後がどうなろうと最善の選択肢だろうなって。最終的にノリで決められたのには、そういう考え方が関係しているかもしれません。
自分らしさは、後からついてくる
私がキャリアを決められなかった理由には、「自分らしさ」に相当こだわっていたこともありました。その「自分らしさ」を得るための働き方が、経営者になるか、もしくはクリエイターになるか、という道だったわけです。
でも、長く時間をかけても「どういう経営者/クリエイターになれたら自分らしいのか?」という問いへの回答を、一向に言語化できませんでした。「自分らしさ」を追い求めてはいたものの、そこに至る正しい選択肢がまったく分からなかった。だったら、いま「自分らしさ」というある種の虚構を追い続けることよりも、まずは自分が成果を出せるところにコミットした方が良いのでは、と思ったのです。自分らしさは、そのうちに後からついてくるものだと思います。
よくキャリアには「川下り型」と「山登り型」の2種類があると言われます。川下り型は特に目指すべきゴールを設定せず、川の流れに身を任せるようにその時々の状況に合わせながら進んでいく方法。一方の山登り型は、登る山が決まっていて、そこを目指して逆算的にキャリアを作っていく方法のことです。
どちらが正解などはないのですが、私自身は「山登り型」が性に合っていると感じます。私はきっと「自分らしくある状況」の実現難易度が高い。だから、いまの時点で100%の回答を出せないことは別にいいし、むしろ決断できたことをポジティブに捉えています。いつか自分らしいあり方に辿り着くために、勢いを大事にして前に進むこと。同じようにキャリアに悩んでいる人にとっての参考になればありがたいです。
Text:弥富文次