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Interview

実録「ホワイト系YouTuber」 ~Vol.4~

ジャーナリスト志望だった青年実業家が、社会課題を動画で発信する理由【RICE MEDIA/トム】

author: 那須凪瑳date: 2022/11/03

小学生がなりたい職業第1位のYouTuber。しかし、ニュースを見ていると炎上系や暴露系といったグレー系なYouTuberが取り沙汰され、エキセントリックな部分ばかりクローズアップされてしまいがち……。本連載では、模範的な活動を続けるホワイト系のYouTuberにスポットを当てて直撃インタビュー。第4回目はさまざまな角度から社会課題について発信する、「RICE MEDIA」のトムさんです。

日本で“情報がしっかり届く社会”を作りたい

「日本一面白く社会を知れるメディア」を目指し、さまざまな切り口で社会課題を発信している「トム」こと廣瀬智之さん。2021年12月にYouTubeチャンネル「RICE MEDIA」を開設し、2022年10月現在のチャンネル登録者数は11.8万人にも上る。YouTuberとしてだけでなく、2019年1月にはTomoshi Bito株式会社を設立し、現在も代表を務めている廣瀬さん。そんな廣瀬さんは、なぜYouTubeを始めたのだろう?

トムさん:実は大学生の頃、ジャーナリストを目指していました。というのも、昔から「困っている人の力になりたい」という気持ちを持っていて。そんななか、僕が通っていた高校に「国際協力」という授業があったんです。その授業でボランティアや社会活動に携わり始めて、東日本大震災のボランティアで現地に伺ったのですが、そこで「こんな自分でも、困っている人の力になれるんだ」と、初めて実感できました。

それがきっかけで「困っている人の力になれる仕事」に就くために、大学へ進学しました。大学時代にはカンボジアなどを訪れて、さまざまなボランティアをしていたのですが、具体的にどんな職業に就けばいいか分からない日々を過ごしていて……。そんな時、一冊の本に出会って、“ジャーナリスト”という職業を改めて理解したんです。僕は写真を撮るのが好きだったので、報道写真家になろうと決心しました。

ただ、ボランティアなどの現場で「そもそも日本では、社会課題や活動自体に興味を持ってもらえない」という声を多く聞いて。すでにジャーナリストとして活動している方々は命をかけて現場の声を届けているのに、それが届いていない──そんな現状を知ってから「日本でも社会課題に関心を持つ人を増やして、情報がしっかり届く社会をつくる」ことにコミットしたいと思い始めました。

そこでまず「RICE PEOPLE」という、社会課題などを発信するインフルエンサーをサポートするプラットフォームを立ち上げたんですが難しい部分もあって。インフルエンサーの方々の力を借りるだけでなく、僕自身が影響力のある人間になって、“情報がしっかり届く社会”をつくろうと思い、YouTubeを始めました。

常に「伝えさせていただいている」と思っている

当初「ショート動画なら真面目な内容でも観てもらえるはず」と動画を作成していたが、再生回数は伸び悩み、方向性を変えるべきだと思い始めたそう。では、どのようにしてフォロワーが増え始めたのだろう?

トムさん:4月に「日本で最も海ゴミが漂着する島・長崎県の対馬市」へ取材に行った動画を公開したんですが、6月末くらいに急に再生回数が伸び始めたんです。今がチャンスだと思い、過去に撮り溜めていた動画をショート動画に編集して公開していったら、どんどん再生回数が伸び始めて。さらに今年の7月から「1ヵ月プラなし生活」という企画をスタートしたところ、一気に5万人くらいフォロワーが増えました。

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 砂浜に落ちているマイクロプラスチックを集める企画で採集した実物

──“1ヵ月プラなし生活”の動画は楽しみながら社会課題について知ることができる、YouTuberとしてのトムさんのスタイルを象徴するような内容だと感じます。

トムさん:僕は昔と変わらず、“社会課題について知ってほしい”と思っていますが、伝えたいのはあくまで僕であって、視聴者は原則として「そんなの知らなくていい」という気持ちだと思うんです。疲れて家に帰ってきて、ソファで寝転がってYouTubeを観ていたら、たまたま僕の動画が流れてきた、という人だっているかもしれない。

そんななかで僕は「伝えさせていただいている」という姿勢を大事にしています。興味がない方にも楽しんで観てもらえるように、出来る限り工夫しているつもりです。 “1ヵ月プラなし生活”もポジティブなコメントだけでなく、なかにはネガティブなコメントもいただきました。でも、それってしょうがないと思っていて。あくまでやりたいのは僕であって、僕は「伝えさせていただいている」ので、何も言えないって思っています。

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──なるほど。ただ、ずっと社会課題に向き合い続けるのは辛くありませんか?

トムさん:そういう面は確かにあると思っていて。なので、そういう状態にならないように、自分の中で大切にしていることが2つあります。1つ目は「完璧を求めすぎない」、2つ目は「自分が好きだからやっていることを忘れない」です。

僕、社会って人の集合体だから、2人以上集まったら、少人数でもひとつの社会だと思っていて。なので、社会課題が解決されるのって、一人ひとりの意識が変わっていった先でしか実現されないんだと思います。そのために、完璧じゃなかったとしても“できることをやる”を大事にしています。そして結局「自分が好きだからやっている」ので、どんな企画でも「僕が日本で一番楽しんでやる」と思って挑んでいますね。

──YouTube動画を通して、社会課題の認知が広がっている実感はありますか?

トムさん:最近、コメントやSNSのDM(ダイレクトメッセージ)をいただく機会が多くて、ありがたいことにDMは返信しきれないほどいただいているんです。そんな中でも、認知拡大を超えて、行動変容に繋がったと感じた出来事がひとつありました。

高校生の方からDMをいただいたんですが、なんと僕が動画で取り上げた「長崎県対馬市と、大分県の宝牧舎と、佐賀県の素ヱコ農園へ、夏休み中に行ってきました」という内容だったんです。それを見た時、“活動していてよかった”とすごく思いましたし、モチベーションにもつながりますね。

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YouTubeを始めて、世界が広がった

「今まで社会課題に興味がなかったけど、“1ヵ月プラなし生活”動画を観てから興味を持ちました」という、うれしいコメントももらったというトムさん。では、YouTubeを始めてご自身の人生に変化はあったのだろうか?

トムさん:YouTubeを通して、別のYouTuberの方とコラボレーションさせていただくなど、今まで会えなかったような人たちと一緒にお仕事させていただけるのはうれしいですね。特に、普段エンターテインメント情報を発信しているYouTuberの方とコラボできるのは、より多くの人に社会課題を知ってもらう機会になっていると感じます。こういう発信の仕方は、僕がジャーナリストになっていたらできていなかったと思うので、YouTubeを始めてよかったと思う理由のひとつですね。

あとは、僕が取材した方に良い影響を与えられるのもうれしくて。

──どんなことでしょうか?

トムさん:宝牧舎という、人間の都合で非合理と判断された牛たちを迎え入れて育てている牧場を取材したことがあるんですが「過去に取り上げてもらったメディアの中で、一番反響がありました」という言葉をもらったんです。僕が取り上げたことで「活動を知ってもらえた」とか、何かしらのインパクトを社会に与えられるのは、とてもやりがいを感じます。

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「0.0001」でもいいから、前に進むことが重要

最後に、トムさんの「YouTuberとしての今後」と、「YouTuberを目指している人」に向けてメッセージをいただいた。

トムさん:“物を買うとき“って、手に取る時の状態の“物”にしか目が向いていなくて、その前後のことをイメージする機会ってあまりないと思うんです。例えば“お肉”と聞くと、スーパーに並んでいる、パックに入ったお肉をイメージする方が多いと思います。でも僕は、その前後を知ることが重要なんじゃないかと思っているんですね。

今まで“1ヵ月プラなし生活”や、“海ゴミ”の動画で、物を使った後のことは、ある程度発信できてきたと思っています。なので次は、“物を手に取る前”の段階を発信したいと思っていて。先日から「1週間牛飼い生活」という企画の配信を始めました。これは「お肉はどのように作られているのか?」を知ってもらえる動画です。

また、今後は動画の公開本数を増やしていく予定なのですが、動画の内容もより深いものにできたらいいな、と考えています。例えば、プロのジャーナリストやほかのメディア、動画クリエイターの方などとコラボして、ドキュメンタリーのような動画を作るなど、新しいことにチャレンジしていきたいと思っています。

──『Beyond magazine』の読者のなかには、YouTuberを目指している方もいると思います。最後に、その方々に向けてメッセージをお願いします。

トムさん:僕は、とにかく“小さなことでもいいから、やってみる”のが重要だと思います。と言っても、その一歩がすごく重く感じてしまう方も多いかもしれません。実は、僕も昔は行動に移せないタイプだったんです。自分に全然自信がなくて、自己肯定感も低くて。

でも「ゼロ」と「イチ」って大きく違うと思うんです。今「RICE MEDIA」は専用のカメラなどはなく、スマートフォンで撮影して、編集も無料のアプリを使っています。「何かを新しく始める」というと、すごく大きなことを想像してしまいがちですが、初めの一歩は、本当に小さなところからでいいと思います。YouTubeのチャンネルは無料で作れますし、1でも0.1でもなくて「0.0001」でもいいから、気軽に一歩、踏み出してみるのがいいと思います。


社会を知る動画メディア
「RICE MEDIA」/トム

1995年生まれ。滋賀県出身。立命館大学卒。学生時代報道写真家を志し、取材活動に取り組む。その中で、情報過多な現代において、社会的な発信が届きづらくなっている現状に課題意識を持ち、Tomoshi Bito株式会社を創業。社会課題に関心を持つインフルエンサーのプラットフォーム「RICE PEOPLE」、ショート動画メディア「RICEメディア」を展開し、SNS発信によって社会課題の未認知を打破する事業に取り組んでいる。Twitter:トム|RICEメディア&ピープル 代表

RICE MEDIA 社会を知る動画メディア

Interview&Text:那須凪瑳
Photo:西優紀美

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Beyond magazine編集者・ライター
那須凪瑳

音楽メディア会社で働いた後、フリーランスに転身。現在はカルチャーメディアを中心に執筆、企画、編集も。音楽をはじめとする「文化」が社会に与える影響に興味を持ち、日々その可能性を探究中。
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