「SDGs」や「サステナビリティ」という言葉をよく聞くようになった。SDGsを日本語で訳すと「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」や「持続可能性」となる。この「持続」の意味は、一度だけの使い捨てではなく「繰り返し使い続けること=次の世代につながる=持続」といった意味だ。地球にやさしいモノづくりやライフスタイルを送るべく、国連が主体となって2030年までにサステナビリティを意識した社会を実現すべく動いている。
スマホの世界でも、たとえばサムスンは漁師が海に破棄してしまう魚網を回収し、それを再生プラスチックとして蘇らせて最新スマホの内部パーツに使っている。また、アップルが率先して始めたiPhoneパッケージから充電器を同封しない取り組みは、充電器のコストだけでなくパッケージサイズを小型化した結果、トラックで一度に輸送できる数が増え運送時の排出ガス量も削減された。スマホの材料だけではなく開発や物流など、エコシステム全体で環境に対する取り組みが進んでいる。
サムスンは海洋破棄された魚網を回収しスマホの素材に再利用
分解・解剖できるスマホはサステナブルの新潮流
このサステナビリティの動きはヨーロッパが特に活発であり、IFA2022の会場では右も左もSDGsの展示ばかりと言っても過言ではないほどだった。なかでもスマホは今や生活必需品であり、誰もが使うものであることから、スマホ関連で環境に配慮した製品が数多く展示されていた。
その筆頭は「Fairphone 4」だ。オーストリアのFairphoneが開発したこのスマホはユーザーが背面カバーを取り外すことが可能で、バッテリーの交換もできる。そして、精密ドライバー1本あれば内部の基盤を取り外し、カメラやマイクのモジュールを取り出すこともできる。
しかも、これらのパーツはすべてFairphoneが販売しているのである。つまり、スマホを誤って落下させてしまい、ディスプレイが割れたりカメラが動かなくなっても、自分でパーツを買って交換して修理することができるのだ。一度買ったスマホを長く使うことができるし、破損、故障時も破棄処分するのではなく故障したパーツを交換してまた使い続けることができる。まさにサステナビリティーを備えたスマホと言えるだろう。
Fairphone 4のスペックはミドルハイレンジで、チップセットはSnapdragon 750G、カメラは4800万画素を2つを搭載、またフロントカメラは2500万画素と意外と悪くない性能だ。価格は579ユーロ(約8万円)。性能を考えると若干高いと思うかもしれない。
しかし、サステナビリティに配慮した設計であることから多少の価格高は仕方ないことだろうし、Fairphone 4を使うことで日々地球環境のことを考える意識も生まれてくるだろう。
サブスク利用で使い捨てないスマホ
大手メーカーもFairphoneへの追従を始めている。ノキアブランドでスマホを展開しているHDM GlobalはIFAでスマホのサブスクサービス「Circular」を開始した。これは毎月定額でスマホを使い続けられるというもの。機種にもよるが月額10ポンド(約1500円)から利用可能で、最低契約期間は3か月。
契約期間中はスマホが壊れたり盗難にあっても新品と好感してくれる。そして、交換に出した故障・破損したスマホは工場で再生され、再びサブスク向けの交換モデルとして提供される。壊れたスマホを破棄することもなくなるし、サブスクが終わればスマホは返却が必要なので回収もされる。サステナブルなスマホとはこのことだ。
このCircularサービス向けに発表された新スマホもサステナビリティを考慮したつくりになっている。「Nokia G60 5G」は再生プラスチックを60%使用。「Nokia X30 5G」は再生プラスチック65%に加え再生アルミニウム100%を採用し、パッケージにも再生紙が使われている。IFAでは派手なスマホ新製品は見られなかったものの、スマホの世界にも環境を意識した製品が広がっている様を見ることができたのだ。
ナイキがつくったスマホケース!?
とはいえスマホは自分の好きなものを使いたいと思う人が多いのも事実。性能やデザインを考えるとiPhoneやGalaxyを選びたいだろう。ならばスマホに取り付けるケースにも注目してみよう。
スポーツシューズメーカーとして誰もが知っているナイキ。Statisticsによると同社は年間7億8000万足のシューズを生産しているという。その生産工程では型紙から切り取られた布や革、ソールの成形時に余った樹脂やゴムなど大量の廃棄物が発生する。
さらには生産したものの不良品だったり、サンプルとして作られたものなども従来ならば廃棄されていた。ナイキはこれらのまだ新品である素材を回収し、テキスタイルやゴム、樹脂素材として再利用する「Nike Grind」プログラムを展開している。
ナイキは製造時の廃棄原料から布や樹脂素材を作るNike Gridを展開
このNikie Grindで作られた素材はさまざまな製品に使われているが、スマホケースもまもなく販売される。ナイキの靴を持っている人ならば、同じ素材から作られたケースということでぜひ使いたくなるだろう。
Nike Gridのテクスチャを使ったスマホケース
このほかにも、再生可能な素材やトウモロコシなどを原料にして土に埋めると還元される材料を使ったケースも多く見られた。カラフルな色を付けているものの、天然素材を使っていることからか色合いは若干淡く、それがまたいい味を出している。スマホのケースにはデザインや機能性を求める人が多いだろうが、これからの時代はサステナビリティを考えて設計された製品をぜひ使いたいものだ。
2022年のIFAの会場では、全体を通して派手な新製品や新技術の展示はあまり見られなかった。その反面、利便性を追求するだけではなく、地球の環境を考え自然と共にテクノロジーを共存させるための動きが大きく目立っていたのだ。我々もまずはスマホのケースを次に買い替えるときから、サステナビリティのことを少しでも意識したいものだ。