脱炭素や環境負荷の軽減は、現代社会の課題となっている。エネルギー問題や気候変動とも大きく関わり、絶対的な解決策があるかと問われるとなかなか答えを示すのが難しいところではある。しかし、企業は環境配慮への姿勢が問われ、個々の日常生活の中でも無視して良いものではなくなっているのは確かだ。
近年、洪水や山火事など、世界各地で起こる自然災害のニュースを頻繁に見聞きするようにもなった。日本に限っても、昨今は酷暑や豪雨に見舞われることが増えている。今年も東京では6月に連続猛暑日を記録し、群馬県・伊勢崎市では6月にも関わらず40度越えを観測。どちらも観測史上初の出来事だった。「このままで大丈夫なのだろうか?」と感じている人も多いのではないだろうか。アウトドアアクティビティが楽しめるのは、豊な自然環境があってこそ。なるべく汚染や破壊をすることなく、次世代にバトンを渡したいものだ。
ランニングは、特別な施設が必要なわけではなく、必要なのはウェアとシューズのみ。極めて環境負荷が低いスポーツではある。しかし、当然ゼロではない。ランニングウェアとシューズは消耗品。それなりの距離を走り込むランナーであれば、年間に複数のシューズを履き潰すことになる。数万人が参加する大規模なマラソン大会では、廃棄される大量のゴミが1つの課題になっていたりもする。
もちろん、マラソンに限らずあらゆるイベントでゴミが出る。そもそも人間が活動する以上、ゴミが出るし環境に負荷がかかるもの。だからといって、これらを減らす努力をしなくていいということにはならないはずだ。
ゴミがゼロになるマイボトル・マラソン
今年12月4日に開催を予定している湘南国際マラソンは、世界初のマイボトル・マラソン。給水ポイントやゴール後にカップやペットボトルによるドリンク提供を行わず、ランナー自身がボトルを携帯して走ることになる。湘南国際マラソンでは、今まで参加する2万5000人のランナーに対して、給水のために3万1500本のペットボトルと、50万個の使い捨てカップを用意し、ゴール後には2万6000本のペットボトルを配布していたとのことだが、これがすべてゼロになる。また参加Tシャツとスタッフウェアはペットボトルのリサイクル素材を使ったものとなり、前者は今後のエコイベントの参加ユニフォームになり、後者は回収されリユースされるそうだ。マイボトル持参が多くの大会で採用されるようになれば、ゴミはかなり減らせることになるだろう。
オールバーズの画期的な取り組み
7月17日に開催された小布施見にマラソンでは、“ビジネスの力で、気候変動を逆転させる”という大きなブランドミッションを掲げているオールバーズが新しい形での大会サポートを行った。それは、参加ランナーが小布施(長野県上高井郡)への往復と滞在中に排出するカーボンフットプリント(製品を作るために排出されたあらゆる温室効果ガスをCO2の排出量に換算したもの)を算出し、それをオフセットできる分だけ、長野県の森に植樹を行うというもの。カーボンフットプリントが“見える化”され、かつそれをオフセットできるというのは、革新的なイベントだと言える。
筆者は主にコンディショニングを目的に走り、年に1~2度、10kmやハーフマラソンの大会に参加する程度のファンランナーだが、湘南国際マラソンや小布施見にマラソンのような大会を応援したいなと思っている。
サステナブルなラン・アイテム
以前から、趣味の柔術をするときなどの水分補給にはナルゲンボトルを利用していたのだが、今年からランニング時にソフトフラスクを活用するようになった。ペットボトル飲料を全く飲まないということはないのだが、減らせそうなところは減らしていこうという感覚だ(外出先で水やお茶をボトルに補給できるサービスができたら嬉しい)。
スポーツブランドも、サステナビリティの追求、カーボンフットプリントの削減のためにさまざまな取り組みを行っている。再生エネルギーを使用する工場の利用、物流・梱包の工夫といったことにより気を遣うようになり、商品開発においてもサステナビリティとパフォーマンスの両立を目指すことが当たり前になりつつある。
昨年10月に発表された「ナイキ エア ズーム アルファフライ ネクスト ネイチャー」は、ナイキが誇るトップレーシングモデルのサステナブルバージョン。ミッドソールやカーボンファイバープレートには「アルファフライ」や「ヴェイパーフライ ネクスト%」といった厚底カーボンシューズを作る際に出たスクラップを再利用しており、フォームは約70%、プレートは約50%のリサイクル素材が使われている。シューズ全体には重量比で50%以上がリサイクx`ル素材となっている。
アディダスはオールバーズとコラボレーションをし、今年4月に「アディゼロ X オールバーズ 2.94 KG CO2E」というシューズを発売している。モデル名からもわかる通り、一足あたりのカーボンフットプリントは2.94kg CO2e(一般的なスニーカーは15.5kg CO2e程度アディダスのランニングシューズ「アディゼロRC3」は7.86kg CO2e)。両社のプロダクト史上で最もカーボンフットプリントが少ないランニングシューズとなっている。実際の履き心地は、軽く、適度なクッション性と反発性を感じる。日常的なランニング、ダイエット目的のジョギングには十分なレベルだ。
環境負荷を意識したレースが生まれ始め、機能的でありながら環境負荷の低いシューズを選べるようになりつつある。多くのランナーがそれを良しとして積極的に選ぶようになれば、その流れは加速していくはずだ。