イギリス発を謳うスマホ「Nothing Phone (1)」がこの夏大きな話題になっている。透明なパネルの背面は内側にLEDライトをデザイン良く配置し、通知などに合わせて美しく光る様はほかのスマホには見られない新しい感覚を味わうことができる。一方で背面以外の部分は思ったよりも普通の仕上げであり、これといってほかのスマホと差別化されるほどの機能はない。6.55インチディスプレイ、5000万画素デュアルカメラ、Snapdragon 778G+ 5G、4500mAh 33W充電バッテリーなど、399ポンド(約6万5000円)という価格相応の製品と言える。
魅力あるOPPO Reno7 A
Nothing Phone (1)はインフルエンサーを使ったマーケティングを重視しており、YouTubeを見ればガジェット系レビュワーによる動画も多数見られる。口コミ重視のマーケティングは新規メーカーにとって効果的だろう。とはいえNothing Phone (1)の最大の差別化要素は先に書いたライティング「Glyph Interface」であり、これだけで購入を決定する人がどれくらいいるのかは未知数である。
Nothing Phone (1)と類似のスペックを持ったスマートフォンはそれこそ山のように販売されている。派手に光ることでアピールするNothing Phone (1)ではあるが、派手さはないものの使いやすさやさりげないおしゃれな外装で勝負をかけているスマホもある。OPPOが日本で7月に発売した「Reno7 A」がそれだ。
OPPOは中国メーカーであるが、格安端末市場には別ブランド「realme」を展開。安さを売りにはしない戦略を海外で進めている。日本ではMVNOに積極的に端末を供給したり、前モデルまでは元AKB48の指原莉乃さんを使ったマーケティングを行うなどして認知度アップを図っていった。SIMフリーモデルでは常に販売上位に入っていたが、それは広告戦略だけではなく日本人に受け入れられるための製品を地道に作り続けてきたからだ。
OPPOは2018年にスマホ「R11s」で日本市場に参入。「最高のカメラフォン」が売りだったがグローバルモデルそのままであり、ハイエンド嗜好が強い日本で目立つことはできなかった。しかし、すぐに方向転換を行い2019年にはおサイフ機能と防水対応にした「RenoA」を投入。指原さんの人気もあり製品に目を向ける人が増えていった。
OPPOは中国で若い世代をターゲットにした製品を出し続けて成長したこともあり、日本でも手軽な価格で十分なカメラ性能、さらに日本固有の機能を搭載したモデルにシフトしたことでファン層をゆっくりと広げていったのだ。
自社工場で生産、社員は現地研修必須
そもそもOPPOの成り立ちはもともと音楽プレーヤーの販売から始まっている。中国のAV大手「歩歩高」社の音響部門として立ち上がり、その後2004年に分社化された。歩歩高は1995年創業の老舗のメーカーであり、中国がまだ「世界の工場」と呼ばれる前からビジネスを始めている。
当時の中国のメーカーは自社で工場を持ち、開発から品質管理まですべてを自社内で完結させることが当たり前だった。OPPOも音楽プレーヤー時代から携帯電話、そしてスマートフォンに参入してからも基本的に製品を自社で製造している。
それに対し、ライバルである同じ中国のシャオミやアップルなどはEMS(Electronics Manufacturing Service)と呼ばれる製造請け負い企業に生産を委託している。2000年に入ると、携帯電話の内部構造がモジュール化され、パーツを組み立てソフトウェア(OS)を焼き込めば、誰でも携帯電話を製造することが容易になった。
そこで設計は自社で行い、その製造だけを請け負う企業としてEMSが次から次へと生まれ、分業化が一気に進んだのである。EMSの登場でスマートフォンの製造の敷居は大きく下がった。Nothing Phone (1)も製造はEMSに任せており、請け負ったのはBYDエレクトロニックと言われている。なお同社は先日日本に電気自動車で参入したBYDの関連会社だ。
OPPOがEMSではなく、今でも自社で開発から製造まで一貫して行うのはメリットが大きいからだ。製品に不具合があれば即座に改善を加えられるし、新機能の搭載テストも自社工程の調整だけで行える。EMSに委託する場合は製品の生産計画スケジュールがある程度先まで決まっているため、急にラインを止めて部品を入れ替えるのも難しい。自社工場であればスケジュール調整をうまく行えばテスト品の商用試作も行いやすいわけだ。
もちろんEMSを使えば工場や作業員を自社で保持する必要はなくなるため、コストメリットは大きい。部品の発注や在庫管理もEMSに任せればよい。だが、それはあくまでも製品の売れ行きが安定かつ問題ない場合に限る。例えば新製品の売れ行きが悪くなったからと言って急に生産数を減らす、などと言った契約をEMS側は結ばない。部品の在庫の山となりEMS側がまるまる損をするからだ。
OPPOは社員が入社すると、開発部門だろうが営業部門だろうが、必ず数カ月の現場体験を行わせているという。工場の生産ラインだったり、販売店での実販売など、実際に自社の製品が作られている場所や売られている現場を体験させ、製品への理解度を高めさせるためだ。デザイナーとして入社したのに、まずは店舗でスマホを売ってこいと言われたら反発する人もいるだろう。だがパッケージデザインをするにしても、店舗に並べたときの見栄えや来客がどう反応するかといった知見は、社内の自分の机の上では得られない。
OPPOが日本に参入して1年、すぐにおサイフ機能と防水対応させたのは大きな驚きを与えた。だが、日本であろうとも社員が実際に販売現場でお客さんの声を聞いていれば、日本では何が求められているかを理解できる。調査会社に丸投げすれば、「数字」は出てくるが「生の声」は伝わってこないだろう。そして日本固有の機能を搭載する場合も、自社で製品を製造しているからこそ細かい改良を加えつつ、短期間で製品化できたのだ。
モノづくりの精神から生まれたReno7 A
さて、日本で出てきた新製品、Reno7 Aに話を戻そう。一見すると普通のスマートフォンに見えるが、背面の処理は他社にはない独特のものとなっている。「OPPO Glow」と呼ぶ処理が施されており、一見するとマットな表面だが光を当てると細かく反射し様々な表情を見せてくれる。表面はさらさらしており指紋の跡も残らない。
これは細かい結晶を並べた新しい背面処理技術であり、海外では「Reno Glow」の名で2020年から採用が始まった。Nothing Phone (1)のように点滅はしないものの、「きらびやかなのに指紋跡が残らない」この仕上げは毎日使うスマホに必要なものであり、毎日使っていても飽きることはないだろう。
Reno7 Aのスペックは6.4インチディスプレイ、Snapdragon 695、4800万画素+800万画素+200万画素カメラ、4500mAh 18W充電バッテリー。価格は4万4800円。Nothing Phone (1)より1段階低いスペックだが、必要十分な機能は持つ。重量は175gでNothing Phone (1)の193.5gよりかなり軽量だ。
そして、異例なことにReno7 Aはスマホメーカー自らが「3年使える」を謳い文句にしている。他のメーカーは毎年のように買い替えることをユーザーに促すが、OPPOはReno7 Aが3年間ストレスなく使用できることを説明しており、来年新機種が出ても無理に買い替える必要はない、と言っているのだ。
こんなことが言えるのもユーザー目線を常に考えた製品開発を行っているからだろう。真面目に地道に消費者が求める製品を作り続ける、昭和時代の日本のモノづくりと変わらぬ精神がOPPOの社内にも流れているに違いない。