「どこか遠くへ旅行したいな。行けるならのなら、やっぱり海外。飛行機の機窓から見える異国の風景って高揚感が違うよね」。
COVID-19のパンデミックにより、すっかりハードルが高くなってしまった海外旅行。今となっては機窓風景だけでなく、上空での揺れも、着陸時の衝撃すらも懐かしいという方も多いはず。そんな特別な景色や経験を東京都内で手軽に楽しめるのをご存知だろうか。しかも、飛行機旅行好きにとっては憧れの”コクピット”で、だ。
旅客数、発着回数とも世界屈指の規模を誇る羽田空港。現在は第1から第3まで3つのターミナルビルがあるが、目指すべき場所はJALやスカイマーク、スターフライヤーが利用する第1ターミナルの5階。本格的フライトシミュレーターによる飛行体験ができる専門店「LUXURY FLIGHT(ラグジュアリー・フライト)」だ。
「シミュレーターか…」と侮ってはいけない。LUXURY FLIGHT羽田空港本店にはボーイング737MAX、エアバスA320、ビーチクラフトG58バロンのコクピットを実物さながらに再現したシミュレーターが設置されており、バーチャルな空旅が気軽に楽しめる。
中でも、ボーイング737MAXは航空会社が訓練や審査で使用するFFS(フルフライトシミュレーター)と同等、6軸モーション付きとなっている。つまり前後、左右、上下に加えて、左右方向の傾き(ロール)や前後方向の傾き(ピッチ)、左右方向の回転(ヨー)の動きが可能なのだ。これにより離着陸時の加減速や飛行中の旋回、さらには接地の衝撃や気流の乱れなども再現できるという。
コクピットから眺めるハワイの絶景
とはいえ、実際のところリアリティはどうなの?と思う方も少なくだろう。論より証拠、ハワイはオアフ島のダニエルK・イノウエ国際空港を飛び立ち、オアフ島南部を周回して、ふたたび空港に戻るプランでフライトを体験してみた。
コクピットに入り通常は機長が座る左側シートに収まると、目の前に広がる計器用の大型ディスプレイや操縦輪は実機そのもの。それもそのはず、手が触れる部分の多くは実機や訓練用シミュレーターに使用するパーツなのだ。
出発は副操縦士席に座るスタッフに任せて、海側のランウェイ08Rから東に向かって離陸するが、最初の驚きは滑走開始直後に訪れた。なんと路面から受ける振動に続いて、ノーズギア(前脚)とメインギア(主脚)が地面から離れて上昇する感覚まで再現されているのだ。その動作に感心する間もなく、通常のフライトより低い高度約3000フィート(1000メートル弱)で水平飛行に移る。すると操縦室の眼前にワイキキのビーチとホテル群が見えてくる。思わず歓声を上げてしまうが、気流の乱れでガクンと揺れると一転「うっ…」と、息を呑んでしまう。6軸モーションよ、見事すぎる洗礼をありがとう…。
さて、ダイヤモンドヘッドを間近に眺めながら左に旋回。針路を北西に取り、パールハーバーに向かいつつ、スタッフから操縦を引き継ぐ。「少し高度を上げましょう」「高度を下げながら左に旋回しましょう」という指示に従って操縦輪などを操作する。装置類のずっしり、しっとりとした感触もさることながら、上昇や降下、旋回の感覚はじつにリアルで、両手にじわりと汗が滲んでくる。
離陸から約20分、夕陽に輝くパールハーバーや行き交う艦船を眺めた後は空港へと戻る。スピードなどの調整はスタッフが行ってくれるので、飛行姿勢や高度が表示される眼前のPFD(プライマリー・フライト・ディスプレイ)を確認しつつ、操縦輪を操作する。難易度が上がったのは滑走路が視界に入ってからで、着陸コースを正確に維持するのに想像以上に繊細な操作が求められるのだ。これに前後して速度を下げ、降下率を上げるスピードブレーキをセット、ギアレバーにより前脚・主脚を下すなど、複数の操作を素早く行うのが、もはや手の汗が滴るほどの緊張感だ。
優雅にコクピットからの風景を眺める余裕などない…、というと本末転倒な気もするが、ここまでくるとキッチリと着陸を決めたくなる。迫りくる滑走路に焦りながら「機体の姿勢は大丈夫か、おっと滑走路のセンターからズレた…」という具合に、微調整を繰り返していると、ドン!と軽い衝撃とともに機体が接地した。
スロットルレバーを戻しリバース(逆噴射)を行い、足元のラダーペダルで進行方向を調整しながらブレーキを掛ける。滑走路の中心こそ外したものの、どうやら無事に着陸できたようだ。ホッと一息つくとともに、客室で感じる感覚とは一線を画す、なんとも心地よい緊張感を味わったことに気づく。同時に、操縦のほんの一部を垣間見ただけなのに、パイロットはこんなにも複雑かつ多くの操作を行っているのか、と思わず感心してしまった。
飛ばすもヨシ、眺めるもヨシ。
楽しみ方は人それぞれ
フライト後半の興奮ぶりは自分でも恥ずかしいほどだが、これほど本気になってしまうのは実機に迫る飛行感覚、そして窓の外に映し出される精密なCGあってのこと。操作に対する機体の反応などは、実機のパイロットにより入念に調整されており、再現度に関しては文句ナシといえるレベルだ。また、機窓から見える景色もCGではあるが、高性能な市販用シミュレーターソフトをベースに、特別なカスタマイズを施すことでリアリティを増している。
空港や航路により、精密さや再現度は異なるが、今回のハワイや国内主要空港は言うまでもなく、人気のラスベガス周辺はホテルの煌びやかな照明や花火も表現されており、まさに圧巻の眺めだ。さらに、時間に余裕があるプランでは飛行ルートや自動操縦システムの入力、エンジン始動など、出発から到着まで実機どおりのオペレーションを体験できる。一方、基本的な操作はスタッフが担当、ご自身はコクピットビューを楽しむというオーダーも可能だ。
さて、航空会社の訓練用FFSは1基で数億円から20億円と言われており、気象条件や周辺の飛行機、管制とのやり取りなども反映できる。価格のとおり“超”がつくほど高性能なモノであるのは事実だが、残念ながら一般人が触れるチャンスは滅多にない。一方、「LUXURY FLIGHT」のシミュレーターは飛行制御などを訓練するフライトトレーニングデバイスと呼ばれる、FFSより1段階前の装置に準じた性能となっている。こちらもご覧頂いたとおり、プロレベルの再現度となっており、航空会社のパイロットや訓練生がトレーニングに訪れることも多いという。
遊びとしてはハードルが高そうだし、旅行に興味はあるけど操縦の知識なんてゼロだという方も多いに違いない。だけど、簡単にクリアできるゲームなんて面白みに欠けるし、空の旅が好きならコクピットからの景色は少なからぬ感動と気づきがあると思う。「機窓から眺める東京の景色が好き」「ハワイの夕暮れキレイだったな」という思い出のある方、「あのフライトの着陸は揺れたなあ…、自分のほうが上手くできるじゃないかな」という方も、まずは一度チャレンジしてみてはいかがだろうか。
参考プラン:ボーイング737MAX
モーション無し15分:3300円 モーション有り15分:6600円 モーション無し60分:1万8700円 モーション有り60分3万1900円 キッズコース、メンバー料金ほか、プラン多数あり