グローバルでもメジャーなスマホメーカーと言えば「アップル」「サムスン」「ファーウェイ」あたりの名前がすぐに思い浮かぶだろう。スマホメーカーはここ数年大手に集約されており、2021年も数社が市場から撤退を余儀なくされた。今から新規にスマホ市場に参入するのは非常に困難であり、日本では家電メーカーの「BALMUDA」が果敢にも市場に挑んでいる。そんななか、2021年に誕生した「Honor」(オナー)は、今急激にスマホの販売数を拡大しているメーカーだ。
2022年5月時点で、世界でもっとも優れたカメラ性能を誇るスマホは、どの機種なのかご存じだろうか。iPhoneやGalaxyの名前が上がるようでは失格だ。カメラ性能の指標の1つである「DXOMark」によると、スマホカメラの最高スコアを出しているのはHonorの「HONOR Magic4 Ultimate」である。
ちなみに2位はファーウェイ「P50 Pro」、3位がシャオミ「Mi 11 Ultra」であり、「iPhone 13 Pro」は5位と中国メーカーの後塵を拝している。
Honorの名前くらいはもしかしたらなんとなく聞いたことのある人もいるだろうか。Honorは新規参入したメーカーだが、その前身はあのファーウェイなのである。2019年5月にアメリカ政府(商務省産業安全保障局)はファーウェイを安全保障上の脅威として輸出規制を行った。
それ以降、ファーウェイは独自チップセットの開発や5Gモデムが採用できなくなり、またグーグルや大手ソーシャルサービスの搭載もできなくなった。2019年にはアップルを抜きサムスンを脅かす存在まで成長したファーウェイのスマホ事業が一気に急落していったのは、日本でも報道されたとおりだ。
ファーウェイの兄弟企業、Honor
Honorはそのファーウェイのサブブランドとして展開しており、日本など海外でも一部モデルが販売されたことがあった。主力の市場は中国で、ファーウェイの全出荷量の1/4程度をHonorが占めていた。ちなみに2019年の中国のスマホ出荷量シェアはファーウェイが38%で1位、2位OPPOと3位vivoを合わせても35%と追いつかないほどだった。Honorの出荷数は4位シャオミ(10%)、5位アップル(8%)と並ぶほどで、iPhoneより人気のあるブランドだったのだ。
このHonorのサプライチェーンや従業員を守るためファーウェイは、2020年にHonorを分社化。2021年から独立した別会社として事業展開を開始した。つまり、Honorは新規参入メーカーとはいうものの、ファーウェイの開発者を含む従業員の多くが異動した兄弟企業とも呼べる存在なのだ。なおアメリカ政府はHonorにもファーウェイと同様に規制をかけようとしたが、安全上の問題は懸念されないと判断された。
このようにファーウェイの優れた製品を開発してきた社員がスマホを作り上げるのであるから、Honorの製品が優れているのは当然といえるかもしれない。2021年8月には6400万画素カメラを3つに5000万画素カメラ1つ、合計「2億4200万画素」というモンスター級のカメラモデル「HONOR Magic3 Pro+」を発表。
ちなみに前述した現在世界最強のカメラ性能を誇るHONOR「Magic4 Ultimate」は、6400万画素2つに5000万画素2つと、合計のカメラ画素数では負けている。またHONOR「Magic3 Pro+」はスポーツカーをイメージさせるスタイリッシュなボディーデザインも大きな話題となった。
なお、このデザインはファーウェイが2020年に発売したポルシェデザインとのコラボしたモデル「Mate 40 RS Porsche Design」を引き継いでいる。現在のファーウェイはこのMateシリーズを展開しておらず、その開発チームが丸ごとHonorに移り、HONOR Magicシリーズを開発しているのだろう。
グローバル市場で注目を集めるHonor
Honorのスマホは、中国を飛び出しヨーロッパなど先進国でも積極的な販売が始まっている。2022年2月にスペイン・バルセロナで開催された世界最大のモバイル関連イベント「MWC Barcelona 2022」では、ブース出展こそなかったものの新製品発表会を開催し、折りたたみ型スマートフォン「HONOR Magic V」を発表した。
このMagic Vもカメラは5000万画素を3つ搭載。どうやらHonorには高性能カメラの「積み惜しみ」という言葉はないようだ。Magic Vはフロントカメラも驚異の4200万画素を搭載、後発ながら他メーカーの折りたたみスマートフォンに真っ向から勝負を挑んでいる。
ハイエンドモデルのラインナップだけでもHonorがグローバルで注目を集めだしていることが理解できるだろうか。だが、それだけではなくミドルハイレンジクラスでも特徴ある製品を展開中だ。最新モデルの「HONOR 70」はダイヤモンドカットのような美しい背面デザインを採用したエレガントなデザインがアピールポイント。しかもカメラは5000万画素、センサーサイズ1/1.1という大型のソニーIMX800を搭載する。HONOR 70は美しさとカメラ性能を両立し女性などユーザー層を広げるための戦略モデルなのだ。
このほかにも、価格を抑えた「HONOR Playシリーズ」を展開するなどして、Honorの製品ポートフォリオはわずか1年ですきのないものになりつつある。中国市場では2021年第3四半期にシャオミ、アップルを抜きvivo、OPPOに次ぐ3位に。第4四半期はアップルが1位だったがHonorは僅差で2位の座についた。なお、アップルが第4四半期にトップになるのは各国の市場で恒例のことであり珍しいことではない。アップルの動きを無視すればHonorが中国で最も売れたスマートフォンになったのだ。
では、今後Honorはどのような製品展開を行っていくのだろうか。カメラの強化は当然だが、他のメーカーよりも高性能カメラを組み合わせた「贅沢カメラフォン」を次々と出していくだろう。またHONOR 70に見られるような本体デザインに注力した製品も拡大していくだろう。技術も性能も、そしてデザインにも優れたスマホを次々と投入することで、いずれはグローバル市場でもシャオミやアップルを脅かす存在になる可能性は十分にあるだろう。