小学生がなりたい職業第1位のYouTuber。でも、ニュースを見ていると炎上系や暴露系といったグレー系なYouTuberが取り沙汰され、エキセントリックな部分ばかりクローズアップされてしまいがち……。本連載では、模範的な活動を続けるホワイト系のYouTuberにスポットを当てて直撃インタビュー。第1回目は、車椅子生活のリアルを発信する、現代のもののけ姫Macoさんです。
SNSでは欲しい情報がなかった
車椅子YouTuberとして注目を集める「現代のもののけ姫Maco」こと渋谷真子さんは、家業を継ぐため26歳(2018年)で会社員を辞めて、「茅葺き屋根職人」として独立。ところが、作業中に屋根から転落してしまい、12本ある胸椎の8本目を損傷──「脊髄損傷」の診断を受け、現在は車椅子生活を余儀なくされている。そんな自身の激変した境遇をYouTubeで“世界”へと発信しようと決意したきっかけとは、一体なんだったんだろう?
Macoさん:入院した当初は、周囲に歩けなくなって車椅子生活をしている人が一人もいませんでした。だから「私はこれから車椅子でどう生活していけばいいのか」がまったくイメージできなかった。「自分の足で歩けない」ということはどういうことなのか──そんな素朴な疑問が頭によぎったんです。
私はスマホ世代なので、まずは普通にインスタグラムのハッシュタグから入ってみたり……と、あれこれ調べまくりました。ところが、SNSだとあんまし出てこない。ゼロじゃないけど、「これだけ?」ってくらいのわずかな情報量で……。次にGoogleなどで検索してみたんですけど、出てくるのは大学病院の教授とかがアップしているような「おカタい」論文系ばかりで(笑)。
でも、欲しいのはそこじゃない。もっとリアルな私生活の部分が知りたかったのに……。
ブログからYouTubeへと…
日本では(重度から軽度まで)年間約5000人が「脊髄損傷」の宣告をくだされる。それを知ったMacoさんは「ってことは、私以外にもこれからも毎年、脊髄損傷を患う人が増えていくんだよな…」と、あらためて実感したらしい。
Macoさん:だったら、私と同じように「これ…どうしてるんだろ?」と悩む人も増えていくわけで、「困った人同士で情報交換ができたらいいな」と気軽な気持ちで、最初はブログにチャレンジしてみました。
──なぜ、ブログだったんですか?
Macoさん:癌だとかの病気と闘っている人が(CGMで)アップしているのは、ブログが一番多かったからです。もしかすると、切実なことは文字のほうが伝えやすいのでしょうか。言えないことでも手紙にしたら書ける……みたいな? とくに、一般の人たちだと顔出ししなくても投稿できる、その匿名性が大きいのかもしれません。
──ブログからYouTubeに鞍替えした理由は?
Macoさん:入院中、若い入院患者さんたちがYouTubeを楽しそうに観ていて……。ちょうどヒカキンさんとかがテレビにも頻繁に出はじめていたころで、「ああ…YouTubeって、これだけたくさんの人に観られているメディアなんだな」ってことに気づいたんです。また、車椅子生活を語る際は動作的な説明も多いので、言葉だけで伝えることにも限界を感じていました。
すでに、みんながYouTubeを普通に観る時代になっているのならば、動画でよりシンプルに“私のリアル”を伝えることができるYouTubeを、一人でも多くの人に観てもらうため、はじめる決心をしました。あと、YouTubeだったら、お小遣い程度の収入くらいは稼げるかも……だし(笑)。
もっとも手間がかかる「編集」作業
とは言え、YouTubeをはじめたころのMacoさんは、動画の撮影や編集に関する知識がほぼ皆無な、いわゆる「素人さん」であった。こうしたなか「有名なYouTuberの動画すらほとんど観たこともなかった」という彼女は、どのようにそのスキルを身につけていったのか?
Macoさん:全部独学です。それこそYouTubeで調べれば“やり方”はいっぱい出てきますから(笑)。
もともとパソコンと、ハンディのビデオカメラは持っていたので、必要なのは「編集ソフト」だけでした。「まずは安いソフトでいいや」ということで、1万円以下のソフトをネットで探して……。
──そこからどんどんアップデートを?
Macoさん:そこまで複雑な合成などをするわけでもないので、ソフトへのこだわりはあまりありません。だけど、安すぎるソフトだと、スピードが追いつかない──書き込みが遅かったりするので。そういう部分でのアップデートはしています。今はApple社の『Final Cut Pro』を使っています。
──カメラは?
Macoさん:定点の場合は、三脚で立てたカメラに一人で向かってしゃべるというシンプルな撮影法。外ロケのときは、その都度友だちにお願いしてビデオを回してもらうことが多いですね。
──YouTuberとしてのおおよそなスケジュールを教えてください。
Macoさん: 3月から「日曜日以外はチャンネルが動いている状態」に変えました。
月曜日と木曜日は新企画の『YouTubeラジオ』を配信して、火曜日と金曜日が通常の動画、水曜日と土曜日がショート動画のアップ──ですから、月曜と木曜は午後の30分くらいをライブ配信の撮影に費やし、別の空いた時間で通常動画やショート動画の撮影。撮影はだいたい20分くらいで終わります。よほどのミスがないかぎり、撮り直しはしません(笑)。前準備も一切なし! 残り時間は編集作業。やはり、もっとも手間がかかるのは「編集」なんです。
「第三者目線」は常に意識している
「編集している私はワタシじゃない!」と、Macoさんは常に自分に言い聞かせながら編集作業を行なっているという。その真意を伺ってみると……?
Macoさん:「自分が面白いと感じるモノをゴールにはしていない」ということです。いや、つまらないモノをつくろうってわけじゃないですよ(笑)。ただ、自己満足の動画にだけはしたくない。観やすさ、わかりやすさの面で「第三者の目線」は、必ず意識しています。
──「自己チェック」って、じつはとてもむずかしい作業ですよね? ベテランのクリエイターでさえ、いまだそこらへんをしばしば読み違えてしまうこともありますし……(笑)。
Macoさん:たとえば、私は日々の実体験を通じて当然のこと、脊髄損傷や車椅子に関する知識がどんどん増えていきますよね? けれど、詳しくなればなるほど、一般の人は聞いたこともない専門用語がついポロポロと出てきちゃう……。それを“違和感”として感じなくなってしまうわけです。はじめて観た人でも違和感なくすんなりと理解できるような説明をしなければダメなんです。
さらには、視覚障害や聴覚障害の方々にも観てもらいたいから、フルテロップはマスト! 声もなるべくゆっくりはっきりと……滑舌の良さを心がけています。「聴覚障害の方はテロップだけじゃなく口の動きでもしゃべっている内容を把握する」と、寄せられたコメントで教えていただいたので、唇の動きも多少大げさ気味に動かすようにしています。
──ほかにも、YouTubeを配信するにあたって気をつけていることはありますか?
Macoさん:まず一つは「ちゃんと継続すること」が大事だと思います。私の場合だと、決めたスケジュールをサボらずに投稿する(笑)!
次に、「楽しく」「わかりやすく」「本音で」という部分も大切にしています。あくまで「第三者の目」を意識したうえで……ですが。建前のキレイ事は避けて、しかも暗くならないように……。そこに「なるほど、こういうことなのか!」という“気づき”が加われば、よりうれしいですね。
「普通なことを当たり前に」が目標
最後に、Macoさんご自身の「YouTuberとしての今後」を語っていただいた。
Macoさん:障害をテーマにした動画は一番発信したかったことなので、もちろんこれからも続けていくつもりですが、「障害だけをテーマにする」のもじつは嫌なんです。「普通なことを当たり前に」が私の究極の目標なので。
車椅子生活の女子がメイク動画をアップするとか、ファッションについて語るとか、それこそドッキリを仕掛けたりも……。「普通に面白い」「普通に観られる」ような動画にもチャレンジできたらいいなと思っています。
仮に、ピンポイントで私みたいに「車椅子に乗った女性」でもかまわないんですけど、私たちには「一人の女の子として見てもらえない」という悩みがあるんですよ。それこそ街中でナンパとかされたら、めっちゃうれしいですもん(笑)。「不自由なだけで、なにもできないわけじゃない!」「私たちも普通の女性と同じなんだよ」ってことが伝わるようなYouTubeを今後はつくっていきたいですね。
──『Beyond magazine』の読者である20~30代のなかにも、YouTuberを目指している人が多いと思うのですが、その彼ら彼女らに一言メッセージをお願いします。
Macoさん:私は「楽しくないことはやらない」ように心がけています。一応、YouTubeがビジネスにはなってきていますけど、「コレは再生回数稼げないだろうな」って動画もあるわけです。しかし、それがわかっていても、私が発信したいことならちゃんと発信する。数字に囚われすぎると、不本意な方向に行ってしまう危険性もありますから。そういう意味では「本当に自分がやりたくて楽しいと思えるものを続けることができる環境づくり」がYouTuberにとっては、もっとも大切なのではないでしょうか。
現代のもののけ姫Macoさん
1991年山形県鶴岡市生まれ。本名:渋谷真子。高校卒業後に就職するが、2018年に退職。父が茅葺き屋根職人だったため、その跡を継ぐことに。同年7月、作業中に屋根から転落し脊椎を損傷(損傷レベルはMax5)。7時間に及ぶ手術と約半年の入院期間を経て車椅子生活に。事故の約1年後である2019年8月からYouTubeチャンネルを開設し、現在は登録者が10万1000人、視聴回数が3000万回を超える人気YouTuberに。
Interview&Text:山田ゴメス
Photo:下城英悟