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Interview

【キーマンと気ままに、クルマ放談】#03

先進性を追求する「アウディ」の電気自動車戦略とは?

author: 若林敬一date: 2022/06/23

自動車業界に精通したオート・アドバイザーの若林敬一が、気になるクルマメーカーのキーマンと対談する連載企画。第3回目のゲストは、アウディ ジャパン営業オペレーション本部 本部長・藤井隆行氏。電動化にアクセルを踏むアウディのブランディング、マーケティング戦略の今を聞く。

洗練された上質なブランドイメージ

若林 アウディというと「おしゃれでスタイリッシュ」というイメージが強くあります。アウディに乗る人は上品で知的、クルマにも洗練さを求めている気がします。

藤井 そうおっしゃっていただけると嬉しいです。我々の一番の財産は、プレミアム・ブランドとは何か? を理解してくださるお客様が、継続的にアウディ・ブランドを支持してくださることです。アウディ・オーナーに限らず、ファンとして支持してくださる方々は、ブレない価値観をお持ちで、スタイリッシュかつ先進的な事柄を柔軟に受け入れる懐の深さをお持ちの方々が多いです。もちろん、それは精神的・経済的な余裕に裏打ちされています。私たちアウディ・ジャパンのビジネスにとっても、それは重要な要素です。そういうお客さまに満足していただけるような価値を提供し続けていくことが、アウディの責任だと思っています。

アウディ ジャパン営業オペレーション本部 本部長の藤井隆行氏

若林 アウディは、「先進性」をブランドテーマにしていますが、それを象徴するのがインターフェイスへのこだわり。きめ細かい操作性の心地よさは、さすがだなと。

藤井 細かいディテールへのこだわりは、非常に大切にしている部分です。例えば、ボタンを押すときの細かい角度の調整とか、そういう細かい積み重ねがクルマに乗る楽しさにつながっています。それはこれからもお客さまに上手に伝えていきたいですね。

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若林 先進性ということでは、技術の先進性もアウディらしさですね。それがブランドイメージを高めることになっています。

藤井 ブランディングということでは、1980年代にグローバルで大きな転換点がありました。日本でも2000年前後に商品のつくり方、デザインを大きく変えることで、ブランディングを再構築。アウディは50年以上にわたって、“Vorsprung durch Technik(技術による先進)”というブランドのタグラインを掲げていますが、時代に沿った「先進」を体現してきています。それまではどうしてもお父さんはメルセデス、お姉さんがアウディというようなポジションが多かったんですが、そうしたオルタナティブ・チョイスではなく、メルセデス・ベンツやBMWと並ぶ、ジャーマン・プレミアム・ブランドといった位置づけにリポジショニングできたことが奏功したと考えています。

若林 もともとブランドイメージがいいクルマを、さらにプラスしてブランディングしていくのは本当に大変なことだと思います。

藤井 ポイントは、グローバルでのプロダクト・ポートフォリオを見直した結果、日本市場に投入されるモデル・ラインナップも充実しました。同時に、商品のクオリティもグローバル標準となり、日本をはじめとするアジアのマーケットに寄り添うモデルも拡充されました。その結果、コンパクトからフルサイズまで、プレミアム・サルーンもSUVもスポーティカーも揃うフルラインナップが確立できました。商品群がブランドを体現することにより、お客様から好意的に受け止めていただけたと考えています。

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課題は営業をサポートするシステムの拡充

若林 すでに質の高い顧客がいる一方で、さらにそのエンゲージメントを高め、同時に新たな顧客を増やしていくことが必要です。その戦略を推し進めるうえで、課題を感じている点はありますか。

藤井 既存のお客様を守るというのが、我々の第一の戦略です。そのために今、一番課題を感じているのは、CRM(=Customer Relationship Management)と呼ばれる顧客関係管理システムの質の向上です。顧客対応のシステム化がまだまだ不十分なため、営業パーソンの技量や熱意次第という属人性に頼っている部分がどうしても大きいんですね。そこは、今後改善していくべきポイントだと思っています。

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若林 なるほど。逆に言うと、システム頼りではないから、アウディの営業は非常に熱心だというイメージがあるのかもしれませんね。

藤井 もちろん、営業サポートシステムを充実させると同時に、今後も営業のモチベーションの高さは維持していくつもりです。今のアウディのディーラーは、アウディを売ることに非常にポジティブな空気があります。電動化のトレーニングに積極的に参加するだけでなく、彼ら独自で勉強会を開くなど、前向きな雰囲気があり、自ら切り開こうとする意識が高いです。

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そういうポジティブなマインドだから接客も丁寧になるし、お客さまに熱意が伝わるのだと思います。だからこそ、その熱意をCRMでサポートしたいですね。

若林 藤井さんは、マツダ、経営コンサルタントを経て、現在はアウディの営業全般を見ていらっしゃいます。これまでのキャリアから得た視点がそういった経営課題にも生かされているのではないでしょうか。

藤井 確かにマツダでは研究職、その後、経営コンサルタントをしてきたことで、自動車産業を別の側面から捉えることができ、現在の仕事でも大きく役立っていると思います。アウディのモットーである技術のクオリティについてもすんなり理解できましたし、経営陣とともに、数字を見たり、ロジカルに思考したり、経営戦略を議論するといった役割を担うこともできますから。

残価保証型ファイナンスで手軽に購入を

若林 先進性ということでは、CASE(※)への取り組みも気になります。今、シェアリングに取り組むメーカーも増えていますが、アウディではどのように考えているのでしょう。サブスクなども検討されているのでしょうか?

 ※CASE…Connected=自動車のIoT、Autonomous=自動運転、Shared & Services=所有から共有へ、Electric=電気自動車の頭文字からくる造語。自動車業界の変革を象徴するキーワード。

藤井 現段階ではシェアリングやサブスクといったサービスの提供は考えていません。なぜなら、アウディはお客さまにとって「所有」が重要なブランドだからです。アウディを体感していただくということなら、現在展開しているリースやローンでカバーできていると考えています。

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若林 アウディでは「アウディ・フューチャー・ドライブ」という残価保証型ファイナンスをスタートしていますよね。

藤井 「アウディ・フューチャー・ドライブ」は、将来のクルマの価値(=残価)をアウディが保証することで、買い替え時のお客さまの負担をゼロ(※)にするというものです。月々の支払い額を大幅に軽減できるので、既存のアウディオーナーはもちろん、初めてアウディに乗る方にも手軽に購入できる仕組みです。

※ローン契約時に定めた保証条件により、精算が必要となる場合もある。

こういったファイナンス商品を提供できるのも、「フォルクスワーゲン・ファイナンス」という大きなグループのおかげです。ファイナンス商品の開発だけでなく、ファイナンスにまつわるシステムや営業サポート、トレーニングなど幅広く展開しているので、そこは大きな強みですね。

若林 ファイナンスから得られる顧客情報のビッグデータを網羅的に活用して、よりニーズに沿った提案をすることもできそうですね。

藤井 もちろん、膨大なビッグデータを活用できるというのは大きなメリットです。また、ファイナンス部門とディーラーの距離が近いというのもアウディの特徴です。ファイナンスがマーケットニーズを的確に把握できているので、スピート感のある対応が可能となっています。

ボリュームゾーンを狙うQ4 e-tronの戦略的価格設定

若林 電動化に大きくシフトしているアウディですが、具体的なロードマップを教えていただけますか。

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 試乗させて頂いた「アウディ e-tron GT」

藤井 アウディでは電気自動車をBEVと呼んでいるのですが、グローバルでは2026年以降あらたに発表するモデルをBEVにし、2033年には中国を除き内燃エンジンの製造を終了する予定です。それに伴い、日本では2025年にBEV、つまりe-tronを1万台販売するのが目標です。アウディジャパン全体で年間販売台数を3万台と計画しているので、その35%をBEVが占めることになります。

若林 ハイスピードでe-tronシリーズを投入されていくということですね。特に注目したいのが、コンパクトSUVのQ4 e-tronの599万〜716万円という価格設定です。プレミアムブランドのEVは1000万円クラスが珍しくない中、かなりアグレッシブな価格だと思いますが。

藤井 Q4 e-tronは、プレミアムセグメントで主流のサイズ感・価格帯で勝負するためのクルマです。アウディのBEVは比較的大きなクルマが多い中で、Q4 e-tronはボリュームゾーンで勝つための重要な存在です。そのための戦略的なプライシング、パッケージングを設定しています。

若林 Q4 e-tronには、スポーツバックタイプもあります。スポーツバックは、さらにアドバンス688万円、Sライン716万円と分かれている。

藤井 箱型のSUV、クーペルックのスポーツバックという2タイプがあって、これはデザインや使い勝手の好みで選んでいただくためのものです。モデルによっても違いますが、アウディは全体的にスポーツバックのほうが人気です。そこに「アウディらしさ」を感じる方も多いということ。

そういう方々に向けてスポーツバックのアドバンスといった価格帯を出すことで、より多くの方にアウディを楽しんでいただきたいですね。

若林 アウディは車種とグレードが少し複雑ですが、今後、BEVだけになることでシンプル化させていくのでしょうか。

藤井 現在、エンジン車が減っていき、BEVのラインナップが増えるという、パワートレインの入れ替えの時期にあたっています。エンジン車がディスコンしたラインナップの穴に、新型のBEVを投入するという戦略ではありませんから、過渡期の今、どうしてもプロダクト・ポートフォリオが複雑になってしまうのです。我々としては、ラインナップはお客さまのニーズに応えるためにも、現状を維持して、グレードはもう少しシンプルにしたいと思っています。

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爆発的な加速に、思わず笑みがこぼれる若林氏

BEVに欠かせない充電器設置の拡充

若林 BEVの普及には、インフラ、つまり充電設備の拡充も欠かせません。アウディではどのような充電器設置計画を進めているのですか。

藤井 充電器には大きく3つのカテゴリーがあります。一つ目は自宅で行う基礎充電。とはいっても、必ずしも誰もが自宅に基礎充電を設置するわけではありません。基礎充電の代わりになる自宅近辺のスポットとして、全国にある110店のアウディe-tron店、さらにフォルクスワーゲン、ポルシェのディーラーとグループで充電器を設置していきます。ここでは150kWの急速充電が可能となります。

二つ目が目的地にいく途中の経路充電ですが、一般的には全国7500カ所にあるe-Mobility Powerを利用するケースが多いですよね。ただ、e-Mobility Powerは50kW未満がほとんどなのがネックで、正直いってアウディのクルマには充電にかかる時間も料金体系も合わないんです。ですから、この経路充電についても、e-Mobility Powerではなく全国のディラーのネットワークでカバーすることを考えています。

三つ目が目的に到着したときの目的地充電です。これは出発地から100〜200キロ離れた場所で、数時間以上〜1泊程度の滞在を想定しています。この目的地充電については将来的に数百カ所、アウディブランドのAC充電器を設置。もちろん、ポルシェとのプレミアムチャージアライアンスも進めていきます。

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若林 今後、すごい勢いでe-tronが出てくると思うので、充電器の設置もスピードアップして進めていただきたいですね。

藤井 e-tronの普及には、クルマ単体だけではなく、充電器や補助金、ランニングコストといった周辺環境、さらにはクルマの電動化全体への理念や戦略が必要です。この3つがそろうことで、BEVビジネスが初めて成立すると考えています。

若林 本日はアウディのさまざまな戦略について有意義なお話を聞かせていただきありがとうございました。最後にZ世代に向けて、藤井さんからメッセージをお願いできますか。

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藤井 そうですね、今の若い方は真面目でスマートな方が多い気がします。昔と違って、仕事だけをガンガンやる時代ではないですから、「仕事も遊びも楽しむ」ことをぜひ大切にしてほしいですね。いろいろな選択肢があると思うので、多少はみ出してもいいから、思い切って自分のやりたいようにやってみる。そんなアントレプレナー的な生き方が選べるのも、今の時代の若い方の特権だと思います。

取材を終えて~編集担当・川端由美~

アウディと聞くと、押しも押されぬジャーマン・プレミアム・ブランドというイメージがあったのですが、10年以上に渡って、アウディ・ジャパンの経営陣とともに経営戦略の視点から議論を重ねてきた藤井隆行さんのお話しをうかがうと、長年のマーケティング戦略の積み重ねが今のアウディのブランド・イメージを構築してきたことがわかりました。日本車メーカーで研究職を経験した後、戦略コンサル・ファームに転じたという経歴が、現在の仕事の仕方に生かされており、「キャリアを構築する」ということの重みについても考えさせられました。

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オート・アドバイザー/R-BRAND株式会社 代表取締役
若林敬一

ケロッグ経営大学院MBA、Marketing&Finance をメジャー。フォード本社広報やマツダのグローバル広報部長、本部長などを歴任。その後ボルボ・カー・ジャパン、ジャガー・ランドローバー・ジャパンのマーケティング・広報ダイレクターに転じた。2021年に独立し、R-BRAND株式会社を設立。マーケティングおよび広報の視点からコンサルティングを行う。
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