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Interview

マラソン界の至宝が現役復帰

大迫傑選手が語る!復帰までの道のりと第二章への思い

author: 神津文人date: 2022/03/23

東京五輪をラストランと宣言してレースに挑み、男子マラソンで6位入賞を果たした大迫傑選手。今年2月7日、自身のS N Sを通じて、現役復帰を発表した。何が大迫選手を再び競技へと向かわせることになったのだろうか。NIKE主催の会見でその真意を語ってくれた。

現役復帰、決断までの道のり

現役復帰の決め手となったのは2021年10月のシカゴマラソン。ゲーレン·ラップ選手の走りが大きな刺激になったという。

「家族でシカゴマラソンの中継を観ていたのですが、東京五輪にも出場して8位入賞したゲーレン·ラップ選手が、そこから2か月という短いスパンで出場して2位になりました。とても力強い走りで、かっこいいなと思うと同時に、自分も観てくれる人たちがワクワクしてくれる場所に立ちたいなと思ったのが決め手でした。そこに対しての僕自身のインスピレーションの熱量が、ここを超えたら行動しようというラインをはるかに超えていたので、もう一度挑戦してみようかなと思ったんです」

ゲーレン・ラップ選手はナイキのチームでともに練習したチームメイトでもある。

「トラックをやっていた時も、彼が一つの目標であり、憧れでもありました。僕にもそうですし、チームにも競技に取り組む姿勢をしっかりと見せてくれきた選手です。2、3年前は足の故障に悩んでいて、その中でもがいているところも見てきました。そういう選手が活躍している姿はとても刺激になりました」

現役復帰を最初に伝えたのは、コーチのピート·ジュリアン氏。

「シカゴマラソンの翌日か翌々日だったと思うのですが、ナイキのトラックに行くっていう連絡をしたら“練習内容と時間が合えば他の選手と一緒にワークアウトをしよう”と言ってくれて。そのときに“復帰しようと思うんだよね”と伝えたら“いいんじゃない”って喜んだ感じで答えてくれました。僕も誰かに言いたかったというか、自分の中に留めておくと熱量が下がっていくところがあると思うんですけど、現役復帰に関しては自分の中でやった方がいいなっていう感覚だったので、すぐにピートには話しました」

東京五輪後、マラソンや駅伝の解説をしてきた大迫選手。刺激を受けたのは、現役復帰を発表する前日、2月6日に開催された別府大分毎日マラソンでの、鎧坂哲哉選手の走りだったそう。

「先頭の中継車に乗せてもらったから臨場感があったというのもあるのですが、2017年から一緒に練習している鎧坂選手の好走は嬉しかったですし、刺激になりました」

第二章で大迫選手が目指すもの

大迫選手の競技者生活は第二章がスタートする。マラソンでは日本記録を2度更新、ボストンマラソン、福岡国際マラソン、シカゴマラソンでは表彰台に立ち、東京五輪では6位入賞を果たした。次は何を目指すのか。

「現役を引退して後輩たちの背中を押せたらなと思っていたんですけど、よくよく考えると背中を押すだけじゃなくて、僕自身が世界のトップレベルを目指す選手としてしっかりと背中を見せて引っ張っていくようなことができれば、自分自身も日本陸上界も強くなっていくことができるんじゃないかと思っています。一度は東京五輪をゴールとしたんですけど、一つは自分自身がまだまだやり切れていない部分、どこまで世界と戦っていけるのかという挑戦をしたい。あとは、これから育っていく選手たちの伴走を途中まででもできたらという思いもあります。自分自身も競技者として上を狙いたいですが、後輩たちにもトップをとってもらいたいという思いがより強くなりました」

自らのYOUTUBEチャンネルにアップした動画では「パリへは少し準備期間が短いかもしれないですけど、その後のロスも狙えるような努力というか準備をしていけたら」と話していた大迫選手。目標はロス五輪ということなのだろうか。ロス五輪は2028年。その頃には大迫選手は30代後半になるが、年齢については気にしていない様子。

「オリンピックには出たいという気持ちはありますが、それが甘くないのは僕自身が一番わかっているつもりです。まずは向かってみて、いろいろと修正しながら良くなっていくことを目指したいと思っています。年齢で衰えるかどうかっていうのは、やってみないとわからないですよね。衰えって一体何なのかっていう話にもなりますし。マラソンは30km過ぎからがきつい、別世界だっていうのと同じで、自分でやってみないとわからない。常識を疑うことが大切なのかなと思います」

レース復帰は今年の秋冬か、来年の春。具体的には定まっていない。今は練習に向かうときの緊張も含めて、新しい挑戦を日々楽しんでいる。

「練習に向かう日の朝、歯を磨きながら緊張というか少しドキドキする。そういうのって普通の生活をしていたら味わえないですよね。ドキドキが少しプレッシャーになりつつも心地よくて、ちょっと嬉しいなと思っています。今の時代、一回失敗したら取り返しがつかないという風潮がありますけど、失敗はしていいものだし、挑戦は楽しいもの。悔しいこともありますけど、挑戦することで僕自身ワクワクしますし、楽しいなと思えています。アスリートの挑戦する姿勢を通して、少しでも健全なメンタリティの社会になったら嬉しいですし、明日みなさんが何かに挑戦しようと思うきっかけになれたらなと思います」

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ライター・編集者
神津文人

雑誌編集者を経てフリーランスに。「Tarzan」などのヘルス&フィットネス系メディアや、スポーツの領域で活動中。「青トレ」(原晋/中野ジェームズ修一著)、「医師も薦める子どもの運動」「医師に運動しなさいと言われたら最初に読む本」「60歳からは脚を鍛えなさい」(中野ジェームズ修一著)、「100歳まで動ける体」(ニコラス・ペタス著)、「肺炎にならない!のどを強くする方法」(稲川利光著)、「疲れない体になるライザップトレーニング」(RIZAP)などの書籍の構成も手掛けている。趣味は柔術、ときどきランニング。
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