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修理品と“対話”するテクニシャンたち

ミーレの新掃除機修理サービスは人生の一部分を修理する

author: 伊森ちづるdate: 2022/03/20

1899年創業のドイツの家電メーカーMiele(ミーレ)は、創業時から長期使用に注力した製品づくりに取り組み、買い替えによる製造・配送・廃棄などの環境負荷の低減につとめてきた。いわばサステナブル先進企業だ。そんなミーレが、今年掃除機の新しい修理サービス「ミーレ掃除機ケア 修理サービスパッケージ」をスタートさせた。“テクニシャン”と呼ばれる修理担当エンジニアたちに話を聞くと「修理品は生き物だ、だから対話を重視している」「作業中はゾーンに入る」「修理品とコネクトする」と話す。なんとも独特な視点のエンジニアを擁する新しい修理サービスについて、ミーレ カスタマー&コンシューマーサービス部の松尾 一大(かずひろ)氏に話を聞いた。

使い慣れた道具をずっと使ってほしい

――ミーレが新しい掃除機の修理サービスを始めたと聞いた時に、真っ先に思い出したのが「1つの家電製品をお客様に長く使い続けて欲しい」というミーレの考え方です。120年前の創設時から長期使用、堅牢性を重視している点はミーレのユニークなところ。単純に考えれば、製品が壊れて買い替えてもらった方が商売としてはメリットがあるのではないですか?

松尾氏:当社の考えでは、何年かしてすぐに壊れるような製品は出すことは誠実なビジネスとはいえません。我々の製品を好きになっていただいて、ずっと使っていただくことを大切にしています。今ある技術で最高のものを作り、長く使えるものを販売することがお客様の安心感につながると思います。

ミーレは創業家が今でも経営に携わっていて、現在4代目。Immer Besser(常により良いものを)という企業理念はずっと変わりません。創業家がずっと引き継いでいるので、ものづくりについても長期使用という考えが自然に生まれるカルチャーなのです。

家電を道具として捉えると、「この道具のクセが丁度良い」「この作業にはこの道具を使わないとしっくりこない」という感覚を持つ人は多いのではないでしょうか。ミーレの開発エンジニアはこうした、ユーザーの感覚を大事にしています。

※写真はイメージです

――確かに包丁などは自分の手にフィットするものを大切に使う人も多いですよね。そう考えると、掃除機は手を使って動かすので、家電の中でもより道具らしい部分が多いです。

松尾氏:カスタマーサービスにお電話いただくお客様は、使いなれた道具(掃除機)をずっと使いたいという気持ちをお持ちの方が多いです。修理のご相談を受けると、カスタマーサービスではお客様の掃除機の不具合についてヒアリングしていました。しかし、研修はしても担当者は掃除機の修理の専門家ではありません。お客様がお困りの不具合の症状を十分に理解した上で、修理の可否や修理方法を診断するのには、回答までに時間を要してお待たせしたり、お客様とのやり取りが何度も発生してしまうことがありました。こうした課題を解決するため、新サービス「ミーレ掃除機ケア 修理サービスパッケージ」を立ち上げました。

協力会社からの熱い思いで誕生したサービス

――新サービスでは、修理の可否や診断に修理担当者が関わるそうですね。ほかにも、修理品の集荷サービス、クリーニング、修理期間中に最上位機種を代替機として貸し出すなど手厚い内容となっています。

松尾氏:掃除機修理の経験が豊富な技術者を配置し、お客様から修理のご相談に技術的な視点から応えられる体制をつくりました。実は、今回のサービスは修理を依頼している協力会社の方からいただいた熱い思いがきっかけで誕生したんですよ。協力会社の方からは「我々は10年以上ミーレ製品の修理をしています。ミーレへの愛着もあります。修理以上のサービスをお客様に提供したいです」と言われ、それなら一緒にお客様のために何ができるかサービスを考えましょう、とアイデアを出し合いました。そこで生まれたのが、修理品の集荷、代替機の貸し出し、返却前のクリーニングなどです。

※写真はイメージです

「修理品はお客様の人生の一部」 という想い

――今回松尾さんにインタビューする前に、“テクニシャン”と呼ばれる修理を担当エンジニアの方にお話を伺ったのですが、とてもミーレ製品に愛着を持っていることが分かります。

松尾氏:サービスの質を高めるためには、ミーレ製品に愛着を持つ協力会社を増やしていくことが大切だと考えています。製品に対する理解と愛情が深い方がサービスを行なうことで、誠意の伝わるサービスの裾野を広げていきたいですね。

――ほかにもエンジニアの方からは、(ミーレ製品は)「堅牢」「修理することを考えた設計。修理したい場所に手が届くので作業しやすい」「リサイクルの前にリペアするというミーレの考えは環境配慮に直結する」と、高い評価を感じました。

松尾氏:長期的に使用するためには、修理も大切。そのため、ミーレでは設計の段階で修理しやすさにも配慮しています。我々は単に修理することだけが目的ではなく、お客様に我々の商品を長く使っていただくことを目的としています。さらに踏み込むと、ミーレのことをもっと好きになって欲しいということなのです。

今やサステナブルはグローバルの標準です。リペアラブルでなければサステナブルとはいえません。お客様が修理を出すときにハードルになっていたものの1つが修理品を送る手間。丁度良い大きさの段ボールを探したり、緩衝材を詰めたり、集荷を依頼したりといった煩わしさを、新サービスで解決しました。修理が終わった後は、普段手が届かないような内部までクリーニングしてからお戻しします。

※写真はイメージです

じっくり深く。クオリティを重視した修理

――修理サービスというと、一般的にはスピード感をウリにするものが多いように思います。

松尾氏:早く製品をお戻しすることはお客様にとって利便性が高い一方、十分に手を掛けたとは言えないこともあると考えます。当社の場合、修理受付からお戻しするまでは平均して1週間。その間にじっくりテクニシャンが製品を見て、お客様の声を聞いて、修理を行っており、スピードだけでなくクオリティも重視しています。テクニシャンからは「修理品は、毎回違う。予想がつかないところが生き物のようだ」と言われることがありますね。

――面白い表現ですね。

松尾氏:お客様のところで起きた現象が、修理の現場で再現できないこともあるらしく、それで「生き物のよう」だと。熟練のテクニシャンになると、直感のようなものが働くようになり、なんとなく、製品の良いところと悪いところが分かるのだそう。「製品とコネクトする」状態になるのだとか。

――興味深い話です。ミーレ愛が深いエンジニアの皆さんが、対話を繰り返しながらじっくりと修理に向きあっているわけですね。改めて、今回の新サービスで期待するところはどのような点ですか。

松尾氏:今回の新サービスは、ミーレが考えるサステナビリティを体験できるサービスともいえます。修理の依頼のハードルを下げるために集荷サービスを用意しました。また、コールセンターには専門家を配置し、調子悪いと思ったらすぐに相談・修理依頼ができる体制を整えました。ミーレの製品自体、長期使用を意識した製品ですが、修理をしてさらに長くご使用いただけるようにするというのは、一歩先行くサステナビリティを体現したサービスです。

――本日はありがとうございました。

Photo by 下城英悟

取材協力:ミーレ


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家電・家電量販店ライター
伊森ちづる

家電流通業界向け雑誌記者を経て、フリーランスのライターへ。家電量販売員や幹部などへの取材のほか、家電メーカーへの開発者インタビューなども行う。実際に自分でも家電を使い、売り手とユーザー両方の視点から記事を執筆する。販売ツール監修、省庁・自治体に対して家電に関するレクチャー、WEBやTVなどで情報発信も行う。最近の関心はテクノロジー×ヘルスケア、テクノロジー×教育。クラシック音楽が好き。
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