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Review

アディダス×オールバーズ

カーボンニュートラル実現のためにライバルが手を取り合う

author: 神津文人date: 2022/01/30

脱炭素への取り組み、サステナビリティの追求は、スペシャルなことではなく、当たり前にやらなければいけないことになりつつある。プロダクトやサービスが魅力的かどうかであるかとともに、環境配慮に対する企業姿勢はますます問われるようになっていくはずだ。

コラボで生まれた未来への足がかり

昨年12月に数量限定で発売され、今春に本格展開を予定しているアディダスとオールバーズのコラボレーションモデル「FUTURECRAFT.FOOTPRINT(フューチャークラフトフットプリント)」は、より良い未来へ向けた、とても大きな価値のあるシューズなのではないかと思う。

オールバーズは、元サッカー・ニュージーランド代表のティム・ブラウン氏と、バイオテクノロジーの専門家であるジョーイ・ズウィリンジャー氏が2016年に立ち上げた気鋭ブランド。メリノウールやユーカリ、サトウキビなどの自然由来の素材をベースにし、環境への配慮と快適さを追求したプロダクトを展開している。

創業時から環境負荷を抑えたものづくりを継続。ビジネスの力で気候変動を逆転させることをミッションに掲げているオールバーズは、製品ごとにカーボンフットプリントを計測し、明記している。食品のカロリー表示のように、手に取る人がカーボンフットプリントを目にし、意識するということだ。

一方、大手スポーツブランドのアディダスは、2025年までにすべての製品のカーボンフットプリントを平均15%削減することを目標とし、製造工程の見直しやプラスチック廃棄物をアップサイクルした素材の積極採用などに取り組んでいる。

競争から共創へ。タウンユース用のウェアやシューズはもちろん、ランニングシューズやスポーツウェアといった製品でもライバル関係にある両者のコラボレーションは、より良い未来に向けた大きな一歩となるかもしれない。

「フューチャークラフトフットプリント」は世界限定10000足で昨年12月に販売された

コラボレーションといっても、その踏み込み具合はさまざま。お互いのロゴの貸し借りレベルのものも散見されるが、「フューチャークラフトフットプリント」については、なかなか深く踏み込んだものになっている。独自技術や素材のイノベーションを共有、つまりお互いが手の内を明かすことで、1足あたり2.94kg CO2e(一般的なスニーカーは15.5kg CO2e程度。アディダスのランニングシューズ「アディゼロRC3」は7.86kg CO2e)という、両社のプロダクト史上で最もカーボンフットプリントが少ないランニングシューズが誕生したのだ。

アディダス独自のミッドソールであるライトストライクをベースに、同じ性能基準でテストされた「フューチャークラフトフットプリント」のミッドソールは、オールバーズのサトウキビをベースにスウィートフォームで再構築され、低炭素の天然素材の実装が実現。

新開発のアッパー素材は、リサイクルポリエステル77%と、木材パルプから作られた天然素材のテンセルを23%で製造されている。また、タングラムをヒントに、アッパーを製作することで、廃棄物が極端に少なくなっているという。

競合との協業が、ものづくりスタンダードに

いくら二酸化炭素排出量が少なくても、ランニングシューズである以上、気になるのは機能性だろう。走りにくさを感じるようなものであったらランナーが選ばないし、耐久性が犠牲になっていたとしたらサステナブルとは言いづらい。

まず、耐久性について。アディダスのランニングシューズに課されるものと同様のテストが行われ、クリアしている。天然素材、リサイクル素材を活用し、カーボンフットプリントの大幅な削減に成功しながら、耐久性には問題がないということだ。

実際の走行感も上々。見た目の印象よりもクッション性は高く、心地よい反発性も感じる。アディダスとオールバーズが作ったのだから当たり前と言えば当たり前かもしれないが、それぞれのブランドが展開しているシューズのミッドソールと比較して全く遜色がない。それなりのペースで走ってもしっかりと応えてくれるものになっている。軽量で薄手のアッパーは、足に滑らかにフィット。ステッチで補強がされており、サポート性もある。

フルマラソンのレースで自己ベストを狙うためのシューズではないが、日々のトレーニングや、ダイエットや健康維持を目的としたジョギングで使用するには、申し分のないシューズだろう。

ランナーにとってランニングシューズは大切なパートナーであると同時に、消耗品。それなりの距離を走る人であれば、年に数足は必要だったりもする。世界中のランナーたちが、どんなシューズを選んで走るのか。その一歩一歩が、5年、10年と積み重なっていけば、二酸化炭素排出量の違いは大きなものになるはずだ。

今回のシューズの発売にあたって発表された両ブランドのコメントも確認しておこう。

「私たちがオールバーズと共同開発したFUTURECRAFT.FOOTPRINTは、カーボンニュートラル(脱炭素)の未来に向けた飛躍的な一歩です。このように競合とコラボレーションをし、独自の技術や素材のイノベーションを共有することで、地球に優しいものづくりの現実を加速します。私たちは2025年までにすべての製品のカーボンフットプリントの平均を15%削減することを目標にしています。このFUTURECRAFT.FOOTPRINTは、その目標を達成するための大きな一歩となっています」(アディダスブランディング統括エグゼクティブ・ボードメンバー ブライアン・グレイビー氏)

「FUTURECRAFT.FOOTPRINTの開発で両ブランドがコラボレーションをすることで特に気候変動の課題解決への一歩を歩み出せました。カーボンフットプリントが世界で最も少ないパフォーマンスランニングシューズを開発するという、シンプルで壮大なアイデアからわずか2年でお客さまの手に届けることを誇りに思います。オールバーズは、2030年までに製品ごとのカーボンフットプリントを95%削減するという目標を持っております。FUTURECRAFT.FOOTPRINTはその目標を達成するための一歩となりました。ここで留まらず、私たちはこの商品を通して他の業界の方々にも影響を与えたいと考えています。このコラボレーションを通じて得た学びを全世界の方々にも共有し、地球のための一歩を共に歩み出したいです」(オールバーズ共同創業者・共同CEO ティム・ブラウン氏)

競合であるからこそ、素材の調達、利用するエネルギー、ロジスティクスなど、協力できる可能性がある部分も多いはず。カーボンフットプリント削減のためにライバルと手を取り合うことが、今後のスタンダードになっていくのかもしれない。

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ライター・編集者
神津文人

雑誌編集者を経てフリーランスに。「Tarzan」などのヘルス&フィットネス系メディアや、スポーツの領域で活動中。「青トレ」(原晋/中野ジェームズ修一著)、「医師も薦める子どもの運動」「医師に運動しなさいと言われたら最初に読む本」「60歳からは脚を鍛えなさい」(中野ジェームズ修一著)、「100歳まで動ける体」(ニコラス・ペタス著)、「肺炎にならない!のどを強くする方法」(稲川利光著)、「疲れない体になるライザップトレーニング」(RIZAP)などの書籍の構成も手掛けている。趣味は柔術、ときどきランニング。
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